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第48話 アリエの話し

「……カトリーヌ様の御霊みたまですか?」


 アリエさんから話があると言われたが、その内容はハテナマークがたくさん浮かぶものだった。


 まず、御霊とはどういうことだろう。“伝説の聖女”様は千年前の人だと聞き及んでいる。とっくに死んでいるものとは思っていたが、肉体は朽ちても魂はなお健在なのだろうか。そして、その御霊の行方がわからなくなり、その所在を僕に聞くというのはなぜなんだろう。そこが一番わからない。


「意味がよくわからないのですが……。聖女様の御霊とはどういうことでしょう?」


「カミヒト殿は東の大陸の果ての出身ですから知らないのは当然でしたね。“伝説の聖女”カトリーヌ様はご存命です。しかし、訳あって今は肉体は封印されています。それでも霊体だけで自由に動くことができ、不自由な身でも我々を導いてくれるのです」   


「……なるほど、流石は“伝説の聖女”様ですね。でも、僕は聖女様の御霊の行方など知りませんよ。なぜ、僕が知っていると思ったんですか?」


「カトリーヌ様の御霊は、どうやらドラゴニックババアを追って行ったようなのです。それが3週間くらい前でしょうか。それきり行方がわからなくなっているのです。カミヒト殿はドラゴニックババアを見たと仰っていましたよね? どこで見たか教えていただけませんか?」


 ああ、そういう事か。だから僕に聞いたのか。


「……僕の国でですね。しかし、アリエさんはドラゴニックババアは架空の存在だと言っていた気がするのですが……」


 初めて異世界に来た時に、シュウ君とアリエさんとセルクルイスへ向けて歩きながら、そんな事を話していたと思う。


「私もそうだと思っていたのですが、()()()()からドラゴニックババアは実在するのだと伺ったのです……。ええ、驚きましたとも。しかし見たのはカミヒト殿の国ですか。ならば東の大陸という事になりますね」


 アリエさんはフゥとため息を付いた。思いの外、遠かったからゲンナリとしている様子。だが実際はドラゴニックババアに会ったのは、別の大陸どころではなく時空が異なるもう一つの世界だ。アリエさんには、僕は東の大陸出身と嘘を付いているから、彼女がそんな事を知る由はないが。


「……もしかして東の大陸に行くつもりですか?」


 だとしたら何とか止めないと。東の大陸に行ってもドラゴニックババアはいないぞ。そもそもドラゴニックババアが迷い込んだのは日本だし、幻想領域とかいう所に帰っちゃったから。


「いえ、その前にシュウという少年の村へ行こうと思います。彼もドラゴニックババアを見たと言っていましたから」


 そういえばそんな事を言っていたな。シュウ君か……。僕も彼に会おうと思っていたんだ。あの鎖に連れて行かれた幽霊と関係があるかもしれないから……。いや、しれないというより、関係があると断言してもいいかもしれない。


「僕も一緒に行っていいですか? できれば今日中に行きたいのですが」


 彼の村は確かセルクルイスから徒歩2時間ほどだ。今から向かっても十分間に合うはず。


「構いませんが、カミヒト殿も何か問題事を抱えているのではありませんか?」               


「ええ、そうなんですが、それと関係しているかもしれないと言うか……」


「あの廃教会と?」


 どうしよう、彼女に相談してみようか。多分アリエさんは信用できると思う。しかし、僕の荒唐無稽な推測を話してもいいものだろうか。廃教会の前で見た幽霊が、セルクルイスを救った聖女ロゼット様かもしれない事。その聖女様の魂にただならない事が起こっているかもしれない事。そして、シュウ君がロゼット様の弟かもしれない事。


 ええい、1人で悩んでいても仕方がない。事は一刻を争うのだ。もう相談しちゃえ。


「アリエさん、僕の話を聞いていただけますか?」








 僕はアリエさんに洗いざらい話した。廃教会で女の幽霊を見たことから始まって、鎖で引っ張っていかれるまでの一連の出来事を僕の推測を交えて。もちろん、ここから見たら異世界である日本のことは言っていない。


「……信じ難いですね。そもそも彼がロゼット様の弟なら生きてはいないはずですよ。彼は霊魂ではありませんでした。それはカミヒト殿ならわかるのでは?」


「そうですね……。彼の言動にもおかしな所はなかったし、人間にしか見えませんでした」


 僕の考え過ぎだったらいい。しかし、万が一ということもあるし、何よりモヤモヤしたままというのは、どうにも落ち着かない。ならばすぐにでも確認したほうがいいのではないか。廃教会の中を見る許可は今日中には下りないだろうし。


「アリエさん、ロゼット様の弟はロゼット様が白霊貴族(はくりょうきぞく)に殺害された後、どうなったかご存知ですか?」


「……ロゼット様の弟君は“伝説のさといも”が出現した少し後に行方不明になったそうです。ロゼット様はたった1人の肉親が居なくなったことに酷く心を痛めていたと言います。ロゼット様が殺された後も弟君は結局、見つからなかったそうです」


「なるほど、そうですか……」


「……カミヒト殿の思い過ごしだとは思いますが、私も彼に用があるのですぐにでも行きましょうか。ここで考えているより、直接確認したほうがいいと思います」


「そうですね。ありがとうございます。すぐに出発しましょう」


 僕とアリエさんは教会を出て、まっすぐに城門まで向かった。城門からシュウ君と別れた枝道までは徒歩で一時間ほど。そこからさらに一時間で彼の村に着くようだ。確かイルマ村とか言っていたかな。


 道中はしばらく無言で歩いていたが、ふと気になったことがあったので尋ねてみた。


「アリエさん、大聖女様とはどのような方なんですか?」


「大聖女様ですか。そうですね、カミヒト殿も知っておいた方がいいと思います。大聖女様はカトリーヌ様の側近であり、白琴(はっきん)聖歌隊の総隊長でもあります。階位は第一階で、カトリーヌ教()()()からカトリーヌ様を補佐している方です」


「……ということはその方も千年以上生きているので?」


「そうですね。大聖女様も特別なお方ですから」


 そんなすごい人から直々に任務を与えられたアリエさんは何者なんだろう。彼女は違う組織の所属だし、接点はなさそうだが……。彼女はカトリーヌ教の中で特殊な地位にいるのだろうか。


「気になりますか?」


「え?」


「なぜ私のような者が大聖女様と直接、連絡を取り合えるのかと」


 まるっとお見通しされた。どうやら僕は顔に考えている事が出やすいらしい。彼女の問に僕は頷いて返した。


「それは私がカトリーヌ様直属の第三特殊部隊にも所属しているからです。もちろん、青炎討伐部隊にも籍を置いていますよ」


「なるほど。何をする組織なんですか?」


「それは機密情報なので言えません。カミヒト殿がカトリーヌ教に入信するなら、教えて差し上げてもいいですよ」


「……いえ、遠慮しておきます。話は変わりますが、なぜカトリーヌ様はドラゴニックババアを追って行ったのでしょうか?」


「ドラゴニックババアが“伝説の何か”を知らせるババアだとは以前話したと思いますが?」


 ああ、そういう事か。“伝説の何か”を探しに行ったのか。……それって超越神社のことじゃん。まさかとは思うが、超越神社に居たりしないだろうな“伝説の聖女”様。水晶さん、何か知らない?


『…………』


 返事がない。ただの水晶のようだ。


 そんな事を話していたら、もう一時間経ったらしく、シュウ君の村へ行く分岐点まで来た。


「こちらのようですね」


 大街道から枝別れしたその道は、馬車一台ぎりぎり通れるくらいの幅で、ボコボコとしていて、あまり整備されていない様子。会話も一区切りして、歩きやすいとは言えない石畳の道をひたすら無言で突き進む。


 しかし、進むごとに街道の状態はどんどん悪くなり、歩くのが困難になってきた。石畳の隙間を雑草が突き抜け高さは脛のあたりまである。木の根も縦横無尽に張り出してあり、何度も足が引っかかった。人の往来があるとは思えない悪路だ。


「ほ、本当にこの先に村などあるのでしょうか?」


「そのはずですが……」


 僕も自信がなくなってきた。しかし、確かにシュウくんはこの道を進んでいった。一本道なのでどこかで別の道と間違えたと言うこともない。大丈夫だ、この道で合っていると自分に言い聞かせる。


 だが、進めば進むほど草は生い茂り、石畳は老朽化していて既に道の体をなしていない。辛うじて人工物だと分かる程度だ。もう引き返したほうがいいのではないかと、思い始めた所で、目の前に開けた場所が見えた。


「あれは……村ですか?」


 アリエさんが疑問に思うのも仕方がない。そこかしこに家のようなものがあるが、どれも朽ち果てていて到底人が住めるようなものではない。植物の侵食が激しく、辛うじてこの集落の主要な村道と思われる道が残っているだけである。


「どう見ても廃村ですね」


「そのようですね……。このような所にシュウ殿がいるとは思えませんが。我々は彼に騙されたのでしょうか?」


「一応、調べてみましょうか……」


 とは言え、僕もシュウ君がここに居るとは思えない。僕達は子供特有のうそに騙されたのだろうか……。なんとも言えない気持ちで廃村を歩いていたのだが、程なくして石垣の上に項垂れて座っているシュウくんを発見した。


「あれは……」


「……シュウ君?」


 僕達は彼の下に向かった。途中で僕達が近づく気配に気づき、シュウ君は顔をあげた。


「……異国の兄ちゃん?」

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