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閑話 聖女の水晶生活

 聖女が水晶に閉じ込められてから一週間が経ちました。水晶の外に出ようと何度も試みましたが、すべて失敗しました。水晶でもどうすることも出来ないようです。水晶の話では聖女が閉じ込められた事は、何か理由があるはずだと言うことです。近々“伝説の神社”の使者と聖女の世界へ行く予定だと言うので、それまで聖女は水晶の中でグータラすることに決めました。聖女の世界へいけば出られるはずだと楽観視していました。


 水晶の中は存外居心地がよく、中から見る日本と呼ばれる異世界の様子は聖女にとってとても刺激的なものでした。外の様子を見て、水晶とおしゃべりをして、グータラ寝ていれば一週間などあっという間です。


 ちなみに水晶は聖女の存在を使者の男性には黙っていることにしました。まだ会わせる時でないと感じたようです。


 いよいよ“伝説の神社”の使者が異世界へ旅立つ日がやって来ました。そして使者が転移した先を見て聖女は驚きました。


(ここ、幻想領域じゃないの!?)


 聖女は慌てました。聖女は幻想領域になるべく近づきたくないのです。


(ここには簡単に来れる筈はないんだけど……。しかもかなり深い場所ね。なんであいつ平気なのかしら?)


 水晶が聖女の様子がおかしいことに気が付きました。


「えっ? どうかしたのかって? ん~~とね、昔ここに厄介な奴を閉じ込めたことがあってね……。まあ、浅い所だったから大丈夫だと思うんだけど……」


 聖女はソワソワと帰りたいアピールをしましたが水晶は無視しました。


 使者の男性はどうやら妹ドラゴニックババアを探しに元の世界へ戻るようです。


(それにしても、やっぱりドラゴニックババアは幻想領域にいたのね……)


 聖女の世界ではドラゴニックババアはおとぎ話に出てくる架空のババアとして認知されています。実在することを知っている者はわずかです。しかし、そのわずかな者でもどこから来たのかを知っている者はいませんでした。


 妹ドラゴニックババアを見つけ、再び幻想領域に来た使者の男性はドラゴニックババアからお礼の品をもらいました。


銀婆シルバア工芸品アーティファクト……! しかも二つも! ずるいわ!!)


 銀婆工芸品とはババアから授かるとてつもない効力を持ったアイテムで、聖女の世界ではこれを授かったものはババアの加護を受けた幸福者として讃えられます。


 使者の男性は元の世界へ戻りました。聖女もほっと一安心しました。


 更に一週間が経ちました。今度こそ本当に聖女の世界へ行けるはずだと水晶はいいます。


「じゃあ、水晶ちゃん。手はず通りにお願いね? 私の世界に行ってもアイツに助言したらダメよ?」


 聖女は使者の男性の頼りなさを危惧していました。甘やかし気味な水晶に不満がありました。そこで聖女は使者の男性を鍛えるために、異世界では自分一人の力でどうにかさせようとしたのです。水晶は最初、難色を示しました。ゆっくり育てていく事が水晶の教育方針だったのです。


 聖女は説得しました。曰く、人が成長するにはまず自助の精神が大事である。みだりに他人に頼ってはいけない。人事を尽くすべし。手を差し伸べるのはそれからだと。


 聖女の言うことは正論でした。しかし側近が聞けば、あなたが言うなと呆れ顔をするでしょう。聖女は自分に甘く他人に厳しいのです。


 水晶は悩みました。聖女の言うことは一理あると。しかし使者の男性は今まで普通に暮らしてきた人間であるから、やはりゆっくり慌てずに育てるべきではないかと。それに異世界の事は水晶もそんなに詳しく無いので、あまり無理はさせたくないのでした。


 聖女は更に続けます。曰く、あの男はそんなヤワでは無い。やれば出来る男だ。私はあの男に無限の可能性を感じたと。


 今度は使者の男性を褒める方向で説得しました。聖女は小賢しくもあったのです。そして最後に、男性が危機に陥れば絶対に助けるからと約束しました。水晶は遂に折れて、聖女の言う通りにすることにしたのです。


 使者の男性が異世界へと旅立ちました。聖女は自分の世界に戻れば水晶から出られるだろうと思っていました。


 結論から言えば出られませんでした。


「なんでよ!?」


 水晶は言いました。ここに閉じ込められた事はなにか意味があるはずだと。聖女にはお役目があるはずだと。


「……水晶ちゃん、何か知ってるんじゃないの?」


 聖女は訝しみましたが、水晶は黙秘します。


「まあいいわ。その代りあの男にはちゃんと働いてもらうわよ」


 こうして聖女は聖都には帰れず、日本に戻ることになったのです。  

  

 戻った後も聖女は相変わらずグータラ過ごしていました。やることがないので、こればかりは仕方がありません。側近もきっと許してくれるでしょう。


 そして日本に戻ってから数日が経ったある日のこと、水晶が妙にソワソワしていました。


「どうしたの水晶ちゃん? なんだか落ち着かない様子ね。なんでもない? そう、ならいいんだけど」


 それでもやっぱり水晶の様子は変でしたが、聖女は気にせず外の世界を眺めていました。


(巫女ねえ……)


 使者の男性と初老の男性の会話を何のけなしに聞いていました。聖女は巫女に少し興味を覚えたようです。


 日が沈み巫女と思われる少女が神社に現れました。


(何よあの呪い!?) 


 巫女を見た聖女は驚愕しました。それほど巫女に憑いた呪いは強かったのです。


(あの娘、あんな強い呪いにかかってて、よく生きていられるわね……。あの呪い、完全体の私でも祓えるか怪しいわね……)


 聖女の言う完全体とは、9時間ばっちり熟睡して空が快晴で気分がいい状態の事です。つまりは最高のコンディションということです。聖女の生活は乱れているので、中々ベストコンディションにはならないのです。


「えっ? あの娘を助けられないかって? ちょっと無理ねえ。まあ、体を癒やすことくらいは出来るけど。それでもいいの? わかったわ」


 聖女は癒やしの奇跡を行使しました。聖女の体から放たれる五色の光は水晶を通って、巫女の少女に降り注ぎます。水晶は聖女にお礼を言いました。


「フッ……。いいってことよ。私の力は多少なら外に干渉できるようね。それにしても水晶ちゃん、随分とあの娘の事を気にかけるのね?」


 水晶は黙秘します。


「あなた一体何者なのかしらね。その水晶の体も本来の姿ではないわね? ……そう、言いたくないの。まあ、いいわ。でもいつか本当の姿を見てみたいものだわ」


 もう興味がなくなったのか、聖女はごろんと寝転がりぐーすかと眠りにつくのでした。

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