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第39話 第一回超越神社ふれあい祭り

 本日は超越神社の初めてのお祭りだ。霊管の零源れいげん龍彦たつひこおじさん企画主催である。


 祭りは10時開催で現在9時30分だ。今は運営のお手伝いをしてくれる霊管の方々、アルバイトの巫女さんである菩薩院ぼさついん聖子さんに今日一日よろしくお願いしますと挨拶をしていたところだ。天女あまめちゃんもお手伝いしてくれるのだが、菩薩院さんがいるので一応この場に来ることは控えてもらった。


 ちなみに菩薩院さんは集合時間の30分前に来てくれた。とても真面目ですね。時間ぴったりでも良かったんだけどね。


「すごい人ですね……」


 鳥居の前の人だかりを見て、菩薩院聖子さんが呟いた。


「そうですね」


「空飛ぶ人間のせいでしょうか」


「……空飛ぶ人間?」


「今すごい話題になっていますよ。ご存知ないのですか?」


 もちろんご存知ですよ。なんたって飛んでいた本人ですから。


「それは知っているんだけど、この人だかりと何か関係あるのかなって」


「この神社のあたりに落ちたって、目撃した人が何人かいるらしいですよ。SNSで話題になってました」


 ……ああ、落ちるところまで見られたのか。流石に僕の顔まで見られてないよな?


「実際ここに落ちたのでしょうか?」


「さあ?  僕は見ていないですね。菩薩院さんは空飛ぶ人間の信じているの?」


「ふふ、どうでしょう。でもいたらいいなって思います」


 ほお、菩薩院さん、都市伝説っぽい話好きなのかな。以外だな。


「それから怪力おばさんも関係しているかもしれませんね」


「怪力おばさん?」


「何日か前に近くの道路で小型トラックが横転した事故は知っていますか?」


「いや、初めて聞きました」


「その横転したトラックを買い物袋を下げた小柄なおばさんが、ヒョイと片手で元に戻したそうですよ。そのおばさんは何も言わずにすぐにそこから去ったそうです」


「…………」


「それから駅前で、女の子に絡んでいる不良たちを片手で投げ飛ばしている所を目撃した人もいるみたいです。それはもうお手玉のようにポンポンと。そのおばさんも小柄で買い物袋を下げていたようですね」


 そのおばさん、もしかしなくても変身と怪力のスキルを使った天女ちゃんだよなあ……。でもそんな話は彼女から聞いていないぞ。後で確認してみるか。


「似たようなおばさんがこの神社に入って行くところを見た人もいるみたいです。野丸さんは知りませんか?」


「……見たことないですねえ。本当にそんな人いるのかな?」


「あ、信じてませんね? 私は信じてますよ。そんな不思議な人がいたら面白いじゃないですか」


 フフフと笑う菩薩院さんは可憐だ。しかし、僕の知らない所で天女ちゃんは色々とやっているようだ。その所為かどうかは分からないが、こうして超越神社に興味を持った人が来ている。


 まあ、理由はどうあれ、人が多く来てくださったのは良いことでしょ。今回のお祭りの目的は、超越神社をご近所さんに知ってもらって、ご贔屓にして貰うことなんだから。ご近所以外の人も多そうだけど。


「皆さん、想定外の人出ですけど、今日明日の二日間よろしくお願いします」


 僕は関係者一同を見渡し、頭を下げた。


 さあ、祭りの開幕だ。









 時刻は午後1時。人が多い、マジで多い。午前中も人が多かったが、今は初詣かっていうくらいごった返している。皆そんなにフライングヒューマノイドや怪力おばさんが気になるのか、お守りを買ってくれた人から何度も聞かれた。こちらの神社の祭神のことなど全く聞かれない。


 予想を遥かに上回る人の多さだが、そのお陰でお守りや御朱印などの売上は好調だ。破魔矢など少し値が張る物も売れている。これらは社務所に元々あった物なので原価は0円。つまり売上から人件費を引いた金額がまるまる利益となる。おいしくて思わず笑みが出る。


 出店の方も、値段が相場よりかなり安いため、飛ぶように売れている。このままだとすぐに材料が切れてしまうので、親方がすぐに追加分を発注していた。仕事のできる男は判断が素早い。


 天女ちゃんにも仕事をお願いしている。足の悪いお年寄りの補助だとか、子供の遊び相手とか、その他の雑事を引き受けてくれた。もちろん素顔は隠してある。巫女さんっぽい長い黒髪のウィッグを付け、巫女装束に狐のお面という出で立ちだ。これが中々に受けている。


 神秘的かつ妖しい雰囲気に天女ちゃんの美少女オーラが加われば、素顔が見えなくてもそれはもう目立っております。このお祭りは天女ちゃんが主役だといっても過言ではありません。菩薩院さんも天女ちゃんに見惚れている。


 それから天女ちゃんはもう一つ仕事がある。神楽殿かぐらでんで舞を踊るのだ。何でもお祭りをやると聞いて霊管の人に神楽舞を教えてもらったのだそうだ。一時間後に上演する予定である。


 さて、こちらの社務所は出店の方とは違い、わりかしちょいちょい人の列が途切れたりするので少しは余裕がある。僕も慣れたことだし、菩薩院さんにはお昼休憩に行ってもらった。


 今はお客さんはいない。こうしたスキマ時間が出来ると、ついつい異世界のシュウ君の事を考えてしまう。なぜだかとても気になる。異世界から帰ってきてからそればかり考えている。


 幽霊はあれから見ていない。成仏したか、していなくてもさすがに別時空を跨いで憑いては来れないか。


「コレクダサイ」


 おっと、お客さんだ。


「はい、ただいま」


 目の前には誰もいない。あれ? さっき声聞こえたよな?


「コレクダサイ」


 声は僕の視線のやや下から聞こえてきた。下を見ると葉っぱの傘を持った小人が台に乗っていた。予想外のお客さんに驚き、しばし固まってしまう。……コロボックルとかいうやつだろうか。


「コレクダサイ」


 小人さんが差したのは家内安全のお守りだ。


「こ、これですね」


「チカラコメテ。チカラコメテ」


 リクエストがあったがどうすればいいのか。取り敢えずそれっぽいことをしてみよう。僕はお守りを手に包み、神正氣がお守りに流れるように念じた。


「どうぞ」


「アリガト。オダイ、コレ」


 力を込められたか自信がなかったが、ピョンピョンと跳ねているので喜んでいるのだろう。小人さんから渡されたのは小さな貨幣だった。当然ながら初めて見る。小人界の貨幣だろうか。


 小人さんは台から飛び降りて、どこかへと行ってしまった。最初は驚いたけど、こういった可愛らしい人外の存在なら全然ウェルカムだ。スマホでの撮影をお願いすればよかったかな。


 出店の人混みをよく見てみれば、人に紛れて妖怪とか物の怪っぽい、訳の分からない妖かしがいるのが認められた。二足歩行している狐の家族とか、人の形をした白いゆらゆらとした湯気とか、でかいカエルの上に乗っている小汚い仙人ぽい人とか、他にも盛り沢山だ。妖かしのバラエティパックだ。


 普通の人には見えていないようだが、出店の霊管関係者の方々は、これらの妖かしさんたちにも商品を売っている。


 人ゴミに紛れたプチ百鬼夜行を唖然としながら眺めていると、一際ヤバそうな存在が目についた。ボロボロの唐傘からかさを差した、白い着物を着た島田髷しまだまげの御婦人だ。もちろん人間ではない。何がやばいかというとボロボロの傘には御札がいっぱい貼ってある。どうみても何かを封じている御札である。御堂家の煤子すすこ様の結界にもあんな感じのが貼ってあった。


 ちょっと水晶さん、悪霊の類は超越神社に入れないじゃないの?


『悪いものではありません』


 本当に? 霊管の人達も白い御婦人を見て、顔が引きつっているんだけど……。


「すげえな、兄ちゃん。妖かしたちと人間がこんなに交わり合ってるのは初めて見たぜ」


 いつの間にか傍らに親方がいた。ごま塩頭でガタイのいい、大工っぽい格好をした人だ。この人が実際に親方かどうかはわからない。見た目とお祭りの準備の指示を出していたから親方っぽいなと思っただけだ。


「お疲れ様です。僕はよくわからないんですが、珍しいことなんでしょうか」


 こちらの世界に足を踏み入れてから一ヶ月とちょっとしか経っていないので、僕は見るもの全てが珍しいんだけどね。


「俺は初めてだな。昔はこんな事もあったみたいだがな。つっても戦前の話だが。恐らく今では日本全国どこにもないだろう」


「そうなんですか。あの、ここにいる妖かし達は悪さはしないんですよね?」


「ああ、見たことがないのもいるが大丈夫だろう。つーかこんなすごい結界が張ってあるんだ、並の悪霊じゃ入って来れんだろう」


「でも、あのボロボロの傘を差している女の人は……」


「あの方は妖かしというより神に近いな。もちろん害はない。しかし驚いたぜ。おみつさんがこんな所にいるんだからな。今頃、西の連中は大騒ぎだろうぜ」


 悪い存在ではないのか。なら良かった。光の女神様をのぞいて、僕以外の神は初めてかも。このおみつさんと呼ばれている神?は西からわざわざいらっしゃったのか。


「西って関西の方ですか?」


「そうだ。京都のとある神社に祀られている」


 おお! 僕と同じ祭神じゃないか。ちょっと怖いけど、祭神の先輩に色々お話を伺っておこうかな。祭神としての心得的なやつを。


「それでな、龍彦から伝言がある」


 おや、もしかしてこちらが本題かな?


「今日、祭りが終わってからここに巫女様をご案内すると。巫女様が兄ちゃんにご挨拶をしたいと仰っていたそうでな」


「巫女様ですか……」


 僕も巫女様のことは気になっていた。恐らく光の女神様から御告げ的な事を受信しているだろうから、色々と聞きたいことがあったのだ。


「承知しました。ではお祭りが終わってから、お迎えさせていただきますね」


「悪いな、突然」


「いえ、僕も巫女様にご挨拶したかったですし」


「ああ、よろしく頼むな。じゃあ俺は仕事に戻るわ」


「はい、引き続きよろしくお願いします」

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