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第31話 疑われし異教徒

「アリエ殿からも伺っております。随分と遠いところから御出なさったようですね。それで、長旅でお疲れだとは思いますが、少しばかり我々に付き合っていただきたいのです。その後、こちらでお部屋を用意しますので、どうぞそこでお寛ぎください」


「たいして疲れてないのでそれは構わないのですが……」


「それでは付いてきてください」


 モンレさんが先導する形で教会の中に入った。僕の後ろにはアリエさんがいて、前後で挟まれて連行されているような感じになった。


 教会の内装はシンプルだがそれでも芸術的で、ずっと遠くの未来では観光名所になってそうだ。ゴシックだか、ルネッサンスだか、ロココだか、よくわからないけどそんな感じの建築様式。


 歩いている間はずっと無言だった。モンレさんとアリエさんが前後にいるもんだから、話しかけにくい。しかも、微妙に距離がある。もしかしたら意図的にこういうフォーメーションにしているのかも。


 程なくして着いた所は、大きな広間だった。天井は高く、ドーム状になっている。その広間の中央にポツンと一人、赤い神官服を着た人がいた。顔はベールをしているので分からないが、体格から女性だと思われる。


「カミヒトさん、あちらトトマさんです」


 トトマと呼ばれた人からはまだ5メートルほど距離がある。なぜこんな離れているのに紹介するんだと疑問に思っていると、トトマという女性はスッと僕の方に腕を上げ、手のひらを向けた。


 と同時に女性の手のひらから何かが素速く発射された。


「!!?」


 僕は反射的に結界を張り、女性から出た攻撃魔法的な赤い何かを防いだ。疾すぎてよく見えなかったけど、斬属性的な形をしていたと思う。ゲームでよく見るウィンドカッター的なやつだ。


 赤いウィンドカッターは結界に当たるとなんの手応えもなく、霧のように消えてしまった。


 あぶなかった……。突然の出来事で思考が停止していたが、いきなり悪意を向けられた事を理解すると、動悸がどんどん速くなり全身の毛穴から汗が吹き出してきた。


 なぜ攻撃されたのだろう。やっぱり異教徒だからか。表向きは異教徒を排斥することはないと言っていたが、もしかすると裏では「異教徒は消毒だあ~!」てな感じで処理しているんじゃないだろうか。


 警戒感MAXの僕はいつでも転移用の鳥居を召喚して逃げられるように構える。すると赤い神官服の女性は深々と頭を下げた。どういうことだろうと思い、モンレさんやアリエさんを見ると、こちらも頭を下げていた。


「試すようなことをして申し訳ありませんでした」


 そう言ったのはアリエさんだ。


 何を試したのだろうか。未だに結界は解除せずにアリエさんを見やる。


「あなたが邪教の者ではないかと疑っていまして、彼女に協力してもらいました。どうやら私の思い違いだったようです」


「私からも謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


 今度はモンレさんから謝罪を受けた。


「邪教ですか……」


 なんとなく事情は理解できた。アリエさんが僕のことを警戒していたのはわかっていたが、邪教の者かと疑っていたわけか。アリエさんにはアリエさんなりの事情があるのだろうが、しかし、いきなり攻撃される僕からしたら堪ったものではない。結界が間に合わなかったらどうなっていたことか……。ここは強めの口調で抗議しよう。


「危ないじゃないですか。そちらの事情はわかりませんが、大怪我したらどうするんですか」


「その点は大丈夫です。今の攻撃は純粋な赤聖せきせい魔法ですので、邪教の者でなければ当たっても無傷です」


 また新しい色が出てきた。今までの法則からすると、この赤聖というやつは五大悪氣の一つを浄化する力があると思うのだが、彼女の言い振りからすると邪教徒そのものに有効のように聞こえる。疑問に思っている顔をしていたのだろうか、アリエさんが説明してくれた。


「カミヒト殿の国ではどうかわかりませんが、こちらの大陸では邪教は外法で魔力を邪氣じゃきへと変えます。これは一度変えてしまえば二度と戻らないもので、故に邪教の者の体は邪氣そのものと言ってよいのです」


「邪氣とは人間が唯一生み出せる悪氣あっきなのです。邪氣を使った魔法は人に害するものが多く、呪術などがその典型でしょうか。カミヒトさんの国では邪教などはいないのでしょうか?」


 モンレさんが説明を引き継いだ。現代の日本では邪教なんて思いつかないな。強いて言うならカルト宗教かな。


「似たようなのはありますね」


「そうですか。今一度改めて謝罪させていただきたく。申し訳ありませんでした」


 僕は結界を解除していないのでまだ怒っていると思ったのか、二人はもう一度頭を下げた。ちなみに赤い神官服の女性はずっと頭を下げたままだ。僕たちが話している時も一度も顔を上げていない。


「いえ、僕もいきなりのことで驚いてしまって……頭を上げてください」


 もう怒っていませんよとアピールするために結界を解除した。実際もう怒っていない。僕は怒りをぶつけるのが苦手なんだ。


「ありがとうございます。今夜はささやかながら晩餐を開きたいと思います。その前にせっかくですから教会の中を案内しましょう」


「あの、晩餐までは開いていただかなくても……」


「いえいえ、イーオ様がここまで案内するよう仰せになったと伺ったので。最低限のおもてなしはさせて頂きます」


「それではお言葉に甘えまして……」


 イーオ様の真意がわからないので、正直あまり関わりたくないのだが、右も左もわからない異世界初心者としては出来るだけ情報は得ておきたい。こちらの貨幣も持っていないので、食べることも泊まることもままならない。だったらカトリーヌ教でしばらくお世話になった方がいい気がする。


「それでは参りましょう。こちらです」


 モンレさんの案内に従い、僕はこの広間を後にすることになった。トトマさんに視線をやれば、まだ頭を下げていたのがちょっと怖かった。







 案内をしてもらっている道すがら、僕は先程見た調子の悪そうな人たちが並んでいるのを思い出して、気になったことをモンレさんに聞いた。


「先程、体調の悪そうな人たちの列を見たのですが、この教会は病院としての役割もあるのですか?」


「そうですね、普通の病院ではありませんが、こちらは瘴氣しょうき専門の病院と言ってもいいかもしれませんね。我々黄光(おうこう)衛生局は瘴氣の浄化を専門としているので。更には瘴氣によって引き起こされた病を治す役割もしています。この教会はなかなか立派だったでしょう? 黄光衛生局のセルクルイス支部は、マンマル王国の中では一番の規模なのです。それ故、遠くから瘴氣を祓いに来る患者様もいます」


「なるほど、そういうことだったんですね。しかし、他の局員の方たちは忙しそうにしていましたが、僕なんかの所為でモンレさんの貴重なお時間をいただくのは申し訳なく思います」


「お気になさらずに。これも私共の重要な仕事ですから。しかしここのところ、患者さんが多く訪れるのは事実ですね。最近は瘴氣の発生が多いようで……」


 ここでふと思った。ここの患者さんたちの瘴気を浄化することができたなら、感謝されて神正氣しんせいきが得られるのではないかと。恐らく神術を用いればすベての悪氣を浄化することが可能だろう。水晶さんにも神正氣は切らさないように言われたし、僕が手伝うことで局員の人たちの負担も減るのではないか。どこまで出来るかわからないけどやってみる価値はあるんじゃないか。


「あの、僕にも瘴氣の浄化のお手伝いをさせてもらえないでしょうか?]


「お手伝いですか?もしや、カミヒトさんの色聖も黄聖なので?」


「カミヒト殿、あなたの属性は青聖のはず。もしかして二属性持ちなのですか?」


「ええ、まあ……」


 アリエさんが若干驚いているような気がする。もしかすると一人一属性が基本なのか。だとしたらやってしまったかもしれない。


「おお!それは素晴らしい!カミヒトさんは神に愛されておいでなのですね」


 モンレさんの反応からすると、二属性持ちは稀ではあるがすごく珍しいというわけではなそうだ。しかしもうちょっと慎重にいくべきだったな。


「お手伝いさせてもらえますかね?」


「ええ、それは是非おねがいします。それでは早速治療室の方へ向かいましょう」


 モンレさん嬉しそうだ。局員の人たち、すごい忙しそうだったしね。人材不足の会社に即戦力が入った時の課長のような顔をしていた。

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