表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/199

第28話 セルクルイスへ

 イーオ様御一行に続いてセルクルイスへ向かい歩き出したはいいが、街道をゆく人々に囲まれて止まらざるを得なかった。何故に囲まれたかというと皆僕に興味津々だからだ。見慣れぬ異国の服に身を包み、襲ってきた魔物を返り討ちにして、更にはカリスマ性あふれる聖女候補と話していたのだ。おそらく娯楽が少ないであろう異世界であるから、皆ちょっとした刺激に飢えておるのだ。


 イーオ様について色々教えてくれた行商人風のおじさんは真っ先に話しかけてきて、握手を求めてきた。僕がイーオ様と握手したからだろう。僕はまだ手に残るイーオ様の温もりをおじさんで上書きしたくないので、イーオ様と握手した手とは反対の手を差し出した。おじさんは微妙な顔をして握手に応じた。


 他にも色んな人からワチャワチャと話しかけられたので結構時間を浪費してしまった。イーオ様たちの隊列はもう見えなくなった。 


 ようやく解放されたので僕たちもセルクルイスへ向かうことにした。日が暮れる前に着けるといいが。


「なんかすいません。僕のせいで足止めされてしまって」


「いいえ、構いません」


「兄ちゃんの魔法すごかったもんな~」


「ええ、お見事でした。魔氣まきもきれいに浄化されていました。カミヒト殿も青聖せいせい魔法を使うのですね」


「魔氣? 青聖魔法? 何でしょうそれは」


「……ご存知ないのですか?」


 怪しむような目つきをしている。しまった、こちらでは知らないといけない常識だったのかもしれない。


 僕の異世界での立ち位置は、遥か遠くの異国から布教の為にやってきた聖職者という設定だ。国が違うので常識や習慣が違うことも多々あるだろうが、それでも同じ世界なので共通して認識している事柄もあるだろう。特に魔法に関してはそうだと思う。魔氣とかいうのもそうかもしれない。僕が使ったのは神術なのだが、端から見れば魔法を使ったように見えたはずなので、魔法のことは門外漢ですなんて言い訳は通じない。そして自身が神で魔法の上位互換の神術が使えることも秘密にしておきたい。とにかく、どうにか怪しまれないようにごまかさないと。


「ええ、遠くの国の出身でして。こちらの言い方はまだわからないことが多くて……」


「そうでしたか。では簡単に説明を。魔氣というのは五大悪氣(あっき)の一つで、これに侵された生き物は魔物となります。魔物はただ倒すだけではダメで、魔氣を浄化しないといけません。浄化をしないと魔物の死骸の魔氣がまた別の生物に移り、新たな魔物になるのです。この魔氣を浄化することができるのが青聖魔法です。これはただの魔法とは違い聖なる力を持っています。ただの魔力を練り上げ、厳しい修練の果てに聖なる魔力となるのです。この聖なる魔力を色聖しきせいといい、全部で五属性あります。青聖はその一つで魔氣を祓う力があります」


「あ、名称が違うだけで僕の国でもだいたいそんな感じです」


 聞いたことがない単語が結構でてきたので、完全に理解できているか自信がないぞ。メモ用紙とペンを持ってくればよかった。食料とサバイバルグッズばかりに気を取られてすっかり忘れてしまった。


「わたしの所属する青炎討伐部隊は魔物討伐の専門機関です。隊員全員の属性が青聖となります」


 彼女の装備が青を基調にしているのは、属性が青聖というやつだからだろうか。そういえばイーオ様の護衛は色とりどりの装備だった。


「もしかして、その色聖とかいうやつの属性によって装備の色が決まるんですか?」


「そうです。カトリーヌ教には悪氣を浄化する専門の機関が五つあります。それぞれの組織によって色が決まっております。青炎討伐部隊はその名の通り、青を象徴としています」


「なるほど。よくわかりました。ありがとうございます」


 だいたい理解できたが一つ疑問がある。なぜ僕が魔氣を浄化できたのだろう。青聖魔法なんて使った覚えがない。僕が使ったのは神術だ。そう、神術は魔法の上位互換だ。あらゆる点で優れているって水晶さんが言ってた。つまりそういうことか。


「カミヒト殿はセルクルイスへ何用で?」


「観光ですね。この国のことをよく見ておきたいので」


「……質問を変えましょう。この大陸で何をするつもりですか?」


 アリエさん、尋問モードに入ったな。そしてなぜだか僕が別の大陸出身だと確信している。さて、どう答えたらいいものか。


「なぜ僕が別大陸から来たと思ったんですか?」


「簡単ですよ。この大陸の国々ではカミヒト殿のような人種はおりません。東の大陸には我々とは異なった人種がいると聞いたことがあります」


 たしかにアジア人ぽい顔の人はいなかったな。ここの人たちは地球上にいるどの人種とも違う。白人が一番近いかもしれないが、それでも白人かと言われたら違うと答える。骨格が微妙に違うのかな。髪の色とかもカラフルだし。地球で地毛が青の人とかいないよ。美形な人も多い気がするな。


 シュウ君にはどこから来たかあやふやにしていたけど、もうごまかす事もできなそうだし、別大陸から来たという設定を出しちゃうか。そう、僕は東の大陸出身です。どんな大陸かしらんけど。


「ええ、東の大陸から参りました。この大陸に来た目的は布教のためです。イーオ様は異教徒というだけでは排斥しないと仰っていましたが、僕の信仰する神を広める行為はカトリーヌ教としてはどうなのでしょう?」


 実際は僕を崇めてもらうことになるんだけど、そんな事は正直には言えない。だってめちゃくちゃ怪しいじゃない。


「カトリーヌ教の活動の邪魔をしなければ問題ありません。正式に他宗教の活動を認めています。しかし、実際はブオーサ殿のようによく思っていない者も少なくありません。あまり大っぴらに布教を行うと妨害に遭うかもしれませんね」


 それならば問題ない。こっちはそんなに本格的に布教しようとは思ってない。僕は程々に頑張るつもりなのだ。ゆくゆくはスローライフな生活を送るつもりなのだから、どっかの田舎で土着の神様として鎮座する予定だ。


 信仰が多いほど、神としての位階が上がり、力もそれに比例して増すようだが、立場が上がると自然に責任も大きくなる。きっと煩わしい事も増えるだろう。カトリーヌ教に限らずいろんな組織と軋轢あつれきもできるに違いない。ああ、考えるだけで胃が痛くなる。僕は零細宗教の神様でいいや。


「そこまで広く布教しようとは思ってないので大丈夫です。カトリーヌ教の教義に反することもしません」


「ならばお好きになさって結構ですよ。一応確認しますが、カミヒト殿の信仰している神はどのような存在ですか?」


「なあ、もう難しい話はやめようぜ。なんか面白い話しようよ」


 シュウ君は僕らの会話に飽きたようだ。僕も話題の変更は望むところだ。どんな神と言われても、目の前にいる冴えない男ですよ、とは言えない。


「……大事な話をしているのですが」


「そんなの後にしてくれよ。もうすぐで俺の村とセルクルイスの分かれ道があるんだ。そこで兄ちゃんとはお別れだしさ」


「わかりました。では面白い話をどうぞ」


 アリエさん、そっけないな。


「ん~~っと。あ、そうだ!俺、少し前にドラゴニックババアが飛んでるのを見たんだ!」


 ドラゴニックババア? なんか聞いたことあるけど、微妙に違う気がするぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ