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第27話 イーオ様

「イーオ様」


 僕に尋問していた悪役面の神官がイーオ様と呼んだ少女の斜め後ろ、いかにも私は従者ですという位置に移動した。僕との会話はイーオ様に譲るようだ。


 目の前にいる少女は息をのむほど美しかった。年の頃はアリエと呼ばれた女騎士より少し若く見えた。あたたかい陽光に輝くつややか黒髪は、春の風に柔らかくなびいている。まだあどけなさの残る顔は派手さこそないが均整がとれて、彫刻のようだ。白を基調とした神官服はシンプルながらも所々に刺繍がしてあり、上品さと神聖さがある。帽子、手袋も共に白で、お召し物は裾長く、顔以外素肌が覆われているのが、一層イーオ様を清楚に見せていた。


 イーオ様はすでに美しいのだが、まだ若く、これから大輪を咲かせる前の蕾といった印象だ。


 僕は彼女から目が離せなかった。一目惚れしたというわけではない。彼女の内に秘めたるエネルギーに驚いていた。イーオ様の体に隅々まで充満しているそれはどこまでも澄んでいて、煤子様を蝕んでいた呪いとは正反対の性質のように思える。加えて、エネルギーの密度も凄まじい。大きな山を望んだときのような雄大さすら感じる。清純であり、神秘的であり、重厚であり、極大である。何というか、魂そのものが輝いているような、そんな錯覚を起こす。


 なぜそんな事が僕にわかるかというと、なんか知らないがわかるとしか言いようがない。第六感的なもので感じるんだよ。たぶん神になったからだ。


 イーオ様は外面も美しく、奇跡をいくらでも起こせそうな膨大で特別なエネルギーを持つのだ、ファンが多いというのも納得だろう。


「どうかされました?」


 おっといけない、イーオ様に圧倒されて見つめすぎてしまった。


「いえ、なんでもありません」


「そうですか。なら良かったです」


 にっこりと惚れ惚れするような笑顔だ。僕もファンになりそう。


「申し遅れました、私カトリーヌ教で神官をしておりますイーオと申します。階位は第四階を頂戴しております。以後お見知りおきを」


「これはご丁寧にどうも。野丸のまる嘉彌仁かみひとと申します。野丸が名字で嘉彌仁が名前です。イーオ様にお会いできて光栄です」


「先ほどは大変ご無礼しました。カトリーヌ教では異教徒を排斥することは決してございません。従者も私を守るため、対応が過剰になってしまったのでしょう。悪気があったわけではございません」


 再び非礼を詫びると、また深々と頭を下げた。今度はブオーサと呼ばれた悪役面のおじさんも一緒に頭を下げる。どうやらイーオ様の前ではいい子ちゃんに徹するようだ。


「いえ、少し驚いただけでなんとも思っていません」


「ふふ。ありがとうございます」


 おう、笑顔が可憐だ。イーオ様は外見は少女なのだが、品のある挙動と落ち着いた話し方で一端の淑女のように思える。しかし今見せた笑顔のように年相応の表情をするとグッと来るものがある。


「カミヒト様は素晴らしい力をお持ちなのですね。セルクルイスへおいでなさるのですか?」


 目的地は確かそんな感じの名前だったと思う。


「はい、そこでしばらくお世話になりたいと思います」


「我々もこの後近隣の村を巡ってから、セルクルイスにしばらく逗留するので、もしよろしければ私を尋ねてくださいね。色々とお話を伺いたいですし」


「ありがとうございます」


 こういうお誘いは例え社交辞令だとしても嬉しいものだ。


「イーオ様、そろそろ」


 従者の悪おじがイーオ様を急かした。


「お時間を取らせて申し訳ありません。時間も差し迫っていますのでここらで失礼させていただきます。最後に……」


 イーオ様は一歩踏み出して、白い手袋を外し手を差し出した。これは握手をすればいいのか。若干戸惑ったが、僕は彼女の手を握った。するとイーオ様は微笑みを増して、更に近づいた。目の前に美少女の顔があるので胸が高鳴る。マジでドキドキ。


「やはり私の思った通りでした。あなたは私の同類だったのですね」


 僕にしか聞こえないように囁くと、イーオ様は優雅に翻り、馬車の方へと歩いていった。


 ……何、この何かの歯車に巻き込まれた感じ。


 僕の方は胸のドキドキよりも警戒心が強くなった。同類とはどういうことだろう?もしかして彼女も地球からやってきたのか?それとも僕と同じ神様なのか?イーオ様が神といわれたら、あの内に秘めた人間離れしたエネルギーを考えたらしっくり来る。しかし彼女の力が神正氣と同じかと言われたらそれも違う。うーん、謎は深まるばかりだ。


 というか、異世界に来てまだ少ししか経っていない。最初くらいはゆっくり観光させてほしい。カリスマ性あふれるイーオ様とお近づきになりたいが、何かの歯車になるのは嫌なので、イーオ様には極力近づかないようにしよう。


「そうだ。アリエさん、カミヒト様を教会まで案内して差し上げてほしいのですが、お願いできますか?」


 ポンと手をうち、青髪の美人さんに指示を出すイーオ様。もしかして監視させる気かな?


「私はイーオ様の護衛を仰せつかっていますので……」


「セルクルイスまであと少しですから。それに護衛が多すぎます。こんなにいりません。私だって戦えるのですよ?」


「……イーオ様がそう仰るのなら」


 渋々頷く青髪さん。僕としては断ってほしかった。イーオ様とはこれ以上お近付きになりたくない。いや、本当は仲良くなりたいんだけどね?まだ運命の歯車からは距離を置きたい。


「それではお願いしますね。カミヒト様またお会いしましょう」 


 そう言うと今度こそイーオ様は悪役ヅラのおじさんと共に馬車へ戻っていった。そしてイーオ様御一行の隊列は次の目的地に向かい移動し始めた。


 残された僕は行き先を変更して、シュウ君の村にでも行こうかな、などと考えていた。


「自己紹介が遅れました。私はカトリーヌ教青炎(せいえん)討伐部隊所属のアリエと申します。階位は第六階となります。セルクルイスの教会までの道中、私が案内させていただきます」


 ああ、そうだ。案内人という名の監視がいたんだ。これじゃあ逃げられないな。逃げること自体は可能だが、それをすると面倒くさくなりそうだ。仕方がない、大人しく教会まで行くか。


「野丸嘉彌仁です。よろしくお願いします」


「俺はイルマ村のシュウってんだ。よろしくな姉ちゃん!」


「あなたは?」


「彼はさっき会ったツレです。彼の村がセルクルイスの近くにあるようなので、途中まで案内してもらうことになっていたんです」


「そうですか、それでは共に参りましょうか」


「おう!よろしく! つってもあとちょっとだけどな」


「どれくらいでセルクルイスに着くのかな?」


「歩いて二時間程でしょうか」


「イルマ村に行く分かれ道まではあと1時間位だな。じゃ、行こうぜ」


 僕たちは3人で歩き出した。

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