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第23話 面接

 おじさんから連絡があった3日後。僕は急遽、仕事を休んだ。なぜならば本日は面接日だからだ。僕が面接を受けるのではない、面接をする側だ。おじさんの動きは早く、すぐにバイトの募集をかけてくれたみたいだ。そして募集をかけてからわずか2時間ほどで応募が来たらしい。というわけですぐさま面接することになった。


 僕の仕事の方は引き継ぎする後輩が優秀なので、もう有給消化モードに入っても問題ない。ちょっと複雑だけれど。まあ、そういうわけだから前日に、明日休みますといっても良いわけだ。


 午後1時に開始予定で、場所は超越神社の社務所で行う。応募者の名前は菩薩院ぼさついん聖子せいこさん。大学生だ。僕は30分前から鳥居の前に立ち、ソワソワしながら待った。服装は神職服を着ている。


 約束の時間の15分ほど前にそれらしき人物が現れた。リクルートスーツを着ていて、僕に気づき深くお辞儀をした。私服でいいって言ったんだけどな。お祭りは2日間だけで、形式張ったものでもないし。僕もお辞儀を返した。


 菩薩院さんは正統派美人といった感じで、長く艶やかな髪は後ろで一つに結んでいる。就活女子大生によく見る髪型だ。新入社員の女の子も毎年こんな髪型だったな。2年目で皆んなだんだん派手になっていくんだよな。


 お互い軽く自己紹介をして、社務所に案内した。早速面接を開始する。履歴書を手渡されてので見てみると、手書きで文字がとても綺麗だった。そして学歴の高さに驚いた。東京の最難関大学だ。


 菩薩院さんに今度は詳しく自己紹介してもらった。大学4年生でもうすぐ卒業するらしい。どうやら巫女さんをやったことがあるみたいだ。


「経験者だったんですね」


「はい。家の関係でそういった所と縁があるものですから。よく手伝いに行かされていました」


 その後の受け答えも卒なくこなしていった。


 これはもう採用でいいんじゃないか。巫女さんの経験があって礼儀正しくて、おまけに美人ときたもんだ。一つ一つの所作も優雅で、いかにもいいとこのお嬢さんといった感じだ。祭りも来週の土日だし早く決めちゃったほうが良いだろう。よし、採用。


 ということでその場で採用の旨を伝える。菩薩院さんはありがとうございますと優雅に一礼した。


 面接も早く終わったことだし、せっかくだから境内を案内することにした。その前に巫女さんの衣装のサイズが合うか確認してもらうおう。巫女さんの衣装は住居兼本殿のクローゼットにいくつか入っていたので全部持ってきた。


 僕は外に出て待つこと数分、菩薩院さんが社務所から出てきた。白衣に緋袴といったよくある巫女さんの衣装だ。菩薩院さんのような正統派美人が着ると3割増しになって魅力的に見える。どうでしょうか、と言ってはにかんだ表情が可憐だ。これはいいものですよ。


 まず案内するのは超越神社で一番目立つ御神木。この木なんの木、霊長樹だ。


「立派な御神木ですね。何ていう名前ですか?」


 いきなり答えに窮してしまった。


「……霊長樹っていうんですよ」


 なんてごまかしたらいいのかわからないので正直に言った。


「霊長樹? 聞いたことないですね」


 そりゃそうだろう。地球上に存在しないんだから、調べられたらすぐにバレちゃう。菩薩院さんがネットで検索しないように祈るばかりだ。


 菩薩院さんは御神木をしげしげと眺めている。そういえば僕には御神木から青白いオーラのようなものが出ているのが見えるが、普通の人はどうなんだろう。ちらりと菩薩院さんの様子をうかがう。彼女は御神木に驚嘆しているようだったが、不自然な様子はない。おそらくは見えていないだろう。


 続いてやって来たのは拝殿だ。といっても変わった特徴はない。中に案内しようかと思ったが、そういえば何もなかった。ただ殺風景な床板の広間があるだけである。何もないのはどうかと思うので、神社っぽい飾りでも据えてみようか。それは後で考えてみよう。


 菩薩院さんが拝殿に向かいお詣りしていたので、僕もならってお詣りした。祭神は僕だが自分で自分に祈りを捧げるのはおかしいので、僕は光の女神に祈った。


「ここに祀られているご祭神は何とおっしゃるのでしょうか?」


 またまた答えに窮してしまった。ここの祭神は僕です、なんて言えない。言ったらもうここに来なくなるだろう。自分を神だと呼ぶ危ない奴と一緒に働いてくれるわけがない。この質問の答えは予め考えておくべきだった。そうだよな、神社では祭神が重要だもんな。ああ、抜かった。


「……超越神ちょうえつのかみですね」


「超越ってここの神社の名前ですよね?」


「うん、もともと土着の神様で名前が失われてしまったから、便宜上そう呼んでいるんですよ」


「最近できた神社って聞きましたけど……」


「神社自体は最近できたんだけど、祀っている神様は昔からいたんですよ」


 もちろん全部でたらめだ。


「そうだったんですか」


 よかった。菩薩院さんは納得してくれたみたいだ。うまくごまかせたんじゃないか。


 小さな神社だから、もう案内できるようなめぼしい場所はない。それに詳しく聞かれても答えられないことが多いことに気づいた。もっとこの神社の設定を煮詰めなきゃいけない。ボロが出ないうちに、もうそろそろサヨナラしなくては。


「この後予定があるので、今日はここまでにしましょう」


「はい、わかりました」


 菩薩院さんは社務所に戻ると巫女服からリクルートスーツに着替えた。せっかくだからお土産になにかあげようか。


「この中から好きなものを選んでください。記念にどうぞ」


 そういって社務所にあるお守りを指さした。健康祈願、家内安全、無病息災、商売繁盛など一通り揃っている。


「いいんですか? それじゃあ」


 少し迷って、菩薩院さんが選んだのは大願成就のお守りだった。


「それでは、来週はよろしくお願いしますね。帰りは気をつけて」


「はい、本日はありがとうございました」


 深々と丁寧にお辞儀をし、菩薩院さんは帰っていった。僕は彼女が見えなくなるまで見送った。

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