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第22話 また怪奇現象作ったようです

 姉妹ドラゴンババアと別れてから僕は住居兼本殿でダラダラしていた。異世界へ行くのは来週に延期することになった。本殿はまだ家具類が殆どないので、やることがなく、意味もなくスマホをいじっていた。テレビくらいは早くもってきたほうがいいかな。それとも新しく買おうか。御堂のおばあさんから大金もらったし、大きいやつ買っちゃおうかな。


 スマホでどんなテレビがあるか検索してたら、着信があった。ディスプレイには零源龍彦と映っている。霊管のおじさんだ。


「もしもし」


「俺だ。龍彦だ」


「こんばんわ。2週間ぶりですね」


「ああ、今ちょっと時間いいか?」


「大丈夫ですよ」


 本当はあまり大丈夫じゃない。新しい仕事を頼まれるんじゃないかとヒヤヒヤする。怖いのは嫌だ。


「お前んとこの神社だが、急にできただろ?」


「そうですね……」


 恐らくは光の女神様が作ったと思われるからな。人間の預かり知らぬうちにできたのだろう。なにか不都合な事でもあったのかな。


「だから近所の住民に周知しようと思ってな。こういうのはご近所付き合いが大事だろ?」


 確かに、こういう小さな神社はその地域に根ざしているから、周辺住民の信仰を得られなければならない。これが有名な神社なら遠くから参拝客が訪れるんだろうが、規模の小さい新参者の神社はご近所さんの協力が必須だ。


「ええ、その通りですね」


「だからちょっとした祭りでもやって、ご近所にお前の神社を知ってもらうのはどうかと思ってな」


 おお……。おじさんそこまで考えてくれてたのか。本当は僕が積極的に考えなければいけないことだが、神になってからというもの、日々を生きるのに精一杯だ。おじさんには感謝しなくては。


「それは素晴らしい考えですね。でも祭りの準備ってどうすればいいんでしょう?僕はやったことないですよ」


「それはすべてウチでやるから大丈夫だ。出店の手配、飾り付け、周辺地域への広報、他の面倒な雑事も任せてくれ」


「いいんですか?」


 やった。全部引き受けてくれるって。さすがだ。さすがおじさんだ。楽ができて嬉しいです。


「ああ、その代わりこっちの仕事ガンガンやってくれよ?」


 ……やっぱりやりたくないからいいです、とは言えないなあ。でも怖いものは怖い。遠距離攻撃を覚えたとはいえ不安だ。


「……程々に頑張ります。それでお祭りはいつ開催するんですか?」


「こっちの都合で悪いんだが、2週間後でどうだ?それ以降だと都合がつかなくてな、だいぶ先になっちまう」


「僕は構いませんが、ずいぶんと急ですね」


 準備全部やってくれるみたいだからね。僕は忙しくならないからいいかな。


「本当か?悪いな。こっちの都合に合わせちまって」


「お礼を言うのは僕の方ですよ」


「じゃあ、そういう方向で話を進めていく。他になにか聞きたいことあるか?」


 そういえば社務所の方にお守りとか色々あったな。この機会にあれ等も売ってみようか。僕も神社とか行くと必ず買うからな。巫女さんが売ってるんだよね。


 ……巫女さんと一緒に働きたいなあ。


「あの、僕もお守りとか御朱印とか売りたいんですけど、人手が足りなくてですね……」


「そうか。じゃ、巫女さんも手配しとくわ」


 さすがおじさんだ。皆まで言わずともわかっていらっしゃる。


「ウチのを手配してもいいが、どうせならバイトでも募集してみるか?今後もこういう事があるだろしな」


 う~ん。どうしよう。面接って僕がやるんだよね?やったこと無いしなあ。来週異世界に行くし。でも一緒に働く人は自分で選びたいし。


「じゃあ、バイトの募集かけてもらっていいですか?もし誰も来なかったら霊管の人をお願いしてもいいですか?」


 バイトの募集のかけ方もよくわからないから、これもお願いしちゃっていいだろう。


「わかった。面接はそっちに任せるぞ?」


「はい、何から何までありがとうございます。それでは」


「待て。ここからが本題だ」


 嫌な予感がする。新しい仕事を振られそうな気がする。


「フライング・ヒューマノイドって知ってるか?」


「……ええ、知ってますけど。確かUMAでしたっけ?」


 世界中で目撃されている人形の空飛ぶ何かだっけ? 子供の頃、TVの特番か何かでやっていた気がする。予想もしなかった話題で拍子抜けしてしまう。


「そうだ。それが昨日お前の街で現れたらしい。多数の目撃証言がある」


 昨日といえばドラゴンババア(妹)のミラさんと遭遇した日か。大変だったな。足で掴まれて、空を飛んで、落下して……。そういえばミラさんに拉致されている時、下の人達が僕を見て騒いでいたな。


 つまり……そういうことか。


「それ……僕かもしれないです」


 なんとなく申し訳ない気分になる。


「……お前、空を飛べるのか?」


「いえ、飛べるというわけではないんですが……」


 答えに困ってしまった。飛ぶこと自体は僕ならできるだろうが、あのときは猛禽類に捕らえられた小動物状態だったので、なんて答えていいかわからない。さすがにドラゴンババアのことを言っても信じてもらえないよな。霊的なことに従事してるおじさんでもドラゴンババアは信じられないだろう。……いや待てよ、もしかしたらドラゴンババアの存在を知っているかもしれない。一応聞いてみようか。


「あの、体がドラゴンで顔が老婆の妖怪みたいなのって知っていますか?」


「何だそりゃ。知らんなそんなモノ。答えたくないならいい。巫女様からもお前については深く追求するなと言われたからな」


 話題をそらしたと思われたか。そして知らなかったか。


「そうしてくれると助かります」


「しかし、本当にお前だったか確かめさせてもらうぞ。結構な騒ぎになっているんでな」


 そういばスマホのカメラ撮られていたな。もし、僕の顔が撮られている写真があったらまずい。


「写真とかって出回ってないんですか?」


「……蓬莱ほうらい天女あまめの件と同じだ。写真を撮った者は大勢いたが、それらすべて何も写ってなかったそうだ。一人二人ならいいが大勢の人間が目撃し、そして画像や映像に何も写っていなかった。先週のT駅と同じような事象だからな、余計に大騒ぎになっている。これもお前の仕業か?」


「はい、たぶん……」


 思ったよりも大きな騒動になっていた。そして僕の神様パワーが、天女ちゃん同様に僕のプライバシーを守ってくれたようだ。助かります。


 その後、おじさんからフライグ・ヒューマノイドが出た時間、服装、飛んでいった方向などといった詳細なデータが送られてきた。それによってフライグ・ヒューマノイドが僕であることに疑いようがなくなった。完全に僕だ。


「そうか。上にはそう伝えておく。霊管としてはこの騒動も静観することにしている。時間が経てばそのうち収まるだろう」


「お手数おかけして申し訳ありません」


「お前にも色々あるんだろうが、何かあったら相談してくれよ?できれば大事にならないうちにな」


「はい、そうします……」


 僕の所為ではないが、なぜだか申し訳なく思った。

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