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閑話 聖女in水晶

「ふんふんふ~ん」


 ポカポカと陽気の気持ちいいある日。聖女は霊体で聖都を散歩していました。というよりも飛んでいました。今日は天気がいいから聖女の機嫌も良かったのです。


 さて、なぜ霊体かといえば、聖女はお役目をサボる為に、自分の体を自分で封印してしまったからです。しかし霊体は自由に動けるのです。


 側近は窘めました。ちゃんと仕事をしてくださいと。


「監視はしてるでしょ。それから“伝説の何か”を探してるわよ」


 聖女は自分が封印したモノ達の監視は一応していたのでした。しかし、他のことは部下に丸投げしていました。側近はため息をつくのでした。


「むっ!?」


 聖女が何かに反応しました。


「ドラゴニックババアの気配を感じるわ! ちょっと行ってくる!」


 側近が何かを言う前に聖女はどこかへ飛んでいきました。聖女は勢いで行動することが多いのです。ちなみにドラゴニックババアは“伝説の何か”の出現を知らせる縁起のいいババアとして有名なのです。


 聖女はドラゴニックババアの気配を追って飛んでいきました。一時間ほど飛んだ所で、時空の歪を発見しました。どうやらドラゴニックババアの気配はこの先からするようです。


「むむむ……」


 流石の聖女もここに飛び込むのはためらわれました。


「リスクを嫌っては“伝説の何か”に辿り着けないわ! とうっ!!」


 逡巡したのは一瞬で、聖女は時空の歪に飛び込みました。聖女は思いきりがいいのです。


 時空の歪の先は真っ黒でした。そして空気が水のようだったのです。聖女はドラゴニックババアの気配をたどり、真っ暗な中を一生懸命泳ぐのでした。


 しかし、進むごとに水のような空気がどんどん重くなりました。泳ぐのも一苦労です。しかし、ドラゴニックババアの気配は増していきます。


「く……負けるもんかあ!」


 聖女はど根性で泳ぎました。しかし、空気は鉛のように重くなり、ついに聖女は体を動かすことすら、ままならなくなったのでした。そして、呼吸することも出来なくなったのでした。


「く、苦しい……。ああ……もうだめ……」


 聖女の意識が途切れかけた時、急に体が軽くなり、息を吸うことが出来るようになりました。聖女は深呼吸しました。


「スゥ~、ハーー! し、死ぬかと思ったぁ……。ん? ここどこ?」


 聖女がいたのは白い空間でした。そこは狭く、球形のようです。目の前には水晶が浮かんでいました。


「何この丸いの? わっ! しゃべった!? えっ? 水晶? そんなの見りゃわかるわよ」


 聖女は水晶から自己紹介を受けました。


「っていうかここは? あんたの中? へえ~、あんたが助けてくれたの? 感謝するわ!」


 今度は水晶が質問しました。


「聞いて驚きなさい。わたしは“伝説の聖女”カトリーヌよ! 敬ってもいいのよ!」


 聖女はまるで自身に会えることが誉のような物言いで、のたまうのでした。しかし、水晶の反応は事務的です。


「え、伺ってる? 私が異世界の聖女? 何よそれ」


 なんと、聖女は時空の歪から異世界に渡ってしまったようです。これには千年以上生きている聖女も驚きました。


「そんな世界があったなんて初めて聞いたわ……。まあ、いいわ。ねえ、水晶ちゃん。“伝説の何か”って知らない?」


 聖女が尋ねると、目の前の白い空間が裂かれ、どこかの場所が映っていました。それを見て、聖女は驚愕しました。


「こ、こ、これは……! で、で、で、で、“伝説の何か”じゃないの~!!!」


 聖女は今日一番の驚きを記録しました。聖女は自身が“伝説の何か”の使者なだけあって、他の“伝説の何か”を感知する能力があるのでした。


「ついに見つけたわ! しかもすんごいわ! すんごい“伝説の何か”よ!」


 聖女の興奮は最高潮に達しました。


「ここって神殿? 見たこと無い様式ね。へえ~、神社っていうの? 水晶ちゃん、“伝説の何か”には使者が付きものなんだけど、知らない?」


 映っている場所が変わると、そこには二人の男女の姿が見えました。


「何このもんげー美少女は……。この娘が……? いや、そっちの男ね。神性を感じるわ……」


 聖女は最初、今まで見たこともない美少女に驚いていましたが、使者と思われる男性の方に興味が移りました。


「なんだかパッとしないわね~」


 聖女の評価はあまり良くありません。聖女は楽がしたいので、使者に問題事を丸投げしたかったのです。しかし、頼りなさそうな男性に不満を覚えました。


「え、静かにしろって? なんでよ。これからスキルの付与を行う? なるほど。この男、弱そうだけど神に近いのね」


 聖女は黙って水晶と使者の男性のやり取りを眺めていましたが、男性がこともなげにスキルをとんでもない美少女に与えたのを見て驚きました。


「ふ、ふ~ん。見かけの割にやるじゃない。まあ、でも、私だってあれくらい出来るし?」


 スキルを与えることが出来る存在とは、神や神に近しい神霊、大精霊、ババア、など霊格の非常に高い存在や、聖女のような最上位の“伝説の何か”の使者のみです。そして、スキルの付与とはそれなりに大変な上、面倒な儀式が必要です。使者の男性のように簡単に出来るものではありません。


 それ故、聖女の驚きは非常に大きなものでした。しかし、強がることも忘れません。聖女は負けず嫌いなのです。


(でもこれだけ力があったら、全部こいつに任せちゃってもいいわね。頼りない所はガンガン鍛えればいいわ。ふふ、誰に頼もうかしら。厳しくするわよ~。よし、さっさとこいつを拉致するわよ!)


 聖女はすぐにでも男性を自分の世界へ連れて行くことに決めました。


「水晶ちゃん、この男と話したいんだけど、ここから出して?」


 水晶は少し考えている雰囲気でしたが、了承しました。しかし、異変が起きたようです。


「えっ? 出来ない? なんでよ! もういいわ! 私が自力で出るから!」


 聖女は水晶の中から出ようと試みました。しかし、どうにもなりませんでした。


「で、出られない……。どうしよう……」


 どうやら聖女は水晶の中から出られなくなってしまったようです。

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