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第21話 ドラゴンババア③

 異世界の滞在時間は短かった。といっても目的の場所ではなかったけれど。僕はドラゴンババア(姉)の頼みを聞くべく、ドラゴンババア(妹)の捜索をすることとなった。


「水晶さん、どうやって探そうか?」


『近くにいます』


 どうやら水晶さんにはわかるらしい。さすがだ。頼りになる。目的地は間違えたけど。


「どこにいるの?」


『あちらのほうです』


 すると水晶さんの中に矢印が浮かんだ。僕はその矢印の示す通りに進むことにした。


 歩くこと10分、ドラゴンババア(妹)はすぐに見つかった。あまり高くないマンションの屋上に佇んでおり、なんだかしょんぼりしていて、元気がないように見える。僕は恐る恐るマンションの方に近づいていき、10メートルほど手前まで来ると、ドラゴンババア(妹)と目があった。


「あんたぁ~!」


 ドラゴンババア(妹)がものすごい勢いで飛んできた。僕は攻撃される前に素早く用件を言う。


「お姉さんのエラさんに頼まれて迎えに参りました!」


「へっ?姉さんから?」


 僕の前で急停止したドラゴンババア(妹)がキョトンとした顔で言った。あと少しで激突しそうでおしっこちびりそうになった。







 僕はドラゴンババア(妹)と並んで超越神社まで歩いている。もちろん、ドラゴンババア(妹)は周りの人には見えない。


「いや~、助かったよ。知らない世界に迷い込んで帰り方はわからないし、わたしのことが見える人間はいないしねえ~」


「すみませんでした。僕も気が動転していて。お怪我はありませんでしたか?」


「治るまでちょっと時間がかかったけど、大丈夫さあ」


 良かった。神社の結界に弾かれたときは、結構なダメージが有るように見えたが、無事だったようだ。それに恨まれてもいないようなので一安心だ。


「それにしても、ここはおもしろい世界だねぇ~?」


「そうですか?」


「見たことのない街並みに、走る鉄の塊、なにより人間の数が多いねえ。広範囲を探ってみたけど、どえらい数の人間がいるねえ。わたしのことが見える人間は一人もいなかったけどねえ~」


「ミラさんはどうしてこっちの世界に来たんですか?」


「それがわからないんだよねえ。いつものように呼ばれたと思って次元の狭間に飛び込んだら、全く知らない世界だったからねえ。いや~心細かったねえ~」


「それは大変でしたね。でも何に呼ばれたんですか?」


「“伝説の何か”が多いかねえ~」


「え?伝説のなんですか?」


「おや?見えてきたよ~」


 超越神社の鳥居が見えてきた。話しながらだとあっという間だ。


「ここは一体何なんだい?ここだけこの周辺の空間から少し浮いてるねえ~」


「僕の国の宗教施設ですよ」


「ああ、神殿みたいなものかい~」


「この先にミラさんの故郷への入り口があります」


「……またバチィってこないかい~?」


「大丈夫ですよ」


 若干トラウマになっているようだ。神社の結界は僕の意思でオンオフができたり、特定の存在を通したり弾いたりできる仕様みたいだ。なのでドラゴンババア(妹)も今は通れる。


 しかし改めてドラゴンババア(妹)を見るとデカいな。象の体にキリンの首をくっつけたくらいの大きさだろうか。


「わたしじゃこの中は通れないねえ~?」


「鳥居の上から入ればいいですよ」


 バサッと軽く飛んで、ミラさんは中に入った。ようこそ超越神社へ。


 境内に入ったミラさんは御神木を見て、目を大きく見開いた。


「おや、まあ……」


 感嘆の言葉が漏れる。


「まさかこんなところに……久しぶりに見たねえ~」


「この御神木、ご存知なんですか?」


 僕もスマホのアプリとかで写真を撮って調べてみたんだけど、当然ながらわからなかった。地球上に無いんだろうね。


「霊長樹さねえ~。幻想領域の深部のとある場所にしか無いものだねえ」


 御神木の名前が判明した。霊長樹か。すべての木の長っぽい名前だ。なんだか世界樹とタメ張れそうだな。


「幻想領域とは?」


 そこも気になったので聞いてみた。


「わたしの故郷だよお。あんたが姉さんと会った場所だねい」


 確か幽幻と現の交わり合う場所とかいってたっけ。あそこ幻想領域っていうのか。そういえば幻獣っぽい生き物を見かけたな。ミラさんは御神木をしげしげと眺めていた。


「あの、そろそろ行きましょうか」


「おっと、ごめんねぇ~」







 僕たちは朱い鳥居の前にやってきた。僕は拝殿から住居兼本殿を通って来たが、ミラさんは飛んで来た。体が大きいから普通のルートは通れないんだよ。


「これ、どうやって通ればいいんだい~」


 こちらの朱い鳥居は入り口の白い鳥居よりも小さい。白い鳥居もミラさんは通れなかった。どうしようか、大きくならないかな。とりあえず念じてみる。すると鳥居はこっちの意を汲んだように拡大していった。ミラさんでも余裕でくぐれるくらいだ。やったね。


「おお~!これで通れるねえ」


 僕たちは朱い鳥居をくぐり、異世界側の神社へ行った。そして異世界側の白い鳥居(ワープゲート)まで来た。こちらの鳥居もミラさんが通れるくらい大きくできた。


「この先がミラさんの故郷に繋がっています」


 僕が先に入り、ミラさんも続いた。前回同様、目が開けられないくらい光り、数秒ほどで光は収まった。そして目の前はあのでっかい山がある。同じ場所に出たようだ。


「おおお!」


 ミラさんが喜びの声を上げる。どうやらここで間違いないようだ。


「おや?もう連れてきてくれたのかい」


 後ろから声がした。


「姉さん!」


 僕を挟んで再開を喜ぶ姉妹ドラゴンババア。この巨体で左右からプレスされないかとヒヤヒヤする。


「ありがとうね。坊や」


「いえ、大したことはしていません。ミラさんもすぐに見つかりましたし」


「そんなことないよ~。あんたのお陰でわたしは帰ることができたんだから~」


「そういえばミラさんはどれくらい僕の世界にいたんですか?」


「ん~~。7日くらいかねえ~」


 一週間か…。結構長いな。これじゃあ姿が見える人間を拉致したくなるのも無理はない。でも拉致したら駄目なんだけどね。


「坊やにはお礼を渡さないとね」


「そうだねえ。お礼しないとねえ~」


 来た!レアアイテムがもらえる予感……!



 ちゅっ。



 えっ……?ドラゴンババアの顔が僕の顔に近づいたかと思ったら、左の頬にキスされた。俗にいうほっぺにチューだ。まさかこれがお礼?そんな、バカな……。


「今、坊やに渡したのは銀婆剣シルバアソード。さあ、この名前を唱えてみな」


銀婆シルバアソード……?」


 唱えた瞬間、僕の目の前に剣が出てきた。見た目は西洋剣のようだ。真っ直ぐな長い刃が銀色の光を放っていてとてもかっこいい。手に握った瞬間、凄まじいエネルギーが内包されているのがわかった。深淵に引き込まれるような感覚、これはすごい……!


「それはたった一度きり、どんな物でも斬ることができる」


 えっ、マジで? 一回限りだけど何でも斬れちゃうだって。そんなチートな効果あり得るか? しかし、この剣に秘められたパワーは途方もなく広大で重厚、そのようなチート効果があるといわれても納得できてしまう。


「じゃあ、わたしはこれを」


 そう言ってもう片方のドラゴンババア……ええと、赤いかんざしを刺しているからミラさんか。ミラさんが僕の右頬にキスした。


「これは銀婆盾シルバアガード。どんな攻撃でも一度きり、防いでくれるよお。さあ、名前を唱えてみなあ~」


銀婆盾シルバアガード


 目の前に銀色に光り輝く盾がでてきた。こっちもかっけえ。盾の方も剣と同じく、とてつもない力を感じた。盾の方はどんな攻撃に対しても無敵ということか。こちらも非常にチートである。


「どちらも一回しか使えないからね。使い所を間違えたらいけないよ」


「一回限りでもすごいですよ! ありがとうございます!」


 僕はホクホク顔でお礼を言った。そしてふと疑問に思った。


「この剣でこの盾を斬ったらどうなるんですか?」


「そんな事したら互いの力が反発し合って、両方消滅するよ。そんなもったいない事したらいけないよ」


 する気はないけど矛盾の故事が頭に浮かんだから聞いてみただけだ。そんな事を話してたら剣と盾がフッと消えた。


「出したいときは名前を唱えるんだよ。もう一度言うけど使い所は選ぶんだよ」


「はい、ありがとうございます」


 このアイテムは心強い。異世界は危険な事もあるらしいから自身を守る手段が多い方がいいに決まってる。


「さて、そろそろ私たちはいくよ。坊やもあまりここに長居しないほうがいいね」


「そうなんですか? なにか体に悪いことでもあるんでしょうか」


「さあ、どうだろうね。幻想領域の深部は極めて存在があやふやな所だからね。わたしが知る限り、ここに人間が迷い込んだことはないから、どうなるかはわからないね。坊やは大丈夫かもしれないけどね」


 まあ、ここは目的地ではないし、長居する理由はないがちょっと観光したかったな。エラさんが僕の方をじぃーっと見つめて何かつぶやいた。


「今代の“伝説の何か”は一味違うねえ。これも巡り合わせかね」


「何か言いました?」


「ん。なんでも無いよ。それじゃあ坊や、元気でね」


「坊やとはまた会う気がするねえ。じゃあ、達者でねえ~」


 姉妹ドラゴンババアはデカい山の方に向かって仲良く飛び立っていった。さようなら。レアアイテムをありがとう。僕は彼女たちが見えなくなるまでそこに佇んでいた。


「水晶さん、それで異世界ってどういくの?」


 白い鳥居はここに繋がっているようだから、別のワープゲートが必要なんじゃないだろうか。


『あの白い鳥居は異世界にしか繋がっていません。カミヒト様は運命によって、ここへ招かれたのでしょう』


 運命ねえ。もしかしたら光の神様がレアアイテムを渡すためにこのイベントを用意してくれたのかもしれない。


「ねえ、今から異世界に行くの?」


 どうしても今日行く必要があるって言ってたからな。でも疲れてしまった。旅行先で前半にはしゃぎ過ぎて、後半訪れる予定の観光地にクタクタになって行くような気分だ。


『いえ、恐らくはここへ来させるのが目的だったのでしょう。目的は達成されました。今日、異世界に行く必要はありません。来週にしましょう』


 水晶さんは誰かから指示を受けたのだろうか。光の女神様かな。それとも別の何かか。まあ、今は気にしなくていいか。聞いたってどうせ答えてくれないし。僕は後ろの鳥居から神社に帰還した。

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