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第20話 ドラゴンババア②

 ドラゴンババアとの遭遇から翌日。昨日のこともあって、朝から気分は優れない。しかし、割りかし簡単に新しい神術を覚えることができた。攻撃特化の神術と補助的な神術だ。


 どんなものかというと、どちらも光球を飛ばすというシンプルなものだ。体を強化したり、神術で具現化した剣などで闘うこともできるらしいがそれは選ばなかった。肉弾戦なんか嫌だからだ。ドラゴンババアを想定したら遠距離攻撃一択だ。異世界の魔物でも遠距離攻撃一択だ。結界で自分を守りつつ遠距離攻撃。単純だがきっと強力なはず。これ一本でいく予定だ。


 補助的な神術は当てた相手を長時間痺れさせるもので、行動を無力化させる。通称は痺れ玉。


 攻撃特化の神術は殺傷力の高い光球で、相手を傷つけたり、物を壊したりする用途だ。通称は破壊玉。どちらも物体にも精神体にも有効だ。よって悪霊やドラゴンババアにも効く。結界と光球で攻守ともに盤石ではないか。


 ちなみに山の神に当てた黄金色の小さい太陽みたいな球は浄化玉と名付けた。こちらは水晶さんによると、必殺技的な神術で神正氣を多く使うため、乱発は避けたほうが良いとのことだ。


 攻撃手段も覚えたことだし、今から異世界に行く。本当はドラゴンババアの所為で行く気がガン萎えしたが、水晶さんに逆らうことはできない。なので予定通り決行することとなった。でもどうやって行けばいいんだろう?


「異世界ってどうやっていくの?」


『裏庭の鳥居から行きます』


 住居兼本殿の裏庭に朱い鳥居がある。鳥居の先は森が広がっているだけだ。なんであんな所に鳥居があるんだろうと不思議に思っていがそういうことか。あの鳥居が異世界への入り口か。


 裏庭の鳥居までやって来た。装備品は昨日買ったリュックと簡易なキャンプ用品一式、それに水と食料だ。服装は神職用の装束だ。異世界では神職が尊ばれているいるらしいので、これを着ていくようにいわれた。上衣、袴共に白で、袴には文様がある。歩きやすさを重視するため、靴は白いスニーカーを履いていくことにした。こっちだと非常識な組み合わせだが異世界ではそんな事わからないだろう。装束セットは本殿のクローゼットの中にあった。


『では参りましょう』


 いざ異世界にいく段になるとワクワクするな。怖い気持ちもあるけど、ファンタジーな世界は心くすぐられる。楽しみだ。


 ドキドキしながら鳥居をくぐると、目の前の森がなくなり、住居兼本殿の裏側が見えた。


 ん? 本殿は後ろにあったはずなのになんで目の前にあるんだ? 知らないうちに自身が180度回転したのか。そんなわけないよなあ。鳥居飛び越えてるし。頭が混乱していたがすぐに違和感に気づいた。


 周りの木の葉が生い茂っている。今はまだ2月だから、超越神社がある山も、当然木々はまだ葉がついていない。それに見たこともない木だ。みんなデカイ。超越神社のご神木と同じくらいだ。テレビで見た屋久島みたいでなんだか原生林って感じがする。

 とりあえず本殿の方に歩いてみる。中を見てみようと玄関に向かったが、なぜかなかった。そこで気づいた。これ、左右対称になってる?


 反対側に向かうとそこには見知った玄関があった。中に入り、間取りを確認してみたがやはり左右対称だった。ということは境内全部が左右逆になってる?


 本殿から拝殿の方に向かい、拝殿側の境内を確認してみたが、やはりすべて位置が逆になっていた。ふむ、どうやら朱い鳥居を中心に鏡合わせのようになっているらしい。とするとここは異世界側の超越神社かな?


『その通りです。ただし少し特殊な空間にあります』


「なるほど」


 当たっていたみたいだ。じゃあ、異世界の街に行くには入り口の白い鳥居から出ればいいのか。僕は鳥居の方まで歩いた。歩いている途中で鳥居がおかしなことに気づいた。なんか入り口のところが光ってる。近くまで行ってよく見ていると、やっぱり入り口が光っていた。光っているから当然向こう側は見えない。なんだかワープゲートみたいだ。


「水晶さんこれは?」


『異世界側の超越神社では、すでに訪れた場所には自由にここから行く事できます。異世界では鳥居を召喚すれば、どこでもここに戻ってくる事ができます』


 おお! 本当にワープゲートだった。ということは異世界では復路は気にしなくていいということか。これだったら行動範囲がすごく広がるな。色んなところを見に行けるぞ。


「これくぐったら最初はどこに着くのかな?」


『街の近くの街道に着くはずです』


 街の近くかあ。それならあまり心配しなくてもいいかな。よし、早速行ってみよう。


 ドキドキワクワクしながらワープゲートもとい鳥居の入口をくぐる。中に入ると目を開けていられないくらい光が強くなり、僕は目を瞑った。しばらくしてまぶた越しに光が弱くなったのを感じて目を開ける。すると目の前の光景に驚嘆した。


「おおお…!」


 眼前にでっかい山がある。富士山よりも遥かにでかい山がある。高く浮かぶ雲を突き抜けて頂上が見えないくらい高い。もしかしたらエベレストより高いかもしれない。ここは高台にある森のようで、周りには遮蔽物がなく裾野まででっかい山の全景が見回せる。ベストスポットに来たようだ。しかも超越神社と同じくらい空気が澄んでいる。空を仰ぐと、馬っぽい何かが走っていた。羽が燃えている大きな鳥も飛んでいる。なんかもう、異世界って感じがする。めちゃくちゃ異世界って感じがする。


 僕は今までにないくらい興奮していたが、ふと疑問に思った。こんなところに街なんてあるのか?


 周りを見渡せば自然、自然、自然。人工物など一切見当たらない。どういうことだろう?


「水晶さん?」


『……おかしいですね』


 ……もしかしてトラブった感じ?


『少し歩いてみましょうか』


 えっ……こんなとこ歩くの? 幻獣っぽい何かがいたよ? ちょっと勘弁してほしいんだけど。先程の興奮は冷めて、どんどん不安になってきた。


「おや? こんなところに人間がいるなんて珍しいね」


 後ろから声がした。僕は固まった。完全に固まった。なぜなら声がドラゴンババアに似ていたから。背中に冷や汗が流れる。


「ん? 坊や、どこから来たんだい?」


 僕は咄嗟に結界を張った。臨戦態勢に入り、声の主から距離を取って振り向いてみると、やっぱりドラゴンババアだった。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


「んん? どうして謝ってんだい? 坊やは迷子なのかい?」


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 とにかく謝る。ひたすら謝り倒す。


「落ち着きな。別に取って食ったりはしないよ。で、なんで謝るんだい?」


 落ち着いた声で優しく言うドラゴンババアに、僕は少し冷静になった。


「いえ、あの、騙し討ちみたいなことをしてしまったので……」


「はて? 私たちは初めて会ったと思うんだが」


 なんだか話が噛み合わない。改めてドラゴンババアを見る。日本で見たときと変わらない。西洋ドラゴンの体に老婆の顔。どう見てもドラゴンババアだ。


「日本でお会いしませんでしたっけ?」


「ニホン? どこだいそこは?」


「ここから見たら異世界なんですけど……」


「ふぅむ……」


 ドラゴンババアは何か考えているようで、僕の顔をじっと見つめていた。


「たしかに人里のある世界へは何度か行ったことはある。でも坊やはそこの世界の生まれでもなさそうだね。妙な気配を感じるよ」


 昨日会った時も妙な気配を感じられた。やっぱり日本にいたドラゴンババアじゃないか?もしかして認知症なのかもしれない。


「あんた、私の知ってる別時空の世界の人間じゃないね? またどこか違う時空の……」


 そう言ってまた何か考え出した。水晶さん、もしかしてここ、僕たちの目的地じゃないんじゃないの?


「あの、ここってどこなんですか?」


「ここは幽幻と現が混じり合う場所さね」


 ふむ、どういうこっちゃ? 


「少し前から妹の姿が見えないんだよ。また向こうへ呼ばれたのかと思ったら、どうやらそうじゃないらしい。もしかして、あんたの世界に迷っちまったのかもしれない」


 妹、妹かあ。そういえば口調がぜんぜん違うな。よく見たら頭のかんざしの色も違う。こちらは青色だ。ドラゴンババアは2体いたのか。


「妹さんって赤いかんざし挿してましたか?」


「そうそう。やっぱりあんたの世界にいたんだね」


 嬉しそうにしてウンウン頷くドラゴンババア(姉)。


「それで頼みがあるんだが、妹をここまで連れてきてくれないかい?」


「僕はたぶん妹さんから恨みを買ってますから……」


 やんわりと断りを入れる。


「なに、気にすることはないよ。妹は根に持つタイプじゃないからね。私の名前を出せばいいよ」


「はあ……」


「私はエラ。妹はミラさね」


 断れる雰囲気じゃないな。断って敵対されても嫌だし。しょうがない、承ろう。


「承知しました……」


「おお! 頼まれてくれるかい? うれしいねえ~。じゃあ頼んだよ。お礼はするからね」


 そう言って、ドラゴンババア(姉)はバッサバッサと何処かへ飛んでいった。

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