最終話 エピローグ
「ここは……?」
眼前に広がるのは雲海。しかも360度見渡す限り雲。一体ここはどこだろう? たしか僕は白巫女を撃破した後、気を失ったはずだ。
どことなくここは天道のてっぺんに似ている気がする。いや、もっと前に似たような場所に拉致されたことがある。そこにいたのは――
僕の後ろから激しい光が指した。振り向けばそこには光ってる人がいた。光っているので詳細はわからないが、以前、会ったことがある人だろう。
「やあ、頑張っているようだね。期待以上の働きに僕は満足だよ」
やっぱり光の女神様だ。僕に大層な力を授けた張本人であり、神として次元が違う方だ。
「お久しぶりです」
しかもこの方は天女ちゃんに負けないくらいの美女だという。光っているので真偽は確かめられないが。
「あの、僕に何の御用でしょう?」
「うんうん。君の働きぶりに感心してね。褒めてあげたいと思ったんだ。なんならご褒美をプレゼントしてもいいんだよ? 何か希望はあるかな?」
なにそれ。いきなりのことだけど、素直に嬉しいぞ。何がいいかな?
「どこまで僕の希望が通るのでしょうか?」
「うーん。まあ、とりあえず言ってみなよ」
「では……。今、僕はたくさんの厄介事を抱えているんですけど、光の女神様が代わりに解決してくれませんか?」
「あはは。それは無理だよ。無理だから君に力を与えたんだ」
ダメ元でお願いしてみたけど、やっぱりダメだったか。
「なぜ僕なんですか?」
これ、ずっと疑問に思ってた。
「まあ、諸々の事情を勘案して? 決めたんだよ」
なにそれ。随分とあやふやなんだけど。もっとこう、ストンと納得できる理由があるんじゃないのか……。
「女神様は僕を神にして、何をさせたいんですか?」
「うん? 前に言ったとおりだよ。こちらの世界とあちらの世界で神様をやってくれたらいいんだよ。あとは自由さ」
「神様をやるとは、具体的にどのようなことをやればいいんでしょう?」
なんか人々を大厄から守ってほしいとか、そんなこと言っていた気がする。
「うん、その通りだね。あとは君が思う神様らしい振る舞いをしてくれればいいよ」
おう、心を読まれてる。ってことは現状のままでいいってことか。つまり“堕ちた神”やら異世界の悪氣やらとお付き合いを続行しなければいけないってことだ……。
「大変な目にあわせて申し訳ないと思ってるけど、神様やって良かったことだっていっぱいあるでしょう?」
確かに女神様の言う通りだ。この冬に神になってからというもの、様々な人と出会いがあり、貴重な体験をたくさんした。
天女ちゃんと最初に出会って水晶さんに導かれ、異世界に行ってアリエさんやカトリーヌさん、その他大勢の人に助けてもらって。頼もしい仲間がたくさんできた。怖い思いや痛いこともあったけど、それら全てひっくるめてかけがえのない僕の宝物だ。今更、元の生活に戻るなんてことはできない。
「ええ、その通りです」
「でしょ? じゃあ、他のお願いを言ってみてよ」
「では、僕の結界を強くしてくれませんか? どんな攻撃も防ぐ最強の結界に」
神様ライフを続けるのはいいんだけど、やっぱり怖いものは怖い。この戦いで僕のイカした結界は壊されまくっている。自分の肉体を武器に戦うしかなかったが、やはりそれは僕の性に合ってない。故に結界のアップデートを目論んでいたところだ。ちょうどいい機会だ。女神様に強くしてもらおうではないか。
「どんな攻撃も防ぐっていうのは無理だけど、今よりずっと頑丈な物にできるよ」
「本当ですか!? お願いします!」
「りょうかーい。君の目が覚めるまでにやっておくね」
「ありがとうございます」
やったぜ。これで安全圏からチマチマと遠距離から攻撃するスタイルに戻れる。飛び道具を使うのが一番なのだよ。
「そろそろ時間だね。名残惜しいけど、もうお別れだね」
光の女神様はそう言うと左手をあげて人差し指を一本立てた。
「じゃ、引き続き頑張ってね」
「あ! 女神様、もう一つお願いが。ハクダ様がご自身の領域を勝手に使われたことに怒ってらっしゃったので、何かフォローしてあげてください」
今回、ハクダ様にだいぶお世話になったから、それくらいはお願いしてもいいだろう。
「蛇君にだね。オッケーオッケー」
軽い調子で言うと女神様は人差し指を僕に振り下ろした。
「はい、ちゅどーん」
直後に僕の体が雷に打たれたように痺れた。そのまま後ろに倒れ意識が飛んだ。
体が温かい。心地の良い柔らかな物に包まれている。まどろむ意識が徐々にはっきりとして僕は目を開けた。木目調の天井が見える。ここは僕が何日か前に泊まっている御園小路邸の客室だ。
「お目覚めですか?」
横から声がした。首をひねりそちらの方を向くと、正座でこちらを見ている零源珠姫さんとあぐらをかいた龍彦さんがいた。二人は五八千子ちゃんの母と叔父である。東京にいるはずの二人がなぜ僕の客室にいるのだろう?
「僕はどれくらい寝ていましたか?」
「まる1日だな」
僕は上半身を起こした。体に怠さはない。疲労が残っていなく、むしろ活力に溢れている。全回復だ。
「お体の方は大丈夫ですか? 無理をなさってはいけませんよ」
「ええ、大丈夫です。ぐっすり寝たらすっかり良くなりました。それより、お二人はいつここへ?」
「昨晩です」
僕は布団から出て居住まいを正した。ぼんやりとした頭がだんだん覚醒してくると、五八千子ちゃん達の顔が浮かんだ。僕は途中でリタイヤしてしまったから、“呪縛”との決着がどうなったか知らない。
「……彼女達は無事ですか?」
僕は一抹の不安を抱きながら聞いた。
「みなさん、無事ですよ。これも全て野丸様のおかげです」
不安が顔に表れていたのか、珠姫さんは穏やかな笑みを浮かべて僕の懸念を払拭してくれた。そうか、彼女達は勝ったんだ。
「今は金髪のお嬢さんと一緒に温泉に入っていますよ。彼女達も心配だったのか先程までここで野丸様の容態を見ていたんですよ」
「みんな、怪我はありませんでしたか?」
「ええ、ご心配なく。みなさん、一晩寝たらとても元気になっていましたよ」
ニコニコとずっと機嫌の良さそうな珠姫さんであったが、突如顔が真顔になり、五八千子ちゃんによく似た目からボロボロと大粒の涙を流した。
「あの……どうかされましたか?」
まさか五八千子ちゃんにだけ何かあったのだろうか……
「いえ、すみません。感極まってしまって……」
「義姉さん……」
そうか、“呪縛”が浄化されたということは、長い間零源の巫女に取り憑いていた呪いが消滅したということだ。五八千子ちゃんは歴代の零源の巫女が辿った不幸な宿命から、完全に解放されたということだ。珠姫さんの反応は親として当然だろう。
おじさんが珠姫さんにハンカチを差し出す。僕達は彼女が落ち着くまでしばらく黙っていた。
「お見苦しいところを見せて、申し訳ありません」
少し恥ずかしそうに珠姫さんはそう言うと襟を正して僕の目を真っ直ぐ見据えた。
「野丸様、この度は誠にありがとうございました。零源家を代表して厚くお礼申し上げます」
珠姫さんとおじさんは揃って深々と頭を下げた。二人の万感の思いがこもった神正氣が流れてくる。僕も自然と頭が下がった。
しばしの沈黙のあと、おじさんが口を開いた。
「しかし、“堕ちた神”か……。お前はとんでもないモノと戦っていたんだな」
おじさんから“堕ちた神”というワードが出てきたので一瞬ぎょっとした。僕の顔を見たおじさんは説明を加えてくれた。
「実はさっきまで菩薩院桂花がいたんだ。なんでも“堕ちた神”が一度蘇ったからそいつの呪いが消えて、もう話してもよくなったんだそうだ」
「そうなんですか?」
「ああ、だからもう隠す必要がないから、俺達に全部話してくれたんだ」
「大変驚きました。“堕ちた神”などという恐ろしい存在に私達は全く気づいていなかったのですから。零源家に生まれながらにしてその呪いの因縁を知らなかったのは恥ずかしいばかりです」
「それは仕方がないさ、義姉さん。野丸、菩薩院桂花はお前に感謝していたぜ。お前によろしくと言っておいてくれってな。しかし驚いたぜ。おまえ、よくそんなもんを倒したな。さすが救世主様だ」
おじさんはしきりに感心してうんうん頷いている。
「恐ろしいケガレでした。日本全国の霊能力者達はみんなパニックになっていましたよ」
珠姫さんが“堕ちた神”が復活した直後の様子を語ってくれた。今まで感じたこともない強力無比なケガレが日本全土を覆っていたんだそうだ。ケガレを認識できる誰も彼もが混乱して事態を収拾させるのに苦労したみたいだ。そんな大事になっていたんだね。
「桂花さんはどちらに行かれたんですか?」
「事後処理のために呪須津家の跡地に行っているよ。“堕ちた神”がだいぶ暴れたみたいだからな……」
「それに関しましては白星降村のオオキミ山も大変なことになっています」
おじさんと珠姫さんが語ってくれたところによると、呪須津家の広大な樹海は“堕ちた神”によってほぼ全て灰になってしまったみたいだ。被害は甚大で呪須津家の領域を超えてまで灰色の世界が広がってしまい、衛生写真でもはっきりわかってしまうんだとか。そんなもんだからニュースに取り上げられ全国に知れ渡ってしまい、今もテレビはその話題で持ちきりだそうだ。
更にオオキミ山も白巫女が破壊して元の高さの2割ほどまで小さくなってしまったので、こちらも大変な騒ぎよう。霊管はこれらの対処にてんてこ舞いになっている。おじさんは頭を抱えて言った。
「正直言えば俺達だけでは対処しきれないんだ。ここまで被害がでかいと隠蔽も不可能だし、誤魔化すにしてもいい言い訳がない。世間じゃ、敵国の秘密兵器だの人類滅亡の前触れだのと適当に言っているが、政府の方はそうもいかない。納得できる説明が必要だが、あちらさんにはこっちの事情を知っている人間は少ないからな」
「なんとかなりそうですか?」
「厳しいですね。しかし何とかします。野丸様や娘の五八千子がこれだけ頑張ったんですもの。私達がやらなくてどうするのですか。なんとかやってみます。野丸様はこちらのことは気にせずにゆっくり休んで下さい」
なんだかめちゃくちゃ大変そうだから僕も手伝った方がいいのかなと思ったけど、しばらく何にもせずにゆっくりしたいのが正直なところだ。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
「はい。野丸様はどうぞご静養ください。そうだわ。野丸様、お腹が空いていませんか? 何か食べ物をもってきましょう」
そう言われたらとたんにお腹が鳴り出した。自覚をしたらお腹と背中がくっつきそうなほど空腹感を感じる。丸一日以上も食べてないから当然か。昨日の朝に食べたっきりで、それも呪須津家の歓待という名の嫌がらせで盛大に吐いてしまったから、実質一昨日以来何も食べてないことになる。
「あらあら。すぐに用意しますね」
クスクスと笑いながら珠姫さんが立ち上がり襖に手をかけたところで、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。珠姫さんが襖を開けると火照った顔をした艷やかな乙女たち(1名を除く)がこちらに向かってきた。
「あら、五八千子、それから皆さん、お上がりですか? 湯加減はいかがでしたか?」
「最高ね! このオンセンとかいうの気に入ったわ!」
若干湿ってるウェービーな金髪を引っ提げて聖女様が上機嫌に言う。聖女様の後ろにはアリエさん、天女ちゃん、破魔子ちゃん、五八千子ちゃんが続いていた。
「カミヒトさん!」
天女ちゃんが駆け寄ってくる。
「皆さん、野丸様は目覚めたばかりですからお静かにお願いしますね」
珠姫さんはそう言うと食べ物を取りにいった。珠姫さんと入れ替わる形で聖女様たちが僕の客室に入ってきた。
「体調はいかがですか?」
五八千子ちゃんが僕の顔を見てホッとした表情になったあと、たおやかな笑みで話しかけた。彼女の肌艶が良く健やかでエネルギッシュな様はきっと温泉に入ったからだけではないだろう。
いつも彼女に感じていた影は鳴りを潜め、落ち着きながらも生命力溢れた雰囲気はとても健全だ。後ろを見ればもうそこに彼女を蝕んでいた呪いの姿はない。
「おかげさまで、快調だよ」
「安心しました」
「元気そうで何よりです!」
「寝癖ついてますよ」
こちらの乙女たちもツヤツヤと活気に満ちている。4人ともどこも怪我がないようでよかった。
「千代さん達は?」
「千代ちゃんは今日の朝早く縁雅神社に戻りました。なんでもハクダ様が早く休養をしなければならないほど消耗しているらしいのです。帰り際にカミヒトさんに褒めてやると伝えてくれと頼まれました」
「夢天華さんは普賢慈母光子様のお手伝いです。今は伏魔殿の魔境門にいらっしゃいます」
「呪須津家のみなさんも無事だそうですよ!」
千代さん達も問題なさそうだ。オシラキマンも僕の影にいるし、あとは……
「冷華さんは?」
僕が冷華さんに言及すると、彼女達はなんだか微妙な顔になった。そこまで深刻ではないが楽観もできない、そんななんともいえない表情。
「彼女に何かあったの?」
「そのことでカミヒトさんに相談があるんです」
破魔子ちゃんの顔は真剣だった。なにやら込み入った事情がありそうなので、僕は立ち上がり客室に備え付けの座卓にみんなを誘導した。この部屋は12畳もあるので木製の立派な座卓があるのだ。
座布団を人数分置いて腰を下ろすと聖女様が事情を話してくれた。大事な話なのにせんべいをぼりぼりと食みながらおばちゃんが世間話をするような体なのはどうなんだろう。
「つーわけなのよ」
聖女様はお茶をずずーっと啜って一息ついた。
「なるほど、それは厄介ですね」
聖女様によると、冷華さんに憑いた白巫女はむりやり体を奪ったのではなく、両者の同意の可能性が高いそうだ。今朝、少し魔力が回復したので試しに分離させようとしたのだが、そのとき冷華さんが苦しみだしたらしい。
「ま、予想できたことだけどね。あんたの力でも無理だったんだから私にできるわけないわ。とりあえず白霊貴族が復活できないように封印はしたから、目下のところ心配はないと思うわ。小娘の寿命まで持つだろうけど、万が一封印が破られたら……」
冷華さんごと殺すしかないということだろう。だから破魔子ちゃんや天女ちゃんはあんな表情をしていたんだな。
「たぶんだけど、あんたがもう一度やっても同じ結果になると思うわ」
「それでもダメ元でやってみようと思います。冷華さんはいまどちらに?」
「冷華さんはまだ目が覚めていません。まだこのお屋敷にいます。ずっと鷹司さんが看病してますよ」
破魔子ちゃんが指さした方向はこの部屋の下の階の北側だ。
「そうね。もう一回試してみてもいいわね。どうせ失敗しても小娘が苦しむだけだし」
そう言わると浄化に躊躇してしまう。
「では冷華さんが目覚めてから事情聴取を兼ねて試してみましょうか」
全員が頷いた。冷華さんは楽観視できないけど、これでみんなの安否が確認できた。やっと心から安堵した。僕は天女ちゃんの淹れてくれたお茶を飲んだ。はあ~安らぐなあ。
「ところでカミヒトさん」
破魔子ちゃんが真剣な面持ちで僕に話しかけた。
「ん? どうしたの?」
「私も異世界に行きたいです」
「……」
僕は聖女様の方を見た。彼女はお茶を飲みながらバリボリと茶菓子を貪っていた。
「カトリーヌさん、言っちゃったんですか?」
「言わないと白霊貴族の説明ができないじゃない」
まあ、それもそうか。いずれみんなには言うつもりだったし、別に構わないか。
「まさかアリエさんも異世界出身だとは思いませんでした。海外の人にしてはちょっと変だなとは思ってたんですが」
「隠し事がなくなったので私はすっきりしました」
「なあ、野丸。異世界ってのは本当なのか?」
おじさんはどうやら信じられないようだ。疑心を抱いているのがよく分かる顔つきだ。
「ええ、本当です」
「……マジでか?」
「マジです」
おじさんは僕の顔を見て冗談や作り話ではないと悟ったようでひどく驚いていた。対する破魔子ちゃんはパアッと花咲く笑顔になった。聖子さんと同様に強い興味を示すあたり、やっぱり二人は姉妹なんだな。
「何よ、あんた。まだ信じてないの? あんだけ証拠を見せたじゃない」
「証拠?」
「魔法をいくつか見せてあげたのよ」
「どんな魔法ですか?」
「えーっと、ワープでしょ、読心術に飛行魔法、火炎、氷結、雷撃、重力……」
「た、確かに見せてもらったが、それくらいできる奴はこの世界にもいるだろう? 妖かしや嶽の鬼や神々なら人知を超えた術を使えるぜ? 野丸だってそうだよな?」
「ですがあれは神通力や妖術といった類ではありませんでした。それはおじ様にも分かると思います。それにあれだけ多彩な術を使える存在など、それこそ限られた神だけではないでしょうか?」
「いや、しかし五八千子ちゃん……」
「なんなら龍彦さんも行ってみますか? 実際に見れば信じると思いますよ?」
僕の提案におじさんは若干顔が引きつっていた。異世界嫌いなのかな?
「そ、そうだな。このゴタゴタが片付いたら考えておこう……」
「いいですね! 連休もまだありますし、これから異世界に観光に行きましょう! 頑張ったご褒美に案内してくださいよ、カミヒトさん」
「賛成です!」
「いい考えね! こきつか……盛大にもてなして上げるからいらっしゃい!」
「ハマコに魔物の狩り方でも教えましょうか?」
なんだか異世界に行くのが決定したような雰囲気。でもまあ、それもいいかもな。本当は家でゆっくりしたいけど。
ここで僕はふと思った。聖女様って僕に何か用があって日本に来たんだよな? 一体何なんだろう。
「そういえばカトリーヌさん。僕に用があるんですよね?」
僕がそう言うと、聖女様は茶菓子を開けようとしていた手をピタリと止めた。そして突然立ち上がると大声で叫んだ。
「そうよ! こんなことしてる場合じゃなかった! 完全に忘れてた!」
「ど、どうしたんですか?」
「拐われたのよ!」
「拐われた? だ、誰がですか?」
「セイコよ!」
「え……? 」
ちょっと待って。聖子さんが拐われたってそれ、一大事じゃないか……。
「本当ですか?」
「マジよ!!」
聖女様の顔は大マジだった。その気迫から冗談では決してないことが伝わる。
「い、一体誰に?」
「邪神よ! セイコが! ボッチに! 拐われたのよ!!」
聖女様が絶叫した。マジかよ……。よりにもよって邪神に。なんてこった。というか聖子さんにはハクダ様からもらった宝剣を持たせてたから、拐われるはずはないのだが……
「ちょっと待って下さい。そのセイコっていうのはもしかしてお姉ちゃんのことですか?」
破魔子ちゃんがひどく不安気な様子でカトリーヌさんに尋ねた。ここで彼女に真実を告げるのは得策ではないだろう。いらぬ心配をかけさせないために、僕は嘘をつくことにした。
「いや、名前が同じだけで別人……」「そうよ!」
なんと聖女様が肯定してしまった。
「ど、どういことですか!? カトリーヌさん! なんでお姉ちゃんが……。っていうかお姉ちゃん、異世界にいるんですか!?」
「た、大変です!」
「その、ボッチという方は危険なのでしょうか?」
「危険よ危険! 超危険! もうめっちゃやばい奴なんだから! 白霊貴族の小娘とあんたの呪いが合体したヤツいたでしょ? あんなのよりよっぽど強いんだから!」
聖女様のその言葉に破魔子ちゃん達4人は驚愕していた。合体したヤツとはなんなんだろう? いや、今はそんなこと言っている場合ではない。
「は、早くお姉ちゃんを助けないと……。す、すぐに行きましょう!」
「ハマコ、落ち着いてください」
「カトリーヌさん。超越神社に移動できますか?」
「任せなさい!」
こうして僕達はろくに休む間もなく異世界に行くこととなった。
僕達の前には白い鳥居がある。ここは異世界側の超越神社。異世界行きのメンバーは僕、カトリーヌさん、破魔子ちゃん、アリエさん、天女ちゃん、五八千子ちゃん、オシラキマンの7人だ。
魔境神社を慌ただしく出ていったので、挨拶もろくにできずおじさんに説明を全て丸投げしてしまった。帰ったら何かお詫びをしないとな。
「ここを超えたら異世界に行けるんですね……!」
破魔子ちゃんは幾分か落ち着いたのか、聖子さんの心配はしているものの好奇心も隠せない様子だ。対する五八千子ちゃんは同じく初異世界であるにもかかわらず冷静である。
「カトリーヌ様、聖子さんが連れ去られたのはいつでしょうか?」
「昨日ね。聖子の魔法の演習で聖都を離れたんだけど、部下からの報告だとそこでボッチの気配が急にしたと思ったら聖子がいなくなったらしいわ。もう本当に一瞬のできごとだったみたいね」
「そのとき聖子さんは縁雅の宝剣を持っていかなかったんですか?」
ハクダ様から貰った縁を断つ宝剣。それを持っている限り、こちらから邪神に近づかなければ居場所を察知されることはないはずなのだが。
「セイコがいつも持ってる剣はセイコの部屋にあったわ」
まさかうっかり忘れたのだろうか。でも、聖子さんってそういうミスはしないと思うんだけどな。まさかわざと置いていった……?
「とにかく! 聖都ホシガタに行って聖子奪還作戦を立てるわよ!」
「おー!」
聖女様に呼応して破魔子ちゃんが気合を入れた。
ふぅ。なんだか落ち着く暇もないな。これからの困難を思うと頭が痛くなる。しかしそうも言っていられない。聖子さんに何かあってからでは遅い。
邪神は聖子さんをお友達として扱っていたから、すぐに危険があるわけではないと思うんだけど。
「カミヒトさん」
僕の手にふわりと天女ちゃんの柔らかな手が包みこんだ。
「大丈夫ですよ。私達もいますから」
顔に出ていたのか、天女ちゃんが僕の不安を和らげるように微笑んだ。
「ええ、私達も全力で力になります。カミヒト殿は一人で抱え込まなくてもいいのですよ」
「はい、私も微力ながらお力添えします」
「私もいるよ! ムッシュ!」
「みんな……」
懐で水晶さんがバイブった。
――私もいます――
こんな時だって言うのに感無量だ。そうだ、僕には仲間がいるじゃないか。みんなの顔を順々に見渡す。誰も彼もが心強い顔つきをしている。
「ありがとう」
彼女達だけではない。僕にはおじさんや霊管の人たち、鷹司君、ハクダ様も千代さんも光子さんも呪須津家のみんなもいるじゃないか。
これから様々な困難が待ち受けているだろうけど、彼達彼女達と一緒ならきっと乗り越えられるだろう。僕は確かな明るい未来を感じて鳥居を潜った。
おわり
これにて伝説の神社はおわりです。
中途半端な終わり方で申し訳ありませんm(_ _)m
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。
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