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第18話 スキル付与

 湿原しめはらさんに超越神社まで送ってもらい、住居兼本殿に今日買った荷物を置いた後、水晶さんの指示で庭に出た。

 

「それで対策ってなんなの、水晶さん?」


『眷属にはカミヒト様の力の一部を与えることが出来ます』


「……それは先週聞いたけど、具体的にはどうすればいいの?」


『カミヒト様は眷属に与えたい力を創造できます。この力を異世界では“スキル”と呼んでいるそうです』


「……スキル? それでそのスキルって奴で、どうやって天女あまめちゃんの見られたい欲求を抑えればいいの?」


『無理に欲求を抑えることは推奨できません。天女様の欲求は、彼女の妖怪としての特性と不可分なものと思われますから、これを無理に抑えると天女様に良くない影響が出るでしょう。人間にとっての睡眠欲や食欲と同じようなものだと思ってください』


「それじゃあ、どうしたらいいんだろう?」


『自衛できる手段を与えればいいかと。まずは天女様にどのような力がほしいかイメージしてもらいましょう』


「あ、あの……。私、こういう力があったらいいなあっていうのがあるんです。2つなんですけど、いいですか……」


 天女ちゃんが上目遣いでおねだりすれば、その破壊力と言ったらもうやばい。


「……水晶さん、スキル2つって大丈夫?」


『カミヒト様さえ良ければ、いくつ付与しても大丈夫です』


「なるほど、了解。それでどうやってスキルを付与するの?」


『まずは天女様がカミヒト様に祈りを捧げてください。その後、心のなかで願い事を唱えてください』


 天女ちゃんは「わかりました!」と元気よく言ってから、僕に向かい二拝二拍手一拝した。この神社に初めてきた時、教えたのをちゃんと覚えてたんだな。しかし、自分が祈られるのはどうにもむず痒い。


 少ししてから、胸の中にピコーンと選択肢が浮かんだような感覚があった。「スキルを与えますか? はい いいえ」みたいなウィンドウが自分の中にある感じ。僕は「はい」を選択する。すると、僕の中から何かが抜けていった。たぶん神正氣しんせいきというやつだ。


「どう? 天女ちゃん」


「はい……。私の中に不思議な力があるのを感じます。これがスキル……。あの、早速使ってみてもいいですか?」


「いいけど、使い方はわかる?」


「はい、解ります」


 天女ちゃんは目を瞑り、集中モードに入った。さて、彼女はどんなスキルにしたんだろう。


 んんっ!!? 


 どうしたことだろう、いつの間にか目の前におばちゃんがいた……。瞬きした一瞬の内に天女ちゃんがおばちゃんになった。


「……天女ちゃん?」


「はい、天女ですよ」


 ややダミ声で、自分のことを天女というおばちゃん。えっ……どういう事? これが天女ちゃんが選んだスキル?


 天女ちゃんを名乗るおばちゃんは、背が低く、ずんぐりむっくりとした体型で、髪はおしゃれじゃないパーマ。年の頃は40代後半か。昭和の主婦っぽい。


「これは一体……。どんなスキルにしたの……?」


「はい、変身できるスキルにしました!」


 変身か……。確かに姿を変える能力は悪くない。とんでもなく目立つ天女ちゃんだから、変身できるスキルは中々良いチョイスじゃなかろうか。しかし、なぜおばちゃんに……。


「その姿を選んだ理由は……」


「これは湿原さんが貸してくれた本の主人公をイメージしました! 私、この本すごく気に入ったんです」


「へえ~……。どういう内容なの?」


「異世界でおばさんが活躍する話です!」


「そうなんだ……」


 どんな話なんだろう。気になる。今度僕も借りてみようかな……。


「それじゃあ、戻りますね」


 ダミ声でそう言ったおばちゃんの天女ちゃんはパッと一瞬で元に戻った。着ていた服まで一瞬で変わる便利仕様だ。


「すごいね、それ……。もう一つのスキルはどんなやつなの?」


「力持ちになります。これは異世界おばさんの力でもあります。本当は炎の力が良かったんですけど、こっちのほうが普段使いも出来るかなって」


 異世界おばさんは力持ちで炎使いなのか。まあ、そんなことはどうでもいい。


「カミヒトさん、見ててください」


 天女ちゃんは肩幅に足を広げ、肘を後ろに引き、スゥーッと息を吸った。何かの構えのようだ。


「えいや!」


 掛け声と共に突風が起こった。目を開けられないほどの風圧で、僕の髪がオールバックになる程の強さだ。突然の事で後ろに一歩よろめく。何が起こった分からず、閉じた目を開けば、拳を前に突き出している天女ちゃんが目に映った。


 どうやら正拳突きをしたようだ。全く腰が入っておらず、突き出した拳は上に反っている。いわゆるネコパンチだ。こんなデタラメなフォームでも、これほどの威力が出るのかと驚愕する。


「どうですか?」


「す、すごいね……」


 パンチだけで大人をよろめかせる程の風を起こせるのだ、一体どれほどのパワーなんだろう……。暴漢に対する自衛の力としては申し分ないが、逆に強すぎて加減を間違えれば大怪我をさせてしまうかもしれない。これはスキルでどこまで力が強化されたのか、詳しく把握しておかないとまずいかもな。


「天女ちゃん、どれほど力持ちになったのか知りたいから、何か重い物持ってもらってもいいかな?」


「いいですよ!」


 力こぶを作って、ムフーっと息巻く天女ちゃんは少し興奮している様だ。さて、何を持ってもらおう。家にダンベルなんか無いしな。自分で言っておいてなんだけど、適当に重いものが無い。


『あの岩はどうでしょう』


「岩?」


 水晶さんの中に矢印が浮かび、それが指し示した先は、庭の片隅にある注連縄を張った大きな岩だ。


「いやいや、あれは流石に無理でしょ」


 岩は地面に埋まっている部分もあって、見えている所だけでも数トンはありそうだ。


「大丈夫ですよ!多分持てます!」


 天女ちゃんは自信満々でそう言って、岩のところまで小走りで向かった。僕も後に付いて行く。


「これ、注連縄張ってあるけど、持ち上げちゃって大丈夫なの?」


 まさか持ち上げられるとは思っていないが、念の為水晶さんに聞いた。


『問題ありません』


「それじゃあ、いきますよー」


 天女ちゃんは上半身だけ曲げて岩を掴んだ。ああ、そんなフォームで重いものを持ち上げようとしたら、腰を痛めちゃうよ……。


 持ち上げ方を注意しようとした時だった。ボコォっと、天女ちゃんが軽々と岩を地面から引き抜いた。


「!!!?」


 目ん玉が飛び出るくらい驚いた。岩は半分ほど地面に埋まっていたようで、下半分は湿った土が付いている。彼女はまるで力んでいる様子はなく、空のダンボールでも持つように、どでかい岩を持ち上げている。


「どうですか、カミヒトさん!」


「…………」


 言葉が出ない。唖然として、岩を持ち上げている天女ちゃんを見つめるばかりである。


「こ、これなら十分だねぇ……」


 やっとひねり出した言葉がこれだ。十分どころの話しではない。自衛の力としては過剰だぞ。


「はい、これで私も戦えます!」


 何と戦うつもりなのか。まさか山の神のような怪異ではないだろうな。ああいうのって、たぶん物理攻撃とか効かないと思うんだ。まあ、何はともあれ、問題解決……したのかな?

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