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第44話 退魔絢爛乙女団

「アマメ、あなたを主力として私達がサポートします。ハマコもそれでいいですね?」


「もちろん、異論はありませんよ」


「頑張ります!」


「では私が先陣を切ります。ハマコは私の援護をしてください。アマメは私達が作った隙をついて白巫女にあなたの力の全てを叩き込んでください」


「はい! お任せください!」


「ちょっといいですか」


「なんですか?」


「その前にアリエさんは私のことをリーダーとして認めてくれますか?」


 破魔子の目はいたく真剣だった。アリエは彼女の目を真っ直ぐ見据え、思ったままのことを誠実に答える。


「ええ、もちろんです。あなたはリーダーとしての資質を私に示してくれました」


「ホントにホントですか? 嘘じゃないですよね?」


「本当に本当です。私はこんなことで嘘は付きませんよ」


 アリエの嘘偽りない言葉を聞き破魔子は飛び上がらんばかりに喜んだ。厳しいアリエが自分を認めてくれたことが純粋に嬉しく、そしてこれで絢爛乙女が使える乙女技おとめぎの合体技が使えるからだ。


「やった……やったあ!」


「良かったですね、破魔子ちゃん。私も破魔子ちゃんはリーダーとして相応しい人だと思ってます!」


「ありがとう、天女ちゃん!」


「では、リーダー。号令をかけてください」


「いえ、その前にやることがあります」


「やること?」


 アリエと天女は首をかしげた。


「名乗りを上げるんです! ここに来る途中で説明しましたよね? 口上も教えたはずです。覚えてますよね?」


「……覚えてますが、本気ですか?」


「いいですね! やりましょう!」


「……私は遠慮しておきます」


「駄目です! 退魔絢爛乙女団のメンバーなら全員やらなくてはならないのです! やって初めて正規のメンバーとなれるのです!」


 アリエは破魔子をリーダーと認めたが、それだけではまだ正式に退魔絢爛乙女団のメンバーとはならない。最後の儀式として述べ口上で乙女名おとめなを名乗って初めて完全な絢爛乙女へとなれるのである。


「いいですか、二人とも! あそこで私達を睨んでいる白巫女に私達の名を深く刻んで上げましょう!」


 退魔絢爛乙女団のモデルとなったのは破魔子が小さい頃に好きだった子供向けのアニメである。そのアニメでは魔法少女たちが敵と戦うときは、必ず最初に名乗りとポーズを決めていた。


 破魔子はビシッと白巫女に右手人差し指を向け、反対の手は腰に当てて声高らかに口上を述べた。


「人に仇名す魔のモノよ、今日があなたの命日です! 光の矢で魑魅魍魎ちみもうりょう悪鬼羅刹あっきらせつ天魔波旬てんまはじゅんを射つ! 真紅の乙女! リーダー、オンミョウ☆ハマコ!!」


 続いて天女が破魔子の右隣で同じポーズを取る。


「同じく、金剛の乙女! アームストロング☆アマメ!!」


「…………」


「どうしたんですか、アリエさん? ちゃんと言った通りにやってください」


「わ、分かってます……。 あ、青凪あおなぎの乙女……プリティアリエ……」


「もっと大きな声で!」


「………………青凪の乙女! プリティ☆アリエ!」


 ヤケクソに叫んだアリエは恥ずかしそうに破魔子の左隣りに並ぶと彼女達のポーズのマネをする。破魔子はみんなが横一列に並んだことを確認して、小声で「せーの」と言った。


「退魔絢爛乙女団! 推! 参!」

「退魔絢爛乙女団! 推! 参!」

「退魔絢爛乙女団……推……参」


 破魔子の決め顔はどことなく満足気であった。天女は凛々しくも嬉しそうであり、アリエは俯き気味で居心地が悪そうにしている。


「フッ……見てください。白巫女は私達の迫力に怖気づいていますよ」


「私には初めて見る珍獣に戸惑っているように思えるのですが……」


「いいえ、白巫女は私達にビビっています。さあ! 退魔絢爛乙女団、出陣です!」


「……」


 アリエは自身の身体の変化に驚いていた。むず痒くなるような名乗り口上が終わった途端に、体の重さが何倍にもなったかのような負荷がなくなり、更に白巫女から受けた腹部の打撃の痛みが収まったのだ。そして、破魔子や天女とつながっているような感覚。二人がまるで我が身の一部のように感じられた。これならば勝てる。確信のようなものがアリエの中に湧き上がった。


「アマメ、あの厄介な鎖は私とハマコがどうにかします。ハマコ、もう一度、陽の氣を分けてもらえますか?」


「わかりました。陽氣付与、“深緋こきあけ”!」


 破魔子が矢を番え陽の氣の塊をアリエに射ると、アリエの体中に陽の氣が染み渡った。魔力で象った青の剣を2本具現化すると、破魔子に付与された陽の氣をまとわせる。


「白巫女、覚悟はいいですか?」


「…………」


 白巫女は無言で構えた。両手を上げ激しく鎖の鞭を打ち付ける。長く伸びた鎖はしなり空気を裂いて3人に襲いかかった。アリエが2本の剣でそれを捌く。破魔子は後方へ飛び退いてアリエから距離を取り大量の矢を放った。しかし乱舞する鞭に阻まれ全て打ち落とされる。


千射万箭せんしゃばんせん!」


 もう一度幾筋もの光の矢を白巫女に射ったがこれも全部叩き落された。破魔子が放つ高速の矢であっても、白巫女はその軌道の全てを捕らえ難なくいなした。彼女の鮮やかなほどの鞭さばきは熟練の達人を思わせた。先程、戦ったときの白巫女は素人同然の体捌きであったが、この短時間で動きの全てが熟達していることに破魔子は驚きを禁じ得なかった。


「むむむ! まるで別人のようですよ! もう一度、千射万せんしゃばん」「ハマコ、あなたの矢は私に向けて射ってください」


 白巫女の猛攻を防ぎながら言うアリエの顔は余裕があった。


「え……そんなことしたらアリエさんが蜂の巣になっちゃいますよ?」


「心配いりません。軌道が読まれているというのであれば私が当てます」


「……っ!」


 アリエの言わんとしていることを理解した破魔子は躊躇なくアリエに向け弓を構えた。少し前までならそんな無茶はできないだろうと止めただろうが、同じ絢爛乙女となり深く繋がった今ではそれが可能であると直感的に理解できた。


「一矢必中!」


 破魔子は一本の赤い矢をアリエの背に向け放つ。アリエは上半身をずらすと破魔子の矢にそっと剣を添え軌道を変えた。鞭の間をくぐり抜け白巫女まであと少しというところで鎖に打ち落とされた。


「どんどん射ってください」


千射万箭せんしゃばんせん!」


 破魔子の矢は速く狙いも確かだが、直線的な動きは読まれやすい。アリエはほんの少し剣で触れることでその進路を変則的にした。更に白巫女のクセを観察し、鞭の動きをパターン化して死角を見つけようと集中していた。


 鎖の鞭の猛攻をさばきながら白巫女の動きを見極め破魔子の矢を読みにくい軌道に修正する。そのような並外れた絶技をアリエは涼しい顔でこなしていた。完全な絢爛乙女となったことで彼女もまた白巫女同様に著しい進化をみせていた。


 白巫女はその見事な鞭さばきで全ての矢を防いでいるが、アリエの観察眼は鋭く、矢は徐々に白巫女に迫る。そしてついに一本白巫女の腕に刺さった。


「…………」


 だが白巫女は腕の痛みを気にした様子はなかった。彼女の視線はアリエや破魔子でなく天女あまめだけに注がれている。白巫女は他の二人より天女の方を脅威として感じているようだった。


 天女は白巫女の背後を取ろうと大きく迂回して移動していたが、鞭に阻まれ思うように進めずにいた。


「好都合」


 アリエはかすかに笑った。白巫女の意識は天女に割かれており自分達を取るに足らない敵だと認識している。破魔子の陽の氣をさほど危険視していない。ならばその慢心によってできた油断を突く。


「ハマコ」


 その一言だけ聞いて破魔子は頷いた。強めの陽の氣を込めた矢をつがえる。アリエは腰を落とし重心を低くした。矢が放たれアリエの頭の少し上を通過すると、その矢の末端に剣の腹を当て勢いよく押し出した。


 破魔子の神速の矢はアリエの力が加わり超神速となって波打つ鞭の隙間を掻い潜った。煌めく朱い閃光は白巫女の胸の中心を射抜く。


「……がっ!!」


 白巫女は声にならない叫び声を上げ仰け反った。痛みを克服した白巫女がひどく苦しそうにしているということは、そこが急所ということだ。


「やはりそこが弱点でしたか」


 アリエが狙ったのは分魂匣キューブと呼ばれる白霊貴族の分霊体だ。この分魂匣キューブが人間に埋め込まれると白霊貴族に体を支配される。アリエは先ほど着物がボロボロになり半裸になって鬼神の首筋に吸い付いた白巫女の胸元に、ブロック状の立方体が埋まっているのを確認した。それが白巫女の分魂匣キューブであることは疑いようがなかった。


 白巫女は分魂匣キューブを抑えもがいている。アリエは破魔子に合図を送り追撃を加えようとした。

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