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第27話 ジンカイノカミ②

「よしよし、ならば聞け! まずは彼奴きゃつの目的からだ。“堕ちた神”はこの世のすべてを憎み滅ぼそうとしている。貴様ら陽に当たる者共だけでなく、奴に性質の近い我らのような闇のモノ含めてすべてを壊そうとしているのだ! ……がっ!?」


 両手両足のないダルマ状態のジンカイさんの1人が上下真っ二つに斬られた。2つの胴体は先程と同じく、地面に着く前に霧散した。


「“堕ちた神”の力は強力だ。()()()に満ちた現世に彼奴が復活すれば、世界は崩壊するであろう……ぐはっ!」


 今度は餓鬼のようなジンカイさんが2つに割れた。


「次に彼奴がどこに居るかだ。“堕ちた神”は千年前に灼然しゃくねんと相打ちになった後、再び蘇るために日ノ本すべてにその力をばら撒き隠れた。これらをすべて把握することは不可能に、ぐっ……!」


 内臓が腹から出ているジンカイさんが斬られる。


「不可能に近い! 草木、動物、人間、人々の噂せし怪談にまでその根を伸ばしておる。特に人の作り出せし情報の海は奴と相性が良く、すでに世界中に散らばっているだろう。しかしこれらしよ、……がはっ!」

「これら枝葉末節を潰しても無駄だ。なぜならば“堕ちた神”は核を織り成す魂を5つに分けた。これらをすべて倒さなくば意味がない。逆に言えば…………!?」

「逆に言えば、5つの核を滅すれば欠片もすべて消える。5つの核は各々の方法で復活せんとしている! ……ぎゃ!」

「“堕ちた神”は純然たる陰の氣の塊である。陰の氣、すなわちありとあらゆる負の力を“堕ちた神”の核達は集めようとしている。そのひとつでも……ぎっ!」

「核のひとつでも復活に必要な陰の氣を集めることができれば、“堕ちた神”は蘇る。故に核はすべて消滅させなければならない。しかし核の居場所が分かっているのは……くはっ!」

「分かっているのは2つだけだ。一つは零源れいげんの巫女に憑く……っ!」

「零源の巫女に憑く呪いだ。もう一つは、うっ……!」

「もう一つは“奈落”と呼ばれる異界にいる! 奈落はへ……ぎゃあああ!!」

「奈落への入口はこの瓦落多窟がらくたくつの最奥にある。っ!! …………」


 次々にジンカイさん達が斬られ、すでに彼らは半分以上減っていた。ジンカイさん達の淡い光で洞窟内を照らしていたので、数が減った今は先程よりも薄暗くなっている。


 この呪いは話した者、聞いた者双方にかかるというのだが、やはり僕には効かないようだ。しかし力のある神が、為すすべもなく一方的にやられる様を近くで見れば、安堵などしていられない。


 彼らの話を聞けば奈落という物騒な名の異界には“堕ちた神”の核の一つがある。そしてこれから僕達が奈落へ向かうことは、避けられないだろうから。


「やれやれ。まだ半分も伝えたい事を言ってないんじゃがのう……。やはり5つの核の具体的な話しになると呪いが強くなる」


「話は分かりました。ジンカイ様が僕を呼んだのは、つまり僕が奈落へと行き“堕ちた神”の核を倒せということですね?」


「まあ、そうじゃが、話はまだ終わっておらん。何の知識もなしに奈落へと赴くのは危険ゆえ。これから奈落の仔細を話す」


「……しかしそれではジンカイ様が危険では?」


 もう半分くらいジンカイさんがいなくなってしまった。多分ジンカイさんは数が減るほど力が弱まるんじゃないか? これ以上続ければ最悪ジンカイさんが消えてなくなってしまうかもしれない。悪神あらがみではあるが、身を切ってまで僕に“堕ちた神”のことを教えてくれたのだ、これ以上の負担をさせるわけにはいかない。


 ……だってジンカイさんがいなくなったら呪須津じゅずつ家の面倒を見なくてはならないから。


「言ったはずじゃ。相応の覚悟を持って望んでいると。アレを放置すればすべてが無くなるゆえ」


 ジンカイさんの目は真剣だった。


「それでは残りの者共、死力を尽くして“堕ちた神”に抵抗せよ」


 僕の周りを飛び回っているジンカイさん達は愉快そうに笑いながら次々僕の前に降り立った。


「奈落とは元は死した罪人が罪を償うための異界である。いつからあるのか我らにも分からぬが、(いにしえ)の神が創ったと思われ、ぐあ! ……“堕ちた神”の核の一つはこの奈落を改変し、咎人とがびとの亡者共を利用して……」


 頭が膨らんでやけにでかく、顔が歪になっている奇形のジンカイさんが2つに裂かれても、霧となって消える前に最後の力を振り絞って言葉を続けた。文字通り、死力を尽くしてくれたのだろう。


「亡者共を利用して陰の氣を作り出そうとしている。それがどのような方法か不明だ。しかし、……っじ、たいは差し迫ってい……る」

「奈落の核の名は“絶望”という。“絶望”が溜めた陰の氣はもうすぐ……っ。“堕ちた神”に成るに必要なまで届こうと、して、い……る」

「早急に奈落へと行き、復活を阻止せねばならぬ。し、かし……彼奴の領域は死した咎人しか踏み入れられ……ぬ……」

「だが、我らの力を使えば生身のままでも侵入でき、彼奴に気づかれぬようにすることが可能だ。奈落の最奥に“絶望”がいるはずだ。うっ……、復活にひつ、ような、陰の氣を貯める前に、“絶望”を……」

「気をつけよ。“絶望”は聖なる力に敏感だ…………。貴様の、力は目立ちすぎる。よって“絶望”に辿り着く、前までは、極力使う……な」

「奈落は現世とは異なる独自の法則がある……! 法則、を理解し、“絶望”へとたどり、つく、のだ……」


 宙に浮いていた最後のジンカイさんが消えると、洞窟内は再び真っ暗になった。みんな切り裂かれても、気力を絞って僕に情報をくれた。残ったのは襤褸ぼろを着て座っているジンカイさん達のリーダーっぽいジンカイさんだけだ。


「……やれやれ、必要最低限は伝えられたようじゃな。皆の者、ご苦労じゃった。儂もすぐに行く」


「それってどういう……」


「野丸殿、氏子達を任せたぞ。この奥に奈落がある。奈落の扉をこじ開ける宝剣を屎泥処しでいしょから受け取りなされ。必要であれば呪須津じゅずつの者も奈落へのお供につけよう」


 そう言うと、ジンカイさんはゆっくり立ち上がり僕の前まで歩いてきた。


「手を」


 僕は言われた通りジンカイさんに手を差し出すと、骨と皮だけの枯れ枝のような両手で包みこまれた。ジンカイさんから僕の体を囲むように何かが流れてきた。見えない粘膜がねっとりと絡みつくようでとても不快だ。ジンカイさんは膝を地面に着きハアハアと荒く息を付いた。


「大丈夫ですか?」


「……儂の加護があれば、多少はそなたや縁雅えんがの娘の力を使っても“絶望”には気づかれぬであろう。疫病神の陰の氣は“堕ちた神”に近いゆえに。鬼神の眷属は必要ないじゃろう。無論、我が氏子もな」


 ジンカイさんの体が薄くなっていく。あれだけおぞましいオーラも消えかかっている。存在自体がなくなろうとしていた。最後の力を振り絞り僕に加護を与えてくれたのか……。


「そう心配なさるな。儂達は氏子達が居ればまた蘇る。人の負の側面は消えぬ。それはつまり我らも人がいる限り完全に消滅することは、ない……という、ことだ……」


 ジンカイさんはもうほとんど透明に近くなった。今、一柱の強大な神が消えようとしている。


「最後に……忠告、だ……菩薩院ぼさついんの、家霊かれいが、“堕ちた神”と、おなじ、みち……を……」


 ジンカイさんが完全に消えると、辺りはまた真っ暗になった。カンテラが僕の足元をぼんやりと照らしていた。僕はカンテラを持ち上げるとすぐに踵を返した。


 ジンカイさんが最後に言ったことは気になるが、今そのことを考えている余裕はない。これから奈落へ向かい“堕ちた神”の核と対峙しなければならないのだ。“絶望”という核が五八千子いやちこちゃんに憑いた呪いと同格と考えれば、激戦になることは必至。負けることだって十分あり得るのだ。


 何となくこうなる予感はしていたが、いざ“堕ちた神”との戦いが確定すると不安で胸が一杯になる。現に僕の歩む足が震えている。だが、ここで勝利できれば僕達にとって大きなプラスになるはずだ。五八千子ちゃんが今日が僕達にとって運命の分かれ道になると言ったことが、それを裏付けている。


 僕は来たときより早足で出口に向かった。ずっと心臓が高鳴りっぱなしだ。


 少し先に明かりが見えた。出口だ。僕は更に足を速め出口へと急ぐ。小走りで進み外へ出た。


「「「「「うおおお~~~ん!! ジンカイさまあ~~~!!」」」」」


 洞窟から出ると妖怪たち、じゃなかった。呪須津じゅずつ家の人達が綺麗に列をなして地面に正座をしていた。ざっと見ても五十人以上はいるだろう。あの屋敷にこんなにいたんだ。


 皆、洞窟に向かって涙を流し叫んでいる。どうやら彼らはジンカイさんが亡くなったことに気がついているらしい。


 鷹司たかし君と千代さんの姿も見えたが、呪須津家の人達の様子に困惑しているようだった。


 ……どうしよう。彼らが僕がジンカイさんを殺したと思っていたら大変だ。すぐに説明しないと。でも“堕ちた神”の事は言えないぞ。困った。


「野丸さまあ~~~!」


 当主のギョロ目の老人が涙と鼻水を垂れ流しながら、僕の下へ走ってきたが、勢い余って僕の結界にぶつかった。


「だ、大丈夫ですか!?」


 小柄な老人が後ろにひっくり返り、地面に頭がぶつかる音も聞こえたものだから慌てた。しかしギョロ目の老人は機敏に跳ね起きた。


「野丸様あああ~~! どうかジンカイ様の敵を討ってくだされ~~!!」


 結界に縋って僕に嘆願する当主は子どものように泣きじゃくっていた。


「どうか! どうか、お願いしますじゃあ~~!」


「わ、分かりましたから、落ち着いて……」


「う、う、う……ジンカイ様ぁ……」


 膝から崩れ落ちすすり泣く老人を見ると心がいたたまれなくなる。結界を解除し慰めの声でもかけようかと思ったら、ギョロ目の老人は急に立ち上がり毅然とした表情で叫んだ。


「ええ~い! 皆の者おおお!! 何時までメソメソしておる! ジンカイ様の遺言じゃあ~~! これから野丸様を全力で援護するのだ!!」


 ギョロ目の老人が発破をかけると、泣いていた呪須津じゅずつの人達が立ち上がり、今度は雄々しい咆哮を上げた。


「野丸様! 我ら呪須津家一同はジンカイ様が復活するまで、野丸様の配下となることここに誓いまする。主従、命運を共に一蓮托生でございます! どうか我らを使ってくださいませ!」


 ウオオオと呪須津家の歓声が響いた。そしてみんなして僕に頭を垂れる。


 …………呪須津じゅずつ家が仲間になってしまった。

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