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第18話 入団テスト

「ただいま戻りましたぁー!」


 居間でアリエさんとお茶を飲んでいると、玄関が開かれる音がして元気のいい天女あまめちゃんの声が聞こえてきた。


「お邪魔します」


 続けて破魔子はまこちゃんの声がすると二人分の足音が僕達のいる大広間に向かって段々と近づいてくる。


「来たみたいですね。さっき話したように破魔子ちゃんには異世界の事は話さないでください」


「承知しました」


 僕らは彼女達を迎えるべく立ち上がるとすぐに入り口の襖が開いた。そこには制服姿の天女ちゃんがポニーテールを揺らしその背後にはきれいに切り揃えられたセミロングの髪の女の子が立っていた。彼女の肩にはカワウソとイタチのハイブリットっぽい見た目のキュウちゃんがちょこんと乗っている。


「破魔子ちゃんをお連れしました!」


「おかえり天女ちゃん。それから急に呼び出してごめんね、破魔子ちゃん」


「どうも、カミヒトさん。なにやら私に用があるみたいですね? 会わせたい人がいるとか……」


 破魔子ちゃんはちらりと僕の背後のアリエさんに視線を送る。アリエさんは僕の横に並ぶと真っ直ぐ破魔子ちゃんを見据えた。


「あなたがハマコですね? 初めまして私はアリエと申します。以後お見知りおきを」


「はあ……菩薩院破魔子ぼさついんはまこです。こちらはキュウちゃんです」


「キュウキュウ」


 お互いがお互いを観察し合う。破魔子ちゃんは疑問と好奇の目でアリエさんを見やり、アリエさんは上から下まで値踏みするように丹念に破魔子ちゃんを観察していた。


「とりあえずこちらへどうぞ」


 僕は大広間の中央のテーブルに誘導すると彼女達を座らせ、お茶とお茶菓子を破魔子ちゃんと天女ちゃんの前に置く。


「会わせたい人ってこの青髪の美人さんのことですよね? もしかしてカミヒトさんの()()ですか?」


 破魔子ちゃんは小指を立てると嫌な笑みを浮かべた。聖子さんがよくする笑い方だ。こうやって見るとやっぱり姉妹だけあってよく似ている。そんなとこは似なくていいんだけどさ。


「そういうんじゃないんだ」


 僕は苦笑しながら、さてどうやって説明したらいいのだろうと悩んだ。異世界の事はまだ破魔子ちゃんには言わないつもりであるし、そうなると何と説明したらいいものか。妖聖学園には妖怪枠として捩じ込むつもりだが、妖怪かそうでないかなどおじさんがすぐに分かったんだから破魔子ちゃんだってすぐに見破るだろう。


「アリエさんは破魔子ちゃんと同じなんですよ!」


「同じとは?」


「強くて可愛いってことです!」


「フッ……。まあ、それほどでもありますけど」


「まあ、何ていうかね……破魔子ちゃんのいう退魔絢爛乙女団たいまけんらんおとめだんのメンバー候補というか……」


 僕の言葉を聞いた破魔子ちゃんの目が鋭く光る。


「ほう? 確かに私はカミヒトさんにメンバー集めの協力を依頼しましたが彼女がそうですか……」


 今度は破魔子ちゃんがアリエさんを品定めをするようにネットリと見回した。腕を組み面接官のような顔つきで、どことなく偉そうな雰囲気を漂わせている。


「なるほど、凛とした整った顔にスラリとした肢体、それにきれいな青髪がよく似合っていますね。見た目は文句なしの美少女ですね。それに外人さんのようですが日本語もお上手ですし。しかし退魔絢爛乙女団はあこがれだけでなれるほど甘っちょろいものではないのです。凶悪な物の怪や悪鬼羅刹あっきらせつを打ち倒さんとするには数多の困難が立ちはだかるでしょう。その道は塗炭とたんの苦しみがあるかもしれません。これを乗り越えるには力だけでなく何事にも折れない確固たる信念が必要なのです。その為には常に厳しい鍛錬を積む必要があるのです!」


 あなたにはその覚悟がありますか、と厳しい目つきで言う破魔子ちゃんは歴戦の猛者を思わせる貫禄がある。雰囲気だけは一人前だ。


 ……どうしてこの姉妹はこうも演技がかっているのだろう。


「若輩者ではありますが研鑽を怠ったことはありません」


「……ほう。涼しい顔でいいますねえ。恐れはないということですか。フッ……その心意気やよし。ではあなたが退魔絢爛乙女団に相応しいか審査をして差し上げましょう」


「はあ……その前にタイマケンランなんちゃらとは何ですか?」


「おや? カミヒトさん、説明してないんですか?」


「ああ、うん、そうだね、詳しくは……」


 アリエさんには破魔子ちゃんがアリエさん同じスキルを授かった同士で、とにかく会ってほしいとしか説明しなかった。彼女達を引き合わせることに意味があると水晶さんは言っていたが詳しくは教えてくれなかので僕にもそれ以上説明しようがなかったのである。


 アリエさんも聖女様から破魔子ちゃんと積極的に交流を持つようにとしか言われていなかったらしいので、退魔絢爛乙女団に入団するかどうかは本人に任せようと思っていたわけだ。


「そうですか。分かりました。では詳しく説明して差し上げましょう」


 破魔子ちゃんは立ち上がると拳を握りめいっぱい情感を込めて言った。


「退魔絢爛乙女団とはこの世に満ちるケガレを浄化し、人々を脅かす魑魅魍魎ちみもうりょう共を打ち砕き、この世界のあるべき姿を取り戻す為に特別な力を持つ乙女によって結成される救世の集団なのです!」


「キュウ!」


「…………なるほど、救世ですか。この世界にも何かしらの危機が及んでいるということですね」


 アリエさんは微かに僕に聞こえる程度の声で呟くと僕の方をチラッと見る。僕はうなずいて返した。


「そういう事なら微力ながらお手伝い致しましょう。カト……カミヒト殿からもあなたと仲良くするように言われていますからね。それに私は魔の類であれば日常的に討伐しておりますから、足を引っ張ることはないと思います」


「ほう、すでに退魔の経験がおありですか。それは心強いですね。ならば早速あなたの事を聞かせていただきましょう」


 破魔子ちゃんは正座をすると真っ直ぐアリエさんを見据えた。


「ではもう一度名前を教えてください」


「アリエと申します」


「アリエさんですか。いい名前ですね。お年はいくつですか?」


「17です」


「私のひとつ上ですか。では出身はどちらの国でしょう?」


「……黙秘します」


「黙秘? 何か言えない事情でもあるんですか?」


「……黙秘します」


「……ふむ。では退魔の経験年数を教えてもらいましょうか」


「そうですね、本格的に前線に出るようになったのは5年ほど前でしょうか。一人前と認められるようになったのが2年くらい前ですね」


「なるほど、割と経験年数は長いんですね。これはなかなか期待が持てますよ。ミステリアスなところも私的にグッドです」


 破魔子ちゃんは腕を組みそれっぽい雰囲気でウンウンと唸っていた。あまり聞かれたくないことをスルーしてくれて助かった。


「では志望動機をお聞きします。なぜ退魔絢爛乙女団に入団したいのでしょう?」


「特にありません。ただ私は同じ力を持つ同士と友誼を結びたいだけですから」


「え~~、特にないってどういうことですか。ここ一番大事なところですよ? 嘘でもいいからやる気をアピールしないと……。うん? 同じ力を持つ同士? ちょっと待ってください! カミヒトさん、もしかして彼女はすでに絢爛乙女なのですか!?」

 

 破魔子ちゃんは信じられないといった様子で僕を見やった。その視線はやや非難の色を含んでいるように見える。っていうか絢爛乙女ってなんぞ。


「あれ? もしかしてまずかった?」


「まずいに決まってますよ! 確かにカミヒトさんにはメンバー集めのお願いをしましたが! リーダーである私が認めないと正式に入団できないんです! 十分な資格がないと絢爛乙女にはなれないのです!」   


 どうやらメンバーになるには破魔子ちゃんの中できちんとした手続きをしていないとダメなようだ。しかし勝手にアリエさんに力を与えたのは水晶さんであって僕ではない。クレームは水晶さんに言ってほしい。


「へ、変身したとき、衣装は変わりましたか!?」


「う、うん。クール系の可愛らしい衣装だったよ」


「……あの破廉恥な格好はどうにかなりませんか?」


「あう~~~! 私が決めたかったのに~!」


「わあ! わたしも見ていたいです!」


 頭を抱え悶えていた破魔子ちゃんだったが、しばらくすると深呼吸をして気を落ち着かせた。


「分かりました。アリエさん、今すぐ変身してください! ついでに外で実技試験を行います!」


「はあ……それは構いませんがどのような内容ですか?」


「私と模擬戦をしていただきます!」


「承知しました。ですがその前に、カミヒト殿一ついいですか? 私はあれからまた変身しようとしたのですができなかったのです。これは一体どういうことでしょう? スキルとしてはきちんと残っているみたいなのですが……」


「あ、私もです。何回か自分の部屋で変身してたのですが突然できなくなっちゃいました」


「へ? そうなの?」


 なんでだろう?









 水晶さんに彼女達のスキルの詳しい説明を受け模擬戦のルールを決めてから僕達は住居兼本殿の裏庭に来た。破魔子ちゃんとアリエさんが数メートル距離を取り相対している。


「それじゃあカミヒトさんお願いします」


 僕は頷き両手に神正氣を出すように念じると手のひらに暖かさと重厚なエネルギーを感じた。この淡く光る黄金の球形の神正氣を今から二人に注入するのである。


 水晶さんによると彼女達の力は僕が与えたスキルでありその原動力は神正氣であるから、彼女達は自身で作り出すことができないので僕が直接充填しなければならないようだ。二人は願い玉で与えた分の神正氣をすべて消費してしまったので変身できなかったというわけだ。


 僕は両手の神正氣を破魔子ちゃんアリエさんにそれぞれ放つと、黄金に輝く球は二人の体にすっと入っていた。


「ふあぁ……」


「……っ!」


 彼女達の顔はまるで温かい湯船に浸かったようにとろんと緩んだ。神正氣が体内に充満する気持ちよさは僕もよく知っている。大量に流れてきた時のあの痺れた感覚が忘れられない。


 二人に渡した神正氣の量は公平を期すため同じにしてある。彼女達の絢爛乙女としての強さは神正氣の量によって変動するからだ。破魔子ちゃんよりアリエさんの方がだいぶ強かったのは、ひとえにアリエさんにエグい量の神正氣が取られたからである。全力おきよめ波の神正氣が渡ったわけだからそりゃもう強くなるに決まっている。


「もう一度ルールを確認するね。お互い怪我するような攻撃はなし。建物や物を壊すのもダメ。目立つような派手な技も禁止。使っていいのは住居兼本殿側だけで向こうの境内に出たら負け。相手を制圧するか降参させたら勝ち。制限時間は10分。時間を過ぎても決着がつかなかったら引き分け」


 ルールの方は僕が勝手に決めさせてもらった。彼女達が本気で戦えば裏庭では狭すぎるだろうし、ドッカンドッカン必殺技を繰り出せば近所迷惑甚だしいからである。これほど制限された条件では彼女達も不本意だろうが場所が場所なだけに仕方がない。異世界側の超越神社で模擬戦を行うことも考えたが、破魔子ちゃんを向こうへ連れて行くのはまだ時期尚早であろう。この娘口軽そうだし。


「その条件では私の力は十分に発揮できませんが、ま、仕方ないですね。それはお互い様ですから。しかし私の攻撃はバリエーション豊かなのでアリエさんのほうが不利かもしれませんね」


「そうですか。それは楽しみです」


 自分の勝ちを信じて疑わない様子の破魔子ちゃんだが、この勝負正直アリエさんが有利だと思う。破魔子ちゃんはアリエさんの速さについていけるのだろうか。アリエさんはフィジカルがとんでもなく高いが破魔子ちゃんはどうなのだろう?


「それでは始めましょうか。まずは私が変身します。よく見ててくださいよ。変! 身!」


 破魔子ちゃんは右手を天に大きく掲げ叫んだ。すると彼女の体が真っ赤に燃える紅のオーラに包まれる。燃え盛るオーラから出てきたのは赤を基調とした和装のアイドル風衣装を身にまとった破魔子ちゃんだ。相棒のキュウちゃんも一回り大きくなり、ルビーのような真紅のオーラを纏っている。


「どうですか! これがオンミョウ☆ハマコです!」


「キュウキュウキュウ!」 


「わあ! 破魔子ちゃんかっこいいです!」


「……なるほど、確かにカミヒト殿と同じような神聖な力を感じますね。それでは私も。スキル『青凪あおなぎの乙女』」


 アリエさんがスキルの名を唱えると彼女は青く光るオーラに包まれた。大海を思わせる深淵なオーラから出てきたのは青と黒のクール系デザインの衣装を着たアリエさんだ。こちらもアイドルのステージ衣装のようで、露出の多さにアリエさんは羞恥の色を浮かべていた。


「わあ~! アリエさんも可愛いです! かっこいいです!」


「むむむ! 何ですかその衣装は!? いいですよ……とてもいいですよ! 私の想像以上の素晴らしく可愛いデザインですよ!」


「わ、私は好きではありません……」


「すごく素敵ですよ!」


「フッ……見た目は合格です。後は実力が伴っているか試させてもらいますよ」


「の、望むところです」


 二人が臨戦態勢に入ると緩んでいた空気が一気に引き締まった。彼女達が僕に視線を送る。僕は頷くと開始のコールをした。


「はじめ!」


 合図と同時に僕の視界からアリエさんが消える。


「ふぎゃ!?」


 そしてすぐカエルが轢かれたような悲鳴が聞こえた。声のする方を見れば破魔子ちゃんがうつ伏せに地面に組み伏せられていた。ガッシリと腕の関節を決められ全く動けそうになかった。


「それまで!」


 瞬殺である。


「…………」


「ううう……」


「破魔子ちゃん!」


 腕を解かれた破魔子ちゃんは天女ちゃんに介護されゆっくり立ち上がると半べそをかきながら服についた埃を払う。


「速すぎだよお……」


「……弱すぎませんか?」


 アリエさんが無慈悲だ。


「わ、私は後方支援に特化してるんです! 近接戦闘は得意じゃないんです!」


 じゃあなぜ入団テストに接近戦なんか選んだのか。


「で、でもアリエさんと私は相性がいいですよ! 目にも止まらぬアリエさんのスピードはまさに前衛にぴったりです。私が後衛からアリエさんを支援すれば向かうところ敵なしですよ! ええ、文句はありません。アリエさんに退魔絢爛乙女団の入団を許可します!」


 晴れやかにそう告げる破魔子ちゃんとは対照的にアリエさんは複雑そうな表情である。


「ありがとうございます。しかし私はあなたをリーダーと認められませんね」


「な、なぜですか!?」


「弱いからです」


「だ、だから私は後方支援が得意で……」


「ではあなたの真価をみるまで保留にして置きましょう。あなたがリーダーとしての資格があるかこの目で見定めさせてもらいます。もちろん実戦で」


「の、望むところですよお!」


 なんやかんやで話が纏まったようだ。試す側と試される側が逆転してしまったが。破魔子ちゃんには頑張ってアリエさんに認められてもらいたいものである。


「いいなあ。二人ともかっこいいなあ」


 天女ちゃんが彼女達を眺めボソッと呟いた。彼女からおねだりの視線を感じる。僕は天女ちゃんには危険な目にあってほしくないのだけどなあ……。


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