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第11話 聖子の能力

 カトリーヌさんの口から出た交換留学生候補の聖子さんは、意外でもありまた納得できるものでもあった。


 というのも先日の縁雅神社の訪問でハクダ様やセツさんの言い振りから、聖子さんが菩薩院ぼさついんの中でも特別であることが窺われたからだ。そしてカトリーヌさんが彼女を指名した。恐らくカトリーヌさんは聖子さんの特殊性に気がついている。


 アリエさんの方は破魔子はまこちゃんに引き合わせる為だろう。僕が彼女に力を与えたことは聞き及んでいるだろうし、それを為したのがカトリーヌさんの力の一部が籠もっている願い玉であることも知っているだろう。彼女達(破魔子ちゃんのネーミングによると退魔絢爛乙女団たいまけんらんおとめだん)は水晶さんによるとメンバーが揃って初めて真価を発揮するみたいだから、それを見越しているのかも知れない。


 僕としてもいつか破魔子ちゃんとアリエさんを引き合わせなければならないと思っていたので、こっちは好都合かもしれない。


「その二人にした理由を伺っても?」


「ほら、アリエはこっちの世界の住民だとあんたと一番長い付き合いでしょ? あんたと仲も悪くないし、何よりハマコと会わせてみたいしね」


 彼女の回答は予想通りであった。恐らくだが聖女様の狙いは、アリエさんを使って破魔子ちゃんを自陣に引き込む事ではないだろうか。聖女様は貪欲な人だから。


「聖子さんは?」


「セイコは魔法の才能があるからね。私がセイコを強くしてやろうってぇ寸法よ」


「彼女の才能はどれほどのものなんですか?」


「ん~~、そうね、もしかしたらマリンやロアイトに匹敵するかも」


「そんなにですか……」


 これが事実かどうか分からないが本当ならば確かに聖子さんを手元に置いておきたくなるのも無理はない。カトリーヌさんが聖子さんと初めて会った時もそう言っていたし。だが本当にそれだけが理由だろうか? ちょっとカマかけてみるか。


「でもそれだけではないですよね? 彼女、特別ですから」


「何のことかしら?」


 カトリーヌさんは本当に知らない様子だった。その自然な表情は到底演技には見えない。しかし彼女は千年以上生きる“伝説の聖女”である。普段の様子からポンコツに見えるがその老練さは侮ってはいけないだろう。


「白を切る気ですか? ならこのお話は無かった事にします」


「チッ……やっぱあんたも気づいていたのね」


「当然ですよ」


 当然知りませんとも。カトリーヌさんは思いの外はやく折れてくれた。そしてやはり演技だったようだ。危うく騙されるとこだった。


「という事は私の見立ては間違ってなかったのね」


「さすがですね」


 どういう見立てだろう? そこんとこ詳しく教えてほしいな。


「彼女は特別ですから、簡単に渡すわけにはいきません」


「ずるいわ! あんな超、超、超レアな体質の人間みたことないわよ。()()()()()させるなんて前代未聞だわ」


 正邪を逆転? どういうことだ?


「やはりこの世界でも貴重でしたか」


「貴重なんてものではないわよ。そんなのお伽噺でしか聞いたことないわ!」


 思った以上に聖子さんの体質とやらは大変なものであるらしい。ただそれはカトリーヌさんの見立てが合っていればの話だ。実際にその正邪を逆転させるという能力を確認してみたいものだがどうすればいいのだろう?


「それで彼女に何をさせるつもりなんです?」


「そりゃあ、この世界のためにその力を存分に振るってもらうわ」


「具体的に言いますと?」


「そら悪氣を色聖に変えるのよ。私の推測では変化させた色聖を霊光石に込められると思うのよ。そうなったら貴重な色聖の霊光石を大量生産できるわ! そう言った意味ではあんたの浄化よりも便利ね」


 グヘヘヘと笑う聖女様は完全に取らぬ狸の皮算用である。しかし今の会話でカトリーヌさんの推測する聖子さんの特殊能力が何となく分かった。正邪の逆転とは悪氣を色聖へと変える力であろう。


 ただ菩薩院家が聖子さんを超常現象から遠ざけている理由は、この正邪逆転の力と関係しているのだろうか? 何となく腑に落ちない。


「それを今確かめる事ってできます?」


「多分だけどセイコの体を通して逆転すると思うから、悪氣があればすぐにでも確かめられるわ。ちょうど()()()()を呼んでいるから邪氣で確かめてみましょう」


「あいつら?」


「“救星求道会きゅうせいぐどうかい”っていう邪教の連中よ。自称最古の邪教ね。アリエの妹を尋問するために呼んだのよ」


「……邪教と繋がりがあるんですか?」


「呪術には対象を操って自白させる便利なものもあるからね。それを利用するのよ」


「それって不味いんじゃ……」


「一般の信徒達にバレたら不味いけど、世の中キレイ事ばかりじゃやってられないのよ。組織の運営なんてグレーな事が多いんだから」


 驚いた。まさか異世界最大勢力であるカトリーヌ教が邪教と繋がりがあったなんて……。日本で言えば公的な機関と反社が取引関係にあるようなものじゃないか。邪教が蛇蝎だかつのごとく嫌われているのは僕もよく知るところであるから、この事実は知ってはいけない裏の事情ってやつじゃないか。


「それに救星求道会は他の邪教と違って呪術で迷惑をかけていないから安心していいわよ。何でもコイツら真理の探求が目的だとかなんとか。その為に資金が必要だから私達に取引を持ちかけてきたの」


「それ、信用できるんですか?」


「そりゃあいつらの事は徹底的に調べたわ。もう驚くくらいシロだったわね。シロ過ぎて不気味なくらいよ。もちろんそれでも完全には信じていないけどね」


「スピネルが調べた。細部に至るまでネチネチと時間を掛けて。それでも怪しいところは見つけられなかったって悔しがってた」


「やけに私達に協力的なところも不気味なんですよね。呪術が使い方によっては役に立つ事は確かなんですが、それでもあまり邪教の力は借りたくないんですよねえ」


「それもセイコの力でどうにかできるかもね。色聖を邪氣へと変えることができれば、卑人でなくてもセイコが呪術を使えるかもしれないわ!」


「本当にそんな事が可能なのでしょうか? にわかには信じられませんが……」


  聖子さんの能力は色聖と悪氣、相互の性質を変えられるかもしれないのか。


「ま、そんなわけだからセイコはこっちで面倒見るわ」


「いえ、それだと聖子さんはこき使われるだけで彼女にはなんのメリットもありませんよね?」


「そんなことないわよ。セイコには世界最高峰の魔法使いである私達が魔法のレクチャーをするわ。あの娘も魔法を使いたがっていたしウインウインの関係ってやつよ」


 いくら聖子さん自身が望んでいたとしても、やはり彼女一人を異世界に置いておくのは心配である。日は浅いとはいえ上司である僕がしっかりしなければいけない案件だ。日本を離れるならば彼女の実家の了解も得なければならないだろう。バカ正直に異世界に留学させますとは言えないけれど。


 となると聖子さんの実家に一度ご挨拶に行かないといけないなあ。菩薩院家の事情も気になるし、当主である菩薩院桂花(けいか)さんに会う必要があるな。破魔子ちゃんかセツさんにアポを取ってもらうか。


「僕だけでなく彼女のお家の許可も必要ですし、一度あちらに戻ってから検討します」


「そんなのあんたが適当に言っておきなさいよ。私はすぐにでもセイコがほしいのよ」


「それは無理です」


「なんでよ!」


「カトリーヌ様、カミヒトさんに無茶を言ってはいけませんよ。彼らには彼らの事情があるのですから」


「ねえさま、カミヒトに嫌われたら美味しいタレがもう食べられなくなる」


「何よあんた達! こいつの肩を持つの!?」


「主を諫めるのも側近の役目でございます」


 カトリーヌさんはロアイトさんにあーだこーだと文句を垂れていたが最終的には折れた。唇を尖らせ拗ねた様子である。


「しょうがないから待つけど、早くしなさいよね!」


「善処します。……話は変わりますがアリエさんの妹であるマダコさんの処遇はどうなるのでしょうか?」


 アリエさんの様子に変わったところはなかったが心中穏やかではないだろう。邪教に堕ちた身とはいえ実の妹であるからなんとか死刑だけは免れてほしいのではないか。


「あの小娘ね。何を聞いてもだんまりらしいから、救星求道会を使って聞きたいことを吐かせてから決めるわ。大災害獣を操っていた能力が呪言じゅごんではなかったし、アリエに聞いても妹が何故そのような能力を有しているか分からないと言っていたから、それが一番聞きたいことね」


「あの、アリエさんは妹についてなんと?」


「何も言ってなかったわね」


 彼女の妹のやらかしたことは一歩間違えれば大勢の死傷者を出したであろう。マダコさんは反省している様子ではなかったし、事の重大さを考えればアリエさんは妹の減刑を諦めてしまったのかもしれない。


「もう卑人ひにんでは無くなったし、私に忠誠を誓うなら極刑だけは勘弁して上げてもいいんだけどね。もしくは利用価値があればね」


 マダコさんがカトリーヌさんに忠誠を誓うだなんてありえないだろうな。たとえ利用価値ありとみなされて極刑ではなくなってもろくな扱いはされないだろうし。アリエさんはどう思っているのだろうか。


 あれこれ考えてみても、この件はもう僕にできる事は何もないな。僕は僕の目的を果たそう。


「それでカトリーヌさん、お願いが……」


「そうだ! カミヒト、あんた転移陣みたいなやつ使えたわよね? あの白い門よ」


「ええ、まあ……」


 全くまた僕の話を遮られてしまったぜ。本当に聖女様はマイペースである。白い鳥居(ワープゲート)に何のようであろう。


「一度行った場所は自由に行き来できるのよね?」


「ええ、そうですが……」


 今度は一体何をさせるつもりだろう。もう封印魔法のことを聞いて日本に帰りたいんだけど。


 聖女様は口の端を大きく広げ邪悪な笑みを浮かべた。


「今から竜頸傭兵(くそガキ共)のアジトへカチコミに行くわよ!!」

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