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ラーメンをひとつ

作者: 皿日八目

 ラーメンを出す店に、ひとりの客が訪れた。席につくなり言う。

「ラーメンをひとつ」

 

 店主はラーメンをつくって出す。


 客は目の前に置かれたどんぶりをのぞきこんで、眉をひそめた。

「あの 頼んだのはラーメンですが」


「ええ ラーメンですよ」

 店主が言う。


 客は、湯気を立てるどんぶりからゆっくりと顔を上げた。

「これは ラーメンじゃない」


「え」

 店主は何かを言おうとした。

「ええと ええと いや ラーメンですけど……」


「ラーメン これが ラーメン」

 客はぶつぶつと言う。


「やっぱり どう見てもラーメンじゃありません 注文したのはラーメンだけど これはラーメンではない」


「い いや でも だって」

 店主はしどろもどろになる。


「麺でしょ スープでしょ チャーシューでしょ たまごでしょ メンマでしょ ねぎでしょ…… 全部入っているじゃないですか これが ラーメンでなくて何なんですか」


「だから ラーメンじゃありませんってば」

 客は繰り返した。

「ラーメンをお願いします」


 店主は黙りこんだ。しばらくして、また何か言おうとする。

「でも……」


「ここはラーメン屋じゃないんですか?」

 客がさえぎるように言った。

「もしかして こちらの勘違いだったかもしれません」


「いえ…… あの…… ラーメン屋……のつもりです」

 店主の声は消え入りそうだった。


「だったら ラーメンをお願いします」


「えっと…… もしかして 味噌とか とんこつとか そういうラーメンをご希望でしたか……?」


「はあ?」

 客が呆れたような顔をする。


「いや だから ラーメンを出してくれればそれでいいんですって もうすぐ仕事に戻らなくちゃいけないんです ほら 早く出してください」


「あのう でも これと同じラーメンではだめなんですよね……?」


「当たり前じゃないですか」

 客は大声を出した。

「これのどこがラーメンなんですか」


 店主は泣きそうになった。 


 そこへ、この時間にはいつも来る、なじみの客が店へ入ってきた。


「おや どうしました」

 店主の顔を見てなじみが尋ねる。


「こ このお客さんが ラーメンを出してほしいと言ったんです」

 店主が説明する。


 なじみが客の前に置かれたどんぶりを見る。


「ラーメンじゃないですか」


「嘘だあ」

 客は大声を上げた。


「ね ね ですよね これはラーメンですよね やっぱり 私は間違ってませんよね おかしいのはこのお客さんなんだ」

 店主がほっとして大声を上げた。


「これはラーメンじゃないですか いったい何がご不満なんです?」

 なじみが客をなだめようとして言った。


「ここは この辺りでもいちばんおいしいラーメン屋だってことで有名なんですよ 雑誌でも取り上げられたことがあるんです わからないこと言うもんじゃありませんよ」


「だって これはラーメンじゃない!」

 客が叫んだ。


「まだ言うかこの野郎」

 なじみの客が掴みかかった。店主が慌ててとりなそうとする。


 そこへ、また別のなじみの客が次々と店の中へ入ってきた。


「お どうした 揉め事か?」


「この野郎が この店の出すラーメンはラーメンじゃねえとほざきやがるんだ」

 客の胸ぐらをつかんだままなじみが答える。


「ほう おれたちがいつも食っているものはラーメンとも呼べねえってことか え おい 何とか言えよ ほら」

 

 常連客たちが最初の客を取り囲む。顔から汗をふいて店主はみんなを落ち着かせようとしているが、あまりうまくいきそうになかった。


「なんで なんで ただラーメンを注文したかっただけなのに」

 取り囲まれ、客の声は震えていた。


「だから 目の前にあるじゃねえかよ」

 胸ぐらをつかんでいる男が低い声で言った。


「だって だって ……これはラーメンじゃない!」


 客の叫びが終わる前に、男は彼の頭をどんぶりの中につっこんだ。常連客でもしばしば舌をやけどするほど熱い汁が、客の顔をおおった。


「うわあ うわあ」

 店主がうわごとを言う。


「これはラーメンだ! ラーメンだ! ラーメンだ!」

 常連客は口々にそう言って、どんぶりで客の頭を殴り、椅子で腹を打った。


 私刑は閉店時間まで続いた。



☆お詫びと訂正

 作中の表記に誤りがございました。お詫びして訂正致します。


誤 ラーメン


 上記の表記はすべて、正しくは下記の通りになります。


正 ソーメン

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[良い点] お詫びと訂正で笑いました。
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