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かわいくていとおしいあのこのはなし

作者: 文月 譲葉

これは、僕の大切な、かわいいあの子の話。

今はもうどこにも居ない、壊れてしまったかわいいあの子の話。


あの子は、どこにでもいる、極々普通の子だった。元気で活動的な明るい子だった。

ただ。

ただ、性別だけが固定されていなかった。


時には幼い少女で。

時には幼い少年で。


天真爛漫な笑顔で、笑っていた。駆け回っていた。


でもそれは、二次性徴が来るまでの話。

二次性徴を迎えたあの子は、酷く不安定になった。

あの子は少年であり、少女であり、そして。どちらでもなかったから。

望まぬ成長はあの子の心を蝕んで、あの子の心は少しずつ壊れていった。誰にも気付かれないまま静かに壊れていった。


そうだな。あの子が壊れていったあの当時、あの子はどちらかと言えば少年寄りの性質だった。その数年前は少女寄りだったけれどね。

少年としての自我を持っているときだったから、あの子が壊れてしまうのは仕方がなかったのかもしれない。


日々膨らんでいく乳房。

迎えた初経。

毎月やってくる月経。


そんな身体の変化は、成長は、あの子が壊れるには充分過ぎるものだった。

そしてある日、あの子の一人称が変わり、あの子は居なくなった。いや、肉体と言う器はあったけれど、あの子は居なかった。代わりに、『あの子のようなナニカ』があの子に成り代わっていたんだ。


これが、僕が知っているあの子の話。僕が記憶しているあの子の話。

そして、ここからは僕が知っているあの子のようなナニカの話。僕が記録しているあの子の姿を維持しようとしたナニカの話。


壊れてしまった僕のかわいいあの子に成り代わったナニカは、とても歪な子だった。あの子のように笑えず、あの子のように感情表現が出来ない不器用な子だった。

それでもあの子になろうとして、どこか歪なあの子に似たナニカになってしまった子だった。


笑顔が変。

突然表情が抜け落ちて怖い。

人間のなり損ないみたい。


色々な言葉が、歪なあの子に投げ掛けられた。それでも、あの子は全てを覆い隠して下手くそな笑顔を作っていた。

感情表現が出来なくて、笑顔が作れない不器用な子。

壊れてしまったあの子とはまた別の理由で、歪な子の心も摩耗していった。

けれど、歪な子はかわいいあの子とは違っていた。あの子は何も捨てられずの抱え込んで壊れていったけれど、歪な子は抱え込んでしまったモノで心が壊れる前に自ら心を切り裂いて、修復出来ないモノを捨てた。


言葉の刃で傷付いた心を。

大きく動いた感情を。

誰かに向けた想いを。


感情が大きく動くと自己を保つの大変なんだ。そう言いながら、歪な子は全てを捨てていった。


無であるように。

大きく心を動かさないように。

誰にも、何にも、心を許さないように。


歪な子はどんどん切り捨てるのが上手くなっていった。切り捨てるのは上手くなっていったけど、本質は不器用なままだった。

居なくなってしまったあの子を模倣する、不器用でいじらしくて可哀想な歪な子。

誰かを好きになる度に、想いを傾ける度に、相手に向ける想いが重過ぎると気付いていつも途中で心を切り捨てる。

愛されたいくせに、己が愛が大き過ぎることで敬遠されることが嫌で最初からなかったことにしてしまう愚かな子。


必要なのはあの子で、あの子が戻ってくるまで代わりを務めるのだと歪な子は淡く微笑む。

壊れてしまったあの子はもう戻らないのに、いつか戻ってくるのだと信じあの子を模倣する哀れな子。

かわいいあの子は戻らないのだと、歪な子はいつ気付くのだろうか。あの子が二度と戻らないと気付いたとき、どうか絶望しないでほしいと思う。幸せにおなり、愛しくも哀れで不器用な歪な子。



僕が、知っているのはここまで。記憶に残るかわいいあの子と、記録している歪なあの子の話はこれでおしまい。


壊れてしまった僕の愛しいかわいいあの子と、かわいいあの子がいつか戻ると信じてあの子の姿を維持しようとした歪な子の物語。

あの子達の物語が、本当なのか嘘言なのかはこれを読んだあなたの感性によるものさ。僕は嘘とも真とも言わないよ。

僕に言えることは唯一つ。これは僕の記憶と記録である、それだけ。

ついったでふと呟いたネタのやつです。

ジャンルこれじゃね?みたいなのあったらそっと教えてください。

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