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5. 異世界における冒険者ギルドの役割を説く

冒険者ギルドの拠点として、訳あり物件を買ったら地縛霊付きだった。

天敵をけしかけて脅したら軍門に下った

霊族ラミネールが仲間になった

翌日、朝食を済ませた俺は館の前の通りに出ていた。

早朝から人通りが多い。

オークション会場と市場が近いので、商売人達の往来が多いのだ。

 

「さて、まずはこの不気味な外装を、綺麗にするぞ。」

 

俺はロゼ達に清掃を依頼した。

アンドロイドが一斉に髪の毛ワイヤーを展開。


前庭一面に生えてた雑草。

全雑草捕捉、取り付き、抜根!

5秒で根こそぎ駆除完了。


建物に巻き付いていた蔦。

全て10秒で除去完了。

 

枝がだらしなく伸びてた植木。

1分で一流庭師が刈り込んだ様に剪定完了。

 

汚れた外壁・扉・エントランスの洗浄、磨き、5分で完了。

鉄製品の錆び落とし、研磨、5分で完了

 

「アオ様、終わりましたよ。」

「・・・。」

『・・・・・・・・。』

 

圧巻である。

新築同様の姿に、一瞬にして生まれ変わったよ。

ついでに隣の建物も綺麗になってる。

未来のアンドロイド、ハンパねぇ。

 

ラミネールに至っては、驚き過ぎて目が点になっていた。


「よ、よし、よくやった!素晴らしい働きだ。」


普段のダメさは何処に行ったのか・・。

たまに期待以上の働きをするんだよね。


「次は内装だ。」


内装も同様に魔法のように綺麗になった。

破れた壁紙、割れた窓、壊れた椅子など、片付けられる。


補修に必要な資材は、「物質変換」で作られる。

「物質変換」はナノテクノロジーの究極版。

原子レベルで組み換えを行い、あらゆる物質を必要な物質に変えてしまう。

かなりエネルギーを使うので、彼女達の中ではパワーがあるロゼ、ライア、アーゼが得意。

細かな作業はローラが得意で、セラはバランス型。

 

先ほど伐採駆除した雑草や蔦、使えない家具、埃、塵までも、全て物質変換で新しい資材に生まれ変わる。

廃材が全く出ず、全て新品の製品が、何もない空間から生み出される光景は、まさに神様の所業だ。


俺がロゼを女神と認識したのも、これを見ると無理はない。

 

物質変換をする際は「高速言語」という、頭に響く呪詛紛いを唱えるので、近寄ると「高速言語頭痛」に悩まされる。

この頭痛が耐え難いのだ。

耐え難いのだが・・

 

「ううう、痛くない!痛くないぞー!」

「ぬぬぬ、主殿、痩せ我慢はよくないのじゃ。痛いなら痛いと言った方が楽じゃぞ?」

 

俺とリアは、今まさに高速言語頭痛に耐えていた。

ロゼが横目で、困った顔をしている。

痛いなら、近寄らなければいいのに・・という、半分呆れの視線が含まれていた。

  

「はははは、リア、君こそ冷や汗が止まらないのではないか?早く痛い痛いとのたうち回りたまえ。」

「さすがに三方向同時高速言語は効くのぉ。」

 

いつもながら効くわー。

痛い、超痛い。

 

「そ、そうだな・・って、やっぱ無理無理!死ぬほど痛い!」

「撤退じゃ!主殿、掴まれ!外に飛ぶ!」


無理だった。


我々は、自ら進んで高速言語頭痛に曝されに行く挑戦者。

「高速言語頭痛を克服し隊」の隊員だ。

 

あの頭痛、イラッとくるんだよね。

なんか負けたくない種類の頭痛?

分かるかな?

分からないよね?

でも、俺だけじゃなく、リアも志を同じにして、高速言語を使っている所に、自ら飛び込む。


現在まで123戦33勝120敗

三回だけ平常心を失わず、耐えきった事がある。

初期に比べ、かなり頭痛に強くなった。

これはもう克服に近いのではないか?そうに違いない。


『あなた達、バカなの?』


ラミネールにも呆れられた。

 




なんということでしょう!

 

不気味なお化け屋敷が、見違えるように生まれ変わりました。

 

コンセプトは、上品な冒険者ギルド。

冒険者ギルドと言えば、一階が酒場と受付カウンター。

二階が安い宿とギルドマスターの部屋。

 

まさしく、そのように改装した。

 

「素晴らしい!かわいい!」

「えへへへ」

 

アンドロイド一同、横一列になって鼻高々で誇らしげ。

褒めると、こうして素直に喜ぶところは可愛げがある。

 

「あまり褒めると増長するので言いたくないが、やはり凄いのぉ。たった1日で、仕上がってもうた。」

『何なのコレ、普通ここまでするには半年かかるわよ?』

 

ラミネールが呆れていたが、無視した。

ちなみに、この世界の霊族は、日中でも活動する。

 

 

まずは前庭。

あまり広くはないが、芝生の庭園に、テーブルと椅子が6セット置かれている。

テラスで寛げる席を設けた。冒険者の憩いの場としたい。

 

植木は剣と盾の形に刈り込まれ、ここが何かの店である事を知らしめていた。

お陰で目立つ。

 

ちなみに、看板はまだ掲げない。

開業する為の従業員や道具が、全く揃ってないのだ。

準備が出来たら作るつもりだ。

 

凹の字形の建物、内側の奥に凹んだ場所の突き当たりがメインの入口。

入ると二階へ続く階段がある、吹き抜け天井の階段ホール。

二手に分かれた階段で、中央を抜けると、裏庭に続く扉がある。

 

右手は掲示板とギルドカウンター。

左手は酒場だ。

 

酒場側に行ってみる。

酒場はカウンターで飲み物と簡単な食事を提供出来るようにしている。

 

ホールには拘りの背の高い丸い木製のテーブルが、所狭しと並べられている。

背が高いのは、立飲みも出来るようにした為。

そして、椅子も丸い木製で、背凭れは作らなかった。

長居されると、回転が悪くなるので、あまり寛げるファニチャーは良くないのだ。

 

そして、右側は掲示板とギルドカウンター。

カウンター窓口は、取り敢えず2箇所。

増設できるように、横に長いカウンターにした。

 

受付は美人のお姉さんとしたい。

冒険者ギルドの受付嬢は美人のお姉さんと相場は決まっている。

押さえるべきポイントは当然押さえる。抜けはないようにしたい。

 

次に、階段ホールを中央に真っ直ぐ進むと、裏庭に出る。

そこが素材の売却場だ。

大きな素材でも受取り出来るように、広いスペースを確保してある。

 

井戸もあるので、将来的にはシャワールームを作って、狩りで汚れた身体を洗い、サッパリしてから酒場にGO!が出来るようにする。

 

階段を二階に上がり左側、酒場の二階が宿。

右側ギルドカウンターの二階が、ギルドマスターの部屋、応接間、会議室となっている。

 

いやぁ、実にベタな冒険者ギルドが出来たぞ。

 

尚、館の前を通る人は、昨日まで不気味な館だったのが、突然綺麗になってるので、殆どの人が二度見していた。

 

 

 

 

「アオ様、次は何をすれば良いんですか?」

「そうだなー。取り敢えず拠点は出来上がったから、次は人材探しと育成かな?」

 

現時点、あまり細かな計画を練っていなかった。

人材探しと育成で良いのか?

足りないものが他に無いかな?

 

「マスター、いまいちマスターが思い浮かべる組織像が判らないのですが?」

「そうだな、それに関しては、ローラ君、君から説明を!」

「え?ローラん、分かんの?」

「問題ない。」

 

セラとライアが、何故ローラに説明が出来るのかと驚いていた。

ローラが冒険者ギルドを熟知しているのは当然だ。

彼女はゲーマーだからな。


「キャー、さすがはローラちゃん!かわいい!」

「寄るなアーゼ、そして分解したい。」

 

ローラはいつもアーゼに辛辣だ。

 

我々はギルドカウンターの前にある椅子に座って、ローラの演説を聞く。

ローラはカウンターの上に立って、全員を睥睨した。

 

多分、我々を上から見下ろしたかったのだが、ちっちゃいから少しでも高い所に上ったのだろう。

そんな事を思っていたら、ローラからギロリと睨まれた。

いえ、ちっちゃくありません。すみませんでした。

 

そしてローラの演説が始まった。

 

「冒険者ギルドとは、異世界の定番!鉄板のロマンよ。」

「「「ロマン!?」」」

 

うむ、ローラ、分かってる。

 

「冒険者ギルドは冒険の始まり!伝説の始まる場所!」

「「「おおーー!」」」

 

その通り!素晴らしい。掴みは完璧だ。

 

「異世界に行ったら必ず寄るべきチェックポイント。逆に言うと、冒険者ギルドの無い異世界なんて、カス!うんこ!」

「「「うんこ!?」」」

 

そこを連呼しなくていい。

 

「つまり、のじゃイカの世界は?」

「「「うんこ!」」」

「つまり、のじゃイカは?」

「「「うんこ!」」」

「悪意しかないシュプレヒコールじゃ!」

 

リアはこうやってロゼにイヂめられている。

あと、女の子がうんこうんこ言わない。

 

「冒険者ギルドが無ければ、万が一異世界に転生や転移した人間は、金が稼げず、野垂れ死ぬしかない運命。不親切。」

「人間が何も出来ずに死ぬなんて・・なんて救えない世界・・。」

「そんな世界、人間の敵ですぅ!」

「人間が困る世界なんて許せません!」

「人間を守れー!」

 

「・・・。」

『・・・・。』

 

ノリについていけないリアとラミネールが困惑の表情で佇んでいる。

ごめんな、コイツら、人間大好きなんだよ。

 

「冒険者ギルドこそ正義!冒険者ギルドこそジャスティス!」

「冒険者ギルド・・そんな重要施設だったなんて・・」

「あーし達、今まで一体何やってたワケ・・。」

 

セラとライアが罪の意識に震えていた。

 

「燃えて来ましたわ!こんな魔素とかいうクソ粒子のある世界が存在するだけで胸糞悪かったのですが、更にその様な重要施設まで抜けているなんて許せません!」

「流石はアオ様です。この世界の弱点を見抜き、自ら冒険者ギルドを設立しようなんて、私達は思い付きませんでした。」

 

アーゼとロゼが感激に震えていた。

いや・・そこまで考えてなかったんだけど・・まいっか。

 

「アオイ・・我々は全面的に協力する。冒険者ギルドを作りましょう。」

 

最後にローラが女神のような微笑みで締め括った。

 

「「「マスター蒼井、ご命令を!」」」

 

アンドロイド全員が立ち上がり、真剣な表情で俺を見詰める。

やる気に漲っていた。


「よし!絶対に冒険者ギルドを成功させよう!」

「「「おお!」」」

『待て待て待て待て!お前ら、また余計な事を始めようとしてないか!?』

 

んー?この思念通話の声、”ギルギル”じゃね?

また俺達のことストーキングしてたのか?

毎度毎度、暇な()()()()()だな。

 

『え?え?何何?今度は何なの!?』

 

ラミネールが両腕を抱えて慌てふためいていた。

そんなに怯える必要ないぞ。この世界の宇宙管理者だから。アーゼと変わんないよ?

 

すると、突然ドアが開いて、ギルアードが部屋に入ってきた。

コイツ、存在の確率を変動させて、潜んでたな。

 

『お久し振りギルギル。』

『ギルギルと呼ぶな、邪神め。』

 

相変わらずの仏頂面なイケメンダンディだ。

 

この世界の宇宙管理者ギルアード。

つまり、アーゼの親戚みたいなヤツ。

愛称ギルギル。

 

世界の管理権を持っており、「確率変動」という反則的な能力がある。

簡単に言えば、”人に見付かる”という事象の確率を下げると、人に見付からなくなる。

そんな便利な能力。

それをされると、アンドロイドでも感知出来ないそうだ。

 

但し、無理矢理因果律を捻じ曲げるので、未来にどんな影響が出るか判らない。

なのであまり多用は出来ないとの話。

 

魔素という粒子を生み出して、世界の発展を促したが、アーゼや他の宇宙管理者からは「反則だ」「美しくない」「美学が足りない」等と散々バッシングされている。

だが、本人知らんぷり。見た目オッサンなのに子供っぽい。

 

この世界の歴史に、ちょこちょこ顔を出しており、直接的に世界に干渉する事もある。

その為、長生きな覇族やドラゴンには知られた存在。

  

『ギ・・ギルアード様?嘘?初めて見た。』

 

ラミネールが畏怖と感激の両方の感情で立ち竦んでいた。

 

『・・・また霊族を捕まえたのか・・。』

 

ギルギルはチラリとラミネールを見ると、そんな事を呟いた。

またって何?

 

そこにアーゼが割って入る。

 

『邪魔しないで下さいませ。我々は冒険者ギルド設立という大志に向かって一致団結したばかりです!』

 

尚、ギルギルはアーゼからは毛虫のように嫌われている。

 

『だから!私の創設した世界で、異世界のお前らが勝手に振る舞うなと何度言ったら判る!やるなら自分の世界でやれ!』

 

いやーギルギル正論だわー。

だが、せっかくここまで来たのに、上からの一言でお取り潰しは嫌だ。

俺は交渉に入った。

 

『えー?ケチ臭いこと言わなくていいじゃん。』

『世界の成り立ちを1/3程もひっくり返した前例のあるお前らを放置など出来るか!』

 

大袈裟だなギルギルは。

アーク王国が、エストランゼ王国の自治区になっただけじゃん。

 

『剣と魔法の世界じゃないと、冒険者ギルドって映えないんだよね。』

『ゲームでやれ!現実でやるな!』

 

ですよね~?

だが断る!

 

『まぁまぁ、ギルギルも一緒に立ち上げてみない?冒険者ギルド。』

 

面白いよ?

 

『やらん!今度貴様の世界の管理者を連れてこい!クレームを言いたい!』

『えー?嫌だ。』

『つべこべ言うな!』

 

コイツ、絶対カルシウム足りてないや。

ロゼ、牛乳を物質変換で出してやってくれないか?

え?ギルギルに飲ませる牛乳無ぇ?

 

『我々が貴方のクソ世界を、少しはマトモな世界にしてあげようとしているのです。感謝だけして黙ってなさいませ。』

 

アーゼがあからさまに嫌な顔してギルギルと対峙していた。

傍から見ると、美男美女の夫婦に見える。

だが、そんな感想を溢したら、殺意で返されそうで怖い。

 

『人類を絶滅させたお前にだけは言われたくない。』

『こんな人間とも言えない生物体で満足してる、負け犬管理者の戯れ言など、聞く耳持ちませんわ。』


宇宙管理者同士の口喧嘩なんて、レアなもの聞いてるなぁ。

さて、ヒートアップする前に仲裁しないと。


『じゃあ、どんな冒険者ギルドなら良いんだよ?』

 

俺はギルギルに確認した。


『作ることが前提になっているが?』

『フィオレンティーナには許可を貰ったぞ。現地人間の裁定に介入しないんじゃなかった?』

 

ふふん、俺は勝てる交渉しかしないんだよ。

 

『くっ、痛いところを・・邪神め。』

『邪神はお前だったんだろ!』

 

元々この世界で「邪神」と言えばギルアードの事を指し示していた。

ところが邪神本人から俺が邪神認定され、アーク王国上層部成敗イベントの際に「邪神ブルー」と名乗ってイベントを盛り上げたのがキッカケで、完全に俺=邪神が定着してしまったのだ。

お陰でアーク自治区に行くと、ヒーロー扱いで居心地が悪い。

 

 

『設立は見逃す。だが、あまり派手に活動しないこと。お前達は、もっと自分の影響力を強さを認識して、大人しく細々と動くんだ。』

 

お小言をボヤいて、ギルギルは消えた。

もう来なくていいぞー!

 

 

「さて、邪魔者は消えた。だが、ギルギルを本気にさせると面倒臭いので、大々的に動く事はやめておこう。」

 

刺された釘は、一応抜かずにおこう。

 

『ギルアード様にあんな口を利くなんて・・邪神だわ。』

 

ラミネールが信じられないものを見る目で俺を見ていた。

邪神って言うな。


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