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山小屋に、案内されましたわ。

 

「いや、ここ貧民街で今危なっ……んでこんなとこってかンな目立つ……ああもう、ちょっとこっち来い!!」


 混乱した様子のガストンは、言いたいことと行動が纏まらない様子で周りをキョロキョロしながら慌てた後、木材を抱え直した後に、顎をしゃくった。


「あなたこそ何でこんなところに……?」

「俺は元々ここの出だ! いいから来い!」


 かなり重い木材を抱えているのに、特にふらつく様子もなく歩き出したガストンに、ベラは少し迷ってからついていくことにした。


「ったく、時間もねーってのに、なんでこう厄介ごとばっかりよぉ……!!」

「申し訳ありません」


 初見の時は嫌味で色目を使う青年に見えたが、ぶつくさと文句を言う今の姿からはそんな気配があまり感じられなかった。

 言葉遣いはとても粗野だが、無理に雰囲気を作っていない彼は、どこか面倒見が良さそうにも見える。


 ついていった先にあったのは、土嚢を積んで、それに対して木材を支えに積み上げている即席のバリケードだった。


「これは?」

「氾濫の備えだよ! 見たら分かんだろーが。おい、ボンダ!」


 ガストンはそこで指揮を取っている小太りの男に声を掛ける。


「おう。なんだ、その女。この状況で引っ掛けてきたのか?」

「ちげーよ!! コイツをガキんとこ連れてくから、ちょっと抜けるぞ!」

「ッ。マジかよ」


 舌打ちをしてこちらをチラリと見るボンダに、竜の上から黙って頭を下げる。

 それには特に反応せず、目を戻した彼に、ガストンは言葉を重ねた。


「無理せずに、水が溢れる前に逃げろよ!? 家より命だぞ!!」

「わぁってるよ! テメェこそ気をつけろよ!」

「言われなくてもそーするよボケ!」


 木を渡して、不機嫌そうな顔でガストンが山の方を指で示す。


「あっちだ」

「今度は、どこに行くのです?」

「山だよ!! 山滑りしたらどうしようもねーが、高いとこにいりゃとりあえず水は来ねーだろ!! ガキどものところに案内するから、そこで大人しくしてろ!!」


 急げ! と言われて、ベラはうなずいた。


「……ありがとうございます」

「礼も謝罪もいらねーよ! そもそもこんなとこにいるんじゃねーよ!!」


 不可抗力ではあるけれど、迷惑をかけているのは事実なので、ベラは言われた通りに口をつぐんだ。

 走り出したガストンに、カーロを操って追従する。


 山に差し掛かったところで、ガストンが慎重に歩き出したので、声をかけた。


「ここにいる理由を、聞かないのですか?」

「どうせロクでもねーんだろ? 最初に声かけた時も、あんな宿に泊まってったし、参謀殿は一緒だしよぉ。雨が止んだら、マジでさっさと消えろよ!? ここは、貴族なんかが来るところじゃねーんだ!!」


 ガストンは、どうやら貴族にいい印象は持っていないらしい。


 ーーー無理もない、ですね。


 雨の中で見た貧民街は、質素で建てつけの悪い家屋が多かった。

 自分たち貴族どころか壁の中に住む市民と比較しても、暮らしぶりが悪いのは想像に難くない。


 彼らのような境遇の者が増えた遠因は、長く続いた国同士の争い……彼ら自身には何ら関係のない軋轢に端を発している。


 向かった先は、細い山道の先にある粗末な幾つかの小屋だった。


「ガキども! 大人しくしてるか!?」

「あー、兄ちゃん!」


 ガストンが、声をかけながら一番手前の小屋に怒鳴ると、そこにいた子どもたちがわらわらと出て来る。

 誰も彼も、雨で寒いのに薄く粗末な衣服を身につけていた。


 だが、子どもたちの表情は明るい。

 彼は、とても慕われているようだった。


「雨の中悪いが、天幕立ててくれ。あのデカい竜を置いとくトコが必要だ」

「「分かったー!!」


 子どもたちが一斉に動き出し、ベラはガストンに声を掛ける。


「わたくしも、何か手伝いを」

「いらねぇ。慣れてないヤツが動くと邪魔だ」


 バッサリと切り捨てられ、ベラはわずかに目を伏せた。

 あっという間に藁が敷かれて天幕が立ち、カーロを引いてそこに寝かせる。

 

「ありがとうございます」

「嬢は中に入れ。雨に打たれて冷えてるだろ」

「え……ですが、カーロを繋いでいないのに、放っておく訳には」


 力が強いため、鉄で出来た頑丈な杭を深く打ち込まなければ、この子は簡単に引き抜いてしまう。

 

「……そいつは、すぐに暴れんのか?」

「先ほどまで興奮していましたから……」

「ッ。めんどくせぇな。だがせめて服を乾かさなきゃ、唇が紫じゃねーか」


 確かに、体は冷え切っている。

 雨天では、焚き火を焚くわけにもいかなかった。


 ベラが病気にかかるとややこしい事になる、と思っているのか、あるいは、純粋に心配してくれているのか。


「少しくらい放っておいても大丈夫じゃねーのか?」

「……では、香を焚きます」


 あまり量は持っていないが、竜安香という、竜が好む香の粉を焚いておけば、少しくらいなら離れても平気だろう。


「ですが、誰も近づかないように伝えていただけますか。竜は気難しいのです。……服を乾かしたら、すぐに戻ります」


 カーロに興味津々な子どもたちに、チラリと目を向けて、ベラが頼むと、ガストンはうなずいた。


「良いだろう。夜にはまた戻る。それまで、嬢も大人しくしといてくれ。マジで危ねぇからな!」

「重々、承知しております」


 ベラは、手早く準備を終えて、小屋の中に入った。

 

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