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美女と野獣の婚前旅行~婚約破棄は許しません。氷の令嬢は、逃げた参謀を追いかけます!~   作者: 凡仙狼のpeco


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子飼いの矜持。

 


「よう、坊主ども。元気か?」

「あー!」

「ガストン兄ちゃん!!」


 辺境伯直轄地に戻ったガストンは、貧民街に住む仲間たちの縄張りに顔を出した。


 お上への報告は、明日する手筈になっている。

 何やら来客があるとかで、辺境伯の配下にそう告げられたからだった。


「帰ってきたの!?」

「おう、いつまでいるか分からねーが、湯を炊いて風呂にしよう。薪をいっぱい買ってこねーとな」

「やったー!!」


 ガストンの顔を見て、明るい顔で駆け寄ってきてはしゃぐ年少の子どもらの頭を、思わず顔を綻ばせて撫でる。

 

 そうしてガストンは、子どもらを守ってくれている同年代の仲間の元へと足を向けた。


「よう、ガストン。相変わらず良い格好してんなぁ!」

「向こうじゃ、身なりを整えてねーと、ナメられんだよ。その内お前らにも同じような服を着る生活をくれてやるよ」

「相変わらず言うことがデケェなぁ!!」


 ガッハッハ、と笑う仲間たちの変わらなさに安心感を覚えながらも、ガストンは表情を引き締める。


「……ちょっと、話したいことがあってよ」


 それは、魔薬(オピオム)に関することだった。


 いつだって、そういうモノへの甘い誘いの犠牲になるのは、自分ら貧乏人なのだ。

 辛い生活を少しでも忘れたくて、人は自分を壊してしまう。


 神妙な表情で話を聞いていた仲間たちは、目を見交わした。


「……この辺りじゃ、まだ何も話は聞かねーなぁ」

「オレも聞いたことねぇ」

「辺境伯の憲兵は、オレらにここから出てけとウルセェが、クスリに関してもウルセェから、出回ってなさそうだけどな」


 辺境伯直轄地では、魔薬に関する取り締まりと罰則は他所に比べて遥かに厳しい。


 他所であれば牢屋暮らしか百叩きで済むのだが、こと直轄地においては、使用すれば街中を引き回された上で二日間の(はりつけ)、売れば問答無用で死罪だ。

 

「まぁ、話を聞いたら教えてくれ。絶対、下の子たちにも使わせねーように、口酸っぱく言えよ?」


 ガストンの言葉に、仲間たちは真剣な目で頷いた。


※※※


「参ったな……」


 教会の動き、と聞いて、モーリエから得た情報で怪しいと言われていた人物の一人を探しに来たパドーレは、身を隠しながら、指先でポリポリと頭を掻いた。


「見るんじゃなかったよなー」


 目線の先にいるのは、仲間たちと真剣な話をしているガストンだった。

 パドーレは耳がいいので、内容も軽く漏れ聞こえているが、どうも売買している側の人間ではない。


「こりゃ多分ハズレだな。てゆーかハズレであってくれ」


 多分、あの男と言い争っていたという、もう片方が本命だ。


 というか、この男が魔薬売りだとしたらパドーレ自身がイヤすぎる。

 情に脆いという自覚があるので、もしこちらが本命なら見たくはなかったのだ。


 街の教会での動きとやらも、別枠で動いた者がいるらしいので、暗躍に関しても、そちらが本命だろう。


「……しかし、イヤな雲行き(・・・)だな」


 晴天の空を見上げてから、パドーレはそっとその場を後にした。

 

※※※


 ガストン、という男は、決して品の良い男ではない。


 女好きで、人の鼻につく態度を取り、元来の気質はかなり短気だ。


 だが、クズではない。


 元々辺境伯直轄地にある貧民街の生まれであり、親は病気で死んだ。


 その後の慈善院での暮らしは、性に合わなかった。


 貧相ながら食事にありつけはしたものの、『教会への奉仕』という名目で重労働を強いられる上に、気に食わなければ殴ってくるような養い手が腹立たしかったからだ。


 その上にいる神父の人柄は悪くなかったが、彼に対してだけ良い面をするような養い手を見抜けないくらい、目は節穴だった。


 慈善院を抜け出した後は、同じように親を亡くしたり捨てられた子どもたちの兄貴分のような立ち位置に収まった。


 腕っ節は、同世代の中では強いほうだったからだ。


 ともに過ごすうちに、仲間たちに愛着が湧いた。

 彼らを食わせるための日銭労働は、同じ重労働でも慈善院より良かったし、年下の子どもたちを守る為に、少しでも暮らしを良くする為に頭を働かせるのは嫌いじゃなかった。


 そうこうする内に、目端が利くことを認められ、以前とは別の形で教会や権力者の為の仕事をするようになった。


 繋がりを持つことで、結果的に慈善院の暮らしが良くすることが出来たり、ガストンが自前の家を持つことが出来るようになれば、野良犬のような仲間たちの生活も少しはマシになる。


 そう思って、出稼ぎをしていた。


 ーーーもうちょっと、稼ぎてぇんだよな。


 今の稼ぎは悪くないが、仲間と暮らすほどの家を構えるには、まだ少々貯蓄が足りない。


 深夜。


 廃屋の中で、藁に包まって眠る子どもたちの姿を、月明かりだけでぼんやりと眺めていると、その明かりがふと曇った。


「っ……雨か」


 空気に湿り気が混じり、独特の匂いがする。

 予想通り、明かりを遮ったのは暗い色の雲で、ほどなくして雨音が響き始めた。


 飲み水をもたらす恵みの雨季も、雨漏りする廃屋では眠りの質を落とし、病気にも(かか)りやすくなるイヤな季節だ。


「酷くならなきゃいいが」


 徐々に強まる雨音を聞きながら、ガストンも子どもたちと同じように寝藁に包まった。

 

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