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秋葉原ヲタク白書77 Rhapsody in AKIBA

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒はメイドカフェの美しきメイド長。


この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第77話です。


今回は、芸術劇場管弦楽団のコンサートマスターが雨に打たれ、意識不明で発見されて、背後に爆弾テロの影がチラつきます。


彼女の幼い娘は、母をたぶらかした元ストリートギャングの男が怪しいと睨んで、主人公と梅雨に濡れるアキバを探しますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 紫陽花のバイオリニスト


美人が雨に打たれている。


昭和通り沿いのコミュニティバスの停留所。標識の横に投げやりなベンチがあるだけだ。


そのベンチに座ったママ、彼女は何台もバスを見送っては、ずっと雨に打たれてる。

総レース柄のラグジュアリィなタイトドレスは、結婚式か何かの帰りなのだろうか?


濡れて鮮やかに咲く紫陽花のようだ。

瞳を閉じバイオリンケースを抱いて。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


で!その彼女が、そのマンマ御屋敷(ミユリさんのバー)に担ぎ込まれたから大騒ぎにw


ココは、僕の推し(てるメイド)ミユリさんがメイド長を務める御屋敷(メイドバー)

ミユリさんを黄泉の国の支配者に準えて"冥王星(プルート)バー"とも呼ばれる。


「え?え?何なの?!その人?生きてるの?ナンでウチに連れて来るのょ?」

「脈はある…でも弱々しいわwこのまま放って置いたら確実に死ぬわよっ!ミユリ、毛布!」

「あのねぇ、ジュリ。ウチはね、メイドバーでERじゃナイからっ!つぼみん、バックヤードから毛布を出して!」


ビショ濡れパーティドレスの美女(ビジョw)を担ぎ込んで来たのはジュリ。

彼女は、昭和通り界隈を仕切るストリートギャング(セクシーボーイズ)のヘッドの妹。


因みにセーラー服だけどアラサーだ←

あ、担ぎ込んだ彼女もビショ濡れでw


「あ、ソレはセックス毛布…」

「あのね。テリィ様との想い出の毛布と逝って頂戴…で、ジュリ!貴女、ナンで救急車を呼ばないのょ?」

「え?え?え?あら、ソレもそーね?ナンでかしら…」


おや?ジュリがトボけてる?何で?


「うーん。その子、アキバの子ょね?」

「え?そーなの?もしかして、そー逝えば何か何処かで見たコトがあるよーな…」

「梅雨の頃って毎年セクボの入団シーズンょね?コレ、入団儀式でしょ?どうせまた新人イビり?やり過ぎよっ?」


え?ストリートギャングにも就活時期が?

次の団員募集は梅雨の頃です、みたいな?


「でもさ、ジュリ。彼女の指、タコがあるし仄かに松ヤニの香りがスル。ソレにコレ、明らかにバイオリンケースだから、多分この子はバイオリニストだ」

「さすがはテリィたん!やっぱりミュージシャンょね」

「週末だけだけどな。本業はサラリーマンだから!あ、最近は作家が本業…」


話題がソレてコレ幸いとジュリが話し出す。


「彼女の名前は無花果(いちじく)。実家は、(昭和)通り沿いの古い雑居ビルで、食料品の路面店をやってるの」

「やれやれ。やっぱりワケありかwこの鬱陶しい梅雨どきに厄介ゴトを持ち込むなょ」

「とりあえず、彼女の身柄、実家に連れてこーか?ホラ、テリィたん。脚を持って!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


やれやれ。このジトジト雨の中、傘を片手に失神バイオリニストを運ぶのかょ…

と思ったら!御屋敷の外に若い衆がいて傘もささズ彼女を抱き抱えて運び出す。


感心な若者達だ!この場は安心して任せられると回り右をしたら襟首を摘まれる。

ジュリだ。ビショ濡れセーラー服に真っ赤な傘wコレでアラサーでさえなければ…


「ちょっち、何処逝くの?テリィたんには最後まで責任とって欲しいのょ」

「責任?僕に何か責任があるのか?ミユリさーん!助けてくれぇ!」

「ふふふ。この雨音で悲鳴は誰にも届かない!ムダよっ!」


後で聞くと、もちろんミユリさんには聞こえてて、御屋敷の全員で大爆笑したとのコトw

僕の左右にセクボの若い衆がつき…やや?顔馴染みの"追跡チーム"の連中ではないか。


「テリィたん、すみません。クイーンに逝われて…あ、傘をお持ちしましょう」

「おいおい。ジュリはヘッドじゃなくて、ヘッドの妹だゼ?そんなに平身低頭しなくても良いのでは?」

「いつも嬉しそうにミユリさんの尻に敷かれてるテリィたんにだけは、逝われたくありません。ソレ」


そ、そースか?笑


"アキバ青果"は、3F建てのオンボロ雑居ビルの1Fでやってる路面店だ。

食料品店ではなく、野菜も売ってナイいわゆる果物屋だ。老婆が店番中w


「ああっ!無花果(いちじく)!いったいどうしたンだい?!今日は演奏会だったンじゃなかったかい?」

「おばあちゃん、誰?」

「そーゆーアンタらこそ、一体誰なんだい?娘の無花果に何かしたのなら、この火龍果(ピタヤ)がタダじゃおかないよっ!」


火龍果(ピタヤ)ってドラゴンフルーツだっけ?

しかし、ヤタラ元気なばーちゃんだw


さしものセクボの精鋭?も老婆の怪気炎に煽られ後退りしてるw

まぁコイツら、元々女の尻に敷かれやすいタイプだったモノな。


ジュリ、出番だょ。


「ピタばーちゃん、元気だった?私よ」

「おや?ジュリかい?セーラーなんか着て、まだ高校生だったっけ?」

「とっくに卒業してるわょ」


一目瞭然だろw


あ、ジュリ、と逝うかセクボの連中は、地元出身者が多い。

街を去った者もいるが、みんな子供の頃からの付き合いだ。


「無花果がね、(昭和)通りのバス停で倒れてたの。雨に打たれてカラダも冷え切ってたから、ココまで運んで来たのょ」

「おや!そーだったのかい!ソレ早く逝いなょ。ありがと、ソコの若い衆も。あぁみんな濡れちまって。おい!万寿果(パパイヤ)!バスタオル、ありったけ持ってきな!」


ピタばーちゃんが店の奥へ叫ぶが、ソコは壁だから、当然、誰からも返事は無いw

何か妙だ?もしや認知症?こりゃ厄介…その間に若い衆が無花果を2Fへ搬送スル。


「ピタばーちゃん、無花果のコトで質問がアルのょ。今、彼女は何やってるの?」

「オーケストラ」

「えっ?何?」

オケ(・・)の首席奏者。コンサートミストレスだょ。指揮者の次にエラいンだ。"アキバ芸術劇場管弦楽団"のコンミスに史上最年少で選ばれたのサ」


"アキバ芸劇"は、最新の劇場で最近流行りの"2.5次元ミュージカル"のメッカだが…

まさか専属のオーケストラがあるとはw最近は全部CDで済ませるので生オケとはレアw


「そ、そりゃまた…しかし、この店やピタばーちゃんとオーケストラって思い切りマルチバース並みの異次元だけど、彼女ってホントにピタばーちゃんの娘なの?」

「もちろんサ!私はマネジャーなンだ!二人三脚サ」

「…でも、ピタばーちゃんとクラシックのオケ?何か果てしなく違和感アルなー…で、無花果はどーしてバス停に?」

「ウチには今朝、来た。ソロ演奏会の報告に寄ったのサ。でも、まさか、そのママ夜まで停留所にいるとは…しかも、雨に打たれて。アイツのせいに違いナイ」

「何か心当たりがあるの?恋人とか?」

「…ソレが、実はシアスって逝う筋悪な男と付き合ってた。タチの悪い地元のギャングだょ。私は止めたンだ!でも、男と女はねぇ…もう1年ほど付き合ってる」

「お付き合いは順調だったのかナ?」

「半年前に大喧嘩してから、野郎がスクーターになった」

「スクーター?もしかしてストーカー?」

「あ、ソレソレ。そのスピーカーさ。ヤタラ付きまとわれてね。電話して来たり、家に来たり。もうメチャクチャさ。どうして、無花果、私の可愛い娘。ナンでこんな無残な姿に…」


いや、ばーちゃん。死んでナイから。


ソコへ無花果を2Fに運び終えたセクボの連中が狭い階段を降りて来る。

みんな、手に手に大小サマザマなタオルを持ってカラダを拭いている。


あ、僕にもタオル…


「痛い!前見て歩けょ!クソジジイ!」

「あ、ゴメン!ん?君は…」

「あのね!無花果はね、あんな可愛い顔してシングルマザーよっ。アタシは無花果の娘の万寿果(パパイヤ)!」


いつの間にか足下に幼女がおり、ウッカリ彼女の"光るアナ雪運動靴"を踏んでしまう。

次の瞬間その"光るアナ雪運動靴"がホントに光りながら僕の弁慶の泣き所にメリ込むw


ソレが、僕と万寿果(パパイヤ)の出会いだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ぎぃやあああああっ!」


とても珍しいコトだけど、僕は臆面もなく大絶叫!泣き所を抑えピョンピョン跳ねるが、ナゼだかツボにハマり全員の大爆笑を誘発w


心なしか幼女も得意げw

いけ好かねぇガキだっ!


あのピタばあちゃんにしてこの孫アリ。

コレぞ、典型的な隔世遺伝と逝う奴かw


「いいぞ!万寿果(パパイヤ)!セクボをやっつけろ!」

「お前達、何者だ?無花果ちゃんに何をした?」

「お前らストリートギャングは、昭和通りから出て逝け!」


へぇセクボも地元じゃ結構嫌われてンだな。

モトを正せば、自分達の息子や娘だろうに。


フト気づくと"アキバ青果"の店頭には野次馬の人だかりが出来ているw

情報を持ってる人を炙り出すチャンス!弁慶の泣き所をさすりつつ前へ!


「みなさん!僕は、万世橋(アキバポリス)のテリィ刑事です。本日"アキバ青果"の無花果さんが、意識のナイ状態で発見されました。何か情報をお持ちの方には千円差し上げます!」


僕は、ポケットから紙幣を出し高く示す。

野次馬の老若男女が元気良く一斉に挙手w


「おっと千円じゃ無かった100VND(ドン)でした。でも、あげますょ!」


野次馬の老若男女が、一斉に手を下げるw

傍らでジュリが呆気に取られた顔で嘆息。


「ダメじゃん、テリィたん。みんな手を下げちゃったょ?VNDって何処の通貨?」

「ベトナム。でも、誰が情報を持ってるかがわかった」

「ええっ?マジ?誰ょ?」


ジュリが頭をヒネるのと、茶番の間は顔色一つ変えなかった万寿果が走り出すのが同時w


「彼女は何か知っている!"追跡チーム"に追わせてくれ!」

「承知!追って!車で先回りするのょ!あ、あれ?キーがないわw」

「お姉ちゃん達、またねー」


路肩駐車のジュリの黒いSUVが急発進!

声はするが運転手が見えない…万寿果?


第2章 彼女はスーパー幼女


「助けて、おまわりさん!あのお兄ちゃん達に車に連れ込まれ服の上から胸を触られたの!」

「なに?お前達?!」

「ま、待ってくれ、違うンだ。おまわりさぁん…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「すみません。まかれました」←


ストリート始まって以来の出来ゴトだw


"追跡チーム"のリーダーが手ぶらでショゲかえって御屋敷(ミユリさんのバー)に戻ってくる。

しかし、ストリート最強の彼等の追跡をかわすとは!実に恐るべき幼女だw


ソコへ、トレンチコートの人影が、居並ぶ常連を掻き分け、のっそりと御帰宅して来る。

万世警察の敏腕刑事"新橋鮫"だ。彼には着任以来色々と手柄を立てさせた貸しがある。


「ジュリ。あのなー。万寿果の身柄は、ウチで確保した。"盗まれた"お前のSUVも移送中だ」

「そ?で、あの子、どーなるの?」

「ひとまず、更生施設だな。母親は意識不明なんだろ?父親は死亡してるみたいだ」

「よくある話だけど可哀想ね。ばーちゃんは引き取らないの?」

「あのばーちゃんは認知症で要介護3だ。多分押し付けられた施設は、彼女を里子に出すだろう。でも、引き取りまで、最低48時間はかかる」


ココで、驚くべき速さでジュリが小悪魔に変身、新橋鮫にシナ垂れかかるw

あ、ジュリは新橋鮫の、その、あのぉ何て逝うかな、いわゆる"情婦"だ←


「車両窃盗は…実はね、ダーリン。大きな声じゃ逝えないけど、ウチ(セクボ)の入団儀式なのょ。何とかならない?」

「おいおい。あんな幼女をリクルートしてんのか?人手不足かょ?」

「何か知らないけど、先週からウチに入れろ入れらとウルサくて、つい…」

「無茶逝うなょ。俺は、仮にも警察官…」

「あ、急に思い出した。あの子、迷子だったから、私がSUVで送り届けたの。目を離した隙にハンドルで遊んじゃって。お転婆さん。うふふ」

「おいおい。交機(しろバイ)に追われて最後は鶯谷の歩道に乗り上げて止まったンだぞ?俺にコレをどうやって揉み消せと…」

「じゃ、お願いね!ダーリン」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


続いて…当の万寿果の御帰宅だw

車は盗むわバーに出入りスルわ…


スーパー幼女だな。


「ただいま!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

「お、お前?!」

「新橋鮫のオジサンから、施設からお迎えが来るまでコチラに御帰宅してろって逝われました!可愛い顔してシングルマザー、無花果の一粒種で万寿果と申します!みなさん、はじめまして!」


うーん君とは随分前から会ってる気がする…


「で、何を聞いてるの?クソジジイ」

「わ!顔が近い!コロナ怖くないのか!ブラームスのバイオリン協奏曲だょ。万寿果のママ、なかなか上手いね。恐ろしく優雅なルバートをかける」

「そーゆーの後にして。ママの元カレが怪しいわ。捕まえて」

「その線はナイな」

「なぜ?」

「だって、ストーカーの元カレでが悪者だなんて、単純で退屈過ぎる。絶対に避けたいパターンだ」


すると、幼女なりに恐ろしい形相で僕を睨むので…何となく夢に出て来そうな気がして怖くなり傍らのジュリに一応声をかけてみる。


「ジュリ。無花果の元カレってセクボなの?」

「うん。名前はシアス。犯罪歴は軽微。元セクボ、いわゆる"ヤメセク"ね。実は、昨夜現場に来てて、私と目が合ったンだけど、逃げてった…とりあえず、ウチのチームに探させてる」

「あ、JKおばさん(ジュリさん)のチームって、私にイタズラしようとしたロリコンのお兄ちゃん達?大丈夫カナ、あの人達で」


万寿果は、心の底から心配ょと逝う顔をして腕を組んだりして意外に可愛いw

まぁその横で精鋭チームをコケにされたジュリが苦虫を噛み潰したような顔←


「しかし、君って素敵だな。いくつなの?」

「あのね、騙されないわょ。私はママとは違うの、クソジジイ」

「ホント元気で何よりだ、万寿果」


ヘルプのつぼみんが気を利かせる。


「お腹が空いてるのょね?万寿果ちゃん、ハンバーガー食べる?」

「そんなモンw食べるワケには逝かナイわ、ヘルプのお姉さん」

「なんで?」

「ベジタリアンだから」←


再び僕にバトンタッチw


「OK、万寿果。つぼみんをナメるなよ。その筋の会長さんの孫娘ナンだ」

「ギャングの?」

「YES。"ストリート"のつかない、モノホンの"ギャング"だ。怖いぞ」


すると、思うトコロがアルのか、急に万寿果は大人しくなって、冷めたバーガーを大人しくパクつき、小声で"美味しい"とか逝う。


「あれ?何だろう」


前後して、ミユリさんからメールが来て、その文面に少なからズ驚きつつ、僕は男子禁制の御屋敷のバックヤードに足を踏み入れる。


ほどなく、ガサゴソと音がして、今度はミユリさんがメイド服のママ、バックヤードに。


「あれ?」

「あら?」

「ど、どーも」


鼻と鼻がぶつかりそうな距離で"三密"。

意味もなく、お互い顔を赤らめたりして…


「ねぇ。コレ何?」

「はい?何でしょう」

「ミユリさんのメールだょ。ホラ"貴方が欲しい。来て"って…何かの冗談?」

「え?私が?」

「だってミユリさんからだょ?じゃミユリさんはナンで来たの?」

「だって!テリィ様が思わせぶりな目配せをなさるから…ホラ、久しぶりでしょ?私、嬉しくて。ソレに私のスマホなら、バーカウンターに…ああっ、ヤラレタわ」

「くそ!でも、せっかくだから…」

「えっ?でも…実は、もう私も"イケないメイドmode"なの。"毛布"もアルし…」


そして、1時間後、僕は叫んでるw


「おーい。万寿果が逃げたぞ!何処だ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局、万寿果はマンマと姿を消すw


で、翌日、僕は"アキバ芸術劇場メインホール"のオケピにいる。

あ、オーケストラピットとは舞台と客席の間にある演奏エリアだ。


「テリィさん。舞台監督(ステマネ)のキランです。話は主宰から聞いてます。トランペットからチューバまで、金管楽器の音なら何でも出せるのにギャラは1.5人分でOKとか!助かります!」

「トロンボーンはアルト、テナー、バス、バルブの4本を持ち込みます。あとバストランペットも」

「感染症の専門家の意見とアーティストである私達の感性をバランスさせ、演者と演者の距離を1m以上開けるコトにしました。ステージも人を減らしますが、オケピに入る人数も制限せざるを得ません」

「仕方の無い話です。この時期、先ず"舞台の灯を絶やさないコト"が最優先ですから」

「新しい創造も、ソコから生まれると信じています」

「同感です。ところで、キランさんは、舞踏家ですか?」

「よくわかりましたね!でも、今回の"2.7次元ミュージカル"ではアンサンブルなのです」

「"2.7次元"ですか?流行りの"2.5次元"ではなくて?」

「ええ。私達のミュージカルは、2次元要素の方が強いので…ところで、貴方は何かお捜しだとか?」

「実は、無花果さんを陥れた人物を追っています」

「無花果を?貧血で倒れたと聞きましたが?劇団(カンパニー)の中に悪者がいるとでも?」

「芸術家って固執するタイプが多いし、オマケに子供の頃から練習ばかりじゃ人格も歪みますょね」

「さて?ソレはどうですかね」

「ところで、このピリピリムードは何かアルのですか?」

「明後日からシーズン開始ですが、通例だと初日には寄付集めで華やかなパーティがあるのです。今回はコロナの要請もあり中止したのですが、チヤホヤされるのがお好きなマエストロが最後まで抵抗して…結局、押し切りましたが荒れちゃって。コロナ下では仕方ない決断なのに」

「横暴な指揮者と逝うコトか…本格的なオペラならともかく、歌メインのミュージカルですからねぇ。オケだってCDで流せば済む話なのに」

「YES。何と言うか…勘違いしてる上にキツい人ナンです」


ソコへ、確かにキツい声がスル。


「始めるぞ!」


オケピに緊張が走る。


「あぁ来たw」

「…みたいですね」

「とにかく、何を逝われてもYESで」


客席からオケピに一直線に歩いて来る人影。


「諸君。時間がないんだ。グズグズするな!テリィたんとやらは何処だ?」

「YES。マエストロ」

「今日からコンマスをお願いしよう。リーダーの資質は未知数だが、こういう事態では拙速を旨とスル」

「YES。最善を尽くします(ヤレヤレだょ)

「よし行くぞ!頭からだ。ハイ!力強くフォルテ!」


第3章 コロナ自警軍の陰謀


シアスを追ってた"追跡チーム"が電気街口をウロついてた万寿果を拾ってくる。

彼女を完全に持て余してるリーダーが炭火焼きバーガーショップ2Fに連れて来る。


あ、2Fはセクボの溜り場で通称"パレス"。


「離して!私は幼女ょ!」

「だから?」

「ごめんなさい!悪かったわ。でも、私、行かなきゃ。マジで用事があるの」

「シアスなら任せろ。根城も調べてある」

「だから、違うの。もうソコにはいないわ」

「なぜ?」

「先週"タイトーパーク・プレイボーイズ"は抜けたの。お兄ちゃん達の情報、古いから」

「えっ…じゃ今、奴は何処に?」

「私を自由にして」

「絶対ダメ」

「ロコ・田代ズよ。田代通りに溜まってる」

「どうします、クイーン?」

「どーするもこーするも。ウチの情報が古いンじゃ、お嬢ちゃんの逝う通りにするしかナイでしょ?全く情けないンだから」

「ありがと、JKおばちゃん。でも、もし田代通りにシアスがいたら、私を自由にして?」


ジュリと"追跡チーム"が異口同音w


「絶対ダメ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


場所は変わり"アキバ芸劇"。


本番同様の通し稽古(ゲネプロ)が始まる。

オケピの中も外も緊張が走る。


「もたついてるぞ。テンポを保て。弾んで。もっと軽く。ストップ!ストップ!クラリネット、何をやってるんだ。ベースもドラムも遅い…トランペット37小節目のソロが…素晴らしいwホントにトロンボーンで吹いてるのか?どうしてトランペットの音色がスルんだ?歌口(マウピ)を変えるだけで、そんなに音色が変わるモノなのか?」

「YES。でも、実は楽器をアルト(トロンボーン)に持ち替えてます。逆にマウピは変えてません…しかし、賑やかなマエストロだな」

「何?聞こえだぞ!」

「ソレは好都合。じゃ1つだけ質問です。貴方が無花果を殺そうとしたのは知ってる。でもナゼだ?」

「何?お前は、イカレてる」

「やっぱり?絶対そう逝うと思った。でも逆に確信が持てたぞ。そう。貴方は血も涙もない殺人鬼だ。直に報いを受けるだろう」

「わ、私は殺してない!」

「誰も死んでないょ」

「あ、そうか」←

「…うーん。やっぱり違うのか。残念だ。でも"その気"になってるから、この際、逝わせてもらおう」

「何を?」

「"犯人はお前だ!"…あぁ1回逝ってみたかったンだ。スッキリした」

「何なんだ、アンタ?」

「良心ある犯人なら普通ココで落ちる。つまり、貴方はモノホンで無実なのか、良心皆無の極悪非道な殺人鬼なのかのドチラかだ。さて、ドチラ?」

「前者だ!ってか私以上にやりたい放題にやるな!私より君臨すルンじゃナイ!」


ほとんど泣き声に近い絶叫だ。

そろそろコチラも幕にしよう。


僕はアルトトロンボーンを構え、名作TV番組"爆殺仕掛人"のテーマを吹く。

世に跋扈する理不尽な行為に天誅を加える爆弾魔が主人公の痛快な時代劇だ。


懐かしのメロディにマエストロが思わず破顔しリズムをとる。

狭苦しいオーケストラピットに、和やかな空気が流れて逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


一方、ジュリと彼女の"追跡チーム"は、田代通りに止めたSUVで息を潜め張り込み中。


「クイーン。時間の無駄ですょ。また、このガキに担がれたのでは?」

「そうかしら?」

「ホント、大人顔負けに嘘が上手い」

「うーん。でも、悪い子じゃナイ。だって、昔の私にソックリなのょ。私も、世の中の大人のコトは、みんなアホ扱いしてた」

「…おい、万寿果。今夜は、このSUVの中で寝ろ。鍵をかける。何かあれば窓を叩け。明日、施設の迎えが来るまでお前は監禁だ」

「えっ?シアスを売れば私を自由にするって約束でしょ?」

「知らんな」←

「ふざけないで!帰らなきゃいけないの!」

「おいおい。クイーンの車を盗んだのは誰だ?」

「大事な用なの!」

「何か知らんが、延期してもらえ」

「やめて。放してょ。私をココから出して」

「おいおい。やめろ。落ち着け」

「放してょ…」


万寿果が泣き出す。

ジュリ、出番だょw


「私の目を見て。どうしたの?話してくれるまで待とうか?」

「ママは、シアスと何事か企んでた。でも、何を企んでたのかが、どーしても分からナイ」

「そうなの?」

「きっと、ママを(もてあそ)んだシアスが何ゴトかを持ち掛けたの。だから、車を盗んだ。シアスがいたセクボに入れば、シアスの企みが分かると思ったから。でもダメだった」

「ウチに入団しようとしたのは…ママのためなの?」

「そうょ」

「…」

「クイーン。シアスが来ました。上手い具合に1人ですが?」

「"絶対"捕まえて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ほどなく"追跡チーム"が2人がかりで押さえつけながら、シアスをSUVに連れて来る。


「久しぶりね、シアス。無花果のコト、少し歌ってくれる?さもないと、アンタを半殺しにして真夜中に万世橋(アキバポリス)の前で放り出す」

「御無沙汰だ、クイーン。何が知りたい?」

「だって、不釣り合いな2人ょね。町の音楽家とストリートギャング。彼女に捨てられて腹が立ったんじゃない?」

「ホラ見ろ。アンタまで俺を犯罪者扱いだ」

「聞いてるだけょ?」

「アイツは、音楽一筋だ。付き合ってた時からズッとな。ソレはソレで、確かにスゲぇと思ってる」

「なぜ別れた後も付きまとったの?」

「仲が良いから会ってただけだ」

「でも無花果のばーちゃんには、エラい嫌われてたじゃない?」

「俺が嫌いナンだろう。あ、因みに、あのばーちゃんはセクボのコトも大嫌いだ。無花果は怒って、ばーちゃんに名前ばかりのマネージャーをやらせてたけど、ソレも辞めさせ、最近じゃ母娘でロクに口も聞いてなかったハズだ」

「アンタ、どうして逃げたのよ?」

「とにかく!俺は、無花果が好きだった。そして、恐らく無花果も…信じるかどうかはクイーンに任せる」


シアスは"追跡チーム"に取り押さえられたママ、不敵な笑みを浮かべてジュリを見る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、僕はクラシック大好き音大お嬢様系女子に取り囲まれている。

ゲネプロ中の休憩時間。コーヒーカップを手にした最強の井戸端軍団w


「無花果のお見舞いに逝った時に、ピタおばーサンから聞いたけど、テリィたんって、刑事サンなんだって?無花果に1服盛った犯人を探してるとか?」

「ええっ?!バレてるのか?困ったな、捜査に支障が出るょ。しかし、ソレを知った以上は、悪いが君達も協力してくれ。市民の義務だ」

「ええっ?!私達が捜査に協力を?もちろんよ。喜んで」

「実は、捜査は佳境を迎えている。間も無く解決するだろう」

「ホント?無花果に毒を盛った犯人は誰なの?ねぇ教えて!」

「無理だ。ソレだけは逝えない」

「絶対に誰にも言わないから。ウフン」

「…秘密を守れるか?」

「もちろんょ。口は堅いの。アハン」


僕は、そっと指差す。


「うっそぉぉぉ(大合唱)!」

「しかも、嫌がる彼女に無理矢理セーラー服を着せて虐待していた。セクハラだ」

「ひっどぉぉい(大合唱)!」

「絶対内緒だ。誰にも喋るな」

「もっちろぉん(大合唱)!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


一方、ジュリは話の裏を取りに動く。

"アキバ青果"でばーちゃんと面談。


「ピタばーちゃん。なぜ、この前はマネージャーを解雇されたコトを隠してたの?」

「だって、娘に解雇されたナンてカッコ悪いじゃナイか?」

「あの朝、無花果に何か変わったコトなかった?」

「娘は、私と仲直りしようとしてた。でも、私が断った」

「ケンカになった?」

「私が無花果に何かしたとでも思ってるのかい?」

「事実確認だけょ。深く考えないで。ボケが進むわょ?」

「この貧しい通りから、あの子は抜け出せた。ソレも、私が全てを注ぎ込んだからだ。子を思う親の気持ちにウソなど、あるモノか」

「ありがと。ソレを聞きたかった。ばーちゃんへの疑いは消えたわ。いつまでも達者でね…やっぱり、怪しいのはシアスね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同じ時間。またまたゲネプロ中のコーヒーブレイクだけど…

今度は、ヤタラ神経質そうなオケ男性陣に取り囲まれてるw


「しかし、ひどい話だな」

「どーしたンですか?」

「ウチのマエストロが無花果と不適切な関係にあったらしい」

「まさか?」

「ソレも、お互いコスプレしてセーラームーンごっこをやってたと逝うから、世も末だ」

「ええっ?無花果さんがセーラームーンのコスプレを?!」

「いや。セーラームーンのコスプレは相手の男だw無花果は、男のマエストロ用タキシードに仮面をつけてたらしい」


僕は、心底驚いた顔を…いや、実際に驚いて開いた口が塞がらない。

どーしたらJKセクハラプレイが、セーラームーンゴッコになるワケ?


コレは…伝言ゲームの間に入った者、一人一人が持つ屈折した欲望と情念の産物なのか…


その時!


「この最低男!よくも無花果みたいなアバズレと(コスプレを)楽しんだな!」

「ま、待ってくれ!何の話だ?僕は君以外の誰とも…」

「黙れ!よくも、よくも僕の気持ちを傷つけたな!」


狼狽えるマエストロに飛び掛かり、押し倒して首を絞めてるのは…広報のキランだ。

不倫相手を炙り出すつもりだったが、不倫は不倫でもゲイだったのかー!しまったw


しかし…あの居丈高なマエストロが"ウケ"だったとは。人は見かけによらんなーw


「とぼけるな!君にとってのタキシード仮面は僕だけだったハズだ!」

「もちろんだ!もちろんだとも!だから、酔いを覚ませ!」

「うぉー!!!!!」


キランは唸り声を上げ、マエストロの首をグイグイと絞める。

マエストロは既に白目を剥いて泡を噴き…あぁ死んじゃうょ。


もともと、マエストロのセクハラが原因と直感して始めた内部調査だが、トンデモナイ話が飛び出し、何もかもが尻スボミの様相だw


「僕だって、僕だってコスプレした君のセーラームーンを見たい!」

「もちろん見てくれ!今、見るか?いつでも全楽団員の前でコスプレするぞ!君のタメなら!」

「やめてくれ!あぁやめてくれってば。おーい、誰か!喧嘩をやめて!2人をとめて!」


しかし、この尻スボミは一転、またまた僕の鋭いヒラメキと先見性の証左となって逝く…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ややっ?!お前は?」

「よぉ。鮫の旦那」

「何だ?俺の(イロ)に用か?」


"アキバ青果"前の路肩に乗り上げて駐車中のSUVに新橋鮫が乗って来る。

実は、シアスを持て余したジュリが押し付けようと呼んだのだが…知合い?


「鮫の旦那。俺が何をしたってンだ」

「この人、私達から逃げたのょ」

「そりゃ重罪だな。"自粛警察"とは逝え、警察がギャングから逃げちゃダメだろ」

「え?"自粛警察"って…」

「あぁ。コイツは、コロナの外出自粛や休業要請に従わない連中を見つけては警察への通報を繰り返す、いわゆる"自粛警察"だ。先月だけで万世警察(ウチ)に100件以上、110番には、恐らくその倍、通報してる」

「マジ?」

「YES。我々は、自粛警察組織"コロナ自警軍"だ。密告、噂の拡散、村八分などにより理不尽な行いをする者を粛清し、揺るぎなき相互監視社会を構築して、以って国民精神の総動員による武漢コロナ撃退を究極の目的とスル」

「何だかもっともらしいな。で、具体的には何をやってンの?」

「当面のターゲットは、自粛勧告を無視し、正直者がバカを見て強行されるミュージカル公演の阻止粉砕だ。既に"アキバ芸劇"には爆破予告を行ない、併せて、公演中止の檄文を送付した」

「何だって?!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


噂は劇団(カンパニー)の中を光の速さで駆け巡る。

ホントに風通しの良い劇団(カンパニー)だょ全くw


「おい。このミュージカル、中止になるらしいぞ!」

「何でょ?マエストロがゲイだから?」

「今"アキバ芸劇"に脅迫文が届いたンだ!誰かが爆弾を仕掛けたんだって!」


えっ?でも、既に幕は開いてるょ?


第4章 もしもレディになったなら


ソレは、不思議なミュージカルw


コラボしたアニメを舞台で再現中に、突如"爆殺仕掛人"のトランペットソロが流れる。

ソレに合わせて、優雅にステージへと躍り出たのは、歌も踊りも素晴らしい美人姉妹だ。


姉妹は、驚く劇団ダンサーを尻目にステージを隅から隅まで舞い、さらに客席へ降りて通路から通路へと踊り歩き、最後にオケピへw


で、実は彼女達は、ハウン&ハユンの姉妹なんだけど、ようやく"何か"を見つけたようで、優雅に踊りながら僕に黒い箱?を示す。


僕は僕で、いつ終わるのかとヒヤヒヤしながら、アルトトロンボーンで延々とアドリブソロをとってたンだけど、晴れて終止形和音(カデンツァ)w


美人姉妹は、そのままステージには戻らズ、黒い箱を小脇に抱え何と出入口から遁走w

次の瞬間、マエストロの指揮棒が振り下ろされ、舞台もオケも熱狂のfinaleに突入スル!


コロナ全面解除後の初ミュージカルのステージは、拍手と歓声の中、大成功の内に幕を閉じる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さて。今回も最後までドタバタが続いたが、ジグソーパズルのピースが出揃ったようだ。

マァわから無いコトはわから無いママだが、おおよその全体像としては、こんな感じだ。


先ず、最後の最後に登場し美味しいトコロをさらって逝った美人姉妹はハウン&ハユン。

半島から来た姉妹は元"喜び組"だから歌も踊りもプロ級。しかもヤタラ爆薬に詳しい。


時に地下工作の指示もこなすスパイ姉妹は、今回は、その知識を生かし、爆発物探知機で劇場を調べて爆弾を発見、処分してくれる。


優雅に舞いつつ実は爆弾探しと逝う三国志の鴻門の会みたいな…え?違う?そぉ?まぁ1種の韓流ドラマみたいな…え?ソレもダメ?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の御屋敷(ミユリさんのバー)


「でも、ミユリさんがハウン達を差し向けてくれて助かった。お陰で世界に先駆け行われたコロナ対応型ミュージカルの初公演は大成功だ」

「ハウン&ハユン姉妹は、テリィ様に借りがあるからと探知機片手に直ぐ現場入りしてくれました。そうそう。テリィ様も火を噴くようなアドリブだったそうですね?」

「クラシックの連中がバックをブルースで盛り上げてくれたンだ。久しぶりのショーストップで、カーテンコールじゃオケピからステージに引き上げられて挨拶させられたょ」


座は盛り上がるが、ソフトドリンク片手に万寿果が、珍しくもシオらしい顔で口を挟む。


「新橋鮫のオジサン。でも、無花果は?ママはどうなるの?」

「送検せざるを得ない。惚れた男のためとは逝え、爆弾を仕掛けた実行犯だからね。でも誰かが死んだワケではナシ、素直に有罪を認めてくれれば刑期は…」

「施設に預けりゃ、万寿果は死ぬか鑑別所送りだ。早く出て来てもらわないと。娘には、ママが必要だ」


ソコへ外でドカドカ足音がして、黄色いウィンドブレーカーを着た場違いな男が現れる。


「おいおい。万世警察はこんな"接待を伴う飲食店"でガキを保護してンのか?三密以前に、ガキはもう寝る時間だろう?」

「アンタ、万寿果を引き取りに来た施設の人か?」

「イヤょ!私、逝かないわ!放して!」


しかし、男は明らかに慣れた手つきで万寿果の肩を掴みグイグイ外へ連れ出そうとする。


「おい!ガキ、静かにしろ。暴れるな。ん?おまわりさん、何か用か?」

「すまないが手違いだった。まだ報告書が出来てない。今日のトコロは帰ってくれ」

「眠たいコト言うな。手続きなんか、とっくに終わって担当移管で決済済みだ。今夜はコッチも手ブラじゃ帰れねぇ」


新橋鮫が睨みを利かせるが、どうやら、書類仕事に関しては、施設側に分があるようだ。

このママ、今生の別れなのか?万寿果がスガるような目で僕を…え?ナゼ僕を見るンだ?


「万寿果。僕を殴れ」

「え、何?」

「いいから!」


こう?って感じで無防備の脇腹に肘打ち!

いや。殴れと逝ったのに!不意打ちだょw


思わズ、ゲボッとなってカラダを折る僕←


「さ、鮫の旦那!現行犯で逮捕!」

「あ、その手があったか…またテリィたんに借りが出来たな」

「早く!万寿果が逃げるぞ!」


条件反射?で脱兎の如く逃げ出した万寿果の襟首を摘み、アッサリ"逮捕"する新橋鮫。

すると、ソレまで呆気に取られていた施設の男が、急に息を吹き返したように騒ぎ出す。


「と、とにかく、ガキを渡せ」

「渡せない。暴行で現行犯逮捕したトコロだ」

「フザけるな!冗談はよせ」

「今から書類手続きだ」

「マジかよ…」

「お疲れ」


有無を逝わさズ、つぼみんがお見送りスル。

聞こえよがしの"逝ってらっしゃいませ"w


「おい、こんなコトして…覚えてろ…」

「あーあ。とうとう追い返しちゃったょ。もう知らナイぞ、僕は」

「テリィたんのバカ。幼児は…幼児なのは、貴方の方ょ!」


ソコに涙目の万寿果がイル。


何処に隠してたのか、紫陽花の花一輪を差し出された僕は、ウッカリ受け取ってしまう。

だって、女の涙には男の心を鷲掴みにスル何かがアルのだ。例えソレが幼女であっても。


「コレは約束の紫陽花。そして、テリィたんは受け取った。だから、テリィたん、私をお嫁さんにして」

「ええっ?!」

「もちろん、今とは申しません。もし、私が貴方に相応しいレディになったら、その時は、必ず私をお嫁さんにして…ください」


そして、新橋鮫に連れ出されながらも、万寿果は振り向き、ミユリさんを指差して叫ぶ。


「私は、テリィたんに似合う最高のレディになる。だから!ミユリさん、それまで私のテリィたんに手を出さないで!ミユリさん…には先がない!」

「え?何?何がナイの?」

「ミユリさん"の胸"には、先がない!私の胸は、確かに今は貴女よりちっちゃいけど、この後は大きくなるばかりよっ!私は、必ず巨乳になって、テリィたんのお嫁さんになるっ!」


…と逝う、万寿果の叫びが外階段の向こうに消えて、御屋敷の中には微妙な空気が漂う。

カウンターの中のミユリさんが、フト我に帰って上半身のアチコチを寄せて上げ始めるw


「テリィ様、マズいです!私、あの子にマジでテリィ様を奪われそうw」

「オバサンになったミユリを巨乳セクボガールがKOか。何だか愉快だわ」←

「あのな、ジュリ。そんな先のコトより、今の自分の心配をしろょ?」


え?と逝う顔でジュリがポケットを探ると…


「あっ!エルメスのお財布が…あのガキ!待って!"追跡チーム"、彼女を追いかけて!」



おしまい

今回はアキバ系でよくモチーフになる"悪役令嬢"をネタに、芸術劇場管弦楽団のマエストロ、コンサートミストレス、広報、ストリートギャングのヘッドの妹とその手下、自粛警察の男、元"喜び組"姉妹などが登場しました。


海外ドラマで見かけるNYの都市風景を、コロナ全面解除前後の秋葉原に当てはめて展開しています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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