4:連帯責任
藍花は期待通り・・・それ以上の働きだった。
正直「やつ」が職場に居辛くなればいいなー程度だったがなんか辞めさせられたらしい。
俺に家に来てわざわざ説明しに来た。
「あいつは辞めました。正直スカっとした気分ね」
あれだけ不倫しておいて、あいつ呼ばわりか・・・。
「あの、職場には正直に話したから・・・」
『復縁してください』
と言いたいんだろうけど、そうはさせない。
「そうか、正直に話したのはえらいぞ。ここから『信用』を取り戻していくんだな」
「え?」
え?ってなんやねん。
正直に話したからって失った信用は戻らない。
信用は行動で取り戻すものだ。
仕事していて失敗して信頼失ったときに、お客に正直に話したからって
信用は戻ってくるか考えれば必然と答えにたどり着くだろ。
「職場からも俺からも『信用』を取り戻すために、これからもがんばれよ」
「・・・はい」
ここまで上手く行きすぎて俺は調子に乗っていたのかもしれない。
醜い欲が出てきてしまった。
「そういえば、『やつ』さ」
「俺に『不倫していたらこれだけ払う』って言ったのに、結局その額に届かなかったんだよねぇ・・・250万ほど」
「え、あの、」
藍花はうろたえながら声を出す。
動揺する彼女に俺は顔近づけ、小声で言う。
「連帯責任って知っている?責任を取れない人は『信用』されないよ」
*******
俺が醜い欲を出して、しばらく経った。
藍花も流石にドン引きしたのか家に来なくなった。
連帯責任を果たそうとしてお金を入れてくれるなら良し。
ドン引きして、俺の前からいなくなるのも良し。
俺に不利益はないはずだが・・・
気持ちがモヤモヤする。
こうなったら最新のゲーム機とか買ってみて
モヤモヤした気持ちを吹っ飛ばそう。
昔はゲームはやっていた方だが
結婚するとなかなかやる機会も時間もなかった。
独身になったんだし、これを期にやってみるかと思った。
俺はATMでお金を引き出す。
そして残高を見て・・・
俺は醜い笑顔を浮かべた。
そして後輩に電話をした。
********
「いやあ悠太さんがゲームをやる人だなんて思ってませんでした。急におすすめのゲーム教えてくれって言われたときは驚きましたよ」
「いや、休日に電話してすまなかったな」
俺はゲームやアニメに詳しい会社の後輩に電話しておすすめのゲームを伝授してもらった。
「いえ、むしろ僕がお礼を言いたいくらいです。
おすすめゲームを教えただけなのに、まさか、ああいったお店に連れて行ってくれるなんて・・・」
「俺は『独身』だ。遊んでも良いんだよ。」
お礼に後輩を夜の店に連れて行った。
これくらいはお礼をしないとな。
「今日はありがとうございました。」
「おう、また仕事でな」
********
家に帰宅した。
そして後輩オススメのゲームを早速起動する。
でもどのソフトからやろうか。
最近はソフトがなくてもダウンロードでできたり、セーブもオートでやってくれるらしい。
ゲーム攻略のヒントも充実しているとか。
俺は久々にやるゲームに夢中になった。
これは異世界を旅する、所謂「RPG」と呼ばれるゲームだ。
スライムって青色以外にもオレンジや緑もいるのか。
こんなに種類がいるとは思わなかった。
村人があの人が怪しいって、なんで怪しいと思ったんだよ!
と久々にやるゲームを俺は心の中でツッコみながら進める。
グラフィックも綺麗だ。
期待していた以上に、楽しい。
それにしてもこのゲームと同じように、藍花も期待以上だった。
『やつ』は仕事までも失ったらしい。
きっとそれは職場にだましているという言葉を真に受けた藍花が、正直に話したんだろう。
『やつ』が足りなかった250万を払うために、俺の口座にお金を入れたんだろう。
それは『連帯責任』を果たせば、復縁できると思っているから。
なんで俺にそこまで縋りつくの知らんが、お金が入るのは悪くない。
藍花がくれた『誠意』は、風俗嬢のショウコちゃんに消えましたよー
バン。
なにかが落ちる音がする。
俺はその音の方向に振り向く。
・・・藍花がいた。
「・・・ごめんなさい」
そう言って彼女は走り去っていった。