2:誠意は言葉ではなく金額
家の前にいる女が不気味すぎる。
なんでだ。
俺に不満があるから不倫して、
そしてあっさり離婚したじゃないか。
あれだけ寂しいからとか
不倫相手の方が優しいとか言ってたじゃないか。
不倫相手が既婚者だからか。
でも俺がきっちり離婚させたはずだぞ。
なぜそっちにいかないんだ?
うーむ。
何がいけなかったんだろうか?
*******
思い返すと不倫相手も舐めたやつだったな。
名前は義人だったかな
「僕が!藍花さんと!不倫!?そんなわけないじゃないですか?
名誉棄損で訴えてやりますよ」
こちらに証拠があることは言ってない。
有利なカードはすぐ切るべきではないと判断したからだ。
「もし!事実だったら!1000万でも!1億でも!はらってやりますよ!
まああなたが名誉棄損でこの僕に!払うんですけどね」
その時はその言葉を録音して退散。
後日、弁護士と共に呼び出して証拠を見せると一変した。
「本当に、申し訳、ありません・・・」
びっくりするくらい手のひらを返してきたな。
慰謝料の話になった。
「100万なら・・・」
『もし!事実だったら!1000万でも!1億でも!はらってやりますよ!
まああなたが名誉棄損でこの僕に!払うんですけどね』
録音を流してやる。
顔が真っ青になる。
「嘘をついた挙句、名誉棄損で訴えると脅したうえに、たったの100万ですか?」
ちょっとこいつの言葉遣いやしゃべり方を真似てしまった。
「自分で言っているじゃないですか。1000万でも1億でもはらうと」
「それは、その場の勢いというか・・・」
あっ、この録音された音声を自分の発言だって認めてくれた。ラッキー。
「じゃあ最低でも1000万ですね。自分の言葉通りにね」
「・・・・・」
録音と証拠のコピーを弁護士さんに預かってもらいその場は一旦解散となった。
後日、義人が俺を近くのファミレスに呼び出した。
「どうか、どうか、減額を」
金額を下げに来たか・・・。
『名誉棄損で訴えてやりますよ』とイキってた君はどこへ行ったのよ。
まったく、慰謝料を払う覚悟もないのに不倫なんてするなよ。
この時は偉人の言葉で助け船(泥船)を出すか。
「誠意は言葉ではなく金額って知ってますか?」
「え、いえ・・・」
「とあるメジャーリーガーの言葉ですよ。」
まあその人は実際にその言葉は言ってないんだけどね。
「あなたは、金額も下げたい、家族にもバレたくない」
「私に家族がいることを知っているのですか?」
「奥様は松下有菜さん。僕は知っていますよ」
「・・・そ、そんな」
義人は絶望した顔をする。
だから加害者が絶望するなってw
「本当はあなたのご家族にもお伝えしたいのですが・・・」
「それは・・・やめてくれ・・・」
「ですが、私も人間です。あなたに騙されている人を見て見ぬふりできないですよ。人としてね」
もっともなことを言ってるようでただこいつを困らせたいだけなんだけどね。
「うう、そんな」
そんな絶望している人に、俺はまた助け船(泥船)を出す。
いいやつか、俺。
「そこでこのメジャーリーガーを見習って、誠意を見せてくれればいいんですけどねぇ・・・」
呟くように俺は言う。
まあメジャーリーガーは「誠意を見せてほしい」といった側だから、見習うも何もないけど・・・。
「騙されている人を黙って見過ごせっていうなら、それなりの『誠意』を見せてほしいですね。」
しばらく沈黙していた義人は何を思ったのか
「家族には・・・黙っていてくれるのか」
と聞いてきた。
そろそろめんどくなってきたから退散するか。
「まあ『誠意』次第でしょう」
「それは実際いくら・・・」
「あなたの誠意!」
俺は、義人が言いかけた言葉をかき消す。
そしてドラマでよくある悪い上司になりきりながら俺は言う。
「期待、していますよ。」
そう言って俺はファミレスを出た。
もちろんファミレスのお金は二人分払ってやった。
こいつの『誠意』に期待だ。