10:不倫した私の勘違い
全力で走った。
悠太の家からにげるように。
何がいけなかったの?
―『俺は職場をだまし続けるやつなんて『信用』できないな』
だから『信用』されるように行動したよ。
正直に職場に話したよ。
正直な私を取り戻させるために職場には敢えて言わなかったんじゃないの?
―『責任を取れない人は『信用』されないよ』
だから正直であるだけじゃなくて『責任』を果たそうと一歩踏み出したよ。
その積み重ねで『信用』されると信じて行動したよ。
『信用』を取り戻す私を待ってくれている。だから待っていてくれているんじゃないの?
ん?
あれ?
『信用』されるって『許される』ことなの?
彼は『許す』なんて一言も言ってない。
彼はただ、『責任をとる』とか、『正直でいる』とか、社会人としての常識を私に説いていただけだ。
不倫して、不誠実で、嘘つきで、責任から逃げた私に。
あの家から引っ越さないってことも、私は都合よく解釈していた。
もう、私は彼に許されない。
もう、元になんか戻れない。
そんな当たり前のことを今更気づいた。
彼はもう新しい一歩を踏み出している。
私が彼をたくさん傷つけたのにそれを乗り越えて。
もう金輪際関わらない。
だけど最後に彼と話したい。
もうこれ以上関わりませんと。
本当にごめんなさいと。
私自身の言葉で伝えたい。
そして私も新たな一歩を踏み出す。
でもそれは叶わなかった。
彼が不倫相手に殺されたから。
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「最初から最後まで身勝手だな。面白」
何かに形容し難い生き物の言葉に一瞬ムッとする。
けれど、死んで冷静になった今振り返ると身勝手だ。
許されると勝手に思いこんで行動しただけなんだから。
「まあでも安心しろ。お前がどんだけ身勝手だろうと、異世界転生はさせてやるからな」
「イセカイテンセイ?」
何だろう、それ。
「ん、まあ『新しい一歩を踏み出す』ってことだよ。
新しい命を得て、今までとは違う世界で生きる的な感じだ」
つまりは生まれ変わるのいいのかしら。
そんなことを思っていると、私の身体が光に包まれる。
「え、何」
私はその光に驚き声を出す。
「椎名藍花よ。転生先での活躍期待しているぞ」
今までの軽いノリだった、何かに形容し難い生き物が威厳のある声を出した。
「それと・・・生まれ変わっても異世界でも不倫するなよ」
余計なお世話・・・。
「あなたって・・・」
「なんだよ。せっかくかっこよくきめたのに」
余計な一言がありましたが・・・。
「あなたって何者なの?」
私は気になったので問う。
「何者・・・ね」
目の前の生き物は独特の間を取りながら言った。
「神だよ」
その瞬間、私の目の前に光が広がった。