最強の竜王じゃが人間の王子如きが妾を子供扱いするのでぎゃふとんと言わせたい! 〜ついでにドラゴンスレイヤーも仕返したい〜
「もはやここまでか……」
心の臓に突き刺さった竜殺しの剣、ドラゴンスレイヤーが妾の力を吸い取っていく。
空中にうかぶ白亜の城から落下していく妾は、今までのことに想いを馳せる。
この世界に生まれ落ちて3000年と少し。
妾は外に出るのが面倒なので、ただずっと山奥に引きこもっていただけじゃのに!
竜族は年功序列制で血気盛んな者が多いため、妾が気がついた時にはすでに竜王になっていた後じゃったからどうしようもなかった。
辞退したい、定年退職したいと申し出たのにあやつらといったら、妾の話とか全く聞かんし……。
まぁ、倒された今となっては……もうどうでも良い話じゃがな……。
それに、死後の世界で引きこもるというのもなかなか悪い話ではないのじゃろうか?
死後の世界に居座るのがダメなら、異世界転生で日本とかいう国に送ってくれてもいいかもしれないのじゃ。
過去に日本から転移して来たものによると、あそこは引きこもりのにとって生活がしやすい国だと聞いておる。
妾もじゃーじとやらを着てゴロゴロしたいのじゃ。
うんうん、そう考えたら死ぬのも悪くない気がしてきたぞ。
それではレッツゴーなのじゃ、カモン死後の世界!
……
……
……あれっ? なのじゃ。
もしもーし!
妾すでに死んでますよー?
神さまどこじゃー?
……
……
……返事がない、ただの屍のようじゃ……。
ふむ、それにしても妙じゃの。
死後の世界って言う割に、どこかで見たことのある景色じゃ。
妾が竜王になって空中城に囚われるより以前の、引きこもっていた山奥に少し似ているような……。
「のわっ!」
目の前に落ちているドラゴンスレイヤーに思わず尻餅をついしてしまったのじゃ。
妾は周囲をキョロキョロと見渡す。
よし、誰も見てないのじゃ……もしこんなどんくさい姿を見られていたら、恥ずかしくてたまらないのじゃ。
それにしても何度見ても忌々しい剣じゃの。
いや、それよりもなんでここにこれが落ちているのじゃ? さっきまで妾の心臓にスポーンと突き刺さっておったじゃろ?
……
……
……!
「わかったのじゃ!」
ここにドラゴンスレイヤーが落ちているという事は、妾に突き刺さっていたの物が落下の衝撃で抜け落ちたという事じゃ!
なんか妾の体に刺さってた奴より何倍も大きい気がするのじゃが……このフォルム、間違いなく妾に刺さってたドラゴンスレイヤーに違いない。
それにこんな竜の天敵が、何本もあってたまるのかじゃ!
「ふっ……ふふっ、ぐふふふふふっ」
妾はドラゴンスレイヤーを指先でつんつんと突く。
よしっ、さわってもどうもないようじゃ!
「何度も何度も、ちくちくちく妾の体に小傷を増やしおって! 本のはしきれで指先を切った時みたいに地味に痛かったのじゃ!!」
妾は恨みを晴らすべく、勢いよく足の裏で剣を踏む。
その瞬間跳ね返った剣先が、膝の上をかする。
「いっ、いたいのじゃぁぁぁああああああ!」
膝を抱えた妾は地面にゴロゴロと転がる。
「ふーっ、ふーっ」
妾は怪我した膝にふぅふぅと息をかける……。
おのれ、ドラゴンスレイヤー!
なんと姑息な剣よ!!
油断した妾にカウンター攻撃を仕掛けるなんて、卑怯にもほどがあるのじゃ!
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」
妾は大きな木の後ろからドラゴンスレイヤーを睨みつける。
「きょ、きょうはこれくらいにしておいてやるのじゃ……! 妾の心の寛大さに感謝するのじゃぞ!!」
そ、そうじゃ、今はそんなことをしている暇はないのじゃ。
妾は再び周囲をキョロキョロと見渡す。
やはり見覚えのあるような……それにしてもこの森やたらと大きい気がするのじゃ……。
ここでふと妾は違和感を覚える。
あれ……? さっき妾が膝に息を吹きかけた時、いつもと違ったような……。
偶然近くにある水たまりに、妾は視線を落とす。
「なっ! なんじゃこりゃなのじゃぁぁぁああああああ!!」
妾の艶やかな鱗と同じ色の白銀の髪に、妾の煌めく瞳と同じ真紅の瞳。
それにこの透き通るような白い肌に、この姿、形……これではまるで、人族のおなごのようではないか!!
「……見間違いかもしれんのじゃ」
そういえば以前、人族の作ったゲームで遊んでいた時、なかなか面白くて一年ほど寝なかった時も同じような事があったのじゃ。
あの時も、数字が二重にぼやけてみえたのじゃが、多分それと似たようなもんじゃろ。
じりっ、じりっ。
妾は恐る恐る、もう一度水たまりへと視線を落とす。
「やっぱり、見間違いなんかじゃないのじゃ……」
それにしてもこの体、どう見ても成人しているようには思えないのじゃ。
体を流れる魔力もドラゴンスレイヤーに吸われたせいで以前ほどではないようじゃし、このような幼子の体では心元ないのじゃ……。
ほーっ、ほーっ。
鳥の声がやたら生々しく聞こえ、日が落ちて来た鬱蒼とした森の先は暗闇で何も見えない……。
「きゅっ、急に不安になってきたのじゃ……」
今、ここで襲われても妾はただの丸腰じゃ。
なっ、なにかっ……はっ!
地面にころがったドラゴンスレイヤーが妾の視界に入る。
「くっ……背に腹は変えられないのじゃ」
妾は地面に落ちたドラゴンスレイヤーを拾い上げる。
「ど、どうやらこの幼い体でも持てるみたいなのじゃ」
手に持ったドラゴンスレイヤーをぶんぶんと振り回す。
「ふふん、ドラゴンスレイヤーよ、妾が使ってやるのじゃ、ありがたく思うといいのじゃ!!」
次の瞬間、発光したドラゴンスレイヤーが妾の体を吹き飛ばす。
「ふぎゃっ」
ゴロゴロゴロゴロ……どしーん!
地面に転がった妾の体は、木にぶつかって何とか止まった。
「くっ、この!」
反撃しようとした妾の体を、ドラゴンスレイヤーが吹き飛ばす。
ゴロゴロゴロゴロ……どしーん!
地面に転がった妾の体は、木にぶつかって何とか止まった。
「ぐっ、もう頭にきたのじゃ!」
ゴロゴロゴロゴロ……以下略。
それから10分が経過した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
もう何度弾き飛ばされた事か。
妾は立ち上がり、再びドラゴンスレイヤーの前に立つ。
「こうなれば最終奥義じゃ……」
煌めいた妾の瞳に、ドラゴンスレイヤーは息を飲む。
時間にしてほんの0.00000001秒の刹那の時間。
強者と強者だけが交わる事のできる駆け引きの世界。
先手をとった妾は、迷わず地面に頭ごと突っ伏した。
「ドラゴンスレイヤーさん、すみませんでしたのじゃー、だから妾にっ……妾に、ドラゴンスレイヤーさんを使わせてほしいのじゃー」
妾は汚泥に膝をつき、躊躇いもなくおでこを地面に擦り付ける。
これは人族でいう最上級の礼、土下座という奴じゃ。
理屈はよく分からぬが、若い竜たちに聞いた話によると人族における大抵のことは土下座でどうにかなるらしい。
剣に人族のルールが通用するかどうかはわからんが、そんなこまけーことは気にしないのじゃ、だって妾竜王じゃし。
この姿はどこか屈辱的な感じはするけど、今は背に腹は変えられないのじゃ。
ちらり。
妾がこっそりとドラゴンスレイヤーの様子を伺うと、チカチカと発光している。
これは使っても大丈夫という事なのじゃろうか?
妾は恐る恐るドラゴンスレイヤーの柄を掴む。
「やっ、やったのじゃー、これで勝つるのじゃー」
がさっ
ガサガサっ
「なんじゃ?」
草の擦れる音の方向に妾はドラゴンスレイヤーを向ける。
それからしばらくして、何人かの人族が妾の前に現れた。
「……なんだガキかよ、びびらすんじゃねぇよ」
髭ズラの男がボリボリと頭を掻き毟る。
こやつ……人族かと思ったが風貌からしてもしかしてオーガか?
「おいおいおい、なんだガキかよじゃねぇよ、よく見ろよ、かなりの上玉じゃねぇか」
髭ズラの男に続いて奥から現れた男の1人、ヒョロ長い男が舌なめずりをする。
ぶるっ……何だかよく分からんが、こやつは生理的に嫌じゃ……。
「おい、こんな年場の行かぬガキに何言ってやがる?」
髭ズラの男は隣のひょろ長い男の肩を掴む。
「おめーこそ冗談は顔だけにしろよ、おれはヤるぜ!」
8、9。10……全部で10人か。
ドラゴンの姿の妾であれば何の問題もないが、ちと厳しいかもしれんのじゃ。
「聞いていた話と違う、それなら俺はここで抜けさせてもらうぞ」
「へっ! 今更正義ぶってんじゃねぇよ!」
ひょろ長い男は、隣の髭ズラの男に斬りかかる。
おおっ!? よく分からんが仲間われか?
髭ズラの男はひょろ長い男の攻撃をかわすと、妾を守るように背中を向けた。
「くそったれが……。おい、嬢ちゃん! さっさと逃げろ!!」
「断るのじゃ! 妾の力をとくと見よ人族のオス達よ!!」
このような弱っちそうな人族を相手に逃げ出すとは竜族の恥、まして妾は自らが望んだわけではないとはいえ腐っても竜王なのじゃ。
妾はドラゴンスレイヤーを振りかざしてひょろ長い男に斬りかかる。
「あらよっと」
後ろに一歩飛んだ男に、妾の攻撃はあっさりと交わされた。
ぐぬぬぬぬ、回避するなんて卑怯なのじゃ!!
妾は地面に突き刺さった剣を引き抜こうとしたが、めり込んでなかなか引き抜けない。
「へへっ、飛んで火にいるなんとかって奴だな」
ひょろ長い男が妾の腹を蹴飛ばし、地面に仰向けになるように倒れた。
男はすぐさま妾の両手を掴み、地面に貼り付ける。
「やめるのじゃ! 気持ち悪いのじゃ!!」
「うるせぇな、すぐに気持ちよくなるから黙ってろ!」
髭ズラの男がひょろ長い男を止めようと、身を前に乗り出す。
「やめろ!」
「うるせぇ! 一歩でも動いてみろ、このガキぶっ殺すぞ!!」
ひょろ長い男の一言に、髭ズラの男はたじろいだ。
動け! 動くのじゃ妾の体よ!
妾は体をジタバタと動かすが、うんともすんともこの男を振りほどけない。
このような気持ちの悪い男に、高貴たる妾の純潔を捧げてたまるものか!!
その時であった、聞き覚えのない声が森の奥から聞こえる。
「少女よ、ほんの少しの時間でいい、目を閉じていてくれ……」
「誰じゃ? どう言うことじゃ?」
打つ手のない妾は大人しく命令通りに一瞬目を閉じるが、気になってすぐさまに目を開いた。
その瞬間、妾の目の前を一筋の光が貫く。
「えっ?」
光の筋はひょろ長い男の首を落とすと、流れるような動きで次々と盗賊を屠っていった。
あっという間に男たちを斬り伏せた男は、白いマントを翻しこちらに振り向く。
「ほぅ!」
月の光よりも明るい金の髪に、全てを吸い込むような深淵の青の瞳。
そしてそれ以上に内面に流れる魔力の美しい流れに、身にまとう気迫と気高さ。
男の完成された美しさに思わず妾は感嘆の声を漏らした。
人族にしておくには勿体無いのぉ……
こやつが竜族であれば妾の番いに相応しかっただろうに。
「私の名前はマクグレース王国、第3王子アンゼル・ロバート・アレグサンダー、君の名前は?」
妾は立ち上がると何とかドラゴンスレイヤーを引き抜き、空に向かってかっこよく突き上げる。
「聞け! 妾の名前はアリスティディス、竜族の王にして全ての生物の頂点! 高貴なる妾の前にこうべを垂れるが良いぞ人族の子よ!」
ふふん、人族の子め、妾の神々しさに当てられて目が点になっておるわ!
「え、えーっと……アリスティディス……さん?」
この時、妾は閃いたのじゃ。
死後の世界に行くことも、異世界転生も果たせなかったが、それならば人族の世界で暮らしてやるのも悪くないかもしれんと。
ぐふふ、さすが妾じゃ、頭の出来が違う!
幸いにも人族の王子であれば金もあるだろうし、妾が命じればぐーたら生活を送る事もできるじゃろ。
「ふむ……妾を助けたお主には特別に、そう特別にじゃぞ、アリスと呼ぶことを許可してやるのじゃ」
相手が男なのもちょうどいいのじゃ。
先ほどの男たちのように妾の魅力に人族の男などイチコロなのじゃ!
「コホン……アリスさんはどこの子なのかな?」
アンゼルは妾の前に跪くと、持っていたマントを妾の体にかける。
ふむ、さっきまですっぽんぽんで寒かったのじゃが、この男、なかなか気が利いておるのじゃ。
「ふむ、妾の居城はここより遥かに上、天空城なのじゃ!」
ふはははははは、人族の子よ、ますます目が点になっておるわ!!
そんなにびびらなくても、妾はお主をくったりせぬぞ?
「へぇ……なるほど、迷子か……」
アンゼルはなにかをポツリと呟く。
むむっ、聞き逃したが、お主なんか不敬な事を言わなかったか?
「まぁいい、それよりその姿、男達に何か……いや、こう言うことは女性が聞いた方がいいな。すまないが私と一緒に街まで来てもらえないだろうか?」
街じゃと!? 確か妾がいた時には街なんかなかったはずじゃが……。
妾は唇に人差し指を当て過去の記憶を探る。
ううむ、なにぶん1000年近く前の事じゃからな。
人ならば1000年もあれば街くらい作れるのじゃろうか?
人族の事はよく分からんのじゃ。
「ごめん……さっき男達に怖い目にあったばかりだから、君が警戒するのもわかる。それでも私は君をここに置いていくわけにはいかない」
肩を握るアンゼルの手に力が入る。
先ほどのひょろ長い男と違って、こやつに触られるのはそう嫌ではないのじゃ。
そんな事を考えてると、奥から似たようなマントを羽織った男達が現れる。
「殿下! 一人で突っ走りすぎですって……護衛を置き去りにしたら俺らの意味がないっすよ」
「すまない、だが、ゆっくりとしている余裕はなかったのだ」
なるほど、どうやらこいつらは王子を守るための護衛の騎士とやらじゃな。
「それと、途中でこいつを捕まえたのですが……」
騎士は髭ズラの男を指差す。
そういえば、こいつもいたのじゃ。
どうやら妾達が話してる隙に逃げたみたいじゃが、この者達に捕まったのじゃろう。
まったくもって隙のないアンゼルとか言う男が、見逃していたから不思議に思ったのじゃが、なるほど護衛の騎士達がいたからなのじゃな。
この髭ズラの男は勇敢にも妾を逃がそうとした、誇りあるオーガ族の男。
竜族の長として後で礼を言わねばならぬの。
「そいつとここに倒れてるのも数人は息があるはずだから、連行と尋問はお前達に任せる」
そう言うとアンゼルは、妾を抱きかかえた。
「なっ、なにを!!」
未婚の女を抱きかかえるなどと……なんて破廉恥な男じゃ!!
「すまない、だがせめて、街に着くまでこの俺に君を運ばせてほしい」
む、むぅ……まぁ、悪い気はしないのじゃ。
この男に触れるのは本当に嫌ではないし……いいじゃろう。
「特別……特別なのじゃからな」
「あぁ、ありがとう」
ふふん、この嬉しそうな顔よ。
さてはこやつ、妾に惚れておるのでは?
先ほど妾の裸体を見た時も目をそらしておったし、心なしか顔が赤らんでいた気がするのじゃ。
これはきっと妾に懸想しておるに違いないのじゃ。
さすがは妾、なんと罪作りな女なのじゃ……幼子の体とはいえ、妾の溢れ出るふぇろもんは隠せなかったようじゃな。
この時の妾は気づいてなかったのじゃ。
アンゼルは妾の事をレディとして扱っていのではなく、ただの子供として扱っていた事に……。
そして妾は知らなかったのじゃ。
人族の中で妾に欲情する男は、人の中でもロリコンと呼ばれる種族だけなのじゃと……。
お読みくださりありがとうございました。
好評であれば続きます。
追記、連載版はこちら
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