作戦会議 前編
翌日、僕達は昨日と同じように訓練を始めた。今日の訓練もほとんど人が昨日の訓練と内容は同じだった。しかし、イケメンのようなクラスメイトの中でも突出して強い人達は昨日の訓練とは違う特別な訓練を受けているらしく、僕達と同じ訓練場にはいなかった。ちなみに花蓮もその1人に選ばれたらしい。
僕達はいつものように訓練を終えて部屋に戻っているときに花蓮達と鉢合わせになった。
「お、新田たちじゃねぇか」と声をかける男がいた。男の名前は諸星満だ。容姿も成績も身長も何もかもがクラスの真ん中ということである意味学校では有名は男だ。
「昨日の訓練とは比べものにならないくらいキツかったよ」
「ふーん。具体的にどんな感じだったんだ?」
「僕以外の人は同じ職業の人達とひたすら1対1の実戦形式を1日中やってたよ。僕は同じ職業の人がいなかったからトールさんとやってたよ」
「お、おう、大変だったな」
そんな感じで特別組と普通組は会話をしながら食堂へ向かった。
僕は花蓮と一瞬目が合ったが花蓮はすぐに僕から目を逸らした。
夕飯の時間は召喚初日とは違い、クラスメイト達が会話をしながら楽しく食べている。僕達がちょうど食べ終わった時に食堂のドアが開き、外から金髪近眼でスタイル抜群の美少女が入ってきた。彼女はこの国の第1皇女であるアイズ=ホルアドだ。年齢が僕達と同じということもあってか僕達は彼女とは話す機会が多い。彼女は全員がいるのを確認してから
「皆様に連絡があります。5日後に予定されていたホルアド迷宮での実戦形式の訓練ですが、それの実施を明後日に変更したい思っております」
その言葉にクラスメイトはざわめき始めた。それをイケメンが静めた後
「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」とアイズに質問した。
「もちろんです。最近魔人族の活動が活発になってきているからです」
「活発になっているとは具体的にどのような風にですか?」
「我々人族と魔人族には明確な国境というものが存在はしています。それは人族と魔人族の大陸を2つに分かつトラス川という大きな川です。基本的に魔人族はこのトラス川を魔獣に乗って超え攻めてきます。現在、魔人族の何人かが我々の大陸への侵入を試み、そして、残念なことに我々はその魔人族達のうちの、3人の侵入を許してしまいました。何故、彼らが今になって侵入を試みてきたかはわかりませんが、もしかしたら、彼らは皆様が召喚されたことを知り、侵入してきた可能性も否定できません。そして、彼らがここに攻めてくる可能性もあります。だから、皆様にはそういった事態に備えてなるべく早く力をつけていきたいということで今回の実戦形式の訓練を明後日に変更することになりました。急に変更したことはお詫びします」
アイズの丁寧な説明に納得したのかイケメンは爽やかな笑みを浮かべながら
「わかりました。そういうことなら仕方ないですね」と変更に納得の意を示した。
アイズは僕達が納得したことにホッとしたような表情になって
「ありがとうございます」と一言お礼を言って食堂を出て行った。アイズが出て行ったのを見て、イケメンが立った。
「みんな聞いてくれ!明後日の訓練だが、全員で陣形を組みたいと思ってる。ステータスが高い人が前線に立ち低いものほど真ん中に行くという陣形だ。こうすれば、ステータスの低い人も怪我するリスクが減る。どうかな?」
イケメンは全員を見渡し確認を取った。
その確認に「いいんじゃねぇか」「たしかに悪くないな」など大半が賛成だった。しかし、反対の者もいた。そして、反対意見を言ったのはイケメンの取り巻きである雨宮だった。
「私は反対。たしかに怪我とかをするリスクは減るかもしれないけど、その反面ステータスの低い人達がステータスを上げる機会を奪ってしまうというデメリットがあるわ」
まったくもってその通りである。雨宮の反対意見を聞き、
「たしかに」「全員のステータスが上がらないと意味がないよな」などイケメンの提案した陣形に反対する人が出始めた。
「みんな待ってくれ!僕はただみんなを危険に晒したくなくて」
イケメンの説明を雨宮は遮った
「裕也、ステータスのもともと高い人がさらに高くなったとしても、そんなに高くなかった人はあまり上がらないのよ?この先のことを考えるならそこまで高くない人にも戦わせるべきだわ」
雨宮の完璧な説明でイケメンは完璧に黙った。
そして、少し黙考した後
「わかった。理彩の言う通りにしよう」
イケメンは雨宮の意見を肯定し
「じゃあ、みんな今から陣形を決めたいと思う」
そう言って食堂にて明後日の訓練の陣形の話し合いが始まった。
「まず、前線だが基本的には僕、理彩、武也の3人で行こうと思う。怪我などをした又は魔力が危なくなったら堀内の回復魔法で怪我の治癒又は魔力の回復をしてもらうけどいいかな?」
そう言いながらイケメンは花蓮より少し濃い色をした茶髪をショートヘアにしている少し身長の小さい少女に確認を取った。
彼女の名前は堀内知里。おそらく元気の良さだけならクラスで1番だろう。イケメンの取り巻き2人には及ばないがよくイケメン達と話す数少ないクラスメイトの1人だ。
彼女は満面の笑みを浮かべて
「任せて!」と言った。
イケメンはその返事を聞いた後、話を再開させた
「次に僕達の後ろで支援する人達だが合計で3人にしたいと思う。その3人は堀内、津ノ田、神村で行きたいと思うけどいいかな?」
そう言いながらイケメンはさっき確認を取った堀内を除いた2人に確認を取った。花蓮は
「もちろんよ!」と言っているがもう1人の方の男はは少し自信なさげだった。その男だの名前は神村一郎。少し長めの黒髪に女と思われてもおかしくない中性的な顔立ちをしていて、いつも自信なさそうな顔をしている。ちなみに職業は堀内と同じ治癒師だ。
「ぼ、僕にそんな大事な役目が務まるかな…」
そんなふうに神村は言っていたそんな自信なさげにしている神村にイケメンは
「大丈夫!神村ならできるよ!」
そんな感じでイケメンは神村を励ましたが
「で、でも僕は新田君みたいにステータス高くないし」
「ステータスじゃないさ。君の職業を見て支援組に回そうと思ってるんだ」
「新田君みたいに怖いもの知らずじゃないし」
「俺だって怖いものがないわけではないよ。それでも立ち向かわなくちゃいけないから戦うんだよ」
「新田君みたいになんでも成功すると思えないし」
「ん?」
「新田君みたいに自分そんなに高評価できないし」
「え?」
(あ、始まった)
そうこれが神村のもう1つの特徴である。意図せずに他人にいつのまにか毒を吐いているのである。そして、どんどん神村のナチュラルポイズンによってイエメンのメンタルが崩壊されていくのを見かねた雨宮のやれやれと言うふうに首を横に振ると
「神村君。別に失敗したって構わないわ。あなたの失敗は私達が全力でカバーするから」と雨宮は神村に言った。
「ほ、本当に?」
「えぇ、本当よ」
そんな会話をし、神村は納得したのか
「わ、わかった。出来る限りやらしてもらうよ」と言った。
イケメンはなんとかメンタルの完全崩壊を免れて再び話を始めた。
「次に背後からの攻撃に備えて陣形の1番後ろに5人いてもらいたい。俺はその5人を立石、向井、羽島、折川、前田にしたいと思うんだけどいいかな?」
それを聞いて最初に返事をしたのは明るい茶髪を少し立たせた男だった。男の名前は立石純。陽気な性格の持ち主で指名された他の4人ととても仲が良い。ちなみ立石だけが4人と仲がいいわけではなく指名された5人全員がお互いに仲が良く学校でもあの5人組はいつも一緒にいたイメージがある。そして、あの5人はサッカーなどの団体競技を行うと全国一を取れるのではないかと思うくらいにコンビネーションが良い。それを踏まえてイケメンはあの5人を指名したんだろう。立石の返事に他の4人も返事をした。それを確認したイケメンは話を再開させた。
「次に迷宮に複数あるとされるトラップの位置の特定を担当するのを金井にやってもらいたい」
そう言いながらイケメンはメガネをかけた黒髪で少し目つきの悪い男を見た。男の名前は金井充。目つきは悪いが性格はとてもよい。さらに観察眼が優れており彼の職業が鑑定士と分かったときはみんなが納得するほどに優れている。金井はイケメンを見返すと
「わかった」と短く返事を返した。イケメンはそれに頷くと話を再開させ
「次に司令塔を決めたいと思う」
「新田でいいんじゃねぇのか?」
と脳筋がイケメンを推した。しかしイケメンは
「いや、俺は頭がいいわけではないからこういう役割には向いてないよ。そこで俺は1人司令塔に推したい人がいるんだ」
「誰だ?」
その質問にイケメンはある男に視線を向けた。自然とみんなもその男に集まる
「頼まれてくれないかな?」
みんなの視線の先は
「早坂」
そう僕だった。僕は一瞬思考停止した。そして、出た言葉が
「ん?聞き間違いかな?」
という言葉だった。