暗雲
翌日、僕らは朝飯を食べた後、ある部屋に全員集められていた。トールは全員いることを確認し、
「これより君達に自分の能力やスキルを確認するためのステータスプレートへの登録を行ってもらおうと思う。やり方は至極単純で真ん中の光に手をかざすだけでいい、手をかざすとそこに繋いであるステータスプレートが勝手に君達のステータスを表示してくれるようになる。ステータスが完全に表示されたら私にステータスを見せてくれ。ステータスには自分の名前の下に職業というものがある。職業は自分に1番合ってる役割を表してると思ってくれ、なお職業を変更することは不可能だ。次にステータスは体力、筋力、耐久、敏捷、魔力の5つに分かれている。体力はなくなっても死ぬことはないがしばらくはその場から一歩も動けなくなる。筋力は高ければ高いだけ重い武器や物を持てるようになる。特に打撃系の職業であった人はこれの高さによって与えるダメージも変わってくる。耐久高ければ高いほどは相手から受けるダメージを減らすことができる。敏捷は高ければ高いほど移動スピードが速くなる。最後に魔力だが魔力は高ければ高いほど魔法を多く打てる。ちなみにこの世界の基準で行くと初期のステータスは最高でもオール150くらいだ」とステータスプレートの登録仕方やステータスの説明などを説明してくれた。トールは全員が理解したのを確認して
「それで誰から登録するんだ?」と聞いた。
すると1人のクラスメイトが手を挙げた。案の定、イケメン君である。
「俺から行きます」と言い、手をかざした。どうやらプレートにステータスが表示されるのも早いらしくすぐにイケメンはトールにステータスを見せた。トールはイケメンのステータスを見ると
「こ、これは…」と驚嘆の声を上げた。クラスメイトはイケメンのステータスが気になりイケメンの周りに集まった。ちなみに僕も気になったので行ってみた。イケメンのステータスはこんな感じだ、
新田裕也
職業:勇者
筋力:3000
体力:2500
耐久:2000
敏捷:3000
魔力:8000
スキル
洗脳、剣術の極意、魔法の極意、戦略の極意、
変幻、錬成の極意、限界突破、人族特攻、
魔人特攻、全属性耐性、言語理解
魔法
初期魔法、下位魔法、中位魔法、上位魔法、
合成魔法、強化魔法、洗脳魔法
一般人で最高でオール150ということは、これはチートどころではなくもうただの化け物である。正直、こんなに強いなら1人で魔人族を倒しに行って欲しい。それと勇者が洗脳系のスキルを持ってるのはどうなのだろうか…
次に手を挙げたのは黒髪をツインテールにした凛々しく、整った顔立ちの少女だった。彼女はイケメンといつも一緒にいる2人のうちの1人である雨宮理彩だ。雨宮も手をかざして、ステータスプレートを登録し、トールにステータスを見せた。トールはまた驚嘆の声を上げた。その声でまたクラスメイト達はステータスを見に行った。陽キャラの力は恐ろしいものだ。雨宮のステータスはこんな感じだった。
雨宮理彩
職業:剣術家
筋力:900
体力:1000
耐久:850
敏捷:2500
魔力:600
スキル
剣術の極意、武器破壊、集中、縮地、
限界突破、言語理解
魔法
初期魔法、下位魔法
イケメンより大きく劣るもののやはり化け物には変わりはない。
次に手を上げたのは背の高い大柄男だった。剛田武也だ。こいつもイケメンといつも一緒にいるうちの1人だ。そして、脳筋である。もはや救いようのない脳筋である。もう1度だけ言おう脳筋である。脳筋も同じように手をかざし、ステータスプレートを登録し、トールに見せた。トールはまた驚嘆の声を上げた。3回目なんだからステータスがチートなのにも慣れろよ。そして、また、クラスメイト達が集まった。
「マジで陽キャラって恐ろしいよな」と横で一ノ瀬が言った。僕もそれには同意見だったので
「あぁ、そうだな」と言った。ちなみに脳筋のステータスはこんな感じだった。
剛田武也
職業:格闘家
筋力:5000
体力:1000
耐久:1000
敏捷:250
魔力:250
スキル
体術の極意、異常耐性、魔力消費量上昇、
言語翻訳
魔法
強化魔法
まぁ、化け物なのだが何故か脳筋には言語理解ではなく、言語翻訳というスキルがあった。そこで脳筋が衝撃の告白をした。
「実は俺最初にあの王様とかが何言ってるかわからなかったんだよな」とイケメンはそれを聞くと顔を引攣らせながら
「そ、それは言ってることの意味がわからなかったってことかい?それとも単に聞き取れなかったってことかい?」
脳筋はイケメンの質問に怪訝そうな顔をして
「そりゃあ、聞き取れなかったに決まってんだろ」
クラスメイトはもう何も言えなかった。脳筋はケラケラ笑いながら
「いやぁ〜、今も少し聞き取れないがある程度は聞き取れるようになったぞ!」と言った。
流石脳筋僕達には出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れる!
まぁ、もちろん冗談だが、とりあえず脳筋は異世界に来ても脳筋ということはわかった。ちなみになんとか調子を取り戻したイケメンが
「ま、まぁ、とりあえず聞き取れるようになってよかった。これから頑張ろうな…」
「おう!」
その後もクラスメイト達は次々とステータスプレートに登録した。
ちなみに一ノ瀬のステータスはこんな感じだった。
一ノ瀬雄大
職業:盗賊
筋力:500
体力:250
耐久:200
敏捷:3000
魔力:500
スキル
気配遮断、格上特攻、抜き足、高速移動、投擲、同化、言語理解
大体クラスメイトのステータスの平均はオール250ぐらいだった。だから、一ノ瀬のステータスはほとんどが平均程度なのだが職業が盗賊なだけに敏捷がおかしかった。イケメンと同じとかマジでおかしいと思う。ちなみに花蓮のステータスはこんな感じだった。
津ノ田花蓮
職業:結界師
筋力:300
体力:350
耐久:400
敏捷:300
魔力:5000
魔力が明らかにおかしかった。イケメンには劣るもののそれでもおかしい。ちなみに肝心の僕のステータスはこんな感じだった。
早坂晃樹
職業:無職
筋力:100
体力:100
耐久:75
敏捷:250
魔力:150
スキル
聖剣の極意、転職、集中、言語理解
魔法
初期魔法
なんというか、ツッコミどころが満載すぎるステータスだった。まず、僕がこのステータスを見て
(無職ってなんだよ!?無職って!?僕は職無しなの!?トールにすら無職など初めて見ると言われたよ!それで無職がどんな職業かステータスプレートを使って詳細を見てみたら、特に無しだ?ふざけるな!しかもステータス低すぎだろ!?あり●れの主人公じゃないんだからそんなにステータス低くなくてもいいよ!ていうか耐久に至ってはこの世界の人の平均である100にすら届いてないわ!スキルもスキルだ!聖剣の極意が役に立つかなと思って詳細を見てみたら、勇者が聖剣を所持時のみ、ステータスが普段の100倍跳ね上がるだと?僕は勇者じゃないし!ていうか職をもってすらいないよ!)
僕はそんなふうに心の中で叫んでいた。
ちなみに集中とはスキル自体の効果を少し上昇させるスキルらしい。そして、転職というスキルは魔力を半分使う代わりにしばらくの間どんな職業にもなれるというスキルらしい。僕が使い所がありそうだと思ったスキルはとりあえずこの2つだけだった。だが、僕はこの後転職というスキルの欠点にすぐに気づくことになった…
ちなみにこのステータスをトールに見せた時にトールからは憐れみの目を向けられ、クラスメイトには笑われ、一ノ瀬と花蓮には本気で心配された。なんというか、すごく虚しい気分になった。トールは全員のステータスをメモすると
「よし!では全員ステータスプレートへの登録は済ませたな。では、これより訓練場に出て訓練を始める!」と訓練開始の宣言をした。
訓練は初日というだけあってそこまできついものじゃなかった。ちなみに訓練をすることによってステータスも少し上がるらしいが、やはりモンスターを倒した方が上がる量も違うらしい。ちなみに異世界から来た僕達はステータスの上がりもチート級らしい、試しに1時間訓練した後の休憩時間で一ノ瀬にステータスプレートを再び見してもらうとステータスが合計で100上がっていた。この世界の住人は僕達と同じ訓練を1ヶ月続けることでようやくステータスが合計100上がるらしい。そうなると、一ノ瀬は1時間でこの世界の住人の1ヶ月分の訓練をしたことになる。さらにイケメンに至っては合計300オーバーらしい。たださえステータスが高いのにステータスが上がるのもクラスで1番とかもうマジで1人で魔王倒しに行けよ。ちなみに僕は何も変わっていなかった。なんというか、ステータスの高さとステータスの伸びのスピードが比例してるような気がする。なんて不平等な世界だ。昔の日本でさえもこんなに不平等な世界じゃなかったのに…
僕達はなんの問題もなく1日目の訓練を終了した。イケメンは1日目の訓練で合計800オーバー上がったらしい。
(マジで化け物だな。てか、名前なんだっけ?)そんなに風に思いながら僕は部屋に戻り、自分のステータスプレートを確認した。僕のステータスは合計25しか上がっていなかった。一応、ステータスの伸びのスピードはこの世界の住人より早いらしい。それでも僕以外のクラスメイトは少なくても合計100は上がっている。
(なんで、僕以外はみんなチートなんだ?神のことを無能神って読んでるからか?)
そんなこんなで僕にとっては散々な1日だった。
僕はそんなことを思いながら風呂や、夜飯を済ませてさっさと寝る準備をしようとした。他のみんなはまだピンピンしてるけど僕は他のみんなより体力のステータスが低いためみんなより疲れやすいのである。僕はベッドに入って寝ようと思ったが、寝転がった瞬間に部屋のドアがノックされた。僕がドアを開けると部屋の前にいたのは白いワンピースを着た花蓮だった。僕は花蓮が部屋に来た理由がわからなかったので
「どうした?」と花蓮に聞いた。花蓮は何故か僕から目を逸らしながら
「あ、あんたのステータスどうだったの?」と聞いてきた。僕が花蓮のステータスを知ってたのはトールが驚嘆の声を上げてクラスメイトが集まってったときに見ただけ、花蓮に見せてもらったわけではない。
(ていうか、トールとクラスメイトの行動がワンパターンすぎるんだよな。チートなの知っててなんで驚嘆の声上げまくるんだよ)と僕は思いながら
「う、うーん。クラスメイトの中だとダントツで低かった」と答えた。花蓮はそれを聞いていつもの花蓮では想像もつかない顔をした。その顔は顔にごめんと書いてあるような顔だった。
(そ、そんな顔で見ないでもらいたいんだけど、トールにもそんな顔されて結構傷ついたんだよ?僕のライフはもうゼロだから)と思っていると
「あ、あんたのステータス見せてもらってもいい?」と花蓮が聞いてきた。僕はあまり見せたくなかったが、特に断る理由もなかったし、花蓮になら見せてもいいと思ったので見せることにした。花蓮は僕からステータスプレートを受け取り、ステータスを確認した。確認していくうちに花蓮の顔はみるみる青ざめていった。花蓮は僕にステータスプレートを返すと
「色々と言いたいことがあるから部屋に入れてもらっていい?」と聞いてきた。僕はそこでやっと僕と花蓮が部屋の前で話していたことに気づき、花蓮を部屋に入れた。花蓮は昨日と同じように暖炉の近くの椅子に座ると
「まず、なんで職業ってところが無職になってるの?無職っていう職業なの?」と聞いてきた。
まぁ、ごもっともな質問だと思う。
「僕自身もなんで無職になってるかわからないんだよね。それと無職の能力が特になしと書かれていたから多分、そのまんまの意味だと思う…」
花蓮はため息を1つした後の
「じゃあ、なんであんなにステータスが低いの?あんたそこまで運動できなかったわけでもないわよね?」
「うーん。確かにそうなんだけど、ステータスが低いこともなんでかわからないんだよね…」
花蓮はまた1つため息をつくと
「魔法の方はまぁ初期魔法しか使えない人が他にもいたし、別にいいとするけど、スキルはかなり豊富なんじゃない?特に聖剣の極意とか」と言ってきた。
まぁ、最初に見た人はみんなそう思うだろうけど
「聖剣の極意は勇者が聖剣を所持時のみ、ステータスが100倍になるスキルだ。僕の職業は無職。つまり勇者じゃない…」と僕は言った。花蓮はまた僕に申し訳なさそうな顔をした…
「そ、そう。じゃ、じゃあ、転職ってスキルは?」
「転職というスキルは自分の魔力を半分使うことによって一定時間他の職業に慣れるというスキルだ」
「ま、まぁ、まだ汎用性があってよかったじゃん」と言ってきた。
花蓮はまだ僕のこのスキルの欠点に気づいていない。
「ちなみに転職によってなった職業は半分なった魔力でやりくりしなくちゃいけない。しかも、スキルとかが付くわけではない」
花蓮はまた申し訳なさそうな顔をした。
(なんか、説明してるこっちが罪悪感が湧いてきた…)
「そ、それじゃあ、転職しても意味ないじゃない…」
「まったくもってその通り…ちなみに集中というスキルはただ、スキルの効果をちょっと上げるだけらしい」とついでに最後のスキルのことも説明した。花蓮は僕のステータスの話を全部聞き終えると、花蓮は何故か頰を少し赤らめながら
「晃樹。昨日私がしたお願い覚えてるわよね?」と聞いてきた。昨日のお願いとは花蓮が僕に死なないでと言ってきたアレである。僕はもちろん覚えていたので
「もちろん覚えているよ。それがどうしたの?」
「わからないの!?こんなステータスじゃ魔人族どころか、訓練一環として行くことになってるホルアド迷宮のモンスターに殺されるわよ!?死なないでっていう私のお願いを守る気があるならずっと城に残ってて!私達が魔人族を倒してくるから!」と言った。
確かに花蓮の言うことがわからないわけではなかった。
「確かに花蓮の言ってるように僕はずっと城に居るべきかもしれない。そうすれば、死ぬ可能性は限りなく低いかもしれない。でも、それはみんなへの裏切りだと思うし、僕もそんなことはしたくないと思う。だから、ごめんな花蓮。花蓮の言うように僕は城に残ることはできない」と言った。花蓮はそれを聞くと泣き出した。そして、泣きながら僕に
「なんで!?なんでわざわざ死にに行くようなことをしようと思うの!?死なないって約束したじゃない!」
「別に死にに行こうとかそんなことを思ってるわけじゃないよ。もちろん、こんなステータスの低い僕が戦いに行っても死にに行くようなものだとみんなからは思われるかもしれない。でも、僕は死にに行く気なんて毛ほどもないから。それでももし僕が死にそうになったら結界師である花蓮のチートなステータスで僕を守ってくれないかな?」
花蓮はそれを聞くと目をぱちくりしながら
「わ、私が晃樹を守る?」
「うん。こんなの男が言うようなことじゃないかもしれないけど僕は弱いから花蓮が守ってくれない?」
花蓮は何故か僕から急に目を逸らしながら
「し、仕方ないわね!わ、私があんたを守ってあげるわよ」
「ありがとう」
花蓮は頰を少し赤らめながら
「う…べ、別にあんたのためじゃないんだからね!」
「あ、うん」
「じゃ、じゃあ私そろそろ部屋に戻るから」と言って花蓮は部屋を出ていった。僕は花蓮が帰った後すぐにベッドに入って眠りについた。
私、津ノ田花蓮は幼稚園の頃からずっと早坂晃樹とは家が隣同士でよく一緒に遊んでいた。
私は今さっき晃樹に自分を守って欲しいと言われた。あれを言われた時はとても嬉しかった。なぜなら私は小さい頃から晃樹に助けられてばかりでほとんどその恩返しをできていなかったからだ。
「絶対に死なせないんだから」と私は部屋に戻って小さい声でそう言ってから眠りについた。
晃樹と花蓮が部屋で話している間、あるクラスメイトは1人部屋である者と連絡を取っていた。
「以上がこの地に召喚された者たちの名前とステータスです。ほとんどの者が初期のステータスでは有り得ない強さを兼ね備えています。特に勇者は全ステータスが四天王級であり、ステータス伸びも考えると四天王のステータスなどあと1週間もあれば超えることでしょう。だが、その勇者はおそらく戦争という者を知らない甘っちょろいガキです。おそらく勇者は貴方様の手を煩わせるような者には成れないと思います。それよりも警戒すべきは剣術家です。おそらく奴は戦争というものが人同士の殺し合いだということをよく理解してると思います。だが、ステータスが勇者ほど高くはなく、上がっても四天王と同じかそれ以下でしょう。しかし、不測の事態も有り得るかもしれないので少しずつ警戒をすべきです。私の定時連絡は以上です。」
「ご苦労であった。しかし良いのか?仮にも10年以上苦楽を共にした友ではないのか?」
「冗談はおやめください。我々の忠誠は貴方様だけのものであり、それは私も例外ではありません。それを承知して貴方様も自分の魔力の大半を使って私をあの世界に送り込んだのでしょう?」
「ふん、なにもかもお見通しということか。面白い。だが、あれを行なったせいで我の魔力はまだ半分も回復しきっておらぬ。だから、次のおぬしの任務だが、あやつらが我々との戦争を始めるのを出来るだけ引き延ばしてるくれ、頼むぞ」
「御意に我が王よ」と言うとそのクラスメイトは連絡をやめたのか独り言を言い始めた。
「少し面倒な任務ですね。でも、私の手にかかればこの程度造作もありません。しかし、私の正体を明かした時のクラスメイトの顔が気になりますね。それはもう、絶望の表情をしてくれるでしょう。クフフフフ…」とそのクラスメイトは不気味に笑い続けた。