第91話 ロマリア女公爵領
―― シルバーノア・自室 ――
次の領地に向かう途中、少し疲れたので仮眠を取っていると、フィーナの声で目を覚ました。
「ねぇ、そろそろ着くわよ。起きてってば」
「ん~。もうそんな時間なのか?」
ソファーで寝ていたので、体を捻って座り直すと、「あ~ぁ」と体を目いっぱい伸ばす。
「普通に起こしてくれてありがとう。ひょえ!」
思わず、アルムさんバリの素っ頓狂な声をあげてしまったのは、ばっちりと化粧をしている、フィーナとアイリーンが仁王立ちしていたからである。悪戯ではないのは分かるが、これはこれで心臓に悪い。
「なんだよその顔は?まるでキャバ嬢じゃないか?」
「キャバ嬢って言うのはなんなのか分からないけど、何か馬鹿にされたみたいで腹が立つわね」
「これでも日本の雑誌を見て苦労して化粧したのじゃぞ、それに自分の顔を見てみろ、そっちの方がよっぽどおかしい」
そう言われて、スマホカメラでレンズ越しに自分を見てみると、寝相が悪かったのか、ソファーの縫い目の跡が頬にくっきりと残っていた。
「確かにこりゃ酷い……今すぐ顔を洗うよ……」
すぐさま洗面台に移動をし、顔を洗い、フェイスタオルで顔をポンポン叩く様に拭き取ると、後ろで見ていた二人は不思議そうな顔をして見ていた。
「どうしたんだい?人の行動をなんかじっと見て」
「顔を拭く時に、何でポンポンと拭き取っているのかなって思ってね」
「ああ。いつもやってるけど、二人は俺より起きるのが遅いから気が付かなかったんだな。これは、肌を擦るように顔を拭くと、肌にダメージを与えるからこうしてるんだよ」
「へ~そうなんだ。私たちには必要の無い行為だわね」
「そうじゃな。何といってもワシらは、歳を取らぬから肌のダメージなど気にする必要はないからな」
「それ、他の女性に言っちゃ駄目なやつだ……嫌味に聞こえるよ」
そんな会話をしながら、食堂へと向かうと、女性達全員が化粧をしていて、まるで別人の様になっていて仰天をする。
「ちょっと待て!みんな集まろうか」
いまこの食堂は、まるでキャバクラの様になってた。何でも化粧をすればいいって言う訳では無く、あくまでも自分好みだが持論を主張する。
「化粧をするのはいいが、自分の事をもっと知る必要があるんじゃないかな?例えばその口紅だ。日本では口紅の色が赤くなればなるほど年齢層がが高い傾向なんだ。君達みたい若い子女性ははピンク色を好む。それに、セリスなんでその色のファンデーションを選んだんだい?」
「えっ、私ですか?小麦色の方が健康的に見えるかなと思ってしてみたんです。おかしいですか?」
「おかしいよ!せっかくここにいる女性達は、肌が白く透明感があるんだ。いい部分を殺してどうするんだ?それに首の色と顔の色が合ってないじゃないか?」
「言われてみれば、おかしいですね」
「だろ?そう言うことで、若いうちは何かコンプレックスでもない限り、化粧水と乳液、あとは日焼け止めだけで充分なんだよ。その事を踏まえて今後は化粧をしてほしい。だから化粧を直ちに落として来なさい!」
女性達は「は~い」と残念そうに肩を落とし、素直に化粧を落としにいくのであった。
女性達が化粧を落としに浴室に行くと、着陸準備の為に艦橋に向かう。
「タクト様、間もなく到着をしますが、着陸ポイントを2箇所、指定されていますが、どちらになさいますか?」
初めて行く領地なのだが、事前連絡をしていたので、ロマリア女公爵は着陸ポイントを2箇所用意してくれていた。
一つは公爵の屋敷の裏手にある広い庭、もう一つは町の近くにある湖である。
「屋敷に直接乗りつける許可は出ているけど今回はやめておこう。町も見てみたいし」
「了解です」
こうした事から、シルバーノアは、町の近くの湖に着陸をする。
馬車を用意して町へ向かう途中で、正面の座席に座るアンジェに聞きたい事があったので質問をする。
「ちょっと聞きたいんだけど、なぜロマリア女公爵の町はロマリアなんだ?陛下の妹と聞いていたけど、旦那さんはいないのか?」
「叔母様は独身なんです。だから。そのまま町の名前は叔母様の名前になってるんですよ」
「えっ!そうなのか?王族だから良縁なんか、いくらでもあったんじゃないのか?」
話によると、ロマリア女公爵がまだ若きし頃、貴族ではなく冒険者に恋をしてしまい、現在、東の領で隠居生活をしている、前国王にひどく叱責と猛反対を受けて無理やり結婚を諦めさせられたようだ。よくある昔話に出てきそうなネタのようだ。
「そっか。やっぱり身分がそれなりに釣り合わないと、自由に結婚もさせて貰えないんだな」
「身分だけではありませんよ。何の教育も受けていない冒険者がいきなり領主になり、領地の運営などの執政でもし失敗をすれば、領民達が路頭に迷います。私は、お爺様の言う事は正しいと思います」
女公爵は、それに抗ってかどうかは知らないらしいが、それからは結婚をせず、この状態が続いていると話をされた。
「なるほどな。いい意味でも悪い意味でも、王族や貴族っていうのは面倒なんだな」
「本当ですよ。恋愛も制限され、自由なんてあまり無かったのです」
「なんで過去形なんだ?」
「私は自由にさせて貰っていますからね。全てはタクト様のお陰ですわ」
そう話していると、窓から町に入る門が見えてきた。王都と似たような印象を受けた。馬車は貴族専用門へと向かう。
予め指示が出ているのか、馬車を見ると門兵は敬礼をして、馬車はそのまま面倒な手続きをせずに町へと入った。
「流石は、王族専用の馬車ですね。まさか素通りだとは思いませんでしたよ」
「きっと、叔母様が手を回してくれていたんだわ。いくら王族と言えども、普通は止められて中身を見られますからね」
「そうだよな。王都でもちゃんと本人確認はしてたからな」
「それだけ、早く面談をしたいと言う、叔母様の意思表示だと思いますよ」
「なんだか、予定よりも遅れて申し訳ない気持ちになったよ」
そんな会話をしながら馬車は町の中を進み始め、町並みを見ると、町の作りは王都とさほど変わらなかった。
「まるで王都を小さくしたみたいだな」
「この町は王都とは、姉妹都市ですからね。似ていて当然ですよ」
それから、話しを聞いてみると、それもその筈であった。
このロマリアの町は、王都と約400km程離れており、町並みが似ているのは何百年か前に、王都と同時に着工され作られて出来た町だそうだ。ちなみに国民は、この町の事をロマリアの町とは呼ばずに、昔も今も東南の都と呼ばれているそうだ。
そらからも町並みを見てみると商店街のあるロータリーも賑わっていて、人々は活気に溢れていた。
話によればこの町は、穀物の税やエールの酒税で潤っているそうで、町の規模としては王都の3/2とかなり大きな町であった。人口も約100万人が住んでいるらしい。マンションもないのにこの人口が住んでいる事に驚いた。
その為なのか、本来ならば、北の領地、東の領地、南の領地、西の領地と言う具合に、分割されて統治されている筈なのだが、このロマリア領に限っては町もその他の領地よい大きく、税収が多いので東と南の2つの領地を併合して治めていると話をされた。
「そんな広大な領地なら、ロマリア女公爵ひとりで統治するには、あまりにも酷じゃないのか?」
「そう思われるかも知れませんが、門閥貴族と呼ばれている、血縁関係の強い侯爵家が周りの伯爵家を巻き込んで、叔母様を支えているんです。ですから執務など面倒な政ごとは事実上、侯爵家が纏めてやっているんですよ」
「イメージ的には、各担当の大臣がいると考えていいのですか?」
内閣が通じるか分からないが、もし似たようなものがあるなら、分かるように翻訳される筈だ。
「そうですね。その考えで間違いありません。今日も当然の事ながら、屋敷に門閥貴族の皆さんも集まっていると思うのでその時に紹介があると思いますよ」
この世界の貴族は、ラノベなどで書かれている上から目線の傲慢な貴族像とは違い、出会った貴族達はみんな温厚で、人望の厚い人物ばかりであった。
これは、以前王子に雑談中に聞いた話だが、この国の貴族が通う学校の授業では、もし国民がクーデターなどが起こってしまえば、貴族達は責任を取って廃爵や降格をされると教育をされているようだ。
仮にもしそうなってしまえば、平和な世の中であが故に、武功を立てるのは難しく、よほどの事が無い限り、這い上がれないと言う恐れからくる物だと聞いた。
したがって、このアノースに於ける貴族については、どちらかと言えば領主と言うよりも、日本の知事に近い物があり、それで上手く領地が統治されていると思えば、貴族社会も悪くは無いと思うのであった。
そんな事を思っていると、屋敷?ではなく、王城より小さいが城が見えて来た。
「へー。ロマリア女公爵は、お城に住んでるんだ?」
「そうですね。基本的には、公爵家には城が与えられています」
「それなら、デニス公爵はなぜ城じゃなく屋敷なんだい?」
「城が嫌いらしいですよ。なんでも北の領地は冬は雪が降ったりして寒いからなのだとか。ですから、叔父様は、元からあった城を取り潰し、あの大きな屋敷を作ったんです」
「寒いのが嫌なら、何でそんなそこまでして、あの領地を選んだんだろう?」
「北の領地は、冬が厳しいので領民も少なく貴族も少ないのですよ。貴族街とかも無いですし、割と自由を愛する人ですからね。まぁ、早く言っちゃえば面倒くさがりやなんですよ」
「なるほど。デニス公爵らしい話ですね」
デニス公爵の住む町は高い山に囲まれていて、ここに比べれば確かに寒い地域であった。感じから言えば長野県当たりと同じだろうか。
そんな会話をしていると、貴族門を当然のようにノンストップで通り抜け、瞬く間に城の城門に辿り着いた。




