第85話 青天の霹靂
―― 神界・神殿・謁見の間? ――
『な・なんで俺だけ取り残されたんだ?ひょっとしてあれのことか?それともあれか?』
思い当たる節多すぎて、自分だけが神殿に取り残され狼狽をする。
「さてと儀式も終わった事じゃし、場所を移してゆっくり話すとしようか」
神様は柔和な態度に変わると、笑みを浮かべる。怒られる訳じゃ無さそうなのでほっとした。
謁見の広間の横にある扉から出ると、通路があり突き当たりの部屋へと入る。どうやら応接間のようだ。
「疲れたであろう。遠慮はいらぬ。腰掛けるとよい」
神様は、ソファーに腰掛ける様に促すと、神様も腰掛けたので遠慮無く腰掛ける。
「さて、タクト殿だけ残ってもらったのは他でもない。そう畏まらなくても良い。ただ状況を知りたいだけじゃよ」
「状況と言われますと?」
「そうじゃのう、タクトがこの世界に来て、思った事ならなんでも良い。そうじゃ、まずはフィーナはどうじゃ?役に立っているか」
神様なら状況はある程度知っているとは思ったのだが、いつも見ている訳やなさそうだし、自分の心情までは分からないであろうと思い、思い切って悩みを打ち明ける。
「よくフォローをしてくれて助かっています。ですが言い難いのですが、よく恋愛の事でからかわれるのです。フィーナは神様から与えられた大切な眷属であり妖精。フィーナが一体、私をどうしたいのかが気持ちが分からなくて……どう答え、どう対処したらいいのか分からなくて困っているんです」
そう悩みを吐露すると、神様は腕を組み目を閉じた。そして数秒間、沈黙をすると目を開けて喋り始めた。
「あやつは、約700年近くワシと二人きりで、この神界でアノースを管理しておったのじゃ……下界に行って、初めて経験する恋愛に戸惑いや悩む気持ちを、分かってやってはくれないじゃろうか?それに、既に気が付いておろうが、ワシから見ていても、タクトの事が好きなのは明白じゃないか?」
「はい。気付いてはいたのですが、普通に考えても妖精と人間がくっつくなんて、あり得ない話です。それに大事な眷族なんですよ?どう対応したらいいのか分かりませんよ」
「妖精とか眷属とかそんなのを抜きにして、タクトはフィーナの事をどう思っているのじゃ?」
「はい。隠しても無駄なので正直にお話します。初めて今の姿を見た時に、その……一目惚れをしてしまいました。ですが妖精や眷属など障害が沢山あって何度も諦めました。その気持ちは今でも変わりません。むしろ段々と好きになっています」
俺がそう話すと神様は満面の笑みだ。一体どう言う事なんだろう?
「それは良かった。相思相愛じゃないか。タクトは、何か勘違いしているが、フィーナと結婚も出来るし、子供もちゃんと出来るのじゃぞ」
「――――――!」
まさに青天の霹靂。神様のその発言に絶句して声が出なかった。
「なんじゃ。その驚き固まった顔をして」
「ちょっと待って下さい。頭の中の整理をさせて下さい……」
「うむ。よかろう」
無理だと何度も自分に言い聞かせ、何度も諦めては、何度も思い直した恋心が叶う。心の奥底から喜びが溢出す様に湧いてきて、抑えていた分だけ喜びも一入であった。
しかし同時に、なぜフィーナは、その事を言わなかったんだろうと疑問を感じた。
「そ…それは、本当なんですか!それでは何で、フィーナはそれを言わなかったのでしょうか……」
「そうじゃな。恐らくは、振られたらどうしようと考えていたのではないか?だからタクト気持ちを知りたいが為にやっておったのじゃろう。先ほども言ったが生まれてからこのかた、恋愛の機会は皆無だったのじゃ、臆病で不器用になっても無理はないじゃろう」
『なんだよ……フィーナも俺と同じで、本心を確かめる為にやってたのかよ。恋は手探りって言うけど、まさにそのとおりだ。痛感したよ……』
俺はそれならと思い、思い切って神様に覚悟を伝える事にした。
「分かりました。私は今まで勘違いをしていました。フィーナの気持ちに応える事も出来ず、自分自身の気持ちも押し殺して我慢してきました。それでは神様。もし神様に言いつけられた使命が達成出来たなら、フィーナをお嫁に頂いて宜しいでしょうか?」
覚悟が伝わったのか、神様は嬉しそうに頷いた。
「うむ。そなた達がそうしたいのならワシは口を挟まぬ。それに反対する理由もない。じゃが結婚を認めるには一つ条件があるのじゃ」
「それは一体何なんですか?結婚出来るなら、どんな事でもしますから教えて下さい」
「その条件とは、タクトが神になる事じゃよ」
「えっ!何故、私が神にならなくちゃ駄目なんですか?」
ここに来ても、神になる話が出るとは予想外ではあった。希望が叶うならと受け入れる覚悟は出来ていが、ここまで押される理由が知りたい。三人が押すその理由さえ納得出来るものであるなら、受け入れる。
「知ってのとおり、神や妖精は不死身じゃ……人間の寿命は短く儚い……それも美学ではあろうが、タクトが亡くなって、あやつを悲しませたくないのじゃよ」
今まで断り続けたのは、神様になるのが嫌なのではなく、ただ単純にその資格や覚悟が無いからだと考えていたからである。
だが、神様は、単純に俺が居なくなる事で、フィーナがまた孤独になる事を心配しているのだ。まるで親が子の将来を心配する様な気持ちなのだろう。そう理解をしたので、それならと思い覚悟を決める。
「そう言う理由なら、分かりました。先ほど言ったように、使命が達成出来たなら時期が整い次第、神になると誓います」
「そう言ってくれてほっとしたよ。時間はまだいくらでもある。が、あやつもいつまでも宙に浮いたじょうたいでは可愛そうじゃ。あまり待たせるんではないぞ」
「はい。誠心誠意がんばります」
今まで思い悩んでいた事が、一気に最良の方向に向かい、嬉しさに打ち震えた。
その後、博士の話となり、報酬は何が良いと尋ねられたので、俺と同じ18歳まで肉体を戻し、視力を回復させてやってはどうかと提案をした。
また、スキルについては、知識や技術はあるので、フィーナ同様に上位の治癒魔法が使えれば十分なのではと提案をしておいた。
「それはそうと、アイリーンの事が気になるのですが、何か知っている事があったら教えて下さい」
「うむ。この話はワシの口から言ってもいいのか分からないが、アイリーン殿は、アノースに向かう前に、一度地球の神界に戻ったのじゃが、その時に……」
「その話はそこまでじゃ!」
突然転移をしてきたアイリーンは、話を遮った。まるでタイミングを見計らったように現れたので、目を疑う。
「アイリーン。もう用事は済んだのか?心配したんだぞ!」
「おお、そうか、心配を掛けて済まなかった。しかし、たいした話では無かったわ。それから今言いかけた話はワシが直接する。ゼフト殿はまた、他の神から聞くと良い」
「承知した。それでは、もうそろそろ時間じゃ。それはそうと言い忘れるとこじゃったが、タクトが神様認定されるのは、ワシは別に気にしていない。むしろ至極当然の事じゃ。人々の為に精進するのじゃぞ」
神様はそう言うと、転移の魔法を詠唱すると魔法陣が現れた。
「それでは、また何かありましたらお呼び下さい」
「そうじゃな。その時はフィーナとアイリーン殿に連絡をするよ」
そんなこんなで、なんだか急ぐ様に神界を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
≪フィーナの視点≫
「さて、こちらは片付いたな。アリーシャよ、そろそろ、出てきたらどうじゃ」
私は、タクトの思いと覚悟に胸を打たれ、堪えていた筈の涙が頬を伝いぽたぽたと地面に落ちていた。
「これこれ、希望が叶ったと言うのに、そんな顔をして泣くんではない。目が腫れてタクトにバレては本末転倒じゃぞ」
「だって……タクトがあそこまで、私の事を考えて、我慢していてくれたなんて思わなかったのよ。あれほど拒んでいた、神になると覚悟を決めて言ってくれたのよ。歓喜のあまり、胸にしまっていた物が一気に溢れかえってきたんだもん……」
「アリーシャ。元を正せば、妖精などと言う設定にしてしまったから、話がややこしくなったんじゃぞ」
「前も言いましたが、あの時、私が女神だと知ったら、もっと話がややこしくなっていたでしょう。あの性格ですよ?」
「まぁ、それはそうじゃが、もっとやり様があったかもしれんの……」
涙も止まり、そう話ているとアイリーンもこの場所へ戻って来た。
「全てそなた達に任せて済まなかった。それで話はどうなったんじゃ?」
「アイリーンの話しの方が気になりますが、取り敢えずこちらの結果を報告しますね」
私とお父様は、先ほどあった話を詳細に話すと、アイリーンは手を叩いて喜んだ。
「ゼフト殿ようやった!あれほど頑なに拒んだ神になる話を、よう説得したもんじゃ。それにアリーシャ、おめでとう。これでワシも思い残す事なくアノースに行けると言うもんじゃ」
「はぁ?一体それはどう言う意味なんでしょうか?」
「どうもこうもない。前回地球の神界に行った時に、結婚をするから最高神を辞めると言って出てきたのじゃ」
「ま・まさか本気で、あんな戯言を言ってたんですか?」
「戯言とは酷いいい様じゃな。まぁいい。それでな、あの後に地球の神界に行って、柱を全員集めて話し合た結果、一応100年間は休暇を貰う事となったのじゃ」
「よく、そんなワガママが通りましたね」
「そりゃそうじゃろ。もし通らぬなら、地球から色々アノースに持ってった事を、匿名で内部告発してやると脅迫したんじゃからな。そうなれば、いくらワシとて強制的に最高神を降りなくてはならなくなるから、柱の皆は青い顔をして納得しおったわい」
「そこまでやりますか?普通」
「あたりまえじゃ!良く考えてみろ。何万年も生きていて、男に心を奪われたのはこの1度だけじゃぞ!このチャンスを逃したら、もう一生恋なんて出来ぬやも知れぬ。それを、一生続く神と言う仕事の為に捨てるなど、そこまでワシは愚かじゃない!」
「しかし……」
「しかしもへったくりも無いわい。みんなに美の女神とか絶世の女神とか、色々賞賛を受けてきたが、何万年も結婚どころか恋すらした事がないのじゃぞ!周りから、欠陥があるんじゃないかとか、実は同性愛者じゃないのかと、散々影で言われ続けたワシの気持ちなど誰にもわからぬわ!」
アイリーンの悲痛な叫びは、私の心に響いた。
なぜなら、私もタクトに出会っていなければ、アイリーンと同じ状況下に置かれる可能性は、大いにあったからである。
『美人過ぎると、敬遠される事もあるんだろうなぁ。折角掴んだチャンスをアイリーンと共に成就しなければ……』
タクトが私に好意を寄せてくれているのが分かった以上、恐らく今までとは違う付き合い方になるであろう。
だが、この恋を成就させる為には、焦る事無く、タクトのペースに合わせると言う事が大事だと、恋愛経験の無い私にも分かる。
「それで、話は戻るが、その休暇の100年間は、地球の最高神の役目はどうするのじゃ?」
「心配ない。何かあったら柱から連絡が来る。能力の一部を均等に柱に渡してきたから大丈夫であろう」
「それは、どう言う事ですか?」
「ワシは地球の管理を外れて、最高神を休業するのじゃ、したがって、アノースにいる時は最高神では無くなりただの他世界の女神として降臨をする。よって権限やスキルなども制限されると言うことじゃよ」
「なるほどな。それでどのような制限なのじゃ?」
「制限が開始されるのは、博士がやってくる3ヵ月後からじゃな。そうしないと後々面倒な事になりそうじゃからな。それと制限されるスキルは、スキルを自由に与えたり奪ったりする能力、それから亜空間を自由に作ったりする能力、原子から物を複製をする能力とまぁ、そんなに、あの世界では影響の無い物ばかりじゃよ」
「それでは、この前奪った能力はどうされるのですか?」
「そうじゃな、今までに奪ったスキルについては適用外じゃが、取り敢えずタクトに全て与えるとしようか」
それからも、話を詳しく聞いたが、アイリーンは少し能力を落としたものの、強大な神力はそのままのようである。よって、私より能力は断然上であった。
こうして、神界での話は終わり、また1週間後に博士さんを連れてやってくる時に、その他、今日だけでは話きれない色々な話を詰める事となると、お父様に軽く挨拶をして転移魔法を展開させアノースに戻った。
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「はぁ……我が娘とは言え世話が焼けるのう……それにしても、アリーシャやアイリーン殿が見立てたとおり、タクトはよくやっておる。人々に知識や技術を与え、実績もこの先増えていくであろう……これを、神と呼ばずして何と呼ぶのじゃろうて。早急に審議会に申請を出すとしようか」
神様は、長い髭を触りながら、天井を見上げた。




