第84話 再会をする
いつもお読み下さいまして、ありがとうございます。
この後の話は、以前書いた第66話ファムリス DE デート???編と重複する場所が多々ありますので、了承下さい
―― シルバーノア・食堂 ――
朝目覚めて、いつもの様に朝食の用意をしに食堂へ行くと、セリスが朝イチで居るなんて珍しく、食堂の椅子に腰掛けてぼんやりしていた。
「おはよう。どうしたセリス、今日は珍しく早起きじゃないか?」
「おはようございます。早起きしたのは、最近タクト様に絡んでないので、忘れられるのが怖いから待っていたのですよ」
「心配しなくても、セリスの事を忘れる訳ないじゃないか?」
「だって、最近ラルーラさんまで急接近しているし、アイリーン様なんて規格外の美女じゃないですか?少しでも目立ってないと不安になんですよ」
「そんなものか?」
「そんなものですよ。そう言う訳で、今日から私も早起きをして朝食を作るのを手伝いますから、宜しくお願いします」
理由はどうであれ、そう申し出てくれたおかげで、朝食を作る人数が増えるのは、正直に言うと嬉しかった。
食事を作り始め、ハムエッグを作っていると、キッチンカウンターにお皿を並べているセリスが、神妙な面持ちで口を開く。
「それで、タクト様はアイリーン様の事や、ラルーラさんの事はどう思っているのですか?」
「どうもこうも、相手は長寿の神様とエルフだよ?あの二人から見れば、俺なんか赤子同然だよ。まぁ、王子にも同じ事を言ったら、恋に年齢は関係ないって言われちゃったけどね」
「まさしくそのとおりですよ。恋に身分や年齢など関係ありませんね」
「やっぱりそう言うよな」
セリスもアンジェも、好意があるのは自覚しているので、余分な言葉を言うのは慎む。
アイリーンにしてもラルーラさんにしても、最近よく一緒にいる事は否定はしない。だが好意があるとは思っていない。それとこれとは別問題である。
それに、フィーナがいる以上、好意を寄せられても今は返事は出来ない。ふと、いつのまにかフィーナがいる事を理由に、そう考えるようになっていた。
一方的にフィーナの事が好きなだけで、付き合っている訳でもない。告白すら出来ないままである。フィーナを理由にして、ただ逃げているだけなのでは?と自己嫌悪に落ちる。
将来どうなるのかは、それこそ神のみぞ知ると言う事なのだが、フィーナを差し置いて他と恋愛をすると言う選択肢はありえない。
それを、セリスもアンジェも分かっているから、現状維持で精一杯なんだろうと思うと、何だか二人の気持ちをもて遊んでいるようで申し訳ない気持ちになる。何らかの答えを早々に出さなければならない。
このままだと、本当に優柔不断な男だ。フィーナの事は以前から諦めた筈なのに、どこかでどうにかなるんじゃないかと心の奥底で期待しているのだろう。
仮に本当に諦めたとして、フィーナだけが寂しい思いをするぐらなら一生独身でもいい……他から見ると勿体無い話に聞こえるかもしれない。
だが、やはり俺にとってフィーナが一番大事なのだ。周りにどう言われてもこれだけは譲れない。
そんな事を考えながら、ハムエッグを次々作っていくと、いつもの様にラルーラさんも手伝いに来てくれて、三人で談笑をしながらもテキパキと朝食の準備をこなす。
そんな考えさせられる事もあったが、いつもと同じ朝を向かえて、何事もなく朝食を摂り終えた。
「それじゃ、約束の時間だから、そろそろ行こうか?」
そう言うと仲間達に教会へ行くと説明をしてから、フィーナとアイリーンを連れて教会へと向かった。
シルバーノアから城門を出て貴族門に向う道中で、スマホで時間を確認すると、フィーナがスマホを覗き込む。
「タクト、アイリーンから貰ったスマホを、クリスティーヌさんには渡してないの?」
「そう言えば、あの時馬車の中にいた、女性陣の仲間にしか渡してないのを忘れていたな」
「連絡をしたい時に困るじゃろうから、仲間には早く渡してやる事じゃな」
「そうだな。でもクリステーヌさんに渡すのは少し考えさせてくれないか?」
「なぜじゃ?」
「スマホの存在を公にしてもいいのかなってね?この世界には、通信手段が伝書鳩か馬しかないし、今ここで通信手段があると知られれば、大騒ぎになるんじゃないかと」
「そうね。仲間内なら誤魔化しが利くかも知れないけど、バレたら厄介だわね」
「うむ。ならばこうしたらどうじゃ?ゼフト殿に聖女に紋章を与えて貰い、紋章を与えられた者は、神の使徒と同様の権利を与えられると言う事にすれば良いのじゃなかろうか?神の使徒同士が連絡手段として、神から与えられる魔道具とするなら辻褄が合うのではないか?」
「いい考えですね。それなら違和感無く渡せるでしょう。今の話の流れから行くと、アノースの神様と連絡は取れるのですか?」
「もちろん可能よ。教会なら尚更ね。それに、神様は今も見ていると思うわよ」
フィーナのその言葉に思わずハッとしてしまう。今までの所業がどこまで神様にバレているのか一気に不安になる。
「ほ・本当に見ているのか?」
「そりゃね。タクトは神様候補なんだもの、見られて当然でしょ。でも安心をして。プライベートは見られていないから」
「なんじゃ?見られて困る事でもあったのか?」
「べ・別にそんなものありやしませんよ!」
明らかに狼狽をしたのを見せてしまい、二人は怪しんだが、貴族門に到着をして何とか誤魔化しきる。
だが、本当に疚しい事はしていない筈だ。狼狽したのは、フィーナの事が好きになったり、いつの間にか色々と女性関係が増えているのも、女性にだらしが無いと思われていないかが心配なのである。
色々な人々から神様認定されれるのも心配ではあるが、こちらは自分の意思とは関係はないのでどうする事も出来ない。
そう気持ちを心の中で吐露し、貴族門の近くにある教会へと辿り着くと「ゴーン・ゴーン」と、9時になった事を知らせる鐘が鳴る。すると教会から数十羽、白い鳩が広い青空に飛び出して行った。
『結婚式のプロモーションビデオの演出でありそうだけど、実際体験をしてみると、感動すら覚えるな』
そんな事を思いながら、教会へと続く階段を上っていくと、広場には先ほど飛び立った鳩とは別に沢山いて、子供達がエサをやっている姿が見えた。
日本でもたまに見る光景ではあるが、白い鳩ばかりだと少し違う印象を受ける。そんな中を歩い行き、昨日とは違う大きな扉から教会の中へと入る。
教会に入ると、受付には若いシスターが二人いた。
木製のカウンターで、フィーナはお布施を払いクリスティーヌさんを呼んで貰うと、予め知らされていたのか、若いシスターは「存知あげております。それでは、こちらへどうぞ」と言い、教会の中を通らずに、直ぐ横にある通路から客間へと案内をしてくれた。
客間に到着をすると、シスターは扉を開けたが部屋にはまだ誰も居ない。客間は教会らしく、白塗りの壁に板間と言う質素な作りであった。
シスターにソファーに腰掛ける様に促されたので、俺を真ん中にして横一列に腰掛けた。
「今から呼んで参りますので暫くお待ちください」
シスターはそう言うと、一礼をして扉から出て行くと、三人で他愛も無い話をして待っていると「コン・コン」扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
そう言うと扉は開き、クリスティーヌさんと、最高司祭と思われる人物がやってきた。俺達三人は挨拶をする為立ち上がる。
「お待たせしました。私がこのインレスティア王国で最高司祭を任されているジャスティンと申します。以後お見知り置き下さい」
ジャスティン最高司祭は貴族風にそう挨拶をすると、こちらも挨拶をする。
「丁寧な挨拶ありがとうございます。私はタクトと申します……」
と、言いかけると、突然辺りはモノトーンに色を変え、目の前が真っ白になると見た事のある場所へと、転移をした。
「ここは一体?」
第一声目は、ジャスティン最高司祭がそう言い、隣にいたクリスティーヌさんは呆然と立っていた。
「ほぅ。ゼフト殿はこのタイミングで転移をさせたか?」
「ええ。急すぎて私も驚きました」
「ここは、神界に見えますが合っていますか?」
「そのとおりじゃ。ここはアノースの神界じゃよ」
見た事のある風景だなと思ったが、アイリーンがそう言った瞬間、ジャスティン最高司祭とクリスティーヌさんも、その場で腰を抜かして崩れ落ちていた。
フィーナは精神安定魔法を二人に掛けると、二人は正常に戻り辺りを見渡し感動をしていた。
「こんな所で待っていても仕方が無い。ゼフト殿が待つ神殿へと向かおうか」
アイリーンはほくそ笑むと、神殿に向って歩き出したので、後を追うように歩き出した。
「それにしても、神様は何で直接神殿に転移をしなかったんだろう?」
「サービスじゃないの?二人にここが神界だと認識して貰いたかったのもあるかもだけど」
「そうか。いきなり神殿の中じゃ、ここが神界だとは思わないかも知れないもんな」
一度来た事はあるが、やはり神界はファンタジー世界そのもので、空に浮かぶ島、雨も降った形跡も無いのに空に大きく掛かる虹、神様が居られるであろう立派な神殿などが目に入り、一目でここが神界だと分かる様になっている。
「二人は無言じゃが、どうじゃ神界に初めて来た感想は?」
「まさしくここは、夢にまで見た神界……言い伝えにあるとおりで感無量でございます」
「私も同じです。夢で見たとおり、空は透きとおる様に青く、花は美しく咲き乱れ、この美しくも調和のとれたこの風景を目の当たりにして、涙が溢れそうなぐらい感動をしています」
「うむ。それは良かった」
「質問があるのですが、あなた様たちは一体?」
「そうじゃったな。紹介をしている最中に転移をしたものだから、すっかり紹介をするのを忘れておった。クリステーヌには口止めしておったが、ワシはこの世界ではなく地球と言う星の最高神をしているアイリーンと申す。以後見知り置いてくれ」
「私は、今は神の使徒となったタクトの眷属である、フィーナと申します。以後お見知り置きくださいね」
「フィーナは、先日まで、アノースの最高神であるゼフト殿の側近であったのじゃ。ここでの分からない事があるなら聞くと良い」
ジャスティン最高司祭は、二人の紹介を口を挟まず聞いていたと思えば、あまりにも衝撃が大きかったのか、瞬きをせずただ固まっていただけであった。
ジャスティン最高司祭は、精神安定魔法を掛けて貰うと、大きく空気を吸い込んで気を落ち着かせていた。
「まさか、こんな事が起ころうとは……失礼かとは思いますが、どおりでお二方は、この世の者とは思えない程に美しいと思っていました」
「ふふふ、調子がいいように聞こえるけど、本音だと受け取っておくわ」
そう話をしながらも、足を進めていたので、神様の待つ神殿の階段へと辿り着くと、階段を上がり神殿の入り口が見えてくると、見た事のない先客が待っていた。
神界にいると言うことは、神様か天使には違い無いのだが、フィーナの話によれば、この神界には天使も他に神様は居ないと聞いていたので不思議に思う。
その神様に目をやると、一瞬、俺を睨む様に見ていたが、視線を外してアイリーンに向かって跪く。
「アイリーン様!直ちに我が神界にお戻り下さい!」
「そんなに焦ってどうしたのじゃ?柱のお前達でも対処出来ぬ事でも起こったのか?」
「そう言う訳ではありませんが……少し宜しいでしょうか?」
「すまぬ。少し時間をくれないか?」
「はい。それではここで待ってます」
それから、地球の神様の一角であろう柱と呼ばれている男の神様は、俺たちに聞こえない様に、アイリーンと話をし始めた。
話は、1分もせず終わると、アイリーンは「すまぬが急用が出来たので、一時地球の神界に戻らなくてはならなくなった。直ぐ戻るつもりじゃが、後の事は任せたぞ」と言い残し、別れを惜しむ間も無く柱である男と一緒に転移をしていった。
何だか少し、むかっ腹が立ったが、それは睨まれたからであって、いくら神様であろうと、理由を言わずに睨むのは失礼では無いかと思うと余計に腹が立った。
『何事があったんだろうか?まさか、地球の物を勝手に持ち込んだ事がバレたんじゃないだろうか?それにしても睨まれる理由が思い浮かばない……』
心を落ち着かせ、そうは心配はしたものの、自分が出来る事は何も無く、ただ言われたとおりにアイリーンを待つことしか出来ない自分が歯がゆい。
「さぁ、ここで立ち止まっていても仕方が無いわ、神様も首を長くして待っているでしょうから、行きましょう」
フィーナの言うとおり、ここで待っていても仕方が無いので、神殿の奥へと進み突き当たりにある開かれた扉をくぐると、神様が玉座?に腰掛け待っていてた。
神様はこちらの存在に気がつくと、玉座から立ち上がり腕を広げて歓迎をしてくれた。
「おぉ、待っていたぞ。ここに転移をさせる前に大体の事は把握しておる。自己紹介はワシだけで良い」
神様は全てを知っているようで、流石と言うしか言葉が見つからない。俺たちは、神様の近くまで寄ると片膝を着き頭を垂れる。
「うむ。頭を上げ、楽にすると良い」
俺とフィーナは神様の言うとおり頭を上げ立ち上がったのだが、聖職者の二人はそれでも尚、頭を下げたままであり、よく見るとガタガタと震えていた。
フィーナもそれに気が付いたようで、恒例の精神安定魔法を掛けたのだが、インパクトが強すぎなのか未だ立ち上げれそうにもなさそうなので、二人に手を貸し立ち上がらせた。
「うむ。落ちついたようじゃのぅ。ワシの事は、知っていると思うが、このアノースを管理する最高神であるゼフトじゃ。見知り置くが良い」
神様は優しい顔をしてそう言うと、二人は感激をしたのか涙を溜めている。
「フィーナよ、手伝う為にワシの横へ参れ」
神様がそう言うと、フィーナは「はい」と答え、神様の横に立った。
「それで、今日そなた達を呼んだのは、まずそちらにいる、クリスティーヌを正式に聖女と認める為じゃ。取り敢えずは何も決めてはおらぬが、決まるまでは、神の使徒を支え、協力する事を命ずる」
「それでは、聖女クリスティーヌ、今から聖女としての紋章を授けます。最高神の前まで進んで下さい」
フィーナが儀式的にそう言うと、クリスティーヌさんは、はっとした顔になり、神様の下へと向かい、一礼をして、跪いたと思うと、そっと震える右手を差し出した。
なぜこんなにスムーズに事が運ぶのであろうと考えていると、フィーナの口が小刻みに動いていて、指示を出している様であった。
『どおりで、フィーナが呼ばれた訳だよ。じゃないと、何も教えられず、ここまでスムーズに儀式が進むなんて有り得ないからな』
まるで、小学校の卒業式で緊張をしすぎて、頭が真っ白になった子供を、校長先生が思い出せる様に、指示を出している様子に似ていて、思わず笑みがこぼれた。
そんな事を思っていると、差し出された手が光り紋章が与えられた様であった。
「パチ、パチ…………」
こんな時、思わず無意識に拍手をしてしまう俺は、典型的な日本人だと再認識してしまう。
ジャスティン最高司祭も釣られて拍手をすると、クリスティーヌさんは、こちらを向いて赤面をしながら紋章を浮かび上がらせ、こちらに見せた。
こうして、神様に聖女を証明する紋章が与えられると、神様とフィーナに一礼をして、クリスティーヌさんは、元の位置へ戻った。
「さて、クリスティーヌには紋章を授けたので、今度はジャスティン最高司祭に話がある」
「はっ!なんなりとお申し付け下さい」
突然、名前を呼ばれたジャスティン最高司祭は青い顔をしていた。
「そう緊張するではない。お主達、聖職者達は教えを守り、良くやってくれておる。改めて礼を言う」
「礼などめっそうもございません。教えを守り、正しき事を伝えるのが我ら聖職者の責務、それを全うしていただけでございます」
そうジャスティン最高司祭は答えると、神様は笑顔で頷き、聖職者の恋愛や結婚の事についての話をした後、そのしきたりを排除するように強く求めた。
ジャスティン最高司祭は、その言葉を重く受け止め、神様に恋愛や結婚について是正をすると約束をすると、クリスティーヌさんは笑顔になった。
「それでは、ジャスティン殿、数ヶ月後には新たに神の使徒をアノースに送る算段をしておる。その者は医療で人々を救うであろう。無理強いはせぬが、聖女をその者に付け、教会の医療技術の底上げをするのじゃ」
「神様のお望みとならば、全力でその者をサポートさせていただきます」
こうして、儀式的な事は全て終えると、アノースに戻る事となり、神様は持っている杖を掲げ、今度は神殿に直接魔法陣が現れた。
「それでは、機会があればまた会おう」
神様はそう言葉を掛けると、ジャスティン最高司祭とクリスティーヌさんは涙目となり頷く。何か言いた気だが言葉にならないようだ。
神様の用意した魔法陣にみんなは入ると、みんなは転移をしていったのだが、なぜか俺だけがこの場に取り残された。




