第83話 聞いてみる
―― シルバーノア・自室 ――
フィーナとアイリーンが持ち帰ったうなぎ弁当を食べてから自室へ戻ると、聖女に関しての話をする事となった。
「二人とも、うなぎを買ってきてくれてありがとう。遅くなったけどここで改めて礼を言うよ」
「うむ。礼にはおよばぬ。タクトの嬉しそうな顔が見れたのじゃからな」
「そうよ。博士さんが、是非タクトへと言っていたから買ってきたのよ。もし博士さんがこっちの世界に来たらお礼を言ってあげて」
「そうだな。そうするよ。それで、聖女についての話をするんだろ?」
「ええ。クリスティーヌさん」
「はい。なんでしょうか?」
「聖女になって困った事や不満は無い?」
この後、クリスティーヌさんの話しを聞くと、現状の教会単体では特に困った事は無いが、教会内にある病院に不安や不満があるそうだ。
その理由を尋ねてみると、やはり病気の診断をする医者はいるものの、専門医では無いので治癒は治癒スキルを持った聖職者が治療に当たるようで、現在の治療方法には限界を感じていると言う話であった。
もちろん、この話の裏側には、博士が話した専門医と言う役割が地球にはあると話しをしたからであろう。全ての治療を魔法に頼ってきたこの世界の人々には、そんな役割ごとに専門医を置くなど頭には無いようだ。
医療革命が起これば、それを望まぬ輩や団体がいるかもしれない。ワーグの時と同じようにだ。だからと言って、人助けをする為には医療改革を諦めると言う選択肢は無い。
「タクトは医療についてどう考えているの?」
「そうだな……医療関係については、ラッフェル島に総合病院を建てて、博士が医師を育てると言うプランを考えている。博士が診断をして治してしまうと医師が育たないからな」
「ワシもそれがいいと思う。いくら外傷や痛みが無くなったからと言っても、魔法では完治しない病気も多数あるようじゃ。今のこの世界の医療改革をしようと思うなら、それが一番の方法かもしれんの」
「そうね。予防も含めて病気になる原因をこの世界の人々に教えていかないと、いつまで経っても患者は増える一方かもね」
フィーナの言うとおり、病気に対する予防方法を知らなければ、食生活を変えたり自己防衛する事さえ出来きる筈もない。
例をあげて言うなら、感染症予防として、マスクの着用、手洗い、うがい、アルコール消毒、メタボリック症候群や糖尿病の予防として、低カロリーの食事や栄養バランスを考えた食事だ。これだけの予防だけでも救える命は多いだろう。
「それじゃ、博士が来たら博士主導の下でラッフェル島に病院を建てるか。それで、まずは聖職者から勉強をして貰う事にしようか。その時には聖女であるクリスティーヌさんの力が必要になるので、是非協力を願いしたいかな」
「協力は惜しみません。今まで患者さんを助けられずに、歯がゆい思いをしてきたのは、私だけではありませんから、みんなも協力してくれるでしょう」
そんな話になったので、まず王都の教会からと言う事で、今から直ぐ出来そうな、家に入ったら直ぐにクリーンの魔法、もしくは手洗いとうがいを人々に強く推奨して貰う事にした。簡単に出来る事からこつこつとやる事が大切である。
それからは、聖女の役割と神様からの話があった内容をフィーナとアイリーンが告げると「では聖職者でも、家庭が築けるのですね」と、クリスティーヌさんは涙を浮かべ喜んだ。
「で、最高司祭とやらに面談をしたいのだが、どうすればいいのじゃ?」
「それなら、今から教会に帰ってアポイントを取っておきます。最高司祭様は、朝早くから起きて神様にお祈りを捧げてから職務に就くので、朝9時以降なら空いている筈ですから」
「うむ。分かった。それでは明日の朝に早速お邪魔をする事にしよう」
「もし、急用とか変更があったら遠慮なく連絡を下さいね。私達は明日までは王都に滞在をしていますので……」
話が終わると、クリスティーヌさんはソファーから立ち上がって、部屋から退出をしようとするとフィーナがそれを止める。
「ちょっと待って!そう言えば、博士さんからの預かり物を見せるの忘れてるじゃない」
クリステーヌさんは、扉のノブに手を掛けた所で立ち止まると、ソファーにもう一度腰掛けた。
フィーナは、アイテムボックスから義手、義足、特殊な補助具まで綺麗に並べると、クリスティーヌさんは、驚愕をして言葉を失っていた。
「どう?博士さんに頼まれて、アイリーンに複製をして持って来たわ」
クリスティ-ヌさんは、瞬きもせず固まっていたので、隣にいたアイリーンが軽く肩を叩く。
「し・失礼しました。話には聞いてはいたのですが、まさかこれ程まで精巧で、人間の各部位にそっくりだとは思いませんでした。それに種類もここまで多いと、どんな機能があるのか分かりません」
「そうでしょ。私もこれを見た時は驚いたわ。機能については博士さんとリンクを繋いだから、私の頭に情報は全て入っているわ。また時間が空いたら説明するから、それまでは預かっておくわね」
「私が持っていても、どうする事も出来ませんので、宜しくお願いいたします」
こうして、博士からの預かり物をクリスティーヌさんに見せ終わると「それでは、また明日教会でお待ちしております」と言って、教会へと戻って行った。
「あ~、なんだかんだ言っても今日も疲れたよ」
そう言いつつ、ソファーに腰掛けたまま体を伸ばす。
「それじゃ、いつものお勤めをして、今日は早めに寝ましょうか?」
「うむ。それがよかろう」
今日も、あの抜群なスタイルで悩殺をされると思うと、体はともかくとして気は休まりそうにもない。
それから、転移魔法で温泉に転移をすると、今日は悩殺されないように、脱衣場と逆の方向を向いて温泉に浸かる。
『あ~。いつもながらいいお湯だな。それにラッフェル島はもう9月の後半に入り、少し涼しく感じるよな』
秋の気配を感じながら、心を癒していると【ガラガラ】と入り口のスライドドアが開く音が聞こえた。
「もぅ~、日本で新しい水着を買ったから見てもらおうと思ったのに、何でこんな時に限って後ろ向きに入っているのよ」
「そうじゃぞ。感想を聞きたいから早くこちらを向くと良い」
そう言えば、フィーナは温泉に入る時は水着を着用して入ると言っていたのに、最近は着替えるのが面倒だと言ってタオルに戻っていた。そんな事から水着姿を見るのは久しぶりであった。
『まぁ、水着姿なら何度か見たから大丈夫だろう』
そう思い、心を少し緩め後ろを振り返ると、赤色のハイレグビキニに着用した二人が立っていた。見慣れていたとは思っていた筈なのだが、あまりにも二人の水着姿が強烈過ぎて鼻血が出る。
「ちょ・ちょっとタンマ!」
「どうしたのよ?」
「ワシも少し恥ずかしいのじゃが、がんばったのじゃ。ほれ、感想を言え」
「ごめん!興奮し過ぎてまた鼻血が……これ以上の感想は無いと思うんですが?」
「まったくしょうがないわね」
いつものように、精神安定魔法を掛けて貰うと、ようやく落ち着く。
「そのすぐ鼻血の出る体質はどうにかした方が良いと思うぞ」
「確かにね。このままだと、また倒れかねないし」
俺だって、好きでこんな体質になった訳じゃない。だが、こんな体質でなかったら誘惑に負けてどうなるのかを考えると、このままでもいいような気がする。フューズのようなものかもしれない。
そんな事を思いながら「ごめん。慣れるように努力はするから」と謝っておいた。
こうして、いつものお勤めをいつものようにこなし、シルバーノアの自室へ戻ると布団に入り、今日は迷宮都市について二人にどう思うか聞いてみる。
「迷宮を都市にするって考えたんですが、どう思われますか?」
「タクトよ、もうそろそろ普通に喋ると良い。何だか疎外感と言うか違和感を感じる」
「いいのですか?アイリーンは最高神なのですよ?他の神様に聞かれたら不敬だと言われ罪になるのでは?」
「まぁ、神界ではそうではあるが、ワシが許可したのじゃ。この地では良かろう」
「分かりました。それじゃ、もう一度聞くけど、迷宮を都市にしたいと考えているんだがどう思う?」
「可能と言えば可能だけど、迷宮にはコアが隠されているの。それを見つければある程度は自由に変えられる様になってるわ」
「そこんとこ詳しく説明して欲しいんだけど?」
それから、フィーナに話を聞くと迷宮の最下層のどこかにダンジョンコアは隠されいているようだが、そもそもコアを探そうとする冒険者は皆無のようだ。
その理由は三つあるようだ。
まず、コアを破壊するとダンションは機能を失いタダの洞窟になるようだ。そうなれば冒険者の利益は失われる。ダンジョンコアを破壊して無くすより、共存を望む者ばかりあるのであろう。
次に、ラッフェル島の迷宮のように、攻略済みの迷宮では道まで整備されているのに、わざわざ、それを作り変えてまで迷宮を管理したい者がいないようだ。そもそもダンジョンコアを書き換えれる者など、神にしか出来ないらしい。
最後の三つ目は、地上にはまだ、人が住んでいない広大な土地が沢山あるのに、迷宮のような危険な場所に住もうなんて考える者は居ない。確かにそのとおりだ。なるほどと納得をした。
「さっき、ダンジョンコアは、神様なら書き換えれると言ってたけど、もしそれが可能だとすると、どの程度まで管理が可能なんだ?」
「そうじゃな。まず迷宮の構造から説明をしようか。迷宮のフロアは実は一階層ごと亜空間で出来ておる。それを繋ぎ合わせた集合体が迷宮じゃ。じゃから、設定次第では外の世界をまるまる複製をする事が可能だと言う事じゃな」
それから、更に詳しく聞いてみると、天候や気候も外の世界と同じ様に反映させる事が出来て、川や海も再現は可能だと言う事だ。ちなみに、モンスターは結界さえ張れば封じ込める事は可能だし、モンスター自体を出現させない設定も出来るようだ。
「そうなると、思ったより現実味を帯びて来たな」
「それはいいけど、迷宮に都市を作って何をするつもりなの?島にはまだ未開発の土地が余っているから、そこまでする必要性は何も感じないけど?」
「そこなんだが、邪神や堕天使にバレないように発展をさせたいのがまず1点、次に、もし迷宮に都市が作れれば、住民の移動の無駄とか、色々メリットがあるんだよ。だってギルドカードさえあれば、いつでも好きなフロアに行けるんだよ」
「ふふふ。流石はタクトじゃ。思いつきとは言え、中々ユニークな事を思いつく」
「そうね。まるで、さっき見てきたビルのような発想ね」
そう言われてみると、確かに発想はビルと一緒で、限られたスペースをいかにして効率良く使うかのかを自然に考えてしまう。日本という人口爆発をした島国ならではの発想なのかも知れない。
「それに、うまく設定すれば毎日同じ日を繰り返す事も可能じゃよ」
「そうなんですか?それは凄い!」
もし、それが可能であるなら、春のフロア、夏のフロア、秋のフロア、冬のフロアを作り、その季節のフロアの特性を生かした、産業が期待出来るのではと考えると、にやけが止まらない。
「どうしたの?いきなりにやにやして?」
「あっ、ごめん。いやね、もしそれが可能なのなら、春のフロアは、年中桜を満開に咲かせ、夏のフロアは年中海水浴が楽しめ、秋のフロアは年中紅葉が楽しめ、冬のフロアは、年中スキーやウインタースポーツが楽しめるんじゃないかと思ったら、ワクワクが止まらないよ」
「そう言った事は可能じゃな。そのフロアだけがそうであるからして、産業には影響は無いじゃろうし、逆に文化の発展は加速するだろうな」
文化の発展には四季があるか無いかで言えば、当然あった方が有利である。
例えるなら季節事に、衣替えをすれば衣服が売れ、暑かったり寒かったりすれば、季節家電と呼ばれる物は入れ替えをしなければならないからだ。
こうして、ある程度迷宮都市については目処がつきそうなので、眠る事になった。
今後、ラッフェル島をどう発展させるのかを考えていると眠れなくなりそうだ……そう思い考えるのは止めにする。目を閉じ羊を数えると疲れが溜まっているせいか、案外早く寝落ちするのであった。




