第79話 神界にて
―― アノースの神界・神殿 ――
地球から転移をして、アノースの神界にある、神様が居る神殿にやってくると、神様は私たちを笑顔で出迎えた。
「おお、二人とも戻ってきたか。どうやら、タクトは無事だった様じゃな。アイリーン殿この度は面倒を掛けたな。改めて礼を言わさせてもらうよ」
「こちらこそ礼を言うぞ。タクトと出会ったのは運命かもしれないからのう」
「運命だなんて、またまたご冗談を。地球の最高神であるアイリーン殿が、そんなこと……まさか、あったのか?」
「ははは。中々面白い反応よのぅ。そのような事があったのじゃよ」
そのアイリーンの言葉を聞いて、笑顔から急激に顔を強張せた神様を見て、アイリーンほくそ笑む。
「まぁ、冗談はこれくらいにして、それで今回こちらに一緒に、こられた件を聞いても宜しいですかな?成功報酬ならまた追って連絡をしようと思っていましたが?」
「冗談ではないのだがな……」
アイリーンはボソっとそう言ったのだが、神様はそれを聞き流したので「それは、私からお話させて下さい」と、説明は私がする。
「フィ・いやアリーシャ。もうワシとの関係は神と女神ではなく、今はタクトの眷属なのじゃ。親子の関係じゃから普通に話すが良い。お主も女神であるし、実の娘に神様と呼ばれるのは他人のようで寂しいかからのう」
タクトには隠してあるが、実は私とこの世界の最高神である神様、ゼフトとは親子関係である。
なぜそれを隠し妖精だと偽っているのかと言うと、仮にあの時、女神だと言うとタクトが萎縮してしまい、結果、悪い方向に向ってしまうのではないかと思ったからだ。
今思えば、それは完全に失策だったと認めざる得ないが、今更言いで出す事が出来ない……だが、どこかのタイミングで言わなければならない。
「それでは遠慮なく。実はタクトとは別に博士さんという、地球人をアノースに転移させて欲しいのです」
「う~ん。ワシは構わぬが理由が知りたい。それと、アイリーン殿が出す報酬というか、条件をな……まさか無条件なわけはあるまい?」
父ゼフトは、アイリーンがまた何を言い出すのか分からないとばかりに、苦笑いをしながらアイリーンの顔を見た。
「まぁ、条件はあるが……まずアリーシャ。お主から理由を話すがよい」
「はい。理由ですか……理由は、いくらタクトの知能が人より優れているとはいえ、やはり専門分野ではない医療までは詳しい訳ではありません。今回、タクトが刺された件で、改めて医療の発展の必要性を感じたからです」
「確かにのう。この世界では教会があるから、治癒魔法で怪我や痛み程度なら直る。しかし、それに依存し過ぎて医療の発展の妨げになっていたのは以前から懸念してはおった」
「はい。そのとおりです」
元々タクトをアノースに転生させた理由も、魔法世界では魔法がある故に技術の発展や、物の追及や探求と言った大事な部分が失われているからである。
タクトの知識や技術を広めれば、嫌でもこの世界の人々に、いかにそれらの知識が必要で、大切なのかを分って貰えるのではないか?そんな理由と狙いがあった。
「タクトだけでは、この世界の医療の発展は無理だと考えたのじゃな?」
「はい、餅は餅屋と言う日本の言葉にはあるそうですが、タクトは技術屋であるものの、医療についてはまったくの素人です。医療技術や知識においては、今回助けていただいた博士さんには遥かに及びません。それで、タクトの助けが必要なのではないかと思いました」
「なるほど。だが、果たして今まで魔法に頼り切っていたアノース人、いや教会関係者が素直に受け入れのか?」
「それについては心配には及びません。今回博士さんがアノースで治療していたのを、教会の関係者である聖女と名乗る女性が、それは熱心に医療の事や治療の事を聞いていました。もし博士さんがアノースに来さえすれば間違えなく医療改革が起こるでしょう。そうなれば。人口減少の問題、盗賊や、貧困の問題などの解決の糸口が見つかるのではないかと推測します」
「うむ。それはこちらにとって願ったり叶ったりじゃな。それにしても、聖女か……そんな神託をした覚えはないのじゃがな……」
「恐らくは、アノースの教会が定めた役職名でしょう」
「そうじゃろうな。まぁ聖女の件に関しては自由にさせておこうか。神であるワシが人間社会に首を突っ込むのもなんじゃからな……」
父は、そう言うとちらっとアイリーンの顔を見た。
「ん?ワシの顔に何かついておるか?」
「すまぬ。ただ、魔法と科学が融合されれば、地球を超えた治療が可能となるであろうから、地球の最高神である、アイリーン殿がどう思っているのかと」
「人を助ける為に邪魔をしようなどとは思わぬよ。それに地球を越えるなどありえぬじゃろう。地球の医療は日進月歩じゃ。半導体やあらゆる機器が揃っていないアノースでは知識だけでは、到底追いつくなど無理な話じゃろう」
「そうじゃな。アイリーン殿の言うとおりじゃ。知識だけでは人の命を救うのは限界があるからのう」
「ええ。仰るとおりです。地球人とアノース人、同じ人間でも体の構成が微妙に違いますから、いかに博士さんが優秀だとはいえ急激な発展には結びつく筈はありません」
「話を戻すが、それで博士という日本人はアノースに行く事を何と申しておる?」
「本人は来る気満々でしたよ。それにタクトの同郷の親友と言う事で、これからは、相談や話し相手にもなるでしょうし、お互いにストレス発散にもなるでしょう」
「そうじゃな。気を遣ってばかりおると、精神的な負担にもなる。ワシもその意見にはさんせいじゃよ」
今までこのアノースに来て、王族や貴族、勇者に至まで、タクトが会話をする人間は、ほぼほぼ気を遣って喋らなければならない相手ばかりであったからだ。
楽しそうに会話をしている二人を見ていると、気軽に冗談を言える相手が必要だと思った。
『まぁ、私はタクトと気楽に喋っているからいいけど……』
そう思っていると、少し喉の渇きを覚えたので、アイテムボックスから飲み物を出し、父とアイリーンにも配る。私はアイスミルクティーを一口飲んだ。
「うむ。話は分かった。して、アイリーン殿。その条件には何を所望するのじゃ?」
神様はそう言うと、私が出した紅茶を飲んだ。
「そうじゃがのぅ。話を戻す様で悪いが、今回の件を含めてじゃが、タクトにワシを貰って欲しいのじゃ」
「ぶーーーっ」
父はタイミング悪く紅茶を吹き出し、鼻に入ったのか、ハンカチを口に当て咳き込んでいた。
「正面にいなくて助かったわい!それに大丈夫か?神とはいえ、苦しいものは苦しいからのぅ……」
「……す・すまぬ。ワシとした事が見苦しい真似をしてしまった。もう一度聞きますが、今……何と仰いましたか?ワシの聞き間違いかな?」
あくまでも、父はその言葉を信じようとはせず、はぐらかそうとしているのだが、アイリーンは少し顔を赤くして、
「恥ずかしいから、何度も言わせるな。ゼフト殿の聞き間違えではない!ワシとタクトが結婚するのが条件だと言っておる!」
と、言うと更に顔が赤くなった。
「ア・アリーシャ!どうしてそんな話になったのじゃ!ちゃんと説明をせい!」
父は、その言葉を今度はしっかりと受け止めたのだが、明らかに狼狽して、私に大声で問い質す。
「そんなに大声で言わなくても聞こえていますし、説明もします」
「すまぬ、またワシとした事がつい取り乱してしまったわい。説明を頼む」
「はい。私がタクトの事を冗談半分で、夫婦だとアイリーンに紹介をしたら、アイリーン様がタクトの事を気にいっちゃったんです。それで、2番目でもいいから結婚したいと」
「しかし、アリーシャがタクトを最初に見初めたのじゃないのか?ワシもある程度、見ておったから知ってはいたが」
「まぁ、お父様には隠しようがありませんよね。一目惚れしてしまったのは事実です」
父は全てお見通しのようで、ここで誤魔化しても意味は無かった。
「まぁ、薄々は感じておったからそれは良いとして、何でアイリーン殿までタクトを見初めたのじゃ?」
「ワシも初めは、こんな事になるとは思いもよらなかったのじゃよ。今思い返せば、タクトに何故か会ってみたいと衝動に駆られたのが、切っ掛けじゃったな……」
「そう言えば、会ってみたいと仰っていましたね」
「うむ。実際に会って話をしたりして惹かれたのは事実じゃが、決定的だったのは、リンクを繋げるのにタクトに触れてみた時じゃ。あれは衝撃じゃった。ビビビっと電気が体を走って、ワシはそれを運命と感じたのだ。生まれてから感じた事のない感覚じゃったよ」
「私も、同じ様な感じでしたから、その感覚は分ります」
『そう言えば、私も最初タクトに触れた時、魔法を掛けられたような感覚を覚えたけど、まさかアイリーンまでまったく同じ事を感じるって、これが本当の運命の出会いと言うやつなのかな?』
「そうであると確信は無いのじゃが、他の世界の結婚した神や女神と、大昔に馴れ初めを聞いた事があってな、同じ様な話をしていたからそう確信をした。事実、既に会いたいと心が求めておる」
「アイリーンがどうお考えは知りませんが、私はタクトの事が好きですからね。独占はだめですよ」
「分かっておる。アリーシャが、最初に見初めた相手を横取りする気はない。それに別に順番なんぞワシら神にはどうでも良いことじゃからな。アリーシャがタクトを射止めてからでも、ワシは構わぬよ」
「まぁ、そのなんだ。大体の話は分ったが、父の前じゃ、もう少し気を遣ってくれるとありがたい。それに知らんぞ。人間相手に結婚などをすれば、他の神が反対したり怒ったりしてもな」
「ワシに怒る神がいるなら相手になる。遠慮はいらぬし、どうしても駄目だと言うなら、最高神の地位など返上しれくれるわ。ってそうか?その手があったか」
アイリーンは何か良からぬ事を思いついたようだ。冷笑をしているので、ロクでもないような気がする。
「さらっと凄い事を言いますな……そうならない様に、タクトを早く神に抜擢しなくてはならないのか……功績を考えれば、神に抜擢する事に関して言えば反対意見などは出ぬと思うが……して、タクトには何らかのアプローチはしたのか?」
「ワシもアリーシャも、他の神と揉めぬ様に、結婚を視野に入れて神になる様に説得を試みたのだが、それが存外難しくてな、今回は引き下がったところじゃよ」
「絶世の美女神と言われているアイリーン殿と、親の贔屓目ではあるが、アリーシャの美貌を持ってしても折れないとは……ヤツも中々の堅物じゃな」
「ええ、まったくそのとおりですよ。色仕掛けもまったく通用しないなんてありえないです。例えるなら難攻不落の要塞を落とす様で、どう攻略したら良いのかを手探り状態です」
「我が娘が色仕掛けとは……」
本当は強引にでも落としたいのだが、色仕掛けでは鼻血の問題もあるので悪手だ。それに神になって貰わないといけないし、この前の話し合いで、タクトの気持ちを優先させると決めたので、これ以上攻めるのはよしておく。
「まぁ、これ以上話し合っても、結婚の件はタクトが神になると認めぬ限り、永遠に解決する事はなかろうて……博士については、一度話がしたい。一度連れて来てはくれぬか?」
「良い判断じゃな。この件については、全力でアリーシャを支援する。アリーシャ、時間はたっぷりとある。結果を出したくて焦るのではなく確実に仕留めるのじゃぞ」
「まるで、獲物を狙うハンターですね……タクトの言う通り、急がず、慌てず、確実に行きますので、ご安心下さい」
「頼んだぞ。博士については、1週間後にワシが博士を用事ついでに連れてくるとしようか?」
「1週間後か……それで構わんよ」
「それともうひとつお願いがあるのですが、魔人に与えられているテイムのスキルを、他の種族にも使える様に解禁しれもらう事は出来ないですか?」
「う~ん。この世界の理を作った創造神が決めた事だ。今更アノースの理を変えるのは、望ましくないのではないか?」
「それでは、テイムする魔道具を作ると言うのはどうじゃ。それなら、スキルを与える訳ではないし、理を変えるわけでもない」
「確かにそれなら理を変えなくて済むし、良い方法だと思うが……魔力の問題もあるので、魔道具で扱えるモンスターは、1匹しか駄目と言う事なら許そう」
「いた仕方ありませんね。それで魔道具については、どうしましょうか?」
「誰でもかんでもテイムが出来ると色々と生態のバランスも崩れる。仮に今はそれで良くても将来はどうなるか分らんから、こうするのはどうじゃ?まず、テイムが出来るようになるには、教会に行きワシに祈りを捧げると言うのは?そうすれば、魔道具じゃ無くても、紋章を与えれば扱う事が出来るようになるし、他人に奪われる事もあるまい」
「なるほど、それなら悪人がテイム出来る事は防げるわね。最悪、剥奪も簡単だわ」
こうして、その後もテイムの事を話合い、最終的には以下の様に決まった。
①各国家で兵士や騎士を、最高50人までを国王又は女王が人格者を推薦する形にする。
②教会でテイムの紋章を授かった兵士や騎士は、死亡または、その職業を解かれると力を失う。
③テイム出来るモンスターは各人1匹づつで、悪用や不正が発覚した場合即座に資格を失い、国王又は女王が神に祈りを捧げれば即座に対応する。
④国王又は女王が、死亡又は力を無くした場合は、新しい国王又は女王が、神様に祈りを捧げ、許可を得ねば伝承はされない。
⑤国王又は女王でも、悪用や不正が発覚した場合即座に資格を剥奪となり、最悪の場合は永遠に途絶える事となる。暫定ではあるがこう決まった。
「まぁ、問題があったら、見直しをすればいいから、今回はこの条件でいいわね」
「うむ。時代が変われば、用途も変わるであろうし、混乱するようであれば、最悪テイムの紋章を無くせばなんとかなるであろう」
「ついでに、聖女にも紋章を与えてみるのはどうかしら?そうすれば、聖女の影響力も上がるだろうし、信仰心も上がると思うわ」
「なるほど。聖女の権限や資格については、また1週間後に話し合おうではないか?それまで、意見を纏めておいてくれ」
こうして、神界で話が終わったので、私はアノースにいるタクトの所へ帰る事にする。
「それでは、アイリーン。今日は色々ありがとうございました」
「ん?何を言っておる。ワシも一緒にアノースに行くぞ」
「ちょ・ちょっと待て。先ほどから気付いてはいたが、アイリーン殿の事を呼び捨てとは、いくら女神であったとしても許される事ではないぞ!」
「ワシがそう呼べと言ったのじゃよ。同じ男性を愛した者同士じゃ。それにいずれ家族になるのじゃからその方が自然だろうて」
「そうですか。アイリーン殿がそう仰るなら、いた仕方ありません」
「話が逸れましたが、アイリーンは確かタクトとお別れした筈でしたよね?なぜアノースへまた?」
「決まっておるじゃろう。好きな男の顔が見たいからからに決まっているからじゃよ。うなぎを食べて喜ぶ顔も見たいしの」
「へっ?地球は大丈夫なのですか?」
「地球の神界にはここと違って、柱もおるし天使も沢山おる。それにイザとなったらゼフト殿経由で、こちらに連絡が来るように今からさっと行って、言付けにいってくるから心配はいらぬよ」
先ほど冷笑はこの事を思いついたのであろう。やはりロクでもなかった。そんな事もあり、アイリーンは笑顔で一度地球の神界へと戻っていき、父と二人きりとなった。
「アリーシャ。本当に良かったのか?アイリーン殿をタクトの嫁なんかの候補にしても?」
「良いも悪いも、状況的に断れる訳ないじゃないのよ。それに、これはアイリーンに言われたんだけど、タクトがもし神になったら、永遠に私一人でタクトを支えていくのは無理だと判断したのよ」
「うむ。本来は天使がその役割を果たしたりするのじゃが、この神界では天使は今処罰中だからの。いずれはそれも解き、天使がこの神界へ戻ってくるであろうが、神の支えを天使ではなく、地球のように柱にするのも良いかもしれぬな」
「ええ。違う世界で最高神として活躍をしているお母様の事を考えると、それもありじゃないかと思うのよ。私は天使の事を信用していないしね」
私にも、お母様がいて現在、他の世界で最高神をしている。最高神同士の結婚は、本来ならどちらかが代役を立て、引退をしなければ一緒に住む事は許されず、現在父と母は別居している状態なのである。
それでも、1年に1度位は会う機会があり、まったく会えない訳ではないし、このシステムにはもう慣れてしまったので、今更寂しくは無かった。
そんな事もあり、父は早くタクトを代役に立て母と一緒に、隠居を企んでいるのだと思われる。
そうこう他愛の無い話を父としていると、アイリーンが戻って来た。
「待たせたな。それでは行くとしようか?」
「はい」
一週間後にはまたここにやってくるので、簡単に父と別れの挨拶をして、アイリーンと共にアノースへと転移をするのであった。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
もう既に以前書いた話とはズレが生じていたのですが、この話により、更に大幅にズレてしまいました。
閑話を含めまして、これ以降の以前書いた話しを読まれる方は、まったく別物だと思って読んで頂けると幸いです。




