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異世界魔刀士と七変化の眷属   作者: 来夢
第3章 王国の旅編
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第77話 別れの時

―― シルバーノア・自室 ――


自室に戻ると、両親へのメッセージを撮るのに服を着替えた、違和感のない様に身だしなみを整える。


スマホ用の三脚を取り出しいつでも録画のセットをすると、ソファーに腰掛けた後にメモ用紙と鉛筆を手元に用意して『何から喋ろうか……』と悩んだ。


『死んでいない事が前提だし、19歳までの記憶で考えなきゃ駄目だよな……』


高専に入ってから寮で生活していたので、両親と一緒に過ごしたのは中学までであったが、当然の事ながら思い出は一杯あった。


毎年恒例の様に全国各地の温泉へ旅行行き、その土地のグルメを堪能した事。


『これが原因で温泉が好きになったし、色々な地域の食べ物にも興味が沸いたんだよな……』


旅行や出掛ける時、高速道路で各地の看板を見る度に、その土地の地理や名産品の事を下調べしてくれていたのか、詳細に教えてくれて地理が得意になった事。


『そう言えば、地理が得意になったのもこの事があったからか……』


母が城マニアで、色々な天守閣に登り歴史に興味を持たせてくれた事。


『母さんは本当に城が好きだったよな。姫路城と桜の美しいコントラスト忘れはしないよ……』


小学校の時、夏休みの自由研究で科学に興味をもたせてくれた事。


『ああ……俺が勉強が嫌いにならなかったのも、この両親がいてくれたからなんだ……こうして失ってみないと親の有り難味なんて、生涯気が付かなかったかもしれないよ……』


俺は両親に何かしてあげれたであろうか?今こうして異世界で生きているが、日本では死んだのだ。


『つらい……今更ながら、この両親がいてくれたこそ今の自分ががいる……』


そう思いながら、メモを取っていると目頭が熱くなり、気付かないうちに涙が溢れてきて、走り書きしていた文字のインクが滲んだ。なんとか文章も出来上がるといよいよ録画することにした。


それから数十分の間、涙を拭いながら何度も撮り直し、やっと満足した物が出来あがった。


部屋を出て食堂に行くと、皆はトランプをして遊んでいたので「博士ちょっといいか?」と通路に呼び出すと、博士は「悪いね。ちょっと野暮用だ」と仲間に言って来てくれた。


「苦労したみたいだな……少しだが目が腫れてるぞ」


「ああ。苦労したよ。家は両親と仲が良かったからな。大切に育ててもらった分、申し訳ない気持ちで一杯だよ」


そう言いながらマイクロSDカードを託した。


「博士頼んだぞ!」


「おぅ。任せとけ!」


差し出された手を堅く握り締め、友情の?握手を交わすと、この世界で学んだ事を箇条書きしたノートを博士に手渡した。


「このノートには、この世界の事が色々と書いてある。もし地球に帰ったら何が必要で、何を準備したらいいのかが分かる筈だ」


「ああ。すまない。参考にさせてもらうよ」


「そうしてくれ。後頼みたいのは薬学についてだ。博士も気が付いたと思うが、この世界の人間はどうしても魔法に頼りがちだ。確かに痛みや切創には効き目があるが、疾病なんかにはまるで魔法は効かない。そんな訳で、もし博士の知り合いに薬科大学か薬学部に行ってたやつがいたら、教科書をわけてもらってくれないか?」


「無論だとも。俺も同じ事を考えていたよ。まず日本に帰ったら研修医を辞めて、両親の経営する病院で色々な科を回って基礎を学んでくる。その為に3ヶ月の猶予を貰ったんだ」


「そうだと思ったよ。じゃ頼んだぞ」


「おぅ。過労死しない程度にがんばってくるよ。あっ、それといい忘れたが、お前を助ける為に、アイリーンさんにお願いして、生命維持装置やらをこの世界に持ち込んだ。こっちの世界に来るまで預かってくれないか?」


「勿論だとも。アイテムボックスに保管しておくよ」


博士との話しが終わると、クリスティーヌさんを呼んで、今日限定だが、泊まる部屋の案内を簡単に説明をする。


「この部屋はセキュリティーカードで出入りできる様にしてあります。クリスティーヌさんは馴染みがないでしょうが、日本のホテルと一緒で、入り口のカードの差込口にカードを入れると魔力が流れて、この部屋の全ての機能が使えれる様になっています」


そう説明をすると実際にやって見せると、部屋に明かりが灯った。


「これも、拓人が作ったのか?トイレの温水便座と大浴場にも正直ビビったが、だとしたらお前は神だな?」


「大袈裟だって。それに神様扱いはよせよ。神様に失礼だよ。クリスティーヌさんもそう思うだろ?」


「いいえ、そうは思えません。こんな、神話の御伽噺に出てきそうな物を色々と作り出せるなんて、神様と言われても信じてしまいます」


「だろ?まぁ俺からしてみれば、どちらかと言えば未来から来た迷い人って感じだがな」


「もう~。勝手にしてくれ」


二人は笑っているが俺からしてみると内心複雑だ。先ほど心が折れかけたのだから仕方が無い。それでも前に進むと決めたのだから……


隣同士の部屋に、それぞれ二人がカードを紐付け登録をすると、そのまま二人は残り僅かな時間をこの部屋で楽しむようなので、邪魔者は退散する事にする。博士の事だ間違っても手出しはしないであろう。信用はしている。


そんなこんなで、やる事はやったので、食堂で待つフィーナを呼んで、アイリーンに覚られない様にいつものお勤めを果たしに行こうと合図をする。合図と言ってもただ手招きをしているだけではあるが、時間とタイミングで何が言いたいぐらい分かるであろう。


「もうバレちゃってるわよ。今更駄目なんて言えると思う?」


最初は何の事か皆目見当もつかなかった。だが、フィーナの後ろでアイリーンがほくそ笑んでいるのが分かると、言っている意味を理解した。ほくそ笑むアイリーンに苦笑いで答える。


「そんな訳で、ワシも付いて行くぞ。リンクで見て知ってから楽しみにしてたのじゃ。()隠して神の目を誤魔化そうとするではない」


「すいません。でも本当に……一緒に行くのですか?」


「なんだ?都合が悪いのか?」


「いや、ちょっと心配事がありまして……」


「???」


『また、出血多量で死なないか心配だよ……』


そう思う程に、アイリーンはフィーナ同様、いやそれ以上の美貌の持ち主なのだ。違うとするなら好みの差ぐらいであろう。


俺としたら僅差でフィーナの事が好きだが、こんな事恐れ多くて言える筈もない。神様を色目で見るなど罰当たりだ。


そんな心の葛藤をしながら、覚悟を決めて?温泉へ転移をする。


温泉に到着をすると、俺の気持ちとは反対にアイリーンはハイテンションだ。よほど楽しみにしているのであろう。鼻血が出る想定しか出来ない。どうしたんだ俺の身体。


念のために、テッシュボックスを持ち込みつつ、先に掛け湯をして温泉に浸かり、今から始まる悩殺タイムの準備をする。


取り敢えず、夜空に輝く星を眺めて気分を落ち着かせる。他人が見たらどう思うであろう?勿論テッシュの事だ。


『きっと大丈夫だ!フィーナで免疫が付いている筈だ!』


そう、自分に言い聞かせ待っていると、湯気で曇ったガラス越しに二人の裸体のシルエットが見えた。


『な・なんでタオルで隠してないんだ!体のラインが丸分かりじゃないか!あ~。こりゃまた死んだな』


まだ脱衣所だった為か、バスタオルで2人とも隠しておらず、想定通りの爆発力である。鼻血が出ている感じがするので、咄嗟に両方の鼻にティシュを詰め込む。他人に見られたら変人扱いだろう。もぅ嫌だ。


鼻血が止まる気配も無く、鼻血で温泉を汚したくなかったので必死に湯船から這い上がる。


それに気付いた二人は、水着の上からバスタオルを慌てて巻いて、駆け寄ってくる姿が湯気に隠れて見えた。情けない事にその場で崩れ落ち意識を失いそうになる。


フィーナは慌てて女医の姿に変身して、精神安定魔法を掛けてくれると朦朧とした意識が治った。


「まったく世話が掛かるんだから、しっかりしてよね」


「どうしたタクト大丈夫か?」


「だ・大丈夫じゃありませんよ!悩殺されましたよ!二人は自分の魅力に気がついてなさ過ぎです。自覚を持って自重して下さい。じゃないと死んでしまいます」


「そ・そうか。神にも人にも水着もバスタオル姿も見せた事が無かったの。自信が無かったのじゃが、そう言って貰えてワシは嬉しい」


なんだか話が噛み合わないまま、現代版天国と地獄を体験しつつ、なんとか命を繋ぎ止める。大袈裟かもしれないが、鼻血が出すぎて意識が飛び掛けたのだ。


鼻血も止まったようなので、血の付いた身体を洗い温泉に浸かると、フィーナは変身を解き、バスタオル姿で温泉に入った。


「なぁ、フィーナ」


「なに?」


「精神安定魔法って予防で予め掛けておけないのか?」


「無理に決まってるでしょ。負荷の掛かった精神状態を安定させるだけんんだから。時間制限も15分しかないしね」


「そうなのか?それにしては、15分後にはみんな普通にしてるじゃないか?」


「慣れよ・慣れ。どんなに乱されてもある程度、見慣れれば異常も普通と認識される様になるわよ」


「そのとおりじゃよ。だから早くワシとフィーナの裸体にも慣れると良いぞ!ほれ」


「ちょ・ちょっと待ってくれ!今裸体なんて見たら死ぬわ!」


バスタオルに手を掛けたアイリーンを必死に止めると二人とも大笑いし出す。


「ふははは……今のは最高じゃったよ。顔も反応もな。冗談も試して見るべきじゃのう」


「ふふふ……本当にそうだわ。タクトがそんな感情的になるなんてね」


「か・からかうのはよしてくれ。命がいくつあっても足らなくなる」


『思わず敬語使うの忘れて、突っ込んじゃったよ!』


こうして、天国なのか地獄なのかよく分からない時間を温泉で過ごすと、シルバーノアに戻り、長い一日を終える……



筈だったのだが……シルバーノアに帰ると、アイリーンが一緒に寝ると言い出したのだ。


『終わらない悩殺タイム!俺を殺す気満々じゃないか!』


心の叫びは届く事なく、今日は、ただでさえ刺されて死にそうになり、温泉でもあやうく死にそうになったのに、これ以上は流石に無理だと身体が警告している。


「ちょっと待って下さい。流石に一緒の部屋はマズいのじゃないでしょうか?これでも私……男ですよ?」


「何を言っておる。ワシはタクトの事が気に入っておるのじゃ。ベッドの中で語り合うじゃないか?残された時間を楽しむことすら、タクトは許してくれないのか?」


アイリーンの乞う様なその言葉に、俺は眩暈を覚えた。


『そんな目でそんな事言われたら、断れるわけないじゃないか!しかも何だかエロイし!』


「まぁ、いいじゃないのよ。今夜は特別よ。それに、タクトに男を語られても何も怖くないわ」


「そうじゃよ。タクトは出来た男じゃからのぅ。なんなら添い寝してやろうか?」


「そんなに殺したのならいいですけどね。そうなったら化けて出ますよ」


「それは困るな。じゃ今日は諦めるとするか。ほい!」


アイリーンはそう言うと、VIPルームは空間魔法で広くなり、ベッドが横一列に並んでいた。


「ほれ。準備が出来たぞ!」


『これこそ神の力の無駄使いじゃないのか?いいのかこれで!』


アイリーンが扉に近いベッドに入ったので、壁に近いベッドに一瞬、目をやると、瞬時にフィーナが察知したのか鬼の形相で睨む。


「分かってるってば」


諦めてそそくさとベッドに入ると、二人とも満足をしたのか笑みがこぼれる。


『ベッドは別なのでマシと言えばマシなのだが、それでもこの状況は()()()……いや厳し過ぎる』


「それで、語らいのテーマはなんですか?」


「そうじゃのぅ。回りくどいのは面倒じゃ、では率直に言おう。タクト神になる気はないか?」


「はぁ?と・突然何を言い出すんですか?」


「いいじゃないのよ。もう仲間達は、タクトの事を神扱いしてるじゃないの?」


「フィーナまで何言ってるんだ!今日の俺を見ただろ?こんな心の弱い男が神様になるなんてあり得ないよ」


「そんなもの経験で何とかなる。もし神になると言うなら

、ワシもフィーナも全力で応援するぞ!」


「そう言う問題じゃありませんって!もし仮にそれを認めたとしても、この世界の神様が許してくれるわけ無いじゃないですか!」


「ふふふ……その神様がもしタクトを神様候補として認めたらどうする?」


「意味が分からないよ……兎に角だ!まだ神様に与えられた使命も何一つ達成してないんだ。何か一つでも達成したら考えるよ!」


この言葉は、口から出任せではあった。一歩も引かない二人を見ていると、こうでも言わないと納得してくれなさそうである故の苦し紛れに出た言葉だ。


「分かったわ。その言葉忘れないでね。また時期が来たら話し合いましょ」


「うむ。ワシも全力で他の神を説得するから安心しておれ」


二人は既に結託していているようだ。やる気満々だ。断る選択肢は既に無い。


こうして、暫くの間、色気話など一切無く、神様になると死ななくなるとか、お腹も空かなくなるとか、俺にとっては、あまりメリットを感じられない内容の説得を続けられて、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。



翌日……


顔を洗いにこっそり起き、コーヒーが飲みたくなったので食堂の冷蔵庫へと向かう。


「あっ、タクトさん。おはようございます」


「ラルーラさん。おはよう。いつも朝早いね。あっそれと昨日はごめん。あんな事があったから買い物一緒に出来なかった。今日で良かったら少し出掛けようか?」


「本当ですか?正直諦めていたから嬉しいです。それよりも、謝らなくて結構ですよ。あんな事があったんですもの。タクトさんが無事だっただけで良かったですよ」


「ありがとう。そうだ、今からコーヒー飲むけど一緒にどうだい?」


「一緒にしても宜しいのですか?」


「勿論ですよ。一人でいるよりも楽しいですしね」


俺がそう言うとラルーラさんは、にっこり微笑み、一緒に食堂へ着いてきた。


すると、食堂には先客がいて、よく見ると博士とクリスティーヌさんが、朝っぱらから話をしていた。


「おはよう。邪魔したかい?」


「おう。おはようさん。邪魔なんかしてないよ。今クリスティーヌさんに、欠損した部位について、地球の医療方法について説明していた所だ」


「ええ。地球の医療は素晴らしいですね。車椅子とかギブスとかとても参考になります。アノースでは体が不自由になると、働く事すら出来なくなりますから……」


「お見せ出来ないのが残念ですよ」


博士は残念そうにそう言ったので、俺はこの前作った車椅子の存在を告げる。


「ん?何を言ってるんだ?車椅子ならもう生産を始めたぞ?ほれ」


「おれはアイリーンの[ほれ]が移ってしまったのか、そう言うとアイテムボックスから、車椅子を取り出した」


「これは、拓人が作ったのか?」


「違うよ。俺が作り方を教えて、この近くあるザバル男爵領で大量生産している最中だよ。仲間にセリスって娘がいるだろ?その娘の親父さんの領地だよ」


「医療従事者でもないのに構造が分かるなんて凄いな。ひょっとして義手とか義足とかあるのか?」


「車椅子は祖母が使っていたから、なんとなく覚えていたんだよ。それにパラリンピックにも興味があって、見ていたからな。でも流石に義手とか義足は構造が分からなくちゃ作れないよ。色々な種類もあるそうだし、サンプルでもあれば作れるがな……」


「そっか、サンプルがあればか……またこっちに来る前までには、どうすればいいか考えておくよ」


「話に割り込んですいません。この車椅子に、触ってもいいですか?」


「勿論ですよ。なんなら差し上げますよ」


そう言うとクリスティーヌさんは嬉しそうに「本当ですか?」と言い、お礼を言ってくれた。


その後、ラルーラさんと雑談をしながらアイスコーヒーを飲み、朝食の準備を手伝って貰うと、いつもどおり、全員揃っての食事を摂る事になり、博士は俺の正面に座る事となった。


「久しぶりの親友との会話に邪魔しちゃ悪いから、私たちはあっちで食事を摂る事にするわ」


「タクト様すいませんでした。博士さんを独占しちゃいまして」


「まぁ、ワシもタクトを独占してしまったからのぅ。ここは久しぶりに親友同士、楽しく話すとよかろう」


3人は気を使ってくれた様なので、お礼を言って博士の前に腰掛けた。


「どうだった?異世界は?」


「色々と驚いたよ。いただきますや乾杯なんかもちゃんと浸透しているし、異世界にもまさか米や醤油があるとはな。驚いたよ」


「いただきますや乾杯は俺が浸透させたんだ。それに、この米も醤油も俺が日本から持ち込んだ米だよ。だけど米も醤油も、バーベキューを頻繁にしているせいか、もうすぐ底を尽きそうなんだ。だから、欲しいものリストに書こうと思ったんだけど、それもいずれは尽きてしまうだろ」


「そりゃ、食べれば無くなるわな」


「だから、欲しいものリストには、面倒だけど苗や麹と書いたんだよ」


「一から作るつもりか!醤油も味噌も出来上がるまで1年近く掛かるんじゃないか?」


「それ位は分かっているよ。だけど醤油も味噌も無くなったら終わりなんだ。知識も既にあるのだから、作るしかないだろう?諦めろと言うのか?」


「その選択肢は無いよな。よし!俺もこっちに来たら、絶対恋しくなるだろうから、一肌脱ぐとするか。だから麹関係は任せておけ。作り方の資料も用意しといてやるよ」


「頼むよ。それと、ガラス工芸の映像なんかもあったら参考にしたいから、あったら宜しくな」


「了解だ。纏めてPCに入れといてやるよ」


博士の感想は、食べ物に関してばかりであったが、それは恐らく医者の子らしく、海外旅行の経験上で食べ物に苦労した結果なんだろうと勝手に理解した。


こうして、昔話に花を咲かせ、食事を摂り終えると、地球で俺の頼んだ物を揃える為、フィーナが一緒に行く事になり、アイリーンと博士とは一旦お別れする時間となったので、広い甲板へと移動をした。


「博士、クリスティーヌさんと別れは済ませたのか?」


「ああ、見てのとおりだよ」


博士の視線の向こうには、寂しそうにしている、クリスティーヌさんの姿が見えた。


「いいのか?あのままにしておいて」


「ああ。これ以上一緒にいると、寂しさが倍増するからって言って引いたんだ。仕方が無いさ……」


「良くもまぁ、聖女様をあそこまで、たぶらかしたもんだな。羨ましいよ……」


「拓人だけには言われたくないよ。それにな、あの娘は俺に興味があるんじゃなくて、地球の医学に興味があるんだ。そこを勘違いしないでくれ」


「お前は冷静だな……尊敬するよ……」


「冷静とかそう言うのじゃなくて、振られた経験値なら圧倒的に俺には敵わないだろ?虚しいけどこれが現実だ!それに、宗教にはある程度理解があるからな。決まり事を捻じ曲げてまで何とかしようとは思わないよ……」


「振られた経験値って、そんなのあるの?それに決まり事って?」


「フィーナさんも知らないのですか?これは日本、いや地球でもある事なんですが、聖職者の女性は神様に捧げた身なので、結婚は出来ないそうなんですよ。なんでも、神様の嫁扱いになると言う事らしいのですが……」


「何を言っているんだか……神様も結婚はするし、家族もいるのですよ。馬鹿げた話ね」


「そうじゃな。馬鹿な話よのぅ」


「まぁ、兎に角です。振られた経験値が高いせいで、打たれ強く、立ち直りも早くなったんです。私も早く忘れますから、皆さんも早く忘れて下さい」


「地球の最高神が馬鹿な話と言っているのに、何を言ってんだか」


「そうだよな。でもここはアノースだ。諦めるよ」


博士は苦笑いをしてそう言っているが、クリスティーヌさんから直接聞いてはいないので、余計なお節介かもしれないが、後から本心をこっそり聞いて見ようと思う。


『それにしても潔いと言うか、意外に強情だよな……』


「では、時間がそう無いので、ワシ達はそろそろ行くとしようか?」


「本当は俺も行きたいが、地球では既に死んだ身だ。そう思うと少し切ないが……フィーナ。後の事は頼んだぞ」


「了解よ!おみやげ楽しみに待っててね」


「アイリーンともしばしの別れとなりますが、また会えるのを楽しみにしてます」


「うむ。話し次第では、また直ぐ会えるじゃろうて、その時まで息災でな」


「最後に博士。次会える時を楽しみ待ってるからな。それと俺の両親の事を頼んだぞ」


「勿論だとも。次会う時は俺もここにいるメンバーと仲間だ。その時はみんな仲良くしような!」


仲間達が異口同音に「はい。楽しみに待ってます」と答えると、アイリーンが転移魔法を唱えた。


転移魔法陣が現れると、転移魔法を知らないメンバーは、何が起こったのか分からない顔をしていたので後から誤魔化して説明をするとして、俺たちは魔法陣の中に入って行く3人を見送る。


「それじゃ元気でな!」


「おうよ!みんなも元気でな。また会おう!」


博士がそう言うと、3人は突然魔法陣と共に消えたのだった。







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