第71話 王都での戦い②
―― 王城城門前 広場 ――
≪アンジェの視点≫
お父様に啖呵を切ると、心配した兄が意気揚々と歩く私の隣に来た。心配をした、お父様がよこしたのであろう。頭の良さは認めるけど実戦となると、少し頼りないのだが。
城門に向う道中で兄と作戦を練り、兄が兵士に状況説明と簡単な作戦を言い渡す事になった。詳しい作戦は時間が無いので馬車で話す事になった。
兄は少し戸惑いながら「本当に私が言っても構わないのか?」と聞くが、これは王子である兄の役目だ。そう思った。
城から出ると、騎士や兵士達は綺麗に整列をして待っていた。私達は立ち止まり階段を下りずに横一線に並ぶと、ゴルディルは一段階段を下り兵士にいる方向を見る。
「兵士諸君!この短時間でよく集まってくれた。それでは、ワーグを捕らえる為の簡単な概要を王子から言い渡す」
ゴルディルはそう言うと、兄も階段を一段下りた。
「私たちが日ごろお世話になっている、タクト様がワーグの手下に襲われた。しかも王女であるアンジェと男爵の娘であるセリスのいる前でだ!今回は動かぬ証拠もあり、大義名分はこちらにある!」
兄がそう言うと兵士達はざわめく。戦ったことがある者は信じられないと言った表情である。
「それでは、今からこの王都にあるワーグの屋敷を包囲し、騎士長、兵士長、勇者達でワーグの屋敷に突入する。一般住民を巻き込まない為に出来るでだけ戦闘は避けるつもりだ。しかし、相手はあのワーグだ!前科持ちの冒険者や盗賊どもを私兵として雇っていると皆も噂は耳にしているであろう。黒い噂も絶えぬやつだ!必ず全員をひっ捕らえて、数々の悪逆無道を白日の下に晒すのだ!」
兄は声を精一杯張り上げ、騎士や兵士を鼓舞すると「おー!」と兵士たちは雄たけびを上げる。
「それでは、出陣する!」
騎士長であるゴルディルがそう言うと兵士達は、素早く別れて隊列を組みながら馬車に乗り込む準備をする。
私達は馬車に乗り込むと、ワーグの屋敷へと向かう15分の間に、アルムさんとゴルディルを交えて詳しい作戦を練った。
決まった事を要約すると、私、セリス、ラルーラさんが陽動をしている間に、その他の仲間が梯子を使い、屋敷の庭にへと侵入し、合図と共に突入すると言った単純なものである。兵士達は屋敷を取り囲み誰も逃がさない。
作戦が決まると。いよいよ決戦の時が近づいてくる。
『さて、一体どうなる事やら』
そう思うのは王都では、小競り合い程度の事件しか起こらないし、モンスター絡みの事件は冒険者が優先とされている。
不安があるとするなら、騎士や兵士達も戦争と呼ばれる大規模な戦闘は経験がなく、それはこの世界が極めて平和であった証拠でもあった。
『だからと言って兵士たちは訓練を怠った事など無いし、有事の際は整然と訓練通り動けるようにしてある。考え過ぎかな……気負うと碌でもない事になる。まぁ気楽に行こう……』
そう自分に言い聞かせ、高揚した心を落ち着かせた。
ワーグの屋敷の付近に近づくと、馬車を近くの広場に止めるように指示を出した。いきなり馬車で押しかければ、事前に逃亡や対策を立てられる可能性があったからである。
馬車から降りて、遠巻きから見える屋敷は敷地が広く、商人とは思えないほどの規模を誇っていた。
父親が、商人として成功を収めた結果と言えばそうなのだが、ちょとした貴族の屋敷よりも立派な建物であった。事前情報では、門を守る門番が常に二人体制でいると報告があり、まるで上級貴族のようだ。
「それでは作戦を実行に移します。皆さん、私達は行って参りますので、兵士達に蟻一匹たりとも逃がさない様に伝えて下さい」
「勿論だ!では行ってくる」
お兄様はそう言うと、突入班?を引き連れて兵士達の元へ向かったのを見送ると、セリスとラルーラさんを連れて行動を開始する。
徒歩で何くわぬ顔をしてワーグの屋敷の正門へと向かうと、こちらに気付いた門番がやってきて、当然のように何をしに来たのかを尋ねてくる。ここはまだ門前ではないのに厳戒態勢であった。
「ここは、ワーグ様の屋敷だ!事前に連絡の無い者をここを通すなと仰せ付かっている。さっさと立ち去るがよい」
門番は、認識阻害の術式を発動しているので、私が王女だとは気付いていない。ラッキーだ。
「何事ですか?この道までもがワーグの私有地とはしりませんでしたよ」
「それはそうだが、この先には何も無い。いわばこの道を通るのはワーグ様に用がある関係者だけだ」
私は、王族の証明書を出すと門番に見せながら立ち位置を変える。勿論、これは作戦の内のひとつで、証明書に門番が目が行っている間に、仲間達が梯子を伝って庭に入る為の陽動作戦である。
私が王女だと分かると門番は狼狽して後ずさる。
「私が王女だと分かったならそこを通しなさい。王女として命令をするわ。これは、この国の条例で決められている権利なのは知っているでしょ?」
私は毅然とした態度でそう言うと門番は、慌てて門を開けに行った。ちなみに王族に逆らうのは重罪である。
私達がそうやりとりをしている間に仲間達は庭に入ったようだ。屋敷を囲う壁の角で兵士が腕で大きく丸を作っていたのである。
私は、5人が木の木陰に隠れるのを横目で確認をすると、門を通り屋敷へと向かう。
『何とか、陽動作戦は成功ね』
屋敷の扉の前に到着をし扉を【コンコン】とノックをすると、目つきが悪く、体格の良い護衛が屋敷から出てきた。
「姉ちゃん達何者だ?今日は客は来ないと聞いているが?」
「少しお話があってワーグ様に取り次いで欲しいのよ。お願い出来るかしら?」
私はここで核心に迫るのではなく、警戒をされないように言葉を選んでそう質問をする。
「まぁ、門番が通したんだ……いいだろう。今から呼んでくるから、大人しくここで待っていろ」
そう護衛の一人が言うと、あっさりと呼んできて貰えるらしく、少しばかり拍子抜けではあるが、良かったと安堵をする。
それから、暫く経つと、ワーグが面倒くさそうな顔をしながらこちらに向かってやって来た。認識阻害の術式が掛かっているとはいえ、念のためにラルーラの後ろに隠れ下を見る。
「誰だこんな大事な時に来るやつは?ん?ワシはこんなやつ知らんぞ」
「まぁ、連れないわね。私の顔を忘れたの?」
超絶人見知りのラルーラさんが、がんばって対応をしてくれている間に、私とセリスは、タクトさんが作ってくれた護身用の武器、スタンガンと呼ばれる魔道具に魔力を流し始める。保険の為だ。
「娼婦の誰かか?いちいち覚えておらぬ。それで、ワシに一体何用だ?忙しいから早く用件を言え」
ワーグはラルーラさんの顔を見てそう言うと、ラルーラさんが美人である為か、いやらしい目付きで値踏みし始める。
ラルーラさんは、こちらに振り返り、嫌悪感を全身で表したので、魔石の充填が終った私は一歩前に出て認識阻害の術式を解く。
「ワーグあなたにタクト様の殺人未遂の容疑が掛かっています。王城へと連行しますので大人しくしなさい!」
「お・お前はアンジェ王女!なぜお前がここにいる!それにワシには何の事だかさっぱり分からん。戯言を言っていないでとっとと帰るが良い」
ワーグの顔色が明らかに変わり、明らかに狼狽している。
「とぼけても無駄よ。証拠はこれよ!」
私は、ワーグにスマホの画面一杯に写し出された証拠写真を見せると、遠くて見えない筈なのにワーグは諦めたのか策があるのか分からないが急に笑い出した。
「ハハハ……まさかさんな物があるとはな!忌々しい……あいつめ、厄介な代物をこの世界に持ち込んだ様だな!」
ワーグはそう言うと、目つきが変わる。
「それで、タクト様をなぜ殺害しようとしたのよ?商業ギルドにも恩恵はあったでしょうに?」
「はぁ?そんなのある訳ないだろ!全部やつに関わった者が、貴族ギルドに登録しおったわ!」
「それは、個人の勝手でしょ。国際条約で決まっているのは知っているわよね?それが、殺害する理由なわけ?」
「殺害する理由だと?理由なら簡単だよ。ワシはな、今の生活のままで十分満足だったんだよ。金、女、名声、ありとあらゆる物が手に入っていたんだ!それがどうだ?やつが現れてからというもの、ワシが長年苦労して手に入れた権利をことごとく無効にしおったんだ!これを見過ごす事なんて出来るわけがない」
「今まで十分稼いで満足してたんでしょ?それに物が進化すれば世の中がもっと便利になって、世界は発展するのよ!それの何が悪いのよ!」
確かにタクト様が居なくても、この世界の人々は、当たり前の様に普段通りに生活を送っていたであろう。
しかし、本当にそれで良いのか?少なくても、パンやケーキ、温水便座付きトイレ、数々の異世界の物がこのアノースに伝わると、それを知った国民は、目を輝かせ、感動をし、本当に幸せそうな顔をしている。
神様はそれを望み、タクト様をこの世界に送ったのだ……私はそれが答えだと思った。
「今までワシが、これらの権利を得る為にどれだけ大金を使ったと思っているんだ?しかも便利な物を作り、恩恵を得るのは一般の庶民であって、ワシにはあまり関係は無い!」
「どこまでも身勝手で強欲なやつ!」
「何を言う。ワシかて、やつにチャンスをやったんだぞ?権利を全て売れとな。それを断るからこうなったんだ」
「そんな横暴許される訳ないじゃないのよ!あなた中心に世界が回っている訳じゃないわ!」
私がそう言うと、ワーグは何か企んでいる様に笑みをこぼす。
「確かに今はな!でもな、お前達がこうしてここにいる間、何が起こっていると思う?」
「な…何よ!もしかしてまだ何か企てているんじゃないでしょうね?」
「その、もしかしてだよ!やつの作った飛空挺を奪い、ワシは空から世界を牛耳るのじゃ!そしたらお前達王族もおしまいじゃな!わははは……」
「ま・まさか!お前!この後に及んで、そんな事を企んでいたとは!」
「その為に、莫大な金を使い、ランクの高い冒険者や盗賊、そして魔人を雇ったんだ。覚悟すると良い。相手は丸腰だ。捕まえて牢にぶちこんでおけ!」
そうワーグが言うと、護衛の二人が私達を捕らえようとする。
片腕を摑まれたので、ポケットの中に入れてある魔道具に向かって「スタンガン」と言うと、護衛は弾き飛ばされ気絶した。
「小癪な真似を!皆の者、集まるんじゃ!」
ワーグがそう言うと、一階と二階の扉から、十数人の武装した冒険者達が飛び出してきて、完全に私達は包囲された。
「もはやここまで来たら生死は問わぬ。構わん殺って……」
ワーグはそう言いかけると「ドーン!」と大きな音がなると扉は壊れ、アルムさん達が入って来た。
「悪い待たせたな!扉に鍵が掛かってて手間取った」
「本当よ!危ない所だったわ。しかも壊れた扉が私たちに当たったら、どうするつもりだったのよ!」
「ゴメン。ラルーラが感情的になるなんて珍しいな」
「もぅ!」
アルムさんとラルーラさんが会話をしている間に、兄がアイテムボックスから武器を出して手渡してくれたので、武器を持ち構える。
すると、アルムさんが相手を見渡した。
「なるほど。あなた達どこかで顔を見たと思ったら、冒険者ギルドで見た顔ですね」
「うるさい。おまえには関係ない事だ。若造はすっこんでな!」と冒険者達は、思い思いの罵声を吐いていた。
「まぁ、僕としては関係ないですけど、王族に謀反を起こす訳ですからね。ギルドカード没収どころか、国家反逆罪で処刑なんですけど、覚悟は出来ているんですか?」
「う・うるさい!ワーグ様が飛空挺を手に入れたら、世界はワーグ様の物になり、そんな事は関係無くなる。若造のそんな脅しに屈せずやってしまえ!」
どうやら冒険者達は、アルムさんが勇者とは知ないようで、冒険者の一人がそう叫ぶと、みんな一斉にこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。
「キーン」「バシッ!」「ギャー!」「ドーン」「パリーン」
色々な場所から、剣が交わる音、やられて叫ぶ声、壁や物に当たる音などが一気に交差する。
その中でも、アルムさん、シェールさんは流石と言うべきではあるが、ラルーラさんに関しては、フィーナ様から神器を借りているので、もはや尋常では無い強さであった。
「セリス!私たちもがんばりましょ!」
「勿論ですとも、成敗してやりましょう!」
相変わらずのセリスではあるが、私もセリスも神器を貸して貰っているので、ラルーラさんに負けじと敵である冒険者に向かって刀を振る。
『何よこれ!剣がムチの様に伸びる』
神器である子狐丸の凄さを実感しながら、冒険者の攻撃を幾度もかわし、次々と相手を斬っていくと、ワーグが舌打ちをして通路を走り逃げて行く姿が見えた。
「待てワーグ逃げるな!」
私は慌ててそう叫ぶが、そんなので止まるようなやつは見た事は無い。
「お兄様、ワーグがここから逃げました。ここを任せるので、私達は追いかけてもいいですか?」
「くっそ!仕方が無い!早く行くんだ!」
私は、セリスとラルーラさんを従えワーグを追う。ワーグは通路の突き当たりを右に折れ、私達も同様に右に曲がると、通路は行き止まりにも関わらずワーグの姿が無い。
「どこに隠れたのよ!」
3人で手分けをして、通路にある部屋の扉を片っ端から開けて確認みるが、どこにもワーグが居る様子が無い。
「窓も開けられた様子が無いし、こんな密閉された屋敷で見失う筈がないわ!ワーグのやつ、どこへ消えた?」
私達は慌てて通路の周りを良く確認をする。
「アンジェ、あそこのカーペットが少し変だと思わない?何かシワがあると言うか……」
セリスがそう言うのでカーペットを慎重に捲ると、地下に繋がる隠し階段が姿を現す。
「くぅー。こんな所に隠し通路があったなんて、ミスったわ!」
私たちは話合うと、地下に繋がる通路に下りる事で合意し、じゃんけんをした結果セリスがまず下り様子を見に行く事に決定した。
「下に敵がいると面倒ね。下りたら斬られる可能性があるわ」
「それなら、水魔法で水を流してみたらどうでしょうか?うまく行けば声がするか、流されるかもしれませんよ?」
「ラルーラさんナイス・アイディアよ水魔法は使えますか?」
ラルーラさんは水魔法が使えると言う事なので、神器を通し水魔法を唱えてもらうと、階段に沿って大量の水が流れる。
「流石は、神器ですね……出鱈目な性能ですよ……」
水魔法を使用した本人が言っているので間違えは無い。
武器としても有能だが魔法としても有能であった。
「流石タクト様。素晴らしい武器です、これなら誰にも負けないような気になりますね」
セリスはそう武器を褒めながら、階段を一歩一歩確かめる様に下り出し、地下通路に出てると、先ほどの水魔法の水が突き当たりにある扉を破壊している。
「何か臭うわね!ひょっとしてこの先は……」
その扉をくぐると、予想通り。そこは一般にあまり知られていない下水へと続いていた。
「ぐぅ!もはやここまでか!」
下水は国が管理をしていて、複雑に入り組んだ迷路になっているので、もはや追うのは事実上困難である。しかも悪臭で鼻がひん曲がりそうであった。
「仕方が無い戻りましょう……そしてとっとと屋敷を押さえて、シルバーノアに行かなくちゃ!」
私はそう判断をし、地下通路から屋敷へと戻り始めた。




