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異世界魔刀士と七変化の眷属   作者: 来夢
第1章 旅立ちの準備編
7/203

第7話 異世界で電気

―― バベル・屋敷・寝室 ――


異世界生活二日目 朝……


ふと目覚めると、見知らぬ天井が目に映った。


『ああ……そう言えば……異世界に転移したんだっけ……』


寝惚け眼(ねぼけまなこ)を擦りながら、起き上がろうとすると、横から花のいい香りがする。


『ま・まさか!』


まさかと思いつつ、恐る恐る目線を横に移すと、昨日眷属となった美女?が、布団をかぶり横ですやすやと寝息をたてていた。


もちろん、この『?』の部分は、フィーナは妖精だからだ。


現状が理解出来ず、狼狽(うろた)えてしまい「ドスン!」と音が鳴るほどの勢いで、ベッドから落ちてしまった。


「いててて…………」


落ちた勢いで、お尻を打って痛かったので、擦りながら立ち上がる。


念のため、昨日眠ったベッドの位置を確認すると、どうやらフィーナは、寝惚けて俺のベッドに入ったみたいだ。


落ち着く為に深呼吸をして、ベッドサイドにスマホが置いてあったので、手に取り時間を確かめる。


『まだ5時半かよ……』


消灯はしてあったが、壁にある、光の魔石の間接照明が、部屋を少し明るくしていたので、なんとか部屋の周り見えたものの、間違えても仕方がない……と言い訳出来る程度の部屋の明るさであった。


どういうわけか、窓の方の見てみると、木の蓋から日の光が漏れていて、少し木製の窓を開けて外を覗いて見ると、バベルの密閉された空間が、全体的に日光の様に照らされていた。


これも、昨日のクロックと言う、魔道具の仕業だと思うと、やはり神様はとんでもないと思うのだが……今はそれどころでは無い。


結構大きな音をさせてしまったので、起こしてしまったと思ったけど、いまだに寝息をたてているので、安堵をする。


「眼福だよな……こんな美人と一緒にいられるなんて……」


そんなことを思いつつ、隣のベッドに腰掛けると、慣れが必要だと自分に言い聞かせ、フィーナの顔を真剣に見てみる。


『人形の様に色白で、肌はきめ細かく、顔も整っていて、スタイルも言う事なし……こりゃなんの罰ゲームだ?それに、見惚れたのは、確かなんだけど、今まで好きな女性と喋っても、緊張したことなんて無かったのに、こんな感じで緊張したの初めてだよ』


実際、こうして見ているだけで胸が高鳴り、高揚感を感じる。


確かに、(みず)から恋をして、女性と付き合った事は、未だ嘗て(いまだかつて)一度も無いのだが、一度や二度好きになった()ぐらいはいる。


仕事、勉強、剣道と忙しい毎日を送っていた前生では、恋と両立出来るほど器用な男ではなかった……と自己評価をする。


だから、今までの人生で恋をしても、最初から諦め、気持ちを押し殺してきた。


『なんでフィーナを見て、こんなに気持ちが高ぶるのだろう?』


人生の中で今まで見た誰よりも美しく、笑うと天使の様にかわいい……どストライクいや……一目惚れ……何か叶わない、初恋に似た感覚がある。


これが、本当の意味での初恋なんだろうか?


『いやダメだ。フィーナは、神様から授かった、大切な眷属であり妖精なんだ。絶対に叶わぬ恋に夢中になり、神様との約束を疎かにする訳にはいかない。この気持ちはバレない様に、墓まで持って行こう』


……心の中でそう誓う。


『なんだかもやもやするから、昨日創作した木刀で素振りでもしてから、フィーナが、起きる前に朝食の用意でもしようとするか』


少し空けていた窓の蓋を閉め、そっと、フィーナが起きない様に寝室を出る。


屋敷の庭に出ると、まずストレッチをして、煩悩を振り払うように30分間木刀を振る。


『なんだか少しすっきりしたな。そろそろ朝食でも作ろうか』


結構汗をかいたが、昨日と同様に、グレーの玄関マットに乗るとクリーンの魔法で体がリフレッシュされる。


『んー。便利!魔法最高!』


と、フィーナがまだ寝ているので、心の中でそう叫ぶと、厨房へと向かう。


厨房に着くと、昨日アイテムボックスに入れた、食材や調理器具を取り出して並べ、全の物を頭に入れておくのは困難なので、メモ書きしておく事にした。


食材の準備が出来て確認を始めると、まだ魔法に慣れていないので、アイテムボックスからカセットコンロを取り出し、ミックスサンド、コーヒー、紅茶を用意をして食事の準備が終わる。


時刻は7時を過ぎたので、フィーナを起こしに行くと「おはよう。朝食の準備が出来たから。一緒にいかが?」と起きるように促す。


するとフィーナは、ゆっくりと起き上がって、腕を伸ばしながら「おはよー……朝早いのね……今から着替えてくるから、先にリビングで待ってて」と、新婚生活初日のような会話に、少しドキっとしてしまった。


リビングに向かいソファーに腰掛け、暫く待っていると、フィーナは、リビングのソファーに腰掛けて、俺の顔をじっと見る。


「ん?なにか付いてる?そんなに見つめられると照れるんだけど」


少し動揺しつつ、顔が熱くなるのを感じたが、寝顔を見て慣れたせいか昨日より、かなりましになっている。


「罰は上手く行った様ね。大分表情が良くなったわ」


罰?いったいなんの?と思いながら、フィーナの顔を見てみる。すると非常に満足した表情をしている姿を見ると、ようやく、寝惚けて、俺の寝ているベッドに入ったのではなく、明確に狙ってやったのだと知る……


「ま…まさか、俺の寝ているベッドに入ったのは、ワザとなの?」


自分の朝の愚行に赤面をしてしまい、更に狼狽しながら質問をする……


「そうよ。もう忘れたの?昨日寝る前に、覚えてらっしゃい!と言ったじゃない」


「マジか~!本当にするとは思わなかったよ」


「スキンシップよ!それにしてもいきなりベッドから落ちるんだから……笑うのを必死で堪えてたんだからね」


「ひょっとして、起きてたの?性格悪いよ~」


「ふふふ……秘密よ! それより、タクトがせっかく作ってくれたんだから、冷めないうちに、頂きましょうよ」


フィーナは、サンドイッチと紅茶に手を伸ばし、手元に引き寄せた。


『なんか、上手く誤魔化されちゃったな……』


「まあいいか。食べよう。いただきます」


「いただきます」


フィーナは、サンドイッチを口に運ぶと、目を丸くし「こんな美味しい食べ物を食べたのは初めてよ!」と、少し大袈裟に褒めちぎる。


「いくらなんでも、言い過ぎじゃないかな?それとも、こっちの世界ではサンドイッチが無いとか?」


話を聞いてみると、アノースでは主食がパンであるにも関わらず、どうやら堅くてあまり美味しくないそうだ。


高校生の時、パン屋でもアルバイトをした経験もあり、どうやらパン酵母と呼ばれるイースト菌は、この世界には無いと結論を出した。


「フィーナ?質問があるんだけど、もし鑑定をして、素材をその物から分離しようと思ったら可能なの?」


もしそれが可能なら、イースト菌などの素材を抜き出せば、培養が出来るので、出来たらラッキーくらいの気持ちで聞いてみた。


「そうね……試した事はないけど、理論上では可能よ」


「よっしゃ~!」


思わず立ち上がり、ガッツポーズをしてしまった。


「どうしたのよ。突然立ち上がったと思ったら、変なポーズで叫んだりして」


「ゴメン、ゴメン、いやフィーナが美味しいって言っていた、このパンだけど、量産出来ると思ったら、つい興奮しちゃって……驚かせてごめん」


「それは本当なの?だとしたらこの世界に、パンの革命が起こるかもしれないわね」


フィーナも、この食パンが気に入ったのか、笑みを浮かべ喜んでいた。


正月に気分を出すのに、餅つき機と兼用ではあるが、ホームベーカリーを買った事を思い出し、こうして異世界に来てみると買って良かったと、しみじみそう思う。


こうして、朝食を食べ終えると、コーヒーを飲みながらフィーナに、今日の予定を提案してみる事にした。


「今日は、この島の探索をしようと思うんだけど、何か予定とかあった?」


「特に予定は無いから、それでいいわよ。木刀では心細いから、武器の素材も見つけに行きましょうか?あとついでに、家具とかの材料調達ね」


「じゃ、神様から頂いた地図で、大まかな位置を確認しようか?」


「それがいいわね。私達ってこの島の事すら、なにも知らないもんね」


アイテムボックスから、地図を取り出し、机に広げて確認をしてみると、残念ではあるが、地図と言っても、この星を平面図で表しただけで、縮尺の値や、地名、境界線などの情報は、一切書かれていなかった。


それでも、アノース全体の地形だけでも分かるのはありがたい。


神様に感謝をしながら地図を見て、この世界のおおまかな地形を把握しようと試みると、この星の大陸は海で隔たれた、似たような大きさの3つの大陸と。おそらくは北極と南極の計五つに別れていた。


「それで、この島はどこにあるんだ?」


そうフィーナに質問をして、この島の位置を教えてもらうと、結構大きな島であって、こんなに、大きな島なのに、町もそれほど大きくなく、人口が少ないのは気になる所ではあるが、恐らくは、海のど真ん中にあるので、行き来が面倒だからではないかと結論付けた。


昨日、フィーナが飛んで島を見てくれたので、分かったことなのだが、この場所であるバベルは、西の海岸に近い場所に位置しているようで、だいたいの位置は把握出来た。


今から開拓や開発など、色々考えると、思うことは色々あるが、今日は、このバベルを中心に探索範囲を絞る事にする。


スマホのカメラを起動して、島の部分だけ写真を撮り、拡大をして目的地を探すと、この近くに鉱山がある事を発見した。


「おっ!ここに鉱山があるな……まず、ここに行ってみるのはどうかな?」


「私は、別に構わないけど、どうやって行くの?歩きだと結構遠いわよ?」


「移動手段がないのか……忘れていたよ……」


<俺の車があるといいんだが……あるわけないよな>と、独り言が声に出ていた。


「車とは、あれの事かな?タクト、ちょっとついて来て!」


何か心当たりでもあるのか、フィーナは椅子から急に立ち上がり、正面玄関を出ていったので、追いかけると、屋敷の裏手に目的の物があるのか、屋敷の角で俺を手招きしている。


「早く!こっちよ!」


フィーナの行く方角に向かい歩いて行くと、フィーナは屋敷の裏で待ち構えていた。


「車ってこれじゃない?」


屋敷の裏に辿り着くと、記憶にある見慣れた車があった。


「お…おれの車だ!神様ありがとうございます。転移魔法で車まで……」


車がある事を喜ぶ反面、冷静に考えてみると、ネガティブな事を想定してしまう。


「でも、肝心のバッテリーの充電が出来る電気と、悪路だとパンクの可能性があるから使えないか」


フィーナは少し考えると、手をパチンと叩き「ねえタクト、雷の魔石で電気を代用出来ないの?」と、的確なアドバイスを貰う。


「その手があったか!ありがとう。でも電圧とか……そうだ」


自分の持ち物の中に、テスターがあるのを思い出し、アイテムボックスから取り出すと、フィーナは、じーとテスターを眺めている。


「それは何?」


「うーん、これはテスターと言って、電圧とか抵抗を計る計測機だよ……」


「私の知識では、電気は存在しないから、何に使うのか分からないけど、使えそうなの?」


「試してみないと分からないけど、挑戦するから手伝ってくれる?」


「もちろんよ。何が始まるのか楽しみだわ」


「じゃ早速だが、実験を開始しよう!」


「了解よ。私が手伝える事なら、遠慮なしに言ってね」


俺は頷くと、テスターを雷の魔石と車の金属部分に当てた。


「悪いけど、魔力を少しずつ流してくれないか?」


「分かったわ」


するとテスターの針は少しずつ上がる。丁度100Vになった場所で、フィーナにこの位置で、魔力を維持出来るか聞いてみた。


「常にこの魔力量で良ければ、魔石の最大出力を固定出来るわよ」


「マジですか!それなら、直ぐに試してくれないかい?」


フィーナは、こくりと頷くと魔力を手に流し始めた。


「準備いいわよ。それじゃやるね」


フィーナが、雷の魔石に触れ「術式オープン」と唱えると魔法陣が現れて、魔法陣を見ると、俺にはまったく理解出来ない、見た事ない文字を書き変えて、書き込みが終わると、魔法陣は魔石に書き込まれていった。


「今のは、一体何だったんだ?いつもなら、魔法陣は発動すると消えるのに、消えなかったし、何か(いじ)っていたみたいだけど」


「この際だから説明するね。全ての魔法は、魔法陣から発動されるのだけど、そもそも魔法陣と言うのは、術式と言う式で出来ていて、特殊な文字で書かれているのよ。だから今やった作業は、その術式を書き変えたのよ」


「なんだか、凄く賢く見えるんですけど」


「ありがとう。そう思うなら崇めなさい!」


「崇めるって……」


「冗談よ……それはそうと、書き換えは終わったから、確かめてみてくれる?」


「ありがとう。最大出力が固定されているんだったら、試しにやってみてもいいかい?」


「じゃあ、私が、今度はテスターを使ってみるわ」


フィーナにテスターの使い方を教えると、雷の魔石に魔力を流してみた。


「どうだい?」


「成功よ!安定してるわ」


「やった!これでなんとか移動に、困ることはなさそうだ!」


無意識のうちに、フィーナの手を握り喜ぶと、フィーナも、いきなり手を握られ照れたのか、赤面をしていて、


「ごめん、つい興奮して」


と謝ると、フィーナもまんざらじゃないみたいで「別に気にしなくていいわよ」とクスっと笑った。


「これで、電気の方は解決したけど、あと問題は悪路だけだな」


「それについては問題ないわ。隠蔽のスキル使えば、途中で魔獣に遭遇しないし、馬車が走っていたんだから、車もある程度なら大丈夫なんじゃないの?」


「それもそうだな。スピードを抑えて、ゆっくり行けばいいか。じゃ準備して、初めてのドライブに行こうか!」


「デートですか?デート」


フィーナは身を乗り出して、またからかうと「いや……違うと思います……」と、それを知りながらも照れてしまい、頭を掻いて誤魔化すと、車用の200Vの電源を創作し屋敷の庭に設置した。


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