第64話 ピンチ
―― シルバーノア・自室 ――
工場を立ち上げてからクロードの町へ戻ると、ザバル男爵や鍛冶職人達を屋敷の広場で降ろした。
ザバル男爵に別れの挨拶をすると「最近忙しくて疲れたであろう。世話になりっぱなしですまんな。この休暇でゆっくりと休むとよい」そう言葉を掛けられた。
「いえ。ザバル男爵には毎回気を遣っていただいて助かってます。それでは3日後に迎えに上がりますのでまた」
そう2日間の休養を貰ったので、デートの約束を果たす為に王都に向かうのである。ゆっくり休むのは無理そうだ。
ちなみになぜ、デートの場所を王都にしたかと言うと、アンジェとセリスが「王都の方が一杯お店もありますし、何よりも地理に詳しいですから。色々案内をしたいのでその方が都合がいいんです」と提案されて、残りの二人もそれでいいと言う事なのでで王都に決定したのである。
そう言った経緯があり、ザバル男爵達と別れると王都に向けて飛び立った。
翌朝、着替えてから自室を出るとフィーナに見送られて城門まで来た。アンジェとセリスは雰囲気を出す為に貴族門で待っているとフィーナに託けをしたらしい。
「それじゃ、行ってくるよ」
「今日は折角のデートだから、楽しんでらっしゃい」
まず最初はフィーナからだと思ったのだが、予想は外れアンジェとセリスからとなった。
理由を聞くと、デートするならリサーチしてきて欲しいと頼まれた。なるほどと思う。
今日はフィーナ以外の女性と街に出掛けるのは初めてで、何だかいつもと違う感じで緊張する。
貴族門にたどり着くと、二人は目を覆いたくなる様な格好で待っていた。そうミニスカートとニーハイソックスっと言う姿だ。似合うとは思うが王族や貴族の娘がこんな格好をしてもいいのだろうか?そう疑問に思う。
「お待たせっていうか、どうして2人ともその格好なんだ ?」
「フィーナ様が折角のデートだから服をプレゼントしてくれると言うので、どせなら異世界で流行っている格好でデートをしてみたかったんです」
「それで、その格好なのか?それにしてもどうしてそのチョイスなんだ?」
「それは、載っていた本の中で一番可愛かったからに決まっているじゃないですか。こう言う服装はお嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど……とても似合うよ」
「よかった。今までロングスカートしか履いた事がなかったので、恥ずかしいですけど気に入って貰えて嬉しいです」
「本当ですよ。気を引くために、思いきって少しエロい格好を選んで正解です」
「こらセリス!意図がバレちゃったじゃないのよ」
「ごめんごめん。ついうっかり」
『エロい格好って自負してんのかよ!何でそもそもフィーナはこんな格好を容認したんだ?謎だよ』
二人のそんな誘惑?に惑わせながら、デートが始まる事となった。だが、この世界の若者のデートというのはどの程度の事までを言うの分からない。
周りのカップルを見てみると、腕を組んだり手を繋いだりして歩いている姿も見受けられたので、さりげなく手を差し出す。二人は手を取ると思いきや、いきなり腕を掴んで腕にしがみつく。
「どうせならこっちよね」
「間違えないです。折角のデートなんですから。嫌ですか?」
「べ・別に構わないけど、王女と男爵の娘がこんな事しても大丈夫なのか。目立つじゃないか?」
「この服は、フィーナ様に認識阻害の術式が施された服なので、誰にも分からないんですよ」
「そうです。安心なんです」
二人はそう言った後、上目使いで「駄目ですか?」と言ってきたので、断る勇気もなく了承してしまう。
『その格好で上目使いなんて反則だよ。断れる訳ないじゃないか。一体どうやってこんなテクを覚えたんだ?親の顔が見て見たいよ』
そう思うと、陛下やザバル男爵の顔が頭に浮かび、消し去るように頭を振った。
腕組をしながら町の中心部に向かって歩いているのだが、両腕を腕組みしながらは歩きにくい。
『美少女2人とデートとは何たる贅沢。俺にはそんな趣味はないけど、あいつが見たら発狂するだろうよ』
勿論あいつとは、俺が日本で最後の日に会った友人である七五三 博士の事である。
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―― 回想 ――
博士とは小中学は一緒で、大きな病院の三男と言う事もあり、高校は医者になる為に進学校へと進んだ。
そんな博士だが、運動でも空手や護身の為に合気道を習い、勉強も当たり前の様に常に学年トップであり続けた。
本人曰く、それは当然のようで幼いころから家庭教師を付けられ毎日何らかの習い事をしていたようだ。
当時、周りの友達が遊んでいるのに自分だけ違うと愚痴を溢していた。今思えば格差を感じる。流石医者の息子だ。
大体のみに行くと、愚痴るのだが内容と言えば……
「そりゃ、今でも親には感謝はしているよ。何でも買って貰えたし、散々お金を使わせたからな。でも子供ながらにそれがプレッヤーだったんだよ」
「そっか。金持ちもそれなりに、大変なんだな」
「そうだよ!女性には目もくれず、青春を全て勉強に注いだよ。それに俺は三男だぜ。二人の兄が跡取りになるに決まっているんだから、俺は親からして見ればただの保険なんだよ。こうして、医学部に進んだが、親の病院で働くなんて真っ平ごめんだ」
「なんだそれ。勿体無いじゃないか?」
「勿体無いか?俺は自由に生きていきたいんだよ。親も出来のいい兄達の成長を見て、今では、お前は好きにすればいいと言ってくれてはいるんだけどな。それなら、もっと前に言って欲しかったよ。そうすれば、俺も青春を謳歌していたの」
博士は、勉強ばかりしていたので視力を落とし、今では度のきついメガネになっていた。女性にもてないのは、この度のきついメガネのせいだと豪語している。
「まぁ、そう言ってくれているのなら、お前は好きな道を進んだらいいんじゃないか?人の命を救うなんて素晴らしい職業じゃないか」
「そうだな、ラノベみたいに異世界に行けるなら、俺はそこで人々を救って医学の発展に貢献したいよ。まぁ、そんなのは非現実的で夢物語なんだから、将来は国境なき医師団にでも入ろうかなと思っているよ」
「そっか。おまえらしい選択だ」
「だろ?それでも、もし生まれ変わるなら、絶対に女の子ともっと遊ぶんだ」
幼馴染で友人、いや親友である博士は、しみじみとそう語った事を思い出す。
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『博士ごめん。本当はおまえが、この異世界に来たかったのにな』
そんな事を思い出しながら、買い物や色々なデートスポットを回る。
デートも順調に進み、昼前になったのでラルーラさんと交代の時間となる。二人は最後に思い出に記念写真を残したいと言うので、ロータリーの中心にある噴水をバックに写真を撮る事にした。
アンジェとセリスが交代で写真を撮る事になったので噴水の前に立った。二人の良い思い出になるといいのだが……
「セリス。使い方分かるか?」
「勿論ですよ。任せておいて下さい。それでは1、2、3でいきますよ。1、2、3!」
その瞬間であった。
噴水から、何者かが俺に向かって背中から刃物を脇腹の辺りに刺し「ざまーみろ」と言い放ち、素早く逃げて行った。脇から血が流れているのが分かる。少し寒気を感じると膝が落ちた。
隣にいたアンジェは俺が刺された事に気付くと「きゃーーー!」叫んだ。
慌てて駆け寄ってきたセリスも、事の重大さに気がついたのか「タクト様!死なないで下さい!」と泣きながら叫ぶ。
俺は油断をした。
何時もなら、シールドプロテクションの術式を付与した服を着ているのだが、今日はデートと言う事で地球で着ていた普段着であったのも防がなかった要因の一つである。
仮にそうであったとしても、常に魔力を流していないと効果がないので、防げたのかは疑問だ。
それに、隠蔽や隠密などのスキルを持っているのは、フィーナだけだと思い込みをしていたのも、油断した要因であるのは間違えではない。
兎に角、刺され所が悪かったのか、水溜りになるのではと思うぐらい、大量の血が失われそうになっていた。
「た・タクト様!ごめんなさい。私どうしたらいいのか判断出来ません」
「刃物を抜くと、血が大量に出るからこのままにして、腰にあるアイテムボックスを取ってくれないか?」
「分かりました」
アンジェは王女である事を忘れ、周りに騒ぎに駆けつけた王都の住民が見守る中、俺の腰にそっと手を伸ばし、アイテムボックスを取ると、血まみれになった俺の手を取り握らせてくれた。
意識が遠のく前に、フィーナから貰った短剣村雨を取り出すと、魔力を流しながら脇腹に刺さった刃物を抜く。
「うっ!」
痛みで声を上げそうになったが、血が噴出し、セリスの顔に少し掛かってしまうと、セリスは取り乱す事無く、冷静に「気になされないで下さい」と言ってくれた。
痛みで気を失いそうになるが何とか意識を保ち、治癒魔法を詠唱すると、傷口から血が止まった事を確認した。
薄れゆく意識の中で財布を取り出し、正面で励ましてくれているセリスに手渡すと、気力を絞って二人に懇願をする。
「二人共……よく聞いてくれ。流れた血が多すぎる……多分……このままだと俺は助からない……恐らく輸血が必要だ。急いでフィーナに頼んでくれないか?」
治癒魔法は損傷を治したとしても、失われた血が戻るほど都合よく便利な魔法ではない。
「輸血ってなんですか?分かりませんが、兎に角フィーナ様に急いで連絡をしてきます」
そう言うと、セリスは集まる住人を押しのけ、一目散にシルバーノアに向かった。
ある意味賭けではあるが、フィーナに伝えれば何とかなるのではないか?そう願うしか今は出来ない。
『確かに刺客の言うとおり、ざまぁねぇな……順風満帆と思っていた異世界生活も、こんな形で終わってしまうのか…………悔しいよ……なんて神様や女神様に言ったらいいのだろう……こんな事になるなら、ダメ元で……フィーナ……に好きだと言っておいたらよかった……』
そんな後悔をしながら、意識が遠退いていく…………




