第63話 ありがた迷惑?
―― シルバーノア 艦橋・仮眠室 ――
貧困層の村へは、シルバーノアだと全ての航程を含めても30分と、あっと言う間に到着するので艦橋の仮眠室で過ごす事にした。
短い時間ではあるがこの時間を有効利用し、働く者の名簿等を作ろうと思ったのだが、冒険者がどの程度識字出来るのか聞くのを忘れていた。マニュアルや名簿を作っても字の読み書きができなければ意味が無い。
艦橋にアンジェとセリスを呼ぶと、元冒険者に聞き取りをしながら使用出来る、ちょっとした履歴書などを作成する事にした。
「二人に教えて欲しい事があるんだけど、元冒険者って読み書き出来るのかい?」
そう聞くと、冒険者はギルドで依頼などを見れなくては仕事にならないので、ほとんどの冒険者は文字が読めると答えた。
しかし、この世界に学校に行く事が義務付けられてないのに、一体どこで冒険者は文字を覚えるのかと疑問なので聞いて見た。
すると答えは案外簡単であった。冒険者はギルドで一定の金額を支払う事によって文字を読む講習会が定期的に開かれるそうだ。
ギルドとしてみれば依頼を受けて貰わないと仕事にならないと言われ、思わず納得をする。
「今の話だと、読む話しか無かったけど書く方はどうなんだい?」
書くことに関して言えば、紙とインクはこの世界では貴重であるため、冒険者だけではなく殆どの人々は苦手であるらしい。但し自分の名前は契約などに書かなければいけないので書けるそうだ。
話を聞き終わると今の話を参考にして、エクセルで履歴書風になるように罫線を引き、作業効率を上げる為にマークシート方式にして 該当部分を塗り潰すと言う方式を取る。
二人に見せると、なかなかの高評価であったので、複合機でコピーをしてアイテムボックスに収納をした。
簡易的な名簿と、異世界仕様の履歴書が出来上がると「タクト様、間もなく目的地周辺に到着します」とフェルムが伝えに来た。いつもの事ながらジャストタイミングだ。
シルバーノアが着陸し始めると、伝声管で「皆様。まもなく目的地に到着をいたします。間隔を空けて、出入り口付近で2列に並んでお待ちください」と、まるで電車のようなアナウンスをしてしまう。昔の名残だ。
そらから、アンジェとセリスに皆の誘導を、フェルムとアイラに着陸を任せると、出入り口にタラップを掛けに行く。
甲板に着くと、シルバーノアは貧困層の村近くの空き地に着陸をしたので、甲板から降りてから出入り口にタラップを掛けた。そろそろタラップを止めたい。
全員が降りると点呼を取り、揃って貧困層の村の門へと向かった。
王子、ザバル男爵、誰一人としてシルバーノアで行く事を伝えていなかったのか、二人いた門兵の一人は腰を抜かし、もう一人はパニックになっていた。
「すまん。伝書鳩で行くとは連絡したんだが、シルバーノアで行くというのは伝え忘れとったわ」
「もぉ、お父様ったら、とんだうっかり者ね」
相変わらずセリスの突っ込みのセンスは、古めかしさを感じるが、これはこれで少し面白いので、是正するつもりはない。
「フィーナ。いつものを頼むよ」
「了解よ」
フィーナは女医の姿に変身をすると、今度は周りにいた鍛冶職人たちも固まってしまう。
「もぅ。ただの変身じゃないのよ」
シルバーノアにしても変身にしても、もう色々と見慣れてしまって、俺達の常識は非常識であると言う事を忘れている。
こんな事もあり、フィーナが皆に精神安定魔法を掛けると、門兵は何事もなかった様に職務に戻り、職人たちも普段通りの状態に戻る。
俺も何度かこの魔法を掛けてもらっているが、よほど刺激が強くない限りは嘘のように気にならなくなる。
どんな状態かと言えば「まぁ、気にしても仕方がないな」と言う感じになるのだが、一体どう言った原理なのかは未だ謎である。
門をくぐり抜けて町に入ると、元冒険者や子供達はシルバーノア見たさに大騒ぎになっていた。
元冒険者の一人が、俺達が門から入ってきたのに気がつくと、足に障害が無い元冒険者は跪き、足の不自由な元冒険者は頭を下げたままになっていった。
「皆のもの面を上げよ。跪いている者は立ち上がるとよい」
王子がそう言うと、元冒険者達はほっとした顔になると少しばかり表情が緩んだ。
王子は、最近は陛下がいつも一緒だったので出番が少なく、生き生きとしてる。
「それでは、今から……」と、言いかけると、王子はここは任せておけと言わんばかりに手で制止する。どうやら存在感をアピールしたいようだ。
「それでは、既に皆も知っておろう、タクト殿が皆の仕事を持ってやって来た。今の生活を変えて、自立したい者は今から私について来い」
そう元冒険者に言うと、王子は振り向いて工場に向かって歩き出した。
「王子宜しいのですか、いきなりあんな事言っちゃって」
「ん?なぜだ?何かおかしかったか?」
「おかしいとかではなくって、あんな事言ったら、全員が付いてくるに決まっているじゃないですか?見てくださいよあれを」
王子に振り返るように促すと、王子は顔を引き攣らせる。村の全員老若男女問わず付いてきたのだ。
「無理強いは出来んから、この場ではああ言うしか無かったんだよ」
俺が言いたかったのは、その場で意志を確認した上で面接を実施し、工場で働く者とミスリル鉱山で働く者、それぞれの適正や希望、体の状態や魔力で選別をしてから、適所を判断し行動すべきじゃないかと思っただけである。
その為の名簿と履歴書だったのだが、言って直ぐに行動をしてしまったので、これ以上言ってもやぶ蛇なのでここは黙っておく。
それに名簿も履歴書も急に作成をしたので、王子に知らせていなかった自分が悪いのだと諦め、これからどうしようかと考える。
すると、先ほど履歴書作りを手伝ったアンジェとセリスが王子の隣に挟み込む。
「お兄様!タクト様は、そう言う事を言っているのではありません。人選をしてから行動した方が効率的だと仰っているんです。相手は健常者じゃなく足に障害を持った者もいるのですよ。無駄に移動させるなんて考えが浅はかです。それでも次期国王候補であり学園主席だったのですか?」
「そうですよ。タクト様は色々と用意してくれていたのです。いい格好をしたいが為に、それを潰すなんてありえません」
元冒険者や職人達に聞かれると、王子として面目丸つぶれになるは目に見えている。アンジェとセリスはそこをわきまえながら小声で叱責をした。
王子は、妹や妹分にそんな事を言われ、約300名を連れて既に工場に移動を開始してしまった以上、今更足を止めしてまで取り消す事も出来ないので、少し涙目になっている。
その様子を見て、俺も報連相をしていなかった責任を感じたので助け舟を出す。
「アンジェ、俺も事前連絡をしていなかったから責任がある。王子を怒るのはそのくらいにして、取り敢えず工場に着いたらそこで振り分けることにしようか」
「タクト様に責任なんてありませんよ。今までタクト様が主導でここまで来たのに、急にお兄様が何の相談も無く暴走したのが原因なんです」
「そうですよ。きちんと準備をしていたタクト様から言わせれば、ありがた迷惑ですよ!」
「すまん。私が相談も無く暴走してしまったから、タクト殿……迷惑を掛けたな」
更にシュンとなってしまった王子を慰めながら工場に到着すると、王子は「すまんが、後は任せる」と言って一歩引き下がった。
『ここまでくると、王子も形無しだよな。かわいそうに……後からもう一度フォローしようか』
そう思うと、王子に通じるかどうか分からないが「ドンマイ」と言って肩をポンと叩くと寂しそうに笑う。王子の背中には哀愁が漂っている。
それから、工場の入り口付近に用意していた机と椅子を横1列に並べると、受付けの準備が整ったので仲間達を集めて説明をする。
「それじゃ今から皆には、名簿を取りながら、この紙に書かれている内容を元冒険者に聞き取りをして欲しいんだ」
仲間たちに名簿と履歴書を渡すと、異世界版の履歴書の内容を仲間達に簡単に説明をした。
「それじゃ、ある程度振り分けてもらった後、鍛冶職人達に履歴書を見てもらい人材を適材適所に振り分けて貰って欲しいんだ。俺とフィーナは一緒に先に工場の中に入って準備をしているから、この場は皆に任せるよ」
そう言うと皆は口を揃えて「はい!」と返事をした。
俺たち二人は工場に入ると、まず、素材を積んだ列車が入れるように線路を用意し、荷台から直接溶鉱炉に素材を流し入れ出来る様にベルトコンベアと溶鉱炉を繋げる。
ちなみに、溶鉱炉からミスリルを流すシュート(流し込むための管)は手動だが、金型からこぼさずに位置決めを出来るように細工を施してあり、四方向でレールが大量生産出来る様に考えた特別仕様である。
こうして、金属を溶解させる設備の準備が出来たので、次は冷却設備である。
ミスリルは融点が低いとはいえ1000度~1200度(純度の関係でバラつきがある)である為、冷却設備が必要となると考え、氷の魔石と風の魔石を利用した天井に冷却ファンを設置した。
無論これも、いくらミスリルが便利で万能とはいえ急激に冷やすと、ケミカルクラックや空洞化などの損傷が考えられるので、フィーナに調整をしてもらった特別仕様である。
「よし!これで何とか生産出来る様になったな。後は休憩室と事務所を作って終わりだよ」
「質問だけど、事務所っている?」
「そりゃ、賃金の計算とか、税金の計算もしなきゃならないだろうし、勤怠も管理しないといけないかららあった方がいいんんじゃないか?」
「そっか。私は働いた事ないから分からないや」
『そりゃ神界に給料やボーナスがある筈ないからね』
そんな事を話していると、アルムさんがやってきた。人員の割り振りが終わったようだ。
案外早かったので、事務所や休憩室を創作するのを後回しにして、ミスリル鉱山で働くと決まった者は、一時帰宅をして貰い、工場で働く元冒険者と鍛冶職人達に工場の概要を説明をしながら実践をしてみる。
まずは、列車から素材をベルトコンベアに乗せる作業から始める。
仲間達や鍛冶職人達が聞き取り面接を行った結果を踏まえ、この作業は体力が必要不可欠なので、片目を失った元冒険者や耳の不自由な元冒険者が就く事になったようだ。
「それでは、実際にやってみましょう」
俺と元冒険者は荷台に上がると、予め用意してあった素材を積んだ列車から、スコップや手で素材をベルトコンベアに乗せてみせ、やらせてみる。
「これぐらいでいいでしょう」
ベルトコンベアに素材が乗ったので雷の魔石に魔力を流すと、ベルトコンベアは動き出し次々と、溶鉱炉に投入されていく。
「これは凄い!自動で素材が流れていくぞ!」「これなら体に負担が少なくて済む」
皆はベルトコンベアの便利さに驚いていた。
その後も溶鉱炉に素材が溜まるまで、色々な元冒険者が入れ代わりながら、次々とミスリルの投入を進めると適量になる。
次に、今度は魔力に自信のある者に交代をして、溶鉱炉に入ったミスリルが熔けだすまで魔力を流してもらう。
この作業は、魔力量が結構いるので数人掛かりで行い、熔け出したミスリルをシュートから金型に流し込む作業は片腕が欠損した元冒険者が就くことになっていた。
「どうです?熱さに耐えられそうですか?」
「少し熱いですが、これなら何とかなりそうです」
念のため防熱の専用作業着に身を包んだ、元冒険者は嬉しそうにそう言うと、次の瞬間からは必死な顔をして作業に取組んでいた。
こんな感じでレール作りを日本にいた時に学んだ、やって見せて、やらせて見て評価をすると言う、OJT(On-The-Job Training)と呼ばれる、職場訓練の要領で丁寧に教えていった。そんな風に元冒険者を教育をしていると、鍛冶職人達はうんうんと頷きながら教育の仕方などをメモを取りながら勉強していた。
こうして、就業が終わる時刻となったので今回はここで終了した。
少し疲れた上に、この後も色々と準備もあるので、急遽明日から2日間は休暇を貰う事になり、鉱山での作業教育は3日後から行う事にしてもらった。
タイトルのセンスの無さに絶望しています。




