第53話 実践してみる
―― シルバーノア 食堂 ――
領主会儀が終わると、周りが慌しく動き出した。
今回の領主会議で決定事項の中で、騎爵を中心に人を編成するため、各領地の貴族、ギルド長、鍛冶師、陛下に手紙を出す準備をするためだ。
「それでは、明日の朝から皆を拾いながら各領地を巡り、列車の説明は貧困層の村で行うということで宜しいですかな」
「はい。ザバル男爵は朝8時に、デニス公爵は9時半に、シュミット男爵は10時半、最後にロイス子爵は11時半にそれぞれの町の門に集合するようにとお伝えください」
「王都はどうされるつもりですか?」
「せっかく手紙を出していただいたですが、今晩にでも陛下に話をしようと思っています」
「分かった。全てをタクト殿に任せるとしよう」
そう話が決まると、各領主達は伝書鳩や早馬で自分の領地に手紙を出し始めた。
「今日も素晴らしい会議の内容であった。礼を言わせてくれ。ありがとう」
「いえ、お礼なんて結構ですよ」
「それより皆さん。今晩ももし宜しければ泊まっていっていただいて結構ですよ」
「気を遣わせてしまって申し訳ない」
今日もここで宿泊することに決まると、ミリンダさんとリリーさんも手を取り合い喜んでいた。ここまで喜んで貰えると嬉しいものである。
そらから、実際に構想どうりいくかどうか不安なので、ラッフェル島でまず実践してみようと思う。領主達にその事を言う訳にはいけないので、寝ると嘘を付く事にした。
「それでは、私は朝早くから準備をしていたので、少しの間寝ることにします。ご配慮していただけたら幸いです」
そう話すと、領主達は「大丈夫か」と気遣ってくれたので、なんだか申し訳ない気持ちになった。
領主達は気を遣い、全員がシルバーノアから下船をする事となる。
甲板から見送ったあと、艦橋に入ると、早速フィーナ、フェルム、アイラに声を掛ける。
「三人に手伝って欲しいことがあるんだ」
「寝ると言うのは嘘なの?」
「ああ、嘘をついてすまないとは思ってるよ。詳しい理由はまた後から説明するけど、ラッフェル島で試験的に鉄道を作ってみたいんだよ。失敗はできないからね」
「相変わらずタクトは、地球の言葉を借りるなら石橋を叩いて渡るタイプね」
「石橋を叩くというか、失敗が怖いんだからさ、きっと臆病者なんだよ」
「無鉄砲よりましよ。それにタクトは臆病者じゃないわ」
「そうですよ、臆病者じゃありませんよ」
そう話をしていると、ラルーラさんがやってきた。
「少し聞こえちゃったんだけど、今からラッフェル島にいくんですか?」
ラルーラさんの話では、少しお腹が痛かったので、トイレに引きこもっていたら、他の3人は領主達と先に下船をしてしまっていたらしい。それで慌てて屋敷に向かおうとしていたら、偶然、会話を聞いてしまったようだ。
「でも、他の人には内緒ですよ。印象が悪くなりますから。それよりアルムさん達は、先に下船しちゃったけど勝手にいなくなって心配はしませんか?」
「子供じゃないですから大丈夫ですよ。それに人見知りなのは知っていますからね。それよりも、お手伝いしますから、私も一度行ってみたいんです。アルムとローラは、一度島の塔へお邪魔したみたいですけど……ダメですか?」
超がつくほど、人見知りのラルーラさんは、屋敷に行って領主の相手をするよりも、こっちに付いていく方が気楽で楽しそうだと話をした。本当にそうだといいのだが……
「分かりました。それでは、今から行くので、木の伐採や結界の張りなおしを、手伝ってもらってもいいですか?」
「はい、喜んで!」
居酒屋の店員のような返事が返ってきたので、思わずにやけてしまった。
そらから、ラルーラさんはアルムさん達が心配しないように、[少し出かけてくる。心配しないで]と部屋に置き手紙を残した。今はバレるとマズイが伝言板を作るのもありかも知れない。
そんな訳で、ラッフェル島の鉱山へと転移をする。
ラッフェル島に到着すると、時差の関係でまだこちらは日が出たばかりで、朝露に濡れた草のとても良い匂いがする。大きく空気を吸い込むと全身が癒される。
「夏草の匂いってさ、なんだか癒されるし季節を感じるよな」
「ふふふ、なんだか詩人みたいね」
「いや、本気でやっている人に怒られってば!」
恥ずかしいのでそれを直ぐ否定をすると、「プ~ン」と蚊が飛んできたので素早く退治をし、アイテムボックスから虫除けスプレーを取り出した。
虫除けスプレーを吹きかけると皆に回す。
フィーナとフェルムは、シルバーノアを創作する時に使った事があるが、ラルーラさんとアイラは、その光景を見て不思議そうな顔をする。
「始めて見ますが、その奇妙な物は一体何ですか?」
「ああ。虫除けスプレーと言って、こうしてシュっと肌に吹きかければ、虫に刺される事はないし日焼け止めにもなるんだよ」
「ほ・本当ですか!私にも貸して下さい!」
「私も虫が苦手なので貸して下さい」
「心配しなくても貸すよ。どれ、掛けてやるよ」
そう言うとラルーラさんの首ズジに目掛けてスプレーをする。勿論、反応を楽しむ為だ。
「きゃ、冷たい!」
ラルーラさんの予想以上の反応に満足をする。こんな声も出せるのかと……
「もぅ、ビックリしましたよ。でも、なんだかスースーして気持ちいいですね」
「夏だから、出来るだけ涼しく感じれるように工夫されているんだよ」
「何だか至れり尽くせりですね。感動すら覚えますよ」
『この世界に虫除けはないのかな?ならば、い草があれば蚊取り線香を作れそうだから今度作ろうかな』
そんな事を思いつつ、全員が、虫除けスプレーをし終えると本題へと進む。
「それじゃ、フェルムとアイラは会議で話していた、魔石で土を盛り上げて欲しい。ラルーラさんは、二人についていって、フェルムが邪魔な木を伐採したあと、今から渡す結界石を設置してくれませんか?」
三人は「了解」と口を揃えると、フィーナに術式を書き換えて貰った土の魔石、結界石を取り出し、三人に渡した。
「ラルーラさん。作業が終わったら特別にバベルを案内しますよ」
「はい!楽しみにしています!」
それから、どう作業をして欲しいのか具体的に指示を出すと、一度テストをしてみる事になった。
「それじゃ、行きますよ」
「ああ。やってくれ」
フェルムは頷くと、魔石に魔力を流し「それっ!」と詠唱をすると「ズドドドドッ」と音を立て、500mというとんでもない距離の線路の通る土台が出来た。
ちなみにこの魔法の合言葉というか、詠唱の言葉は決めていなかった。また考えようと思う。
「タクト様、これって私たち必要ないんじゃ?」
フェルムは呆れた顔をしてそう言うと、アイラとラルーラさんも頷く。
「ちょっとやり過ぎだよな。まぁ、それはまた後から調整をするとして、これを町の付近まで繋げたいんだ。宜しく頼むよ」
「分かりましたが、この溝はどうしますか?」
フェルムは、両脇に出来た溝を指でさした。何か良い利用方法がありそうだ。
「そうだな、また線路を引くときに処理をするから、取り敢えずそのままでいいや」
「了解です。それでは行って参ります」
フェルムとアイラは、先ほどの続きから町の方向へと向かい出すと、ラルーラさんもまた、二人の後をついて歩いていった。
「じゃ、今度は私の番ね。何したらいい?」
「フィーナは、ミスリルとオリハルコンをアダマンタイトに合金してからレールを作って欲しい。出来上がったレールはアイテムボックスに収納してくれると助かる」
「分かったわ。それじゃ行ってくるね。また何か用があったら呼んで」
「ああ頼むよ」
こうして、フィーナがレールを作っている間に、俺は車両の製作にはいる。
縮尺を考えながら模型を作ったので外観は一瞬で出来上がった。残りの駆動部分のモーターや歯車などを創作しては配置や固定をしていくと。1時間ほどで全ての車両が完成をした。
フィーナもレールを結構な量を創作してくれたようなので、レールを設置する準備始める。
まず、鉱山の横にある森林に入ると、自生している木を眺め木の種類を選別する。
「この辺は、檜ばかりでよかったよ。枕木は檜に決定だ!」
檜は腐食しにくいのが特徴で、この島の檜は日本の檜よりも堅く、ほぼ全域に自生している。一般の人々では少々加工に手こずるであろうが、創作魔法を使える俺にはまったく問題はない。
檜を枕木に作り変え始めると、相変わらず原理は理解不能だが、檜は枕木を作る量に比例して段々小さくなっていき幼木になる。環境に優しいかも知れない。
「よし、これくらいでいいだろう」
出来た枕木をアイテムボックスに収納すると、一度レールの敷く土の上に上がり完成した姿をイメージしてみる。
「レールを固定後は更にその上からバラスを敷き詰めて、枕木には将来保守点検作業が出来る程度に、薄くコンクリートを被せるようか。そうすれば、耐久年数は10年以上は持つかな?」
そう方針が固まると作業を開始する。アイテムボックスから、予め用意をしていたコンクリートの素材を一定間隔に並べるように置き、均等に盛られた土の上にコンクリートを10センチほど敷いていった。
「うまく行ったよ。これなら労せずに、コンクリートが敷けるぞ!」
イメージどおり、コンクリートが敷けたのでスキルに感謝をする。
「あら、タクト早いわね。もう車両は出来たの?」
「ああ。これから枕木を敷いていくから、創作してもらったレールを、この枕木に付いているブラッケットの上に敷いてくれないか?」
「分かったわ」
リンクを繋げたせいか理解が早くて助かる。そらから、枕木を設置していく事になり、枕木の間隔は50cm間隔で並べ、フィーナにレール幅120cm間隔で並べてもらう。
重労働だと思っていたが、コンクリートは素材さえあれば、創作魔法で自由にコントロールが出来る上に、枕木やレールはアイテムボックスの機能で、置きたい所に狙って置いていけるので、凄く便利だと心底思う。
枕木を置いて、フィーナが枕木に固定されたブラケットの上にレールを敷き、継ぎ目用のプレートをボルトとロックナットで締め付ける。
こうして、200mほどレールを敷き終わると「タクト、レール継ぎ目って必要なの?」とフィーナに質問をされた。
実際、金属である以上、熱膨張による伸縮はあるのだが、25mと言う長さはあくまでも運搬するのに便利なだけで、それ以上でも問題は無い筈だ。
マニアじゃないので、これは推測ではあるが、電車が走ると「ガッタン ゴットン」と音がするのは継ぎ目を通る時に発生する音だと推測をする。ならば、溶接などで継ぎ目を少なくしてみるのもいいであろう。
だがその工法には問題がある。確かに溶接をすればレール同士を繋げられ作業効率、騒音、振動、などは軽減できる。
だがこの世界に溶接をする機械などは無い。だから結果的にプレートで繋ぎ合わせると言う手法をとったのだ。そうフィーナに理由を話した。
「そっか。今時間が勿体無いから、創作で繋ぎ合わせたら早いのにと思ったから聞いてみたのよ」
「そりゃ、その方が手っ取り早いし簡単だけど、俺たち以外は創作魔法使えないからな~。それじゃ意味が無い」
「溶接が無理なら、型枠みたいにして金属を流し込めばいいんじゃないの?」
「あっそっか!その手があったか!それなら火の魔石で代用出来るから、直線なら継ぎ目無しでもいけるかもな!フィーナは天才かよ!」
「へへへ、タクトには及ばないけど、褒めてくれて、ありがとね」
そう決めると、継ぎ目を無くし創作魔法でレールを繋いで行く。
そらから暫く経つと、空からフェルムがアイラを抱きかかえ戻ってきた。
「タクト様、言われたとおり、町の近くまで作業を完了させてきました」
「二人ともお疲れ様」
「あれ?ラルーラさんは?」
「結界を張り終えるのに、あと2、30分掛かるそうです。一人残すのは忍びなかったのですが、どうしても自分ひとりの力でやりたいと言うので戻ってまいりました」
「そっか。ラルーラさんは勇者の仲間だから大丈夫だろう。この辺はモンスター少ないしな」
「ええ。それでは、これから何を手伝いましょうか?」
「そうだな。枕木自体を固定したいから、敷いてあるセメントの上から、鉱山の横にある採石場から、バラスを持ってきて、撒いてきてくれないか?」
「お安い御用です。アイラには何をさせましょうか?」
「アイラはホウキを渡すから、枕木の上に乗ったバラスの除去を頼むよ」
「はい。お任せ下さい」
二人はそう答えると、フェルムにアイラが再び抱きかかえられ採石場へと飛んでいった。
「いいなーーーー。私もあれして欲しいなぁ」
「無茶言わないの!飛べないよの知ってるくせに」
「別に飛んで欲しいなんて一言も言ってないじゃない!ケチ!」
『ケチって!飛べないものは仕方がないのに!』
俺は無言でフィーナの背後に回り抱きかかえた。
「じゃ、これで満足しれくれないかな」
「ふふふ。勿論満足よ!最初からこうして欲しかったのよ。じゃ、この体勢で3分ね!」
それから、約束の3分が経ち、なんとか鼻血が出そうになったが耐え切った。この体質どうにかならないのか!と心の中で叫ぶ。
「ふふふ、やっと希望が叶って嬉しいわ。またしてくれると嬉しいな」
お姫様抱っこをする機会など、人生に於いてそれほどあるとは思えないのだが「また機会があったらね」と軽く返事をすると、フィーナは笑みを浮かべていた。
こうして、再び作業が始まり、作業工程が少なくなると見る見るうちに、レールは敷かれて行き丁度1kmのレールの継ぎ目が10個目に差し掛かると、ラルーラさんが作業を終え戻ってきたので合流をした。
「ラルーラさん。お疲れさまです。全部レールを敷くのは時間がないので無理でしたが、全長10kmは設置できたので、一度転移で鉱山に戻ってテストをします」
「こちらこそ、お疲れ様です。それにしても流石ですね。たった3時間半でここまで出来るなんて」
「まぁ、車両を創作していたので、実質2時間半で10km設置出来たことになりますね。神様が与えて下さったスキルのおかげですよ」
そうこう話をしていると、いつの間にかフェルムとアイラも俺たちに追いついてきた。
「お二人さん、仕事が早いな」
「茶化さないでくださいよ。私たちはただ、バラスをこうして撒きながら歩いているだけですから」
「別に茶化してなんかいないよ。それじゃテストしたいから一度鉱山に戻るとしようか?」
全員が揃ったので、転移魔法で鉱山に戻ると改めて車両を取り出し連結をしてみた。
「それにしても、本当にこんな短時間でよくここまでの物ができましたね」
「模型を作るときに構造を考えながら創作したからな。後は縮尺だけだったから、そこまでは難しくなかったよ」
「でも、これってどうやってバラスとか素材を積み込みするんですか?」
「あっ!その事を全然考えていなかったよ!やっぱアイテムボックスばっかに頼っていると、重要な事を忘れるな~。指摘してくれてありがとう」
「いいえ。お礼なんてとんでもない。お役にたてて嬉しいですよ」
そうラルーラさんにお礼を言うと、少し顔を赤くして照れていた。
『やっぱエルフって美人だよな。美人が笑うと少しドキっとするよ。それにしてもどうしようか?そうだ掘り下げしてプラットホームを創作したらいいのか。雨が降っても水が溜まらないように、排水溝と水を上げるポンプを設置しよう』
こうして、考えが纏まると、土魔法で地面を掘り下げプラットホームを創作し排水溝を設けた。
「それにしても、タクトさんはどれだけ頭が回るんですか?それに考えついたらすぐ出来るなんて、本当に神の使徒様なんだと改めて思います」
「頭が回るのではなくて、元いた世界にはこういう物があったから、それをこちらの世界にある素材に置き換えて作っているだけですよ。それに、すぐ出来るのは神様から与えられたスキルのおかげですから、僕が凄いのじゃなくて神様の力が凄いだけで、僕自身は凄くもなんともないですよ」
「その謙遜する態度が、女性の母性本能をくすぐるんですよ」
「ラルーラさんの言うとおりよ。いいかげん謙遜なんてやめなさい。実力なんだから」
「そうですよ。女性だけじゃなくて、私を筆頭に男もたらしこみますからね」
「分かった!分かったから!それ以上いじめないでくれ!」
女性だけではなく男性までたらしこむと言うレッテルを貼られた。少し肩を落としたが、実際に列車に乗車をすることにする。
「それじゃ、俺はこのキャビンで運転をするから、皆は好きなところに乗ってくれて構わない」
そう指示をだすと、皆は一般の客室へ行き、なぜかフィーナは俺の後をついてくる。
「フィーナはどこに乗るんだい?」
「ん?勿論タクトの膝の上よ。だって好きな所に乗れって言ったじゃない?」
「ば・馬鹿な事を言うなよ。好きなところとは言ったけど、そこは駄目に決まってるじゃないか」
「冗談よ!何を本気にしてるんだか。妖精に姿を変えて肩の上に乗るわよ!」
『いや、あなたは本気でやりそうですから』
ほっと溜息を吐き、フィーナが妖精に変身をして肩に乗ると、キャビンへと乗り込んだ。
「それでは、出発しようか!」
ゲームの電○でGO!のコントローラーを模した操作盤のハンドルを前方に倒すと、列車はゆっくりと動き出すと、10kmと言う短い距離だが、列車は快適に走りなんとか完成をしたのだった。




