第52話 領主会議 後編
―― シルバーノア 寝室 ――
翌朝……
『あ~、よく寝た!今何時だろ?』
よく寝たつもりであったが、時計を見てみると朝の4時半、いくらなんでもちょっと早すぎるので、二度寝を試みたが、何故だかバッチリ目が覚めてしまい寝付けない。こんな日もある。
仕方がないので、隣のベッドで気持ち良さそうに寝息を立てている、フィーナの寝顔でも見ていようかと思った。
だが、冷静に考えるとストーカのようで気持ちが悪いので、ベッドの中で今日の会議の議題である、各領地で生産された物の運搬について考えてみる。
このアノースでの陸送方法は馬車しかなく、そうなると盗賊や夜盗が厄介である。
『馬車だと危険な上に、非効率だよな。日本ならトラックや貨物列車か』
トラックはもし仮に作れたとしても、道路のインフラや運転技術など課題が多い。あれこれ考えたが諦めた。
『まぁ、裏技としたら、アイテムボックスか』
アイテムボックスは確かに便利ではあるが、制限が多く、貸し借り出来ない上に、王族、領主、一部の金持ち商人しか持っていないので、これも却下である。
『そうなると、やっぱり列車が一番現実的かな』
そう決めるといてもたってもいられなくなり、フィーナを起こさないようにしつつ食堂へ向かった。
食堂に着くと、窓のある端のテーブルの上に、ありったけの本をアイテムボックスから取り出し、参考になりそうな本を探した。
「やっぱ、鉄道の事に興味がなかったから、写真しか資料になるものがないな~」
それでも、その写真には、きちんとレールの形や継ぎ目などが載っていたので参考にする事にする。
「素材は鉄の合金か?おそらく熱膨張で伸縮するから、わざと継ぎ目には余裕を持たせてあるのか?それでもって、この写真のレールは脱線しないように、研究され尽くされた形なんだろうな」
そう独り言を言いながら模型を創作していく。
それから、レールとレールを繋げるプレート型の継ぎ板、レールの台座となる枕木、レールを枕木に固定するブラケット、そのブラケットを固定する、大きな釘などが写真で確認できた。
それからは、縮尺を調整しながら写真と同じ形の模型を創作していくと、何とか形になる。
「本当、創作魔法って便利だよな。次は車両とレールの運搬方法を考えようか」
列車の形は先頭は、高速鉄道ではないので、新幹線や在来線の形はやめて、レールを運び、降ろせれるユニックのようなクレーンを考えた。
クレーンの昇降の構造は、魔道モーターでの、チェーンの巻き取り方式にする。
これは、幸いにしてこの世界ににもワイヤーに近い物がある事は確認済みだ。したがって昇降関係は何とかなりそうである。
クレーンの重石の重量は、レールよりも遥かに列車の方が重いからこれも問題ない。
後は、クレーンの長さだがレールの長さは1本25m位と考えているので、クレーンの長さはレールを運搬する車両と同じ30mにすれば解決される筈だ。そう決まると、後問題なのは旋回方法である。
本当のクレーンなら、左右どちらにでも自由に旋回も可能なのだが、クラッチや減速機など色々すぐ作るのは無理なので、今簡単にできる事を考えた。
『センサーも無ければ、集積回路も無い。どう解決しようか……人力で旋回もひとつの手だけど、流石にそれは効率が悪すぎるよな。モーターは単一方向なら何とかなるから、時間が勿体無いからそうしよう』
こうして、色々と模型を創作し、出来上がったのは、砂利や枕木を運ぶ車両、作業者を乗せる車両、最後にコンクリートミキサーを搭載した車両の模型を創作したのだった。
『やっと出来たけど凄まじいなこれ。これに土魔法を加えたら、あっという間に線路が出来るんじゃないか?』
こうして、プレゼン用の模型が出来ると、朝食の用意をする。
朝食用の卵をボールに入れ、泡だて器で溶いていると、リリーさんとミリンダさんがやってきた。
「おはようございます。何かもの凄くいい匂いがしますね」
「おはようございます。見てのとおり朝食の用意ですよ」
「タクト様は、そんなことまで毎日なさっているんですか?」
「毎日ではないですよ。仲間全員が、私の料理が好きだと言ってくれるので、出来る範囲で期待に応えてあげようかなと思いまして」
「まぁ、お優しいのですね。女性の皆さんがタクト様を、慕う気持ちがわかりますわ」
「本当に。仲間の皆さんが羨ましいですわね」
本当に、アノースの女性は、アンジェやセリスもそうだが、ストレートな上に積極的なので、対応に困ってしまう。
「皆さん。おはようございます。あっ!朝食の準備を手伝いますね」
なぜか、食べている最中のごはんを取られた犬のような顔をして、セリスは厨房の中へ入ってきた。
<もぅ~、隙が多すぎますって。気をつけて下さい>
セリスは、すれ違いざまに小声でそう耳打ちをする。気をつけるも何も悪いことしてないのに。言っている意味が分からない。
「それでは、私たちはお邪魔なので、お父様を起こしてきますね」
二人は何かを感じ取ったのであろうか?苦笑いをしながら部屋へと戻って行った。
「もぅ、油断も隙もない!」
セリスはそう言いながら、テーブルに朝食を並べて行くと、気まずい雰囲気だったので、咄嗟に話題を逸らす。
「結局、皆は何時まで、トランプをしてたんだい?」
「え~と、1時くらいでしょうか?お父様達はリバーシの勝負で納得がいかないと、その後、何度も勝負をしていたようですが」
「相変わらず、負けず嫌いばっかだよな」
「ええ。本当に。男連中はもっと別の事で張り合ったらいいのに」
セリスは相変わらずの毒舌ぷりであった。
予定時間よりも早く朝食の準備が整うと、セリスにお礼を言う。
「セリス、ありがとう。助かったよ」
「お礼の言葉なんていりませんよ。毎日美味しい物を頂いているんですもの。気にしないで下さい」
「セリスは、きっといいお嫁さんになれるよ」
俺は、またいつもの様に口を滑らせる。
「えっえっ!あの~、みんな起こしてきますね!」
セリスはいつもの冷静さを失い、顔を赤くしてこの場を立ち去った。
『また、やっちまった!これじゃナンパ師と変わんないじゃないか』
自分の言った言葉を、後悔し深く反省をする。
セリスが顔を赤くして皆を呼びに行くと、15分程度で集まり、それぞれが朝食を食べはじめた。
「それにしても、お世辞抜きにしてタクト殿の作る料理は美味しいのう」
「それはそうよ。タクトの作る料理は、愛情が入っているらしいですから」
『またそのネタですか!』
恥ずかしいからやめて欲しいと節に願う。
朝食が終わり、後方付けをしようすると、いつもならアイラ、ローラさん、ラルーラさんがやってくれるのだがアンジェとセリスが率先してやると言う。
『あ~あれだ。セリスがきっとアンジェに報告したんだよな』
そう思っていると、デニス公爵が腕を組み、二人の姿をじっと見る。
「あのアンジェが、自ら進んで手伝いをするなんて成長したな。我が子ののように嬉しいよ。きっといい嫁さんになれるな!セリスも立派になって!」
デニス公爵がそう二人を褒めると、何故だか二人は頬を膨らませる。
「もぅー!最後のそのセリフはタクト様から言って欲しかったのに!」
「私なんて、なんかオマケっぽいんですが」
『やっぱり、それ目当てかよ!』
分かってはいたのだが、その邪な心にがくりと肩を落とす。
『それにしても、この世界では王族や貴族でも厨房に入るのか?セリスは今まで手伝いをしてくれてたから分かるけど、アンジェは王女だよな?』
「あの。アンジェに質問があるんだけど、少し聞いてもいいかい?」
「えっ!うん。褒め言葉なら歓迎ですよ」
「アンジェは王女なのに、随分と手際が良くて感心するなって思ってさ」
「ああ、それね。学校よ。学校で調理実習があってお菓子とか作るんです。王城でやると、従者達の仕事を奪ってしまうからやりませんけどね」
「なるほど、そう言うことか。与えられた仕事を手際よくこなすなんて、アンジェは立派な王女になれるよ!」
ここは無難にそう言うと、アンジェは気に入らないのか、腕を組み横にぷいと顔を振った。
「くぅー!意地悪!そこはいい嫁って言ってよね!」
危うくいい嫁さんなんて言おうものなら、周りに茶かされたり、フィーナに変な勘ぐりを入れられる未来が見える。
こうして、朝からコメディーを展開しつつも、後方付けもひと段落ついたので、コーヒーやジュースをみんなに配り、今日の本題である領主会議が始まった。
「それでは、昨日の話の続きですが、もし仮に私の開発した物を作るをしても、今現在この世界には馬車という手段しかありません。何か良い方法があったら提案お願いします。」
「それでは、アイテムボックスを使ってみてはどうですかな?」
「はい、それも考えましたが、そうなると、領主様本人がアイテムボックスを持って、毎日移動するのですか?盗賊に狙われる可能性もありますよ」
「なるほど。タクト殿の言うとおりじゃ。しかし思ったよりこの問題は難しいのう」
「確かに。言われてみれば馬車で運べる物量など、たいした量は運搬出来ないな」
「タクト殿、なにか名案はないのかね?」
「こんな事もあろうかと、ちゃんと用意してありますよ。名案を」
俺は北の領地を拡大した地図を広げ壁に貼り付け、今日朝から作った模型を机の上に並べた。
「何だ?この精巧に作られた奇妙な物は?」
「これは、鉄道といいます。ご覧下さい。このようにしてこのレールと呼ばれる物をガイドにし、この車両と呼ばれる物を動かします」
そう説明すると実際にレールの上に、車両模型を置き手で動かす。
「このように、車両を何台も連結をし、一気に物や人を運ぶ事が可能です」
「素晴らしい提案だが、これを作ろうとするとかなりの時間と人手が掛かるのではないか?」
俺は、壁に貼り付けた地図に定規を当て町と街を赤鉛筆で繋いで行く。
「地図もそのペンも気になるが今はよしておこう。してどうする?」
「はい。この貧困村の近くには鉱山があるのはご存知ですよね」
「無論だとも。まだ手付かずのミスリル鉱山や、石灰が豊富に取れる山もいくつかあると報告がきておる」
「流石よくご存知ですね。ではこれから構想を説明します。まずこの鉱山の麓からレールを敷き始め、貧困層の村に工場を建てレールを作成します。そこから、この線のとおりに各領地へと分岐をさせ、レールを敷いていきます」
「素材はいいとして、このレールを敷くのにかなりの人数がいるのではないか?」
「そうですね……それなりにいると思います。私の考える構想では、まず私が土魔法の魔石を用意いたしますので、出来るだけ魔力の多い者を集めてもらい、幅30m、高さ1mの土を、均等の高さに盛り上げてもらいます」
「それは、可能ですが、なぜそうしないと駄目なんでしょうか?」
「それは、事故の防止と盗賊の対策です。皆さんは既にご存知だと思いますが、1m土を盛り上げると、両脇の溝は半分の15mの幅で溝は50cm下がります。その法則を利用して、フィーナに土魔法の魔石の術式を、溝を幅を約約3m、深さ2mになるように書き換えてもらおうと思います」
「なるほど、それは名案だな。感服したよ!」
それから、もし仮に誰かが転落しても死なないように、コンクリートをついでに施工し、遠浅で最大1.6m程の高さを基準に川から水を引き込み、これを農業用水や水遊び場にしてはどうかと提案をした。
「農地転用に盗賊対策、娯楽まで至れり尽くせりじゃのう」
「うまく利用すれば魚釣りや、魚の養殖まで幅広く出来ると思うので、皆でアイディアを出し合うといいでしょう」
少し話が脱線しかけたのを元に戻し、枕木、ブラケットの順番に土の上に敷き、一番先頭のクレーン車両がレールを玉掛けで下ろし、作業者がレールを繋いで行くと言う方式を説明した。
「なるほど、それならいけるかも知れませんな。それで、気になるんですが、このヘンテコな形をした車両は一体何でしょうか」
「これは、コンクリートミキサー車両です。砂、バラス、セメントを自動で混ぜ合わせ、シューターと言う物で、好きな量を好きな場所に投入する事が可能です。目的といたしましては、先程お話したとおり、農業用水、地面の強度の強化や雑草対策をするのに、コンクリートを仕上げに使うのはどうかと思い作りました」
「素晴らしいアイディアです!」
「それと人員についてですが、陛下にお願いして、騎士や兵士にも参加してもらうのはどうかと考えています。コンクリートを打つともの凄く足腰が鍛えられるので、お勧めしますが?」
「おお、それは良い考えだ。それならば、もし仮に盗賊共やモンスターが出ても対処は可能であるしな」
「ええ。護衛には打ってつけです」
「タクト殿。その提案、是非私から父に進言しようではないか!」
こうして、その後も話し合いは進めらると、地球では一番の問題である、土地の立ち退きについては、このアノースには小さな村が点々としており、作物を育てる土地なら、いやらしい話だが金銭で簡単に譲ってくれると言うことであった。
それでも、このプランを進める為に、解決しなければならない問題がまだ3つあり、まず1つ目は、出来るだけ直線で町を結ぼうとすると、何本か川があり橋が必要であるという事であった。
「川はどうしましょうか?俺が手っ取り早く作るのは簡単ですが、それだとこの先、保守の方法や作り方が分からないままになってしまいます」
「そうじゃの。タクト殿におんぶに抱っこでは将来性がまるでない。幸いにしてどの川も川幅は狭い。タクト殿主導の下、皆で作ってみようじゃないか」
結果、橋は俺が作り方を教え、領民が作る事となった。
次に2つ目の問題である。
直線で結ぶにあたり、森を伐採し道を作るのだが、、近くにエルフが住む森があるので、トラブルにならないように説得が必要と言う事であった。
この件を、純血のエルフである、ラルーラさんにお願いをすると、二つ返事で引き受けてくれた。
すると、アルムさんが「うひゃー、あの超面倒くさがりやのラルーラが引き受けるなんて、タクトさん一体どんな魔法使ったんですか!」と驚いていた。
「あら、嫌だ。魔法なんて使われていませんよ。タクトさんには色々としてもらっていますから、お返しするだけですわ」
ラルーラさんは、にっこり笑いそう返事をした。
最後に3つ目だが、もし、エルフとの交渉が上手く行っても、森や山の開拓となればそう簡単にはいかない。
木の伐採は森だけではなく、山と山の間を通るルートもあるため結構な重労働である。
ショベルカーなどがあればいいのだが、旋回、油圧、キャタピラーの問題があるので、今直ぐ用意は不可能である。
取り敢えず、ショベルカーの代わりを魔法に置き換えると、木の伐採はウインドカッターで、山の方は土魔法で代用するしかない。
「山はそのまま土魔法でなんとかなるとして、木はウインドカッターで一気に伐採するのはどうでしょしょうか?」
「流石に規模が大きくないか?それにウインドカッターは上級魔法だ。ウインドカッターを使える者を揃えるのも難儀だ。魔石を使うにしても結構大きな風の魔石を用意しなければならぬ」
「ええ、上級魔法を使える魔石となれば、光金貨1枚は必要ですからね。それに出回っている魔石の数も少ない」
「フィーナ、ウインドカッターが発動出来る程度の風の魔石なんだけど、量がいりそうなんだ。用意出来そうか?」
「まぁ、そこそこはあるわよ。もし足らなかったらモンスターを倒せばどうにでもなるわね」
「そっか、ウインドカッターの術式の付与も一緒にお願いしてもいい?」
「そうね。デートしてくれるならいいわよ」
「よし、分かったよ。交渉成立だ。という感じで纏まったから魔石は私が用意しましょう」
「ありがとうございます。人員については、領地を持たない騎爵を中心にし、冒険者ギルドに募集をかける事にしましょう」
「それは名案ですね、魔力量の多い魔族や、力の強い獣人族も集まるでしょうから、いけそうですね」
それからさらに詳しく昼まで話し合いをすると、最終的に各領地も鉱山からスタートをさせて、両側から挟みこむようにして工事を進める事に決定をした。




