第51話 領主会議 前編
―――― シルバーノア 厨房 ――――
各領主が集まる2時間前になったので用意をしようとすると、王子がバツの悪そうな顔をしてこちらへやって来た。
話しを聞いて見ると、本来なら、ザバル男爵の屋敷で領主会議をするのがスジなのだが、王子の見栄だろうか?はたまた何か策略があるのであろうか?夕食込みで会場を、このシルバーノアの食堂で開催したいとお願いをされたのだ。
王子の頼みを無碍に扱うわけにもいかず了承した。これは貸しである。
そう決まると、今回の話の肝である、魔動自転車、馬車を甲板に出すと厨房へ行き、夕食にバンバンジーサラダ、Wコンソメスープ、ステーキ、コーヒーゼリーを用意した。食材が豊富にあったので助かった。
それから、王子が、デニス公爵、シュミット男爵、ロイス子爵、そして最後にザバル男爵を連れて食堂へやってきた。
「これは、皆様お揃いで。お出迎え出来ずご無礼いたしました」
「なに構わんよ。それよりこの前は、見舞いと貴重な薬をありがとう。おかげでこのとおり元気になったよ」
デニス公爵は、薬が効いのか、すっかり元気を取り戻していた。
「それは、良かったです」
「シュミット男爵、ロイス子爵もようこそお出で下さいました」
「本日は、お招き頂いてありがとうございます。私が代表して挨拶申し上げます」
シュミット男爵とロイス子爵は胸に手をあてて丁寧に挨拶をする。
「皆さん、私のような若輩者に、頭なんて下げなくても宜しいですよ」
「いえいえ、とんでもございません。神の使徒様にそんな無礼は働けません。それと、我が家の長女のリリーです」
「リリーと申します。以後お見知りおきを」
「こちらは、我が家の長女である、ミリンダです」
「ミリンダと申します。以後お見知りおきを」
二人は紹介をされると、リリーさんは薄緑、ミリンダさんは、水色のロングスカートの両端を摘み上げ、挨拶をした。
「こちらこそ、お見知りおきを」
「今日は二人共、今後の勉強のため文官として連れてきております」
「お二人とも勉強とは関心ですね。がんばってください」
「はい。心遣いありがとうございます」
何か政治的なものを感じたのだが、二人に愛想よくそう言うと、厨房の後方と前方の扉の隙間から物凄いプレッシャーを感じたので、笑いが覚めていく。
そう、フィーナ、アンジェ、セリスが、盲点である見えないところで目を光らせていたからである。
食堂で会議をすると言う事で、予め、仲間たちは食事を済ませていたので、今回はアイラにウエイトレスをして貰う様にお願いしたのだが、セリスがどうしてもと言って聞かないので、本来ならありえないのだが、ザバル男爵に頼まれて強引に厨房に入ることになったのである。
セリスが強引に厨房に入ると言い出したのは、今思えば、各領主のそれぞれの娘を見たからに違いない。
こうして、なんだか政治的な思惑と、女同士の戦い?に振り回されながらも、食事が始まると全員が全員食事の美味しさに感動をしていた。
「いやー。こんなに美味しい物初めて食べましたよ。どれも食べたことある、馴染みのある物ばかりと言うのに、同じ素材を使っているとは思えませぬな」
「本当においしかったです。どうやったら、こんなに美味しくなるのか、是非また私の屋敷の料理長にご指導してほしいものですわ」
「そう言ってもらえて、作った甲斐がありましたよ」
その後も、俺上げ祭りが始まると、セリスが「んっんんっ」と王子を見て咳払いをすると王子は顔色が悪くなる。
「それでは、遅くなるといけないので、そろそろ本題に入ろう。では男爵進行を頼む」
「それでは、これより北の領地の領主会議を執り行う。それではタクト殿、概要の説明を宜しくお願いします」
「はい。それでは概要を説明いたします」
それから、王子とザバル男爵と話合いをした内容を話し、実際にVIPルームや甲板に出してあった、俺がこのアノースで創作した、魔道具をひとつずつ丁寧に説明をした。
それぞれ、皆、既に知っている物も多少はあったが、初めて見る物に関しては、感動をして声を失う者までいた。予想を超えた過剰反応だ。
それから、再び食堂に戻ると、コーヒーや紅茶を淹れてから休憩する事になった。
「しかし、今紹介があった製品が我が領地で作れるなんて信じられん」
「確かにそうは思うが、素晴らしいではないか!これらを我が領地で作れるのだなんて!」
皆は、休憩の筈なのに興奮冷めやまらぬ様でそう言いながら、各自が盛り上がっていた。
休憩もなし崩しになり、その勢いでこれらを作る素材について話し合いがもたれた。結果、温水便座は陶器が名産品らしいデニス公爵。
ガラスは、今後大量に必要とされるので、珪砂や石灰が沢山とれるロイス子爵。
ベッド、ソファー、カーテン、マスクは繊維加工が盛んな町を持つ、シュミット男爵。
馬車の部品、ソファーやベッドのスプリング、自転車、買い物カートは、タイヤやベアリングの製造で、既に実績のあるザバル男爵が受け持つ事で合意した。
ちなみに、馬車の総組には、ガラス、馬車用のソファー、ベアリング付きの車輪が必要のためデニス公爵領で組み立てられることに決まった。
「いやー。有意義で実に素晴らしい会合であった」
「そうですね。思ったよりすんなり決まって良かったですよ」
「それでは、技術を教える前に皆様に、これだけは守ってもらいたいと言う事があります」
そう言い始めると、全員が息を呑み耳をこちらに傾ける。
「まず、素材はお互いに融通し協力しあうこと。値段は適正価格で販売すること。獣人族、魔族、エルフ、それぞれの国に行くので、もし技術者の育成が必要な場合は受け入れすること。以上の事は必ず守って頂くようお願いします」
異口同音に領主達が「勿論だとも」と承諾をした。
こんな感じで、今日の領主会議は終わり、続きは、また明日の朝から始めることになったので、席を立とうとすると、デニス公爵に止められた。
「タクト殿、話があるのだが少し時間をくれないか?」
「別に構いませんが、人払いをした方がいいですか?」
「そんなたいした話じゃないから、このままでよい」
「分かりました。それでお話と言うのは?」
「それでこれからタクト殿は、どこへ行って何をするつもりなのかな?」
「まぁ、まだ決定した訳じゃないのですが、東にある穀倉地帯の領地に行こうと思います」
「はて、どうしてじゃ?穀物なら毎年廃棄するほど余っておるじゃないか?」
「はい。だからこそ行きたいのです」
「その意図を、是非聞きたいんだが?」
そう問われたので、手持ちのプラスチック製品を机の上に出し、この先、製品を作るにはどうしても必要になると話した。
プラスチックの素材となる小麦や、トウモロコシなどの生産状況を各領地に見に行き、話し合いの結果、合意が得られればそれらの素材を使い、バイオプラスチックを生産出来る工場を作りたいと説明をした。
この話は、以前に王子に相談したことがあり、この王国では小麦、サトウキビ、ジャガイモは毎年豊富に取れる様で、毎年廃棄になるほどの収穫量があると話をされた事がある。
これは、この星がそれほど人口も多くはない割には、広大な土地が余っているので田畑が多く、穀物や野菜などの収穫量に対して消費量も少ない様であった。
だからと言って、日本のように、減反や農業を廃止すると農家の人々の働く場所が無くなり、一気に失業者が増えてしまう恐れがあると説明されると、納得せざる得ない状況だ。
しかし、過剰供給となれば、食料の単価は安くなってしまうので、農業者の税金を安くし、さらに余った穀物や野菜を、王国が買い取るというのが財政を圧迫しているようだった。
そんな訳で、思いついたのはバイオプラスチックである。
バイオプラスチックとは、学校の授業での話しでは、地球温暖化や石油がいつかなくなると言う前提で、地球でも各地で開発や研究が進められている。
しかし、加熱するにも石油が必要になりコストもかかるし、食糧難になった場合は困ると言う事で、なかなか開発も研究も進んでいない分野だった。
しかし、石油のないこの世界では、プラスチックの生産をするためには、バイオプラスチックしか実現不可能と考えた。
実際に作る事にしてみると、本などを調べたが難しく、簡単に工程を説明するなら、まず澱粉に、糖分と水をを加え、発酵をさせてバイオエタノールを作る。
それから硫酸で水分を飛ばし、ポリ乳酸が出来るという工程ではあるのだが、問題は、この世界で硫酸やポリ乳酸という劇薬を管理するのは難しいと言う事だ。設備を用意するのは簡単ではあるが、事故などを考えると教育に時間がかかる。
こうして、この方法を諦め、それからも教科書や本を見て、実際に試行錯誤しながら実験した結果、満足出来る品質になり成功した。
しかし、この方法は、時間は掛かる上に、配合の分量で品質や強度が変わるため品質管理が難しい。
メインの素材は、小麦粉、トウモロコシ、サトウキビのなどの澱粉に水、グリセリン、酢酸を混ぜ、加熱しながら攪拌をする。
混合物が透明で濃くなったら加熱を止め、任意の着色料を加える。こうして出来たものを、任意の型に入れ、冷ますのに約2日を掛ければ完成である。
この方法は時間は掛かるが、安全にバイオプラスチックが完成したと言う理由から作られた方法である。
穀倉地から余った食料を、バイオプラスチックやバイオエタノールに変えれば、食料を廃棄すると言う無駄も省ける上に、需要が高まれば値段のコントロールもやり易くなるという思惑もある。
元が澱粉であるため、カーボンニュートラルになる時間も早いので環境にも易しいし、加熱の方法も火の魔石さえあれば、あとは魔力があればなんとかなる。
「なるほど、これがそのバイオプラスチックか?」
「はい。一応念のため、空いている時間に作ってみたら結構うまく完成をしたので、次は穀倉地帯に行く事に決めたんです」
「そうか、それにしてもこのバイオプラスチックというのは軽い上に丈夫だのう」
「ええ。元いた世界では、必要不可欠な素材でした」
「なるほど。それでは、東の公爵領のロマリアに行くとよい。まぁ国王である兄と私の妹だ、多少の無理は聞いてくれるじゃろう」
「以前のプレゼンの時に紹介された程度ですが、お会いしたことはあります」
「うむ。ワシからも便宜を図ってもらえるように連絡をしておこう」
「宜しくお願いします」
「それでは、今日はここまでとしよう」
話が終わったので部屋に戻ろうとすると、サバル男爵の屋敷に行った筈の領主達が待ち構えていた。まぁこうなるとは予想はしていたのだが、ワザとらしく聞いてみる。
「どうかされましたか?」
「その、言いづらいのだが、今晩この船に泊めてもらうことは出来ないであろうかと……」
「お…お願いします。一度だけでもいいので、この船で別世界を味わってみたいのです!」
予想はしていたが、各領主や娘達の必死に頼む姿を見ると断れる筈も無く、結局泊める事になってしまった。
部屋の準備をしている間に、領主たちは、お風呂に入った事がないと言う事だったので、旅の疲れを癒しす為に入って貰うことになった。その間に客室の清掃と準備をすることにする。
「それじゃ、カイル王子とアンジェ、領主様たちに、お風呂の入り方を指導してやって貰えませんか?」
「無論だ。任せてくれ」「了解したわ。任せておいて」
二人はそう返事をすると、他のメンバーも従えてお風呂へと向かったので、フィーナを連れて客室の改修へと向った。
まず、公爵を一般客室に泊める訳にはいかないので、空いている6号室へとする事になったので、ここは掃除だけとした。
領主二人と娘二人は、一人ひと部屋づつに入ってもらう事にして、ベッドだけでもと思い、コイルスプリング式のクイーンサイズへと変更をした。
部屋の改修を終えると、女性陣がまずお風呂から出てきた。
「リリーさん。ミリンダさん。お風呂はいかがでしたか?」
「とても素晴らしかったですわ。特に石鹸と言うのは、匂いもとてもいいですし、お肌はつるつるすべすべになりました」
「ええ。それに濡れた髪を乾かすドライヤーも、とても素晴らしいですわ。クリーンの魔法では味わえない感覚でしたわ」
「石鹸なら、沢山在庫がありますから、いくつかプレゼントしますよ。ドライヤーはまだ試作段階なので、ちゃんとした製品になりましたら、屋敷にお送りしますね」
「それでは、私の住んでいる屋敷にには、お風呂がないので、思い切って作って貰う事にしますわね」
相変わらず女性にはお風呂と、バスアメニティーは好評で、石鹸を作るときに副産物として得られるグリセリンは、バイオプラスチックの他にも保湿成分として化粧品や薬などにも使える。
そう考えると、この世界に石鹸を普及させる為、いずれ工場を作る事を決意した。
それから、女性陣に牛乳やコーヒー牛乳を配っていると、男性陣もお風呂から出てきた。
「タクト殿!お風呂とは素晴らしいものであるな。疲れが癒えた感じがするぞ!それにあの、風呂の壁に書いてある壁画も素晴らしかったよ!」
「それより水じゃなくてお湯が、出るなんてどんな仕組みなんですか?また教えて下さい」
男性陣はいつもながら、感想が大雑把ではあったが気に入ってもらえて良かったと思った。
こうして、明日も会議もあるのに、皆はトランプやリバーシを始めた。まるで修学旅行である。
俺とフィーナはいつものお勤めをしに行き、帰って来てもまだ盛り上がっていたので、失礼だが放置して先に就寝したのであった。




