第50話 元冒険者と貧困層の村
―― ザバル領 馬車の中 ――
孤児院から帰えってくると、時刻はまだ10時半だったが、フェルムとアルムさんを連れて貧困層の村へ向かうこととなった。
フィーナ達も、孤児院の帰りのついでについてくると言ったのだが、元冒険者の荒くれ者が多いと聞いているので、今回は念のため女性は勘弁してもらい、時間は掛かるが馬車での移動をしている。
「二人とも急に頼んで申し訳ない」
「いえ、そんなの気になされれないで下さい」
「それでタクトさんは、貧困層の村で何をなされるつもりですか?」
「そうだな、まだこれを公表していいものかどうか分からないけど、貧困層の村を一度解体して工場を建てる計画をしているんだ」
「貧困層の村の住民はどうなされるつもりですか?」
「これから行く村は、元冒険者ばかりと言う話だから、体力か魔力がそこそこ期待できると思うんだよ」
そう。これは、あくまでも推論ではあるが、これから行く村は貧困層の中でも特に、元冒険者が多い村である。
冒険者と言えば体力、魔力、行動力が備わっていなければ出来ない家業なので、正直そこに期待している。
「でも、言うこと聞きますかね。これは噂ですけど、元冒険者の村は荒くれ者が多く、管理が難しいと言っていましたよ。勿論、王国に逆らったりしたら、野垂れ死にしますから、駐在している兵士の言うことは聞くらしいですけど」
これも王子から聞いた話ではあるが、実力者には一定の敬意を示すみたいであった。
上っ面だけで良いのであれば、国から派遣されたと言う事にすれば、従いはするんであろうが、そうすると、俺たちが帰った後約束を守らなかったり、ゴネたりしたらまた面倒なことになると考えた。
したがって、力を見せ付ければ、そこそこは従ってくれるのでは?と言う単純明快な結論を出したのである。
「悪いけど、少し考えがあるから村に入ったら、俺一人にして傍観しててくれないか?」
「別に構いませんが、何をなされるつもりですか?」
「それはお楽しみだよ」
こうして約2時間、昼食を馬車の中で摂り、馬車を走らせると貧困層の村が見えてきた。
貧困層の村と言うので、スラムのようなイメージだったが、村の周りはしっかりと塀に囲まれていて、周りには田畑が広がっている。既に子供が大人に混じって働いている姿が見える。
「はぁー。情けないよな。子供が勉強もせず働いている姿を見ると」
「タクト様がいた世界では、子供は働いていないんですか?私はそちらのほうが不思議ですが」
そういえば、奴隷制度が世界的に無くなってから、日本や先進国では子供は学校に行って勉強するものであるが、発展途上国ではまだ現在でもそうではない国も存在する。
自分の価値観はあくまで日本という恵まれた環境に育ったからであり、教育の大切さを伝えた先人たちや大人たちにもっと感謝をするべきではないかと反省をする。
「そうだな、俺のいた日本という国が恵まれ過ぎていて、そう思うだけなのかもしれないな」
「なぜ、貴族や富裕層でもない子供が学校で学ぶのですか?」
「二人は、人間の価値とか値段があると思うか?」
「ええ。認めたくはありませんが」
「俺も同意見です」
「そうだよな。今まで綺麗ごとばかり並べていたけど、俺のいた世界でも色々な国があって、その中でも日本と言う国は、比較的裕福な国だったんだ。子供のうちから勉強をさせれば、民度や人間としての価値が上がると言う考え方なんだ」
「それでは、子供は学校に行くのは無料なのですか?」
「ああ。最終的にはその子供が働きだせば、税金と言う形で国に返す事になっているから、無料という事ではなく先行投資と言った感じかな?」
実際に日本で、自分の不注意で車やバイクなどで交通事故を起こした時、医者、弁護士、子供などを殺めてしまうと、莫大な賠償金額となると教えられた事がある。逆に、発展途上国や戦争紛争地では命の重みは軽い。
『今までそんな事、考えた事も無かったよ。ほんと、異世界に来て初めて気が付いたけど、平和ボケしていたのかも知れないな』
「なるほどです。お金をかけて育てた人間はそれなりに、色々な職業につけますしね」
「まったくそのとおりだよ。だから俺みたいな向こうの世界では一般人でも、色々な知識はこの世界の人々よりあるんだ」
「日本とは恐ろしい国ですね。タクト様のような知識を持った人間が大勢いると思うと、それは発展もしますよ」
「まぁ、俺は少し特殊な方だからな。でも俺より賢く、凄い人はまだいっぱいいるよ」
独自の主観で、日本の教育の事を話していると、馬車は村の門へと辿り着いた。
三人ともプラチナのギルドカードを見せると、門兵は焦った顔になり「ようこそいらっしゃいました」と言い頭を下げた。
ザバル男爵に書いてもらった書状を門兵に渡すと、書状の中身を見て、何だか首を捻って考え事をしているようだ。何と書いてあるのかが気になるところだ。
「少し頼みがあるんだけど、俺たちがこの村に入っている間、何があっても心配ないから、手出しも対処も不要だよ」
「この書状にも同じ事が書いてありました。あなたも、領主様も一体何を言っているのか意味は分かりませんが、畏まりました」
門兵は再び頭を下げると、面倒な手続きなど一切なく、すんなりと村へと入った。
「それにしても、貧困層の村にまで門兵がいるんだな」
これは、貧困層が逃げ出さないように見張っているのではなく、子供を売り飛ばしたり、盗賊が勧誘に来たりするのを防いでいるという話である。見方を変えれば、これも生活保護の一部であろう。
村の外周には田畑があり、税金のみで貧困層を養うにはあまりにも都合がよすぎるし、コストが掛かりすぎるのであろう。だから自給自足させてコストダウンをしているようである。
こうすれば、余った食料は売る事が出来るし、普通に働いて税金を納めている民衆からも苦情がないのであろう。良く考えられていると思い感心をした。まぁ勝手な想像ではあるが……
村に入ると、平屋が立ち並んでいて、きっちりと生活は出来ているようであったが、家の外には、まだ朝なのに酒を飲んでいる者や、飲みつぶれて道で寝ている者もいて、こちらはイメージどおりであった。
道を歩いていると、俺はターゲットを見つけたので、アルムさんとフェルムに脇道に逸れて貰い、いかにも腕っぷしの強そうな膝から下のない、元冒険者に喧嘩を売った。
「まったく、朝っぱらから、働きもしないで酒をあおるなんて、随分なご身分だな~」
「なんだと!お前みたいな若造に何が分かるってんだ!手足を失った惨めな俺達を笑いにきたのか」
「笑いはしないけど、呆れて声を失いそうになるよ」
俺がそう言うと、男がいきなり酒の入った鉄製のコップをこっちに向けて投げたので、難なく避けると、コップは後ろの壁に当たり地面に落ちて転がった。
「あ~あ、勿体無い。野蛮人はこれだから」
そう呆れ顔で言うと、男は顔を真っ赤にし激高しながら杖をつき、目の前まで近寄って来た。
「貴様!舐めやがって!どうやら死にてーみたいだな!」
そう言うと、胸ぐらを掴もうとしてきたので、ワザと服を掴ませる。
「おっ!なかなかの腕っ節じゃないか。それくらい元気なら働けよ」
そう言い返すと、胸ぐらを掴み返し、その男を片手で持ち上げる。すると、男は焦り顔に変わる。
「なっ!なんだと!」
男の手が胸から離れたので、そのまま男を人のいない道へと放り投げると「ドスン!」と音が鳴り、男は道に転がった。
「なっなんて馬鹿力だ!貴様は何者だ!」
「俺の名はタクトと言う。まだやるかい?仲間を呼ぶなら今のうちだぞ」
そう挑発すると、男は地面に座り、「ピー ピッ」っと口笛を鳴らす。
すると、腕や足を欠損したガラの悪い男連中が家から出てきて、次々と俺を囲うように集まってきた。
「おい!ダズリーどうした?そんな所に座っちまって」
「この変な服装の若造が、馬鹿にしやがったから、分からせてやろうとしたら、逆にやられちまったー」
『4、50人ってとこか、まぁ何とかなりそうだな』
「何か気に入らないのなら相手になるよ」
「このクソガキが舐めやがって!」
片腕の無い元冒険者の一人は、脇に刺していた剣を構えると、いきなり斬りかかってきたので、ひょいと横に避け足を掛けて転倒させる。
「ズドーン」
転倒した男は、勢いのまま転がるとそのまま壁にぶつかり、目を回していたようで、立ち上がらなかった。
「やれやれ、この程度かよ?元冒険者ならパーティ組んでたんふぁろ?もっとやりようがあるだろうに……がっかりだよ」
そう挑発すると、正面に剣を持った者、左右にには杖を構えた者が並び、詠唱を始める準備をしはじめた。
「後悔するなよ!やっちまえ!」
ダズリーがそう言うと、魔法を使う者が詠唱を始めたので、縮地で間合いを詰め狙いを外す。元冒険者は詠唱を一時止めたのを確認すると、片っ端から正面の元冒険者を手刀で意識を刈り取っていく。
「くっそー!しくった.!おいお前ら!詠唱をやめろ!今魔法を放つと味方に当たる」
ダスリーが言うと、各属性の魔石だけがこちらの方向を向けたまま 元冒険者は苦虫を噛みつぶしたような顔で全員が睨む。
「おい!てめーら!もし剣士がやられたら、一斉に魔法を放つ準備をしておけ」
「おっ・おう!」
元冒険者達は。混戦だと魔法が使えないので、味方の冒険者がやられるのをただ見ているしかなかった。
こうして、混戦の中大怪我をさせないように、剣を持った元冒険者を次々と始末すると、魔力が溜まり、薄っすら光る魔石を持った元冒険者が、逃げられないようにこちらの周りを囲む。
ダズリーが仲間に言っていたことがまる聞こえだったので、倒れている冒険者を一人抱え盾にするように構えた。
「おい貴様!卑怯だぞ!」
「わざわざ、こっちに聞こえるように言ってたんだろ?そちらの作戦が分かっているのなら、対策するに決まっているじゃないか?人の言葉が分からないモンスターじゃないんだし。それにもしこれが、モンスターだったらどうするつもりなんだ?仲間を見殺しにするつもり?」
「そ・それは!」
俺はそう言うと、抱えていた冒険者を静かに下ろし、倒れている冒険者から少し離れ、何の魔法攻撃が来てもいいように両手に魔力を流しておく。
「さてと、卑怯者になりたくないし、これを負けた理由に言い訳されたくない。遠慮なくかかってこい!」
俺がそう言うと、元冒険者達は歯軋りをし、仲間同士で合図をする。
「行くぞ!」「おー!」「ファイヤー」「サンダー」「アイスブラインド」
それぞれが、魔法を唱え魔石を通して、色々な角度から魔法を打ってくる。
俺は、ジャンプをしようと思ったのだが、当たっても、服にシールドプロテクションが付加されているので、ジャンプをするのを止め、咄嗟に思いついた魔法を発動した。
「ファイヤーストーム シールド展開」
自分の周りに炎の竜巻を纏うと、全員の魔法が全て竜巻に吸収されるように消える。
「ば・馬鹿な!そんな出鱈目な対処の仕方があるか!!」
元冒険者が呆気にとられていたのを、見極めたその瞬間、炎の竜巻を解除し一気に相手全員を手刀で気絶せると、隠れて見ていた、アルムとフェルムがやってきた。
「うひゃー!それにしてもタクトさんマジで容赦ないっスね!」
「そうか?手加減なら、かなりしたつもりだけど」
「あのタクトさんを守っていた、炎の竜巻なんなんですか?」
「あれは、この前見せたファイヤーストームを、シールド代わりに使っただけだよ」
「使っただけなんて、普通考えないし、考えたとしてもやれませんよ」
「それで、タクト様の考えでは、何とかなるんですか?この状況で?」
「まぁ、元冒険者ばかりだからな。強いものには従うんじゃない?誰かが言ってたぞ?」
「それが理屈なら、プラチナのギルドカード見せたら良かったのでは?」
「あっ!その手があったの忘れてたよ」
「もぅ、何だか無茶苦茶ですね」
こうして、フェルムまでもが呆れた顔をしていたので頭を掻いて誤魔化した。
倒れている元冒険者を、このまま放置しておくのはマズいと思い、村雨でヒールを使うと全員の意識が回復する。
「よし、こんなもんかな」
「お前は一体何者だ?いくらこちらが身体障害者とはいえ、勇者でもないかぎりこの状況は、理解出来ねーよ。おまけに、ヒールが使えれるなんてありえねーし」
すると、アルムが紋章を光らせ紹介をする。
「残念ながら勇者は僕なんです。まぁ皆さんのお相手したタクトさんは、勇者の僕でも指一本触れることが出来なかったですがね」
元冒険者達はざわつく、勇者様が指一本触れられないなんてありえないと……
「こちらの方は、神の使徒様であるタクト様だ。以後見知りおけ!」
なんだか、水○黄門の助さんバリの紹介の仕方をされ若干恥ずかしい。だか元冒険者は、テレビのように平伏しはしなかったものの驚愕をしている。
「皆さんに手荒な真似をしましたが、これは皆さんの結束力などを見る為に、ワザとやりました。申し訳ないと少し思います」
「これだけしておいて、少しだけかよ」
「ええ。それだけ元気があれば、朝っぱらから酒なんぞ飲まずに、働けって言う意味ですよ」
俺はそう言うとアイテムボックスから、車椅子を取り出し、最初につっかかってきた、ダズリー呼び、乗るように指示をした。
「このように、この車椅子があればどこでも移動が可能となり、生活に幅が広がります。ダズリーさん乗り心地はどうですか?」
「あ・ああ悪くない……です。それで、この車椅子とやらを支給して一体あなたは、何をしようと考えているんですか?」
「そうですね。隠しても意味がなので全てをお話します」
俺は、近い将来この村を街に変え工業都市にする予定があること、王国の貧困層の働ける者をそこで雇用する事を伝えた。
「それじゃ、俺たちにも仕事をくれると言うことか?」
「ええ。そう言うことになります」
「だが俺たちは元冒険者ばかりだ、学はないし技術も腕も無い」
「そこは心配はありません。魔力さえあれば出来る仕事や、座ったまま出来る仕事を作ります」
「それは、ありがたい」
それから1時間あまり、元冒険者達と話しあ合いをすると、元冒険者もまったく働く気が無い訳ではなく、家族に逃げられたり、他に男を作られたりして、酒でも飲んでなければやってられなかったと言う話であった。
それでも、家族で働けばいいのに、子供に働かせて自分は酒を飲んで遊んでいるのはどうかと、軽く叱責をした。
それから、元冒険者にこの村に、空き地が無いか聞いてみると、村の奥に、昔穀物を保管していた倉庫が火事で焼けた土地があると言うので、案内をしてもらった。
「ここですぁー。それでこんな何にも無い所で何をするつもりで」
「それは、出来てからのお楽しみですよ」
そう答えたのは、火事の跡はまったく無く、コンクリートが敷かれたまま放置してあった為であった。
「それじゃ、取り掛かるので下がっていて下さい」
案内をしてくれた元冒険者が後ろに下がったので、アイテムボックスから、以前シルバーノアを作った時に余った素材を取り出し、何をここで作ってもいいように、新しく工場を創作することにしたのである。
『よし、これくらいあればいいだろう。外観は、鍛冶職人の倉庫と同じにすればいいか』
帰りの時間を考えると余裕を持って1時間程度しかなかったので、元冒険者を信用させる為に、外観だけでもと思い、元冒険者のことを考え、バリアフリーの倉庫のような工場を創作していく。
『何をこれから作るか分からないから、内装は後回しにしよう』
こうして、約1時間で、昔倉庫のあった場所に新しい工場を創作し外観をチェックしていると、いつの間にか、元冒険者が工場の周りを囲っていた。
「おいおいマジかよ。俺は神様はいねーと思って信じなかったが、今から神様とあんたの事は信じることにするよ」
「俺の事はどうでもいいけど、教会にでも行って、神様には感謝を捧げたほうが良いと思うぞ!」
「ああ。この村には教会はねえけど、教会に立ち寄る事があったら、是非そうさせてもらうよ」
元冒険者のダズリーと話していると、いつの間にか門兵もやってきており、元冒険者と話をしていた。
「いきなり、さっきまで無かった筈の建物が目に入ったので来てみれば、こんな工場が建っているなんて、一体どう言う事だ?」
「俺も最初は信じてなかったんだけどよー、この神の使徒様である、タクト様が瞬く間に作ったんだよ」
「神の使徒様だと!信じられん」
「ああ、俺もだ。だが神様でもなけりゃ、こんな短時間で工場が出来る訳がねえ」
「そう言えば、噂しか聞いたことないですが、空を飛ぶ船もひょっとして、あなた様が?」
「そうです。今ここにいるタクト様がお創りになったんですよ。皆さんもこちらにいらっしゃれる、タクト様を崇めなさい」
門兵がそう聞いてきたので否定をせず、肯定をしようとする前に、フェルムが悪乗りをしてそう言うと、元冒険者や門兵までもがこちらを向いて拝み始めた。
「や・止めてくださいよ!」
「まぁ、いいじゃないですか。減るもんでもないし」
俺は本気で嫌なのだが今更止めることも出来ずに、ガッくり肩を落とした。
こうして、レッカさんから買い取った車椅子を足の悪い元冒険者に支給し、神様じゃないのに「神様!ありがとうございます」と感謝をされ、「神様じゃありませんから!」と何度も否定をしながら貧困層の村を後にした。




