第48話 乙女心
―― ザバル男爵領 クロードの町 ――
新しく工場を立ち上げ、工場からザバル男爵の屋敷に戻ろうと、道を魔動自転車で走っていると屋敷の門の前でフィーナが腕を組み仁王立ちして待っていた。
威圧感があったので、慌てて自転車を降り、アイテムボックスに収納をしてから、徒歩で門へ向かう。
「タクト遅いわよ!昼食をほったらかしてまで、工場に行っているなんて、どれだけ仕事好きなの」
「ごめんごめん。すっかり、ごはんの事を忘れていたよ」
「まぁ、タクトのことだから、何かは食べてるんだろうな~と、心配はしていなかったけどね」
「いや、本当に何も食べていないんだ。そう言われたらお腹が空いてきたよ」
「もぅ、この前の話じゃないけど、そんなだと免疫力が低下するわよ」
「それを言われると少しつらいなー。本当にごめんよ」
「まぁいいわ。宴の準備が整ったって言ってたわよ。急いでシルバーノアに戻りましょ」
こうして、フィーナと一緒にシルバーノアに戻ると、展望のベンチで話しているカイル王子、ザバル男爵に呼び止められ、車椅子生産の状況や、鍛冶職人たちの話を簡単に報告した。
「そうか、順調であったか。それは良かった」
「レッカ殿には、お世話になっている。この国でも1、2を争うほどの腕を持ち、その情熱は王国一だと父上から聞いているからな」
「そうなんですか。それなら是非とも色々と教えたい事もありますから、この旅に連れて行きたいですね」
「まぁ、その気持ちも分からんでもないが、そうなると他の鍛冶職人の面倒がな……」
やはり、爵位持ちの人物を、好き勝手に旅に巻き込むのはマズイらしく、最終的には陛下の許可が必要だと言うことだった。
「お兄様!」
アンジェが呼ぶ声が聞こえたので、ベンチから立ち上がり手摺から顔を出すと、アンジェが少し怒った顔をしていた。
「ちょっとお兄様!タクト様を独占しないでよ!それに宴の準備は整ったって先ほど言いましたよね。折角のお料理が冷めちゃうわよ!」
「別にタクト殿を独占しているつもりはないのだがな、分かったよ直ぐ行くよ」
こうして、展望の階段を降り専用通路を使い、食堂に着くと、アンジェの言ったとおり、既に食事の準備は整っていて、俺たちが来るのを待っている状態であった。
食事は、俺の伝えた、パンを始めとし、ハンバーグ、チキン、シチューやカットされたステーキなど色々と綺麗に机に並べられていた。
「皆の者。待たせたな。それでは今日は、わが娘セリスの久しぶりである帰宅と、いつもお世話になっているアンジェ王女、それからタクト殿を始め、これからお世話になる皆様方に感謝を込めを開催する。それではタクト殿。乾杯の音頭とやらをお願いします」
以前乾杯をやったのを覚えているのか、気に入ってもらえたみたいで、ここは慣れている俺に声が掛かった。
「それでは、堅い挨拶は抜きにして簡単ではございますが、今日はみんで盛り上がっていきましょう!乾杯!」
「乾杯!」
それぞれがグラス同士を軽く当てて、飲み物を飲み干す。
「それでは、今日は遠慮せずじゃんじゃん食べて、英気を養うのじゃ」
ザバル男爵がそう言うと、宴が始まり、皆は、一斉に食事を始めた。
少しお酒が入ると完全に酔う前に、お酒とグラスを持ちザバル男爵いる机へと向かう。
「皆さん楽しんでいますか?」
手伝ってもらったメイドさん達に感謝をし、少しばかり話しをすると、シルバーノアにある、調理道具の種類や便利さに感動をしたようだった。
その中でも特に好評だった野菜の皮を剥くピラーを手早く創作をして、5本プレゼントした。
「流石タクト様、気前がいいですね。これで仕事がはかどります」
「それじゃ、ワシらが気前が良くないように聞こえるんじゃがの」
一緒の机にいたザバル男爵が意地悪なのか、少し半笑いでいうと、メイドさんの一人が慌てて弁解をする。
「いや、別にそういう意味ではなくて……」
「冗談じゃよ。タクト殿、ありがとうな」
「いえいえ。私は次のテーブルに行ってきます」
「うむ。タクト殿を独占するなと、娘に叱られるからな」
思わず、その発言に苦笑いをしてしまい、一礼をしてそのテーブルを離れると、旅の仲間のグループの机にやって来た。
「もぅ。遅いんだから」
「そうですよ。今回の主役をお忘れですか?」
「悪い。君たちとは、これから毎日こうして顔を合わせて旅をする訳だから、最初じゃなくてもいいかなと思ってさ」
「それはないでしょ。乙女心が分かってないわね」
「そうですよ。タクト様は分かってくれていないです」
「まぁ、タクトも悪気があってやってるわけじゃないからね。その辺にしておいてあげたら」
フィーナがそうフォローすると、なんとかその場が落ち着いたので、今日あった出来事をみんなに報告して、今後の日程を連絡した。
「あの自転車は本当に素晴らしいですからね。2人しか乗れないのが残念ですが」
「あら、誘っても誰も後ろに乗ってもらえない、アルムが残念がるのはどうかなと思うけど」
「今ここで、それを言いますか?」
「まぁまぁ、二人とも!仲がいいのは分かるけど、その辺でやめといたら、皆さんが見てるわよ」
ラルーラさんがそう言うと、二人はハッとした顔になり、赤面をする。
「でも、タクトさんのお陰で今まで以上に楽しくなってきましたし、移動や食事に関して言えば本当に信じられないくらい良くなりました。感謝しかありませんよ。私個人的にも、何かお礼を差し上げなければなりませんね」
「いえ、お気持ちだけで結構ですよ」
「また。思いついたら何か差し上げますね」
そんな話を一杯すると、少し飲みすぎたのか、酔ったのでフィーナに寄り添われながら、展望で酔いを醒ます事にした。
「なぁ、フィーナ。あの二人は一体何がしたいんだと思う?」
「えっ!本当にタクトったら乙女心が分かってないわね。そりゃタクトの事が好きだから独占したいんじゃないの?」
「いくら自分が鈍感でも、それぐらいは気付いてるよ。でも隣にはいつも君がいるんだよ。割って入る隙間なんてないじゃない?」
『しまった!つい酔った勢いで、収拾がつかない事言っちゃったよ!』
恐る恐るフィーナの顔をチラ見すると、フィーナの顔は、酒に酔った顔の赤さに加え、さらに顔を赤くして下を向いて照れていた。
「もう、タクトったら。さり気なく凄いこと言うんだから。いきなり過ぎて照れちゃったじゃないのよ」
「ごめん。つい酔った勢いで!」
「つい酔った勢いって何よ!」
色々と答えにくい状況となり、少し間が空くと、絶妙なタイミングで王子がやってきた。
『ナイス タイミング!王子!君は出来る子だ!』
「お取り込み中だったか?」
「いえ、とんでもありませんよ」
フィーナは王子のことを少し睨んでいたが、正直助かったので心の中で感謝をする。
「それじゃ、邪魔しちゃ悪いから私は行くね」
「ごめんよ。また埋め合わせするから」
「絶対よ」
そう謝ると、フィーナは「仕方がないな」とぽつりと呟くと、王子は「本当に、すまない」と謝るのだった。
「それで、何のお話でしょうか?」
「ああそうだった。早速、各領主から返事が返って来たぞ」
王子の話しによれば、少し早い気はするが、明後日の晩に開催されるということで、この付近の領地である、北の領地の領主全員が参加すると言う事で決まったようだ。
その後も今後の話を少しすると、王子は先に食堂へと戻って行ったので、ベンチに腰掛けたまま腕を伸ばし、一人になり夜空に輝く一際大きな星を眺め物思いに耽る。
「タクト様、見っけ」
「こんなところで、何を黄昏ているんですか?」
「別に黄昏いた訳じゃないよ。少し考え事をね」
「それじゃ話に付き合ってください」
「別に構わないけど。それで話ってなんだい?」
「んー。単刀直入に言いますと、タクト様は私たちの事をどう考えているのかな?と思いまして」
『ストーレート直球勝負!来ましたよ!フィーナの時は墓穴を掘ったけど、どうして今日は、こんなにも色恋沙汰になる日なんだ!』
「そうだな、二人ともかわいいと思うよ」
「そう言うのじゃありません。将来の事ですよ」
「そうです。嫌いなら嫌いと言って下さい。嫌われたくないので、その時は大人しく引き下がります」
「いや、嫌いじゃないのは確かだけど、好きとか嫌いとか正直な話し考えた事ないよ。まだこの世界に来たばかりだし」
「この世界とか関係ないじゃないですか?人を好きになるのに期間や環境は関係ないと思います」
『確かに、フィーナには一目惚れしちゃったし、いい訳か……仕方がない正直に話そう』
「これは、フィーナには内緒にして欲しいんだが、フィーナの事が好きなんだ。まぁ分かってると思うけど」
「ええ。見ていたら分かります」
「なら、どうしてきちんと告白をしないんですか?」
「中々痛い所を突くね。フィーナは元は神様の眷属で妖精じゃないか。そんな叶わない恋をして、好きな人を困らせたくないんだよ。別に振られるのが怖いとかじゃないんだ」
「それなら、さっさと諦めて、私たちでもいいじゃありませんか?」
「だからと言って、ホイホイ別の女性にいくほど、この気持ちは中途半端じゃないんだよ」
「その気持ちをフィーナ様にぶつけた事はあるんですか?」
「あるわけないじゃないか!だってそうだろ?この世界に来たのは、この世界の平和と文化の発展の為なんだ。何も成しえていないのに、恋にうつつを抜かすなんて、神様に申し訳ないじゃないとは思わないか?」
「そっ、それはそうですけど」
「二人の気持ちはよく分かった。でも、二人には申し訳ないないけど、少なくとも、フィーナの件が決着するまで返事は出来ない。下手をすれば一生このまま独身かもしれない」
「そっか。分かりました。嫌いじゃないんですね」
「ああ。何度も言うけど嫌いじゃないよ」
二人は何を思ったか、手を取り合い喜んでいるのだが、どうしてかまでは聞けなかった。
ちょっとした修羅場をくぐりぬけ、二人は嬉しそうに去って行くと、少し風が冷たくなり時計を見てみると、時刻は21時を回っていた。そろそろ寒くなってきたので戻る事にする。
自室に戻る途中、食堂に立ち寄ると、全員がトランプやリバーシを楽しんでいた。
「タクト殿!あれからザバル男爵と何度も対戦して、少しは強くなった筈だ。一度勝負をしてくれないか?」
「もちろん、いいですよ。かかってきなさい」
「ふっ、手加減はいらぬ」
こうして、23時までカイル王子、ザバル男爵、アルムをこてんぱんにやっつけると、大人気無かったと少し反省するほど、3人は凹んでいた。
それからは、約束通り、今日は皆でシルバーノアで宿泊することになり、枕の合わない従者達は、マイ枕を取りに行って、それぞれ、今日特別に用意した部屋へと別れて行った。
「それじゃ、おやすみ」
皆をそう見送っていると、フィーナの態度が気のせいか良い。
『ひょっとして聞かれていたのかな……まさかな……きっと埋め合わせの、罰ゲームの事でも考えているのだろう』
こうして、いつもの様に温泉に入って、疲れを癒してから就寝するのであった。




