第5話 神様からの手紙とプレゼント
―― とある島・とある町 ――
しばらく歩くと、遠くから見てもかすかに黄金に輝く塔と、5.6m程高さがある外壁に囲まれているが、壊されている町の門が見えてきた。
『外壁、たかっ!』
異世界系のアニメでは、こんな感じの外壁がよく描写されているが、実際に目にしてみると、その圧倒的な存在感に驚く。
壊れていいる、門から町並みが少し見え、ほっと胸を撫で下ろしたのだが、やはり先行して見て来たフィーナの言うとおり、町に明かりは灯ってなく、人が住んでいる気配はない。
「なんで門が壊れているんだろう……」
フィーナは、門が壊されている事に、何も警戒をせず「取りあえず、入ってみましょうよ」と言う言葉に、違和感を感じ、少し戸惑ったが、足を止めずに町へと向かった。
門に近づくと暗かったので分からなかったが、外壁の周りには堀があり、開閉式の橋が降りたままになっていた。
「渡っても大丈夫そうよ。橋は壊されていないようだわ」
「そ・そっか。ありがとう」
少し疑心暗鬼にはなったが、フィーナを信じて橋を渡りる。
壊れた門をくぐると、門の入り口には衛兵室であろうか、ドアが開いたままであり、勝手に入って悪いと思ったのだが、少しでも状況を掴みたいので、「失礼します」と誰もいないのだが律儀に声を掛け部屋に入って見る。
「やはり誰もいないか」
ふと机の上を見て見ると、日誌ぽいものが書かれた物が置かれていたので見てみると、それは、日誌ではなく、この町以外から来た入門許可者の名前が書かれていた物だった。
「えーと。ここに書いてある職業欄を見る限りでは、ほとんど冒険者ばかりのようね。迷宮でも近くにあるのかしら」
「冒険者か。異世界ならではの職業だよな。それにここに日付が書いてあるけど、えーと1月21日って書いてあるな。今日ってこの星で言うと何月何日?」
「ちょっと待ってね。スキルボード。今日は7月4日の現在時刻が8時40分ね」
「約半年前か・・・・いったい何があったんだろう?」
「ここには何も書かれていないわね。壊されている結界を張り直して先を急ぎましょう」
『それにしても7月4日って、どおりで暑いと感じたわけだよ……』
フィーナは、門にある壊された魔石の結界を張り直している間、壊されていた門をクリエイトで修復して門を閉める。
「しまった!門を閉めたらもし住人が戻ってきたら入れないじゃないか!」
「今日のところは大丈夫じゃない?半年も人の出入りないみたいだし」
そうフィーナが言うと、納得して町へと入り、塔を目指す。
町に入ると、やはりさっき感じたとおり、そこは人気がなく無人のようで、辺りをよく見て見ると、町は廃墟というか、人がいないだけで、町全体がほとんどが無傷で残っていた。
『違和感を感じたのは、こう言う事だったのか。そう言えば、門が壊されている割には、町の外からも確認出来る建物には、損傷はなかったしな……』
「そういえば、街灯の様な物があるけど、なんでついてないんだ?」
そう質問をして、道に一定間隔に設置されている街灯に指を差す。
「あれは、さっきタクトが興味深いと言っていた、光の魔石の街灯よ。本来なら暗くなると、町の人々が魔力を流して、街灯がともるんだけど、多分誰も管理をしていないから魔力切れね」
フィーナは、街灯にあるプレートに触れ、魔力を流すと、街灯に明りがともった。
「こんな感じかしら。このプレートには魔石が含まれていて、半日くらいの魔力なら、貯蓄出来る様に加工が施されているわ」
フィーナはそう説明をし、街灯から離れると、街灯は再び明かりが消えた。
「なるほど、納得したよ。でもなんで明りを消しちゃったんだい?」
「確かに、門を修復して結界を張り直したけど、この町の人々がどんな理由でいなくなったのか分からないのなら、リスクは避けたいのよ。当然でしょ?」
「ごめん。モンスターのいない世界からきたからつい、そのことを忘れてしまうんだよ」
こうして、街灯の明りを灯すのを諦めて町の中を歩いて行くと、月明かりでしか確認出来ないが、町のメインストリート?は、石畳が敷かれていて、結構町は発展していた事が分かる。
家についてもだが、基本的には通称三角屋根は存在せず、片流れの二階建てが基本となっていて、この場所は雨が少ないのあろうと、容易に推測出来た。
そんな、整った綺麗な町に人がいないなんて、いったい、何が起こったんであろうか考え始めると、フィーナが突然何かを思い出した様に口を開いた。
「あっ! そう言えば、神様から手紙を預かっているのを、言い忘れてた。アイテムボックスに入れてあるから、手紙をイメージしてみて」
フィーナがそう言うので、アイテムボックスに触れて、手紙を取り出した。
「それじゃ読んでみようか」
近にある階段に座り、手紙を広げると、月明かりでは文字が読み取れなかったので、スマホのライトで手紙を照らしながら、二人で読んでみる。
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タクトへ
今から転移する島の記憶と人々の記憶を調べたら、この町は約半年前の真夜中に、突如近くにある迷宮から強力なモンスターの集団が出てきて、町に向かって襲って来たそうじゃ。
それなりに冒険者がいたので、冒険者も戦おうとしたみたいじゃが、真夜中であったので衛兵や冒険者も寝てたり、酔っ払って者も多かったので戦うのを諦めて、被害が出る前に、緊急の脱出経路から逃げ出したようじゃ。
モンスター達は、何者かが結界を破壊すると門を破壊し、中に入ると人がいない事に気がついて、何をする事もなく、ダンジョンに戻って消えていったみたいじゃ。
その後、その島の所轄にあたる、インレスティア王国騎士団と冒険者ギルドが緊急クエストとして合同で、討伐隊を結成して、この島を取り戻そうとしたのじゃが、この島の周りの近海では、最近は強力な海のモンスターである、海獣が現れるようになったので、諦めたようじゃ。
いくら討伐隊が強いとはいえ、船ごと沈められると鎧の重さや、船の揺れで強さが発揮出来ないので、王国も元住民もこの島を諦めて放棄したようじゃ。
それでタクトに頼みがある……
まだ確定ではないが、どうやら結界を破壊したのは魔人のようで、魔人がモンスターを操り、襲撃した可能性がある。
近くに迷宮があるのじゃが、階層は20階層と浅いとはいえ、魔素の濃度が普通の迷宮より高いので、魔物は少々強力じゃがそなたとフィーナならなんとかなるであろう。
魔人の目的と、調査をしてはくれないであろうか?
大至急と言う訳ではないので、落ち着いてからからでもいいので、頼んだぞ。
PS
その塔は、わしからのプレゼントじゃ、門の入り口に登録制の鍵がある。
登録方法はフィーナに聞くと良い。
それでは頼んだぞ…………
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手紙を読み終えると、アイテムボックスに手紙をしまい『しかし神様も、手紙まで<~じゃ>を使うなんて、徹底してるよな』と軽く心の中で、突っ込みをいれた。
「ねぇ、折角神様がくれたんだから、夜も遅い事だし、早く塔の中に入ってみましょうよ」
フィーナは、手紙を読んだからであろうか、テンションが上がったみたいで、空を自由に飛びまわっていた。
その姿を見ながら、ふと夜空を見上げてみると、大きく明るい月に妖精が空を飛び、綺麗で美しい星空を眺めていると、本当にここは異世界なんだと、やっとのこと自覚が出てきた。
「よっしゃー!それじゃ塔に向かって出発だー!」
「お――――――!」
俺もテンションを上げ、再び塔に向かって歩き出した。
そこから歩いて10分、塔は町から少し外れた場所に建っていて、月明かりに照らされた立派な塔を見上げると、思わず立ち止まり見入ってしまった。
「この塔、少しフィーナみたいに光っていないか?なんだか神々しいし……」
「それは、神様が創った塔だもの、神々しくて当然だし、私も神界出身だからね。それよりも、この階段を上がったら直ぐに門があるわ。急ぎましょ」
フィーナがそう言うので、急いで歩いて行くと、30段くらいある階段があって、それを上ると門の前に辿り着いた。
「なんだか、近くで見ると凄い迫力だな。流石は神様がお創りになった塔って言ったところか……神々しいよ……なんだか祈りたくなる……」
塔を見上げ、呆気にとられていると、フィーナは自分が褒められた様に、嬉しそうにしていた。
「じゃ、こっちに来て登録しましょうよ」
フィーナに誘導され、門の横にあるプレートの様な物の前に来た。
「それで、登録ってどうやるんだ?」
「えーと……まずこのプレートは魔力を必要としないから、プレートに触れながら管理者登録と言って」
言われるがまま、プレートに手を触れ「管理者登録」と言うと、プレートに魔法陣が現れ、どこからとなく声が聞こえる。
【これより管理者の声紋登録します。最高権限者の名前をお願いします】
「最高権限者って、俺でいいのか?」「ええ。当然でしょ?神様がこの塔をタクトに与えたんだもの」
「そっか。じゃ、尾崎 拓人だ」
【登録します……最高権限者として声紋登録完了しました。この塔の名前を、最高権限者がつけて下さい】
『そんなの、急には思いつかないよ……ここは地球の神話からもらっておくか』
「それでは<バベル>でお願いします」
【了解しました。これよりこの塔はバベルと登録します】
無機質?な機械のような言葉ではあったが、これで登録は終了したみたいであった。
「思いつきにしては、良い名前ね」
フィーナはプレートの上に舞い降り、後ろに手を組みながらそう言った。
「ああ、地球に出てくる、神話の塔の名前をもらったんだ」
「タクトって正直ね。そう言うとこ好きよ」
軽く好きと言われ、照れて顔が熱くなった。たぶん人間化した状態の姿であったら、もっと動揺していたであろう……
【続いて、サブ権限者の登録を行えますが、どうされますか?】
「フィーナも登録しておいてくれないかい?」と言うと、コクリと頷き同じ様に登録を完了させる。
「この先は、登録された魔力で門を開け閉め出来るから、そこにある柱に触れて見て」
門の手前にある柱に触れると、門はゆっくりと開いていく。
「さあ開いたから、中に行きましょう」
フィーナに先導されて、門を通り抜けるとレンガで出来た道があり、芝生に覆われた中庭があった……レンガ道がある事に驚いたが、それよりも、近くにある塔の神々しさと存在感に圧倒された。
こうして、レンガで作られた道を歩いて行くと、塔の入り口に設けられていた、豪華な扉の前に辿り着いた。
再び柱に触れると、扉はゆっくりと開いたので、扉を通り塔の中へと足を進める……
『それにしても、自動に開閉出来るって、どんな技術を使っているのだろう?まあ、神様が創った物だから、これくらいで驚いてちゃ駄目なんだろうな』
塔の中に入ると扉は自動で閉まっていき、真っ暗になるかと思うと、間接照明のような光る魔石が一斉に光り、通路を見ると、一定の間隔で並んでいて、通路を照らしていた。
「おー!凄い!ファンタジーしてるじゃないか!」
あまりにもその光景が、不思議であり、思わず無意識に言葉を発してしまった。
「そう驚いてもらえてなんだか嬉しいわ」
フィーナは俺の反応がおもしろかったらしく、なんだか満足気な表情である。
通路を歩いて行くと「タクト。ここが上の階層に上がる階段よ。今はまだ1階の説明をしたいから、また後からね」と言って階段のあるフロアを、通り抜け1階のフロアへと足を進めた。
通路を抜け広い場所に出ると、辺り一面は真っ暗で、何があるのか分からなかったが、フィーナが「クロック」と唱えると、魔法陣のような時計が現れた。
「ねぇ、時計の針を昼の12時に合わせてみて」
魔法陣の時計が、現在時刻の9時半を指していたので、昼の12時に時計の針を合そうとすると、時計の回転に合わせて周りの明るさが変化していく事に驚愕した。
「こ……これは凄い!時間が操れるのか?」
「そうじゃないわ。それについては、家に着いたら説明するから今は待って」
俺は魔法に感動しながら頷き、辺り全体を見渡した。
「それにしても、東京ドーム何個分の大きさはあるんだ広過ぎて把握出来ないよ」
「東京ドームとは、何の事かは分からないけど、塔の中身は空間魔法で制御されているわ。限界はあるけど、ある程度の広さなら私でも調整可能よ」
「それは凄いな。これだけ広いのにまだ調整できるなんて」
「ふふふ、建物やインフラなんかは、これからタクトが考えて作っていくのよ。魔法の練習を兼ねてね」
フィーナは簡単にそう言うのだが、魔法の知識も何もないので、馬の耳に念仏の様な状態である。
「あと簡単に説明すると、この塔は3階建てになっていて、外観は高さ100m、外観の見た目の大きさは変えられないけど、室内の広さ同様に、内部の高さも自由に変更出来るわ。ちなみに、今の高さはワンフロア15m程よ」
「15mもあるのか?こりゃ上り下りだけでも難儀しそうだよ」
「確かにそうね。あと、フロアの説明だけど、1階と2階は、見てのとおり、一面芝生だけになっているわ。それで3階に居住区があって、これから私たちの住む家があるわ……驚いた?」
「ああ!驚いたよ!それにしても、フィーナ!詳しすぎないか?さては全部知っていたな?」
「ごめん、ごめん。実は知ってたわ。隠していたのは、タクトの驚く顔が見たくてね……」
「魔法にしても、塔にしても驚愕だよ……」
「まだまだ、驚くのは早いわよ、私達が寝泊りする家に行きましょうよ」
そんな話になり、3階にある居住区へと向うこととなる。
上がる階段に辿り着くと、螺旋に延びた階段があり、先ほども思ったが、この先ずっと、この階段を上り下りしなきゃならないと思うと『毎日こりゃ大変だよ』と愚痴をこぼしそうになる。
実際問題として、時間も掛かる上に、俺だけなら、鍛錬の為と思ったらまだ耐えられるであろうが、この先、どんな人が上り下りするか分からないので、時間が空けば、簡易的なエレベーターを作る事を、階段を上りながら考えた。
「それにしても、階段勾配もそうだけど、段数もきつくないか。鍛錬の為ならいいけど、普通の人間が住みだしたら、毎回だと大変だと思うよ」
「そうね。私は飛べるから、苦にならないけど、人の身にはきついかもね。分かったわ、後から考えてみるね」
「俺も考えてみるけど、宜しく頼むよ」
長い階段を上り、三階の居住区に着くと、奥の方に貴族の住まいの様な、立派な屋敷が見えてきた。
屋敷は、先ほど見た町の家とは比べ物にならないくらい立派であり、大きな正門があって、中には広い中庭と木が植えてあるのが目に入る。
フィーナは、屋敷の門の前に立つと「どう?これが、私達が住む家よ」とドヤ顔で言ってはいるが、どう考えたとしても、家ではなく屋敷であった。
「この世界の家の定義は良く分からないが、これは屋敷じゃないのか?」
「そうとも言います、えへん!」
こんなに大きな屋敷に住むとは、思ってもみなかったのだが、冷静に考えてみると、掃除や管理が大変そうだと尋ねてみると「大丈夫よ、魔法ならすぐ掃除ぐらい終わるし」と、あっさり返されてしまった。
「それにしてもだ、二人だけではかなり広すぎやしないか?」
「狭いよりいいでしょ。これから、来客や仲間が増えるかもしれないでしょ」
「まぁ、フィーナそう言うなら、別にいいか……」
「ふふふ……それじゃ、体内時計が狂うと面倒だから、時間を戻しておくわね」
先ほどの「クロック」を唱え、時計が現れて現在時刻に合わせると、瞬く間に、辺り一面は夜となり暗くなった。
門と屋敷に繋がる道には、光の魔石が埋め込まれていて、何とか安全に屋敷に向かう事が出来る事を確認すると、少し安心した。
「さっきも思ったけど、なんで塔の中なのに外にいるみたいになるんだ?」
さっきの時計といい、風景といい凄く気になった。
「あーそれね。 魔道具で外の風景を映し出しているだけよ」
「凄いな……俺のいた世界よりも凄いよ……」
「ぶっちゃけた話、この塔を創ったの神様だから……」
「あー、納得」
「こんな所で、立ち話もなんだし、早く中に入りましょうよ」
「そうだね」
かくして、屋敷の扉を開き、俺達二人は屋敷の中へと入った。
いつも読んで頂いてありがとうございます。