第23話 敵対する者
―― ザバル領・ロッド村・街道 ――
村長に教えても貰った道を進み、地図を確認しながら領主の館へと向かう。
車の中で、フェルムにアイラを連れ去る理由について、思い当たる節がないのか聞いてみると、フェルムはテイムした古の竜が欲しいのか、それともフェルムのテイムの力が欲しいのか、どちらかだろうと推測をしてるようだ。
そもそも、魔人公爵とは、いったいなんなのか、皆目見当もつかないし知らないので、聞いてみる。
「ところで、フェルムは公爵って肩書きがあるじゃない?これって、領地とかそう言うのってあるのか?」
「いえ、魔人が統治する国があるわけじゃないので、領地とかはないです。まぁ、噂では北や南にある、夜の国に住んでいる者もいるらしいのですが、会った事もなければ、会いたいとも思いません」
「その夜の国って言う場所の事が気になるんだが、どんな場所なんだい?」
「それは私が、今から地図を出して説明をするわ」
この星には自転や公転の関係で、年中日の当たらない大陸があり、通称、夜の国と呼ばれていて、その場所を地図で確認すると、地球で言う北極や南極の位置にあり、氷に覆われているので、住むには適していないのだと、フィーナに説明をされた。
「そうなんだ。なんかそんなところに追いやられている魔人達もかわいそうちゃかわいそうだよな。じゃ、もうひとつ質問なんだけど、爵位ってどうやって決められるんだ?」
「お恥ずかしい話ですが、どの様に爵位を決められているのかと申しますと、テイムつまり従属出来るモンスターのランクがありまして、例えば、古の竜やベヒーモスなんかの、Sランク以上の魔獣は公爵クラスじゃないとテイム出来ないんです」
「キルドの、ランクみたいなものなのか?」
「ええ、そのとおりです。なにせ魔人はプライドが高いので、爵位をそう言う基準で付けるらしいのですが……これは魔人である父から聞いた話ですから、実際のところは分かりません」
「もしその話が本当なら、妖精や、魔人公爵を従属させているタクトは、魔人王ね!ふふふ……」
「まったく、そのとおりです」
二人は悪乗りして、俺をからかう。
『アイラさんを、さらった理由は、考えても無駄だから直接聞くしかないか……』
もしアイラさんを連れ去った、王子や勇者が敵であるなら戦いは避けられそうもない。最悪の場合に備え、戦闘になった時の事を考慮し作戦を頭の中で練り始める。
先ほどの、フェルムの対応を見る限りでは、フェルムは、アイラさんの事になると、冷静な判断が出来そうにもない。
武器であるライジンも神器だ。一歩間違えれば、王子や勇者などを傷つけ、取り返しのつかない状況になる可能性がある。そう考えると申し訳ないが、フェルムには戦闘から外れてもらう事にした。
そうした事から、作戦が決まり、フェルムにその事を伝えると、渋々だが了解をしてくれた。
余談だが、本当はフィーナにも戦闘から外れてほしかったが、自分の思っていた以上に抵抗されたので、仕方がなく、その場で臨機応変に対応をすると言う事で話は纏まった。
作戦が決まると【クロードの街へようこそ】と書かれた、木の看板が目に入る様になり、領主の街に近づいて来た様だ。そうした事から、車を目立たぬ場所に止めると、アイテムボックスの中に収納をする。
「そう言えば、村長の屋敷から出る時に鳩が飛んでいったのが見えたんだ……恐らくはフェルムが来ることを伝えただろうから、フィーナには悪いけど、妖精になってもらって偵察をお願いしたいんだけど、お願い出来るかな?」
「それぐらい慎重の方がいいわね……いいわ。様子を見に行ってくる」
考えた作戦どおり、フィーナは妖精に変身して、スキル隠密を使い偵察に行ってもらった。
木陰に隠れて静かに数分待っていると、フィーナが戻ってきて「街の門から少し離れた場所に、人が30人位集まっていたわ」と言う話だったので、覚悟を決め、徒歩で町に向かう。
森を抜け、何もない草原の奥を見てみると、フィーナの報告どおり、街の門から少し離れた場所に、30人程の兵士らしき軍団が武器を持ち、待ち構えていた。
「それじゃ、いっちょ行くか」
「ええ。楽しみだわ」
こんな状況で、何が楽しみなのかは分からないがフィーナは、嬉しそうな顔をしてそう答えた。
それから、歩いて兵士が待つ場所へ向かうと、その中に明らかに身なりの良い、、銀色に輝くフルプレートアーマーを装備した人物が、こちらを見て口を開く。
「待っていたぞ、フェルムよ!」
「王子!アイラをどこにやった?」
「魔人公爵であるフェルムが、この私の従属となり、色々と協力すると約束をするなら返してやろう」
「勝手に連れていって返すとは、何処まで傲慢なんだ!それにもう遅い。すでに私には仕える主がいる」
フェルムは、必死に声を張り上げ、そう言うと、俺とフィーナの顔を見た。
王子は鋭い目でこちらを睨むと「ほぅ ならば、その主とやらを私達が消せば問題ないのだな?」と上目使いでこちら睨む。
無論、その王子の態度に腹を立てはしたが、深呼吸をして冷静になり考えた。
『どうやら王子は、俺達を殺す気満々の様だが、仮にも一国の王子を殺す訳にもいかない……ここは一気に神威で無力化するのもいいけど、情報ぐらい手に入れないと、フィーナに怒られそうだな……いっちょ挑発でもして、話しを引き出す作戦に変更しようか……』
「話しの途中で、口を挟んで大変申し訳ないが、あんた達の目的?いや、フェルムに一体何をさせるつもりなんですか?」
「知れた事よ。それに、どこの馬の骨とも知れないお前に、何故、話をしなければいけない。それに貴様達は何者だ?」
「俺は、お前が消そうとしているフェルムの主だよ。悪いが、あんたに名乗る義務はない」
苛立ちを隠せず、本来なら一国の王子にこの言い方はないのだが、あまりにも傲慢な態度に、言葉を普段どおり?に変える。
「王族の私に向かって、その無礼な口の聞き方……もはや、容赦は出来ぬ……が、まぁ、よい。もう直ぐ死ぬのだ。冥土の土産に、フェルムを欲している訳ぐらい話してやろう」
王子は、悪意をむき出しにして、顔を歪めるのだが、どう言う訳か?理由を教えてくれるようなので、何も言わず耳を傾ける。
「私は、古の竜をテイムしようと、わざわざドラゴンの巣へと勇者達と一緒に向かったのだ。そしたら、既に何者かが連れ去られた後だった。近くの村に行き、聞き込みをしたら、そこにいるフェルムだったわけだよ」
ドラゴンの巣には興味があるが、今それどころじゃないので聞き流す。
「だからと言って何でアイラさんをさらったんだ?関係ないだろ?」
「関係無いだと?馬鹿を言うな。交渉に人質が必要な事ぐらい、おまえは分からないのか?」
「王族が人質って、随分とセコイ真似をするもんだな」
そう答えると、王子は顔を歪めた。
「フェルムよ、悪いことは言わん、女を返して欲しければ、私の為に仕えるか、大人しく古の竜を渡せ」
『ん?何かおかしいぞ……何だ?』
王子の話に違和感を覚えたのだが、考える暇も無くフィーナが王子を挑発する。
「それは、無理な相談だわね。エンシェント・ドラゴンはタクトが殺しちゃったもん!」
『あちゃー!暴露した上に、挑発しちゃったよ!』
「なんだと!あれは、人がどうこう出来る代物ではない!ましてや、人の身で倒せるわけがないじゃないか!おい貴様!出鱈目をいうなら貴様もこの世から亡き者にしてやろう」
王子の態度は変わらぬものの、明らかに顔色が変わり激怒している。
「話は終わりだ!アルムとその仲間の3人、あの者達を成敗してまいれ!」
そう王子が言うと、金色のフルプレートアーマーを装備した若者が前に出てきて、剣を構えようとする。
「王子お待ちください。あんなふざけた格好をしている者など、勇者の手を煩わすまでもありません。どうか、そのお役目私にお任せください」
体格の良い、青いフルプレートアーマーを、身に纏った30代の兵士が、勇者らしき人物を手で塞ぎ制止した。
『異世界じゃ普段着も、ふざけた格好に見えるんだな。でもまぁ仕方ない。いっちょ、やるとしようか』
そう心の中で思っていると、今度は、フィーナが俺とフェルムを手で制止する。
「上等だわ!私が成敗してあげるわ。皆、纏めてかかってらっしゃい」
なぜか、フィーナが嬉しそうにして刀を構えた。
『フィーナって、こんな戦闘狂だったっけ。しかも成敗って……嫌な予感がする』
「おのれー!言わせておけば!皆の者!女だからと言って容赦する必要は無い!全員で取り囲んで、始末しろ」
おそらく、脳内翻訳なんであろうか、ありきたりの、三文芝居を見ているような言葉が、次々と出てきて、こんな状況なのに笑える。
そんな状況下の中、当事者であるフィーナはと言うと、物凄く悪い顔をしていている。これじゃ、どっちが悪者か分からない。兵士が一斉にフィーナに向かってくると、突然、フィーナの顔が笑顔に変わる。
「――――――――――!やった!来たよ来た!ここは手出し無用よ!」
兵士はフィーナに向かって、上段から斬りかかると、フィーナは、冷静に子狐丸を逆刃で胸を打ち抜き、兵士は胸を押さえ倒れる。
「一つ、人の税収 無駄に使い」
「二つ、不当な悪政三昧」
「三つ、醜い貴族の闇を 屠ってやろう この剣で」
フィーナがそう言いながら、次々と兵士を逆刃で倒して行く姿を見て、なんだか脱力感を覚えた。
『あー、これがやりたかったのね!悪い予感が当たっちゃったよ。台詞も考えて用意してたんだよな……だけど、一言俺は言いたい……相手は兵士であって、貴族ではない!』
と、一人で突っ込んでいると、最後に先ほど威勢の良かった、兵士長らしき人物が兵士に指示を出す。
「えーい!何をしている!全員束になって倒すのだ!」
先程の青い鎧を着た兵士長らしき人物がそう指示を出すと、兵士はジャンプをして斬り掛かったり、色々な戦術で攻めるが、フィーナの相手では無かった。
こんな感じでフィーナは危なげなく兵士達を倒して行き、最後に残った兵士長らしき人物と対峙する。
「全然大した事ないわね。まぁいいわ、かかってらっしゃい」
そう煽ると「小癪なやつめ!」と言ってフィーナに突っ込んで行くと、居合いの構えをして、スキル居合い+縮地を使い、すれ違うと同時に兵士長らしき人物の胸を打ち抜くと「ドゴッ」と鈍い音が鳴ると、兵士長らしき人物の鎧が粉砕され、その場に倒れた。
「ふっ、口ほどでも無いわね」
フィーナは手を払い、刀を鞘に納めると、兵士を全員倒した事を確認をし「心配しないで!峰打ちよ!」と締めくくった。
王子は、その光景を見ても一切動じていない。何か様子がおかしい………考えるんだ……そう思っていると、
「所詮、使えない兵士か、女にやられるとは使えないな。ならば勇者達よ行け!」
王子が冷たい言葉を倒れている兵士に向けてそう詰ると、勇者達は頷く。
『何かがおかしいと思ったら、そうか!』
勇者達は一言も喋っていない事にある推測をし、確かめる事にしようとすると、勇者は、魔力を手に溜め、いきなりスキル威嚇を使ってきた。
勿論、上位スキルの神威を発動出来る上に、プロテクション・シールドを張った、俺達には効かない。
すると、勇者ではなく王子が口を開く。
「何!? 何故、効いてないだ!そんなバカな……アルム!威嚇が効かないなら仕方がない!全力であの三人を殺せ!」
『そういう事か。それに、違和感の正体も分かったぞ!』
「二人とも、ここは俺に任せてくれ。勇者達は、王子の振りをした何者かに操られている」
フィーナとフェルムは頷くと、少し前へ出て「じゃお返しだ」スキル神威と念じると、勇者アルム以外の仲間は気を失う。
「なぜだ、相当な実力差がないと、こんな事にはならない筈だ!アルム!手加減はいらぬ。やってしまえ!」
勇者は、縮地が使える様であり、あっという間にこちらに接近して来た。冷静に対処をすべく為、スキル居合い斬りを発動させると、勇者の剣を受け流して振り払う。
すると、勇者が体制を崩し、俺と交差する瞬間、何か操られている確信出来るものがないかと思い、勇者の顔を確認してみる。
「やはりな!」
勇者の目は瞳孔が開いており、目の奥に光がない事を確認すると、今度は容赦なく逆刃で剣舞を叩き込んだ。
すると勇者は、最後に受けた攻撃が、鳩尾に綺麗に入り、胃液を吐いて倒れた。
王子は勇者が倒されると狼狽えはしたが「貴様はいったい何者だ!」と、直ぐに不機嫌そうにそう尋ねられた。
「それは、こっちのセリフだよ!もう分かっているんだ。面倒だから、早く正体を現せよ!」
単刀直入にそう聞くと「そうか。気付いていたか……ふふふ……」と言うと、王子は不適に笑い出す。
「当たり前だよ!お前は俺を舐めすぎだ!なぜ、気付いたか教えてやるよ!」
声を張り上げ、王子に向けて指を差す。
「お前の話した話には矛盾がある。さっき勇者達と、ドラゴンの巣へと向かったと言っていたな!」
「それがどうした。私が古の竜を欲しがって何が悪い」
「悪いも何も、お前がもし本物の王子なら、なぜ古の竜を欲しがり、人間のお前にテイム出来るんだ?
それに、ダメージを受けても、声ひとつ上げない人間がどこにいる!」
「なるほどな。人間にしては中々やるではないか、確かに見縊ったわ」
そう言うと、王子は倒れて。王子の影から、黒い何かが空中に舞い上がった。
「ようやく、正体を現したな」
黒い翼を広げた男が口を開く……
「我が名は、レクトリス。元天使だ!お前達は、堕天使と呼んでいるみたいだがな」
レクトリスは、正体を明かすと不気味に笑う。
「王子は、用済みだがらお前にくれてやる。だが勇者には、まだやってもらわないといけない事があるから、まだ返す訳にはにはいかん。それでは、さらばだ……」
そう、一方的に言うだけ言うと、勇者を脇に抱え空へ消え去って行った。




