第200話 時空竜戦
―― インレスティア王国・王城・会議室 ――
王城へ戻り、これからの行動を詰めた結果、封印の祠の結界を解く事を優先することにした。とは言うもののポリフィア国のインフラを整えるのを延期するわけではないので確認作業だったが。
「それにしても、最後の封印の祠がわが国の迷宮にあるとは。未踏の迷宮ですが大丈夫なのでしょうか?」
「何とでもなりますよ。私には頼もしい仲間がいますから。それにちょっとした伝もありますからね」
冒険者ギルドで出会った疾風の虎のロックさんの事だ。彼達は、恐らく封印の祠のあるロレン大迷宮60階層まで到達をしていた筈だ。
面倒だがそこまで連れて行って貰いその先は自力で踏破するしかない。
そんなわけで、フィーナにお願いをして直ぐに送って貰う。
「レオパード陛下、ちょっと時間をいただきますが申し訳ございません」
「タクト殿が気にする事は無い。転移の扉が出来るとならばこれくらい我慢とも思わない。それよりも、あまり無理をするのでは無いぞ」
「お気遣いありがとうございます。それじゃフィーナ宜しく頼むよ」
「了解。任せておいて」
話を終えるとファムリス王の元を辞去する。
次の日の朝、ポリフィアの公爵達とエルフの大臣達を拾いながら、帰路につくと、ポリフィアの盗賊の住処の奥にあると言う封印の祠を攻略しに向う。
作戦会議を開いてみたが、守護竜の強さは攻略の度に上がっていくのでこれと言って良い対策は浮かばない。あのアイリーンでさえ分からないと言うのでお手上げだ。なので、装備を念入りに確認して万全の体制で攻略に向う。
盗賊が陣を構えていたアジトに到着をすると、新しく門が作られていて立ち入り禁止の札が立てかけられていた。遠巻きに見える兵士にバレないようにアジトに入るとアジトはあの日と同じまま、荒れ果てていて放置状態となっていた。
ゲールの案内で、アジトの奥に向うと隠し通路があり、石で作られた階段を下りていくといきなり広い空間が現れていつもの石碑と固く閉ざされた大きな門があった。
「ゲールをどうする?またモーリスが来るとなると危なくないか?」
「どうせヤツの事だ。監視はしておるじゃろう。それに前回の会話を聞く限りヤツも最後の封印の祠にウロボスが眠っていると判断しているとみた。ヤツもそれを分かってリスクは犯すまい」
「なるほど。それじゃフィーナ、アルム。行ってくるけど警戒は続けてくれ」
「ええ、分かったわ。気をつけてね」
「ああ。任せておけ。何とかなるだろう。ノープランたけどな」
守護竜は強くなって行く。今回はどんな竜なのか想像がつかない。
まあアニメやゲームの知識ではダークドラゴンが最強だと思っていたからだがそれでも戦わない理由にはならない。覚悟を決めてアイリーン達と石碑に触ると封印の祠の中へと転移をした。
博士は、いつもの様にビデオカメラをセットして、それから装備を念入りにチェックする。
「それじゃ、行こうか。毎度ながら緊張するよ」
「それがたまらないんだろ?」
「そんな感じだよ。生きてる感が半端ない。ゾクゾクするわ」
「うむ。ワシもこの緊張感は好きじゃな。じゃが気を緩めるのではないぞ」
円陣を組み気合を入れると祠の中心へと向かう。するとこれまた大きな魔法陣が現れ、守護竜の姿が見えるといつも冷静なアイリーンが慌てているぞ。
「げっ。まさか時空竜とは!!タクト、やつは他世界の厄災である時空竜じゃ。亜空間を自由に行き来する。やつが消えたり現れたりする前には必ず魔法陣が現れる。近場に現れたら厄介じゃ。距離をとれ!!」
「分かった。各人散開。的を絞らせるな。アッシュとアイリーンは上空からの攻撃を頼む」
そう指示を出すと、使い捨ての槍を構えて魔法陣が消える瞬間を狙う。勿論、首を狙ってだ。
「よし!今だ!!」
魔法陣が消えると、みんな一斉に遠距離攻撃を仕掛けた。オレと博士は槍を投げ、アイリーンとアッシュは魔法を放つ。
「ギャオォーン!!」
時空竜は咆哮を上げると、魔法陣が現れて魔法と槍は吸い込まれるように消えていった。
「こちらの攻撃も転移するとは!!」
アイリーンが驚くのも無理は無い。時空竜は遠距離攻撃は全て転移をさせるつもりだ。
「ありえないだろ!!」
「ああ!!こうなったら接近戦しかない」
オレは覚悟を決めて縮地で距離を詰めようする。すると時空竜の頭上に魔法陣が現れて時空竜は吸い込まれるように消えた。
――刹那。オレのいる近くに魔法陣が現れる。
「タクト!!逃げるのじゃ!!」
そのアイリーンの言葉に反応して縮地を全開にして全力で逃げる。
その瞬間、時空竜は顔だけ出してブレスをオレに向って吐き出した。オレはそのまま横にジャンプして回避する。勢い余って転がったが何とか無傷だ。
「今のはやばかった!!博士は魔眼でやつの動きを教えてくれ!!」
「了解!」
「アイリーン!アッシュ!何でもいい攻撃を続けてくれ!」
「分かった」
こうなったら、遠距離攻撃を仕掛けている間に距離を詰めて攻撃するしか無い。時空竜の動きを見る間も無いので推測だが、魔法陣の同時展開は無いだろう。
アイリーンとアッシュは時空竜に向って攻撃を開始した。博士もこちらの作戦を覚られないように使い捨ての槍を次々と投げる。
時空竜は予想通り盾の様に魔法陣を使いこちらの攻撃を無効にしていくだけで、攻撃を仕掛けてくることはない。攻撃は最大の防御。とは言え槍の数が無限にある訳では無いので、勝負を長引かせる訳にはいかない。
闇雲に攻撃を仕掛ければ、俺ごと魔法陣で消されかけない。そう考えると、防戦に集中している時空竜の尻尾に飛び乗った。
それに気付いた時空竜は、前方に展開していた魔法陣に腕を入れた。
「タクト!!お前の後ろに魔法陣が!!」
博士の声がするがいちかばちか、時空竜の体の上で縮地を発動して一気に首元に突き進んだ。
魔法陣から竜の手が出てきて危うく掴まりそうになっていたようだが、何とか時空竜の首に刀が刺さり、ぶら下がる。
俺は刀に一気に魔力を流して「エクスプロージョン」と詠唱する。
【ドッカーン!!】
すると、刀は爆発!!手を直ぐに離したが爆風に巻き込まれ宙に舞った。自分の魔法なので怪我をする事はないが、またアイリーンに怒られそうだ。
アッシュが宙に吹き飛ばされた俺をキャッチ。男にお姫様抱っこをされる日がくるなんて思わなかった。出来たら女性のアイリーンのほうが、いや、贅沢は言うまい。
「アッシュありがとう。助かった」
「いえ、私が出来る事などこれぐらいしかありませんから」
「それで時空竜はどうなった!」
「ほれ、あれを見てみろ。無茶しおってからに」
アイリーンは苦笑いをしてそう言うので、時空竜の方を見てみると、時空竜は光の粒となって消えていった。




