第19話 シルバーノア
―― バベル・温泉付近 ――
異世界生活十三日目 飛空挺作り8日目 朝………
朝早く起きて、朝食を用意すると住民の乗り降りする入り口と通路を作りに行った。
タラップで甲板に昇降するのもいいのだが、これだといちいち甲板まで上がらないと行けないから、大人数だと不便だからである。
某宇宙戦艦のように最下面に入り口を作ることも視野に入れたのだが、海面に着水した時の事を考えると、入り口は3層目に作る事にした。
住民の乗り入れの考え、混雑しないように入り口を創作し、それに合わせて大型のタラップを用意した。
こうして、1時間足らずで出入り口を完成させ、屋敷に戻ると、既に二人は起床していて、食事をしながら、食事が終わり次第内覧会とテスト飛行をすると伝えた。
「なんだか、ワクワクするわね」
「ええ。タクト様のことですから、きっと想像を絶する物も含まれているんでしょうね」
と、かなり期待をされている。
食事を終え、後方付けをすると、早速フィーナの転移魔法で飛空挺まで転移をした。
タラップを上り、甲板に上がるとまず甲板の説明から始める。
「まず、甲板なんだが、バーベキューなど催し物が出来るように、シンプルに仕上げたんだ」
二人はバーベキューと言うキーワードに反応を示したが、流石に空気を読んだのか、ここでは何も発言せず、顔だけが綻んでいた。
『きっと、バーベキューをしている自分を、想像してるんだろうな』
「じゃ、次に行こうか」
次は、艦橋の上に作った展望台へと向かう。
艦橋の横に設置した階段を上がると、柵付きの手摺に囲まれた広い空間に、各方向にベンチを3箇所用意してある。
「ここは、一応展望台ってことになっているが、使用目的としては、考え事や内緒の話まで、使用目的は展望だけじゃなくていいと思う」
「なかなか、落ち着ける場所ね。デートに最適じゃないの?」
フィーナは、にやにやしながら、こちらを見てきたので、サッと視線を外した。
『そりゃ、フィーナが妖精じゃなけりゃデートしたいけど、いったいフィーナは何を求めているんだ?』
と自問自答をしてしまったが、深呼吸をして次の案内をするのに、展望台の階段を下り艦橋へと入った。
「まず、これが昨日使った魔石による制御盤と計器だ。二人とも 見難くないかい?」
「凄く見やすいわ、スマートフォンの大きいのもあるし」
「同意です」
二人は、触りながら使用感をつかんでいる。
自分自身は、基本的には飛空挺を操作する事は考えていない為、操舵する二人の意見を聞いてみると、案外好評で、手直しする箇所は見つからなかった。
魔石に触れるフィーナが、魔石の形を整えた事に気がついたので、理由を伝え余りの魔石を渡して用途の説明をした。
「せっかく、プロテクション・シールドを解析したんだから、服とかに、プロテクション・シールドや空調機能とかを、付与してほしいんだけど」
「なるほど。いいアイディアね!そう言う話なら喜んで預かるわ」
そう言うと、何か閃いたようで、何か分からないが企てているようだった。
続いて、仮眠室に入り説明を始めた。
まず、ソファーベッドの、使用の仕方について説明をする。
「えーと、ここにあるレバーを引っ張って体重を掛けると、シートがそれに合わせて倒されていき、レバーを離すと、その位置に保持され最後まで倒すとベッドになり、逆に体重を掛けるのをやめ、レバーを引っ張るとスプリングが元に戻り自動でソファーになるんだ」
説明を終えると、二人とも気に入ったようで、何度もベッドとソファーに切り替えて使用感を確かめている。
実際、ワンルームで過ごしていたので、狭い部屋を有効活用する為に、今回作ってみたのだが、二人も、気に入ってくれて良かったと思った。
次は、テレビを紹介する為に、電源を入れて画像が映ると、二人は画面を食いついた様に見ている。
「この、薄い板の中になぜ人間が……」
『いや、ベタな反応ありがとう。でも、初めて見たら、皆そう思うんだろうな……』
「って、二人とも、スマホの画面見てるじゃないか?それの、大きい画面だと思えばいいほら……」
以前、スマホのカメラで録画した二人の姿を見せた。
「これは、地球の娯楽の一つで、テレビと言う物だ。結構色々な番組が入っているので、参考にしてほしい。例えばこんな服がほしいとか、これがあったら便利とか、そんなのでも構わないよ」
「是非、参考にさせてもらうわ!」
「私もです。異世界の文化が見れるなんて、夢の様です」
「取り敢えず言っておくけど、このテレビに映る物に関しては、この世界の物ではないし、あきらかにオーバーテクノロジーだ。全てを叶えると、この星そのものが、悪い方向に変わってしまう可能性もあるから、全てを叶えるわけにはいかないけど」
「例えばどんな物が駄目なの?」
「人を殺す物とか兵器とかだよ。簡単な銃火器もだめだ。だから、もし再現する場合は判断するから、その時は言ってほしい。あとこのテレビについては絶対に秘密厳守でお願いするよ」
そう答えると、二人は、テレビに釘付けになりながら、大きく頷いた。
こうして、艦橋の説明が終わると、今度は客室へと向かう前に、セキュリティーカードの説明をする。
「それでは、誰でも自由にどこでもいけちゃうと、安全面に問題があるから、全ての扉は、このセキュリティーカードがないと、入退出が出来ない様にしたんだ」
そう説明すると、二人にレベル3のカードを手渡した。
「それじゃカードの説明をするけど、カードは全部で3種類あり、個別に説明すると、
レベル3は、最高権限を持ち、船内をどこでも行けれる様にしてある。
レベル2は、VIP扱いの権限を持ち、艦橋、重要な設備の部屋以外は移動可能にした。
レベル1は、一般用で、客室部分、食堂、風呂にしか移動出来ないないようにした。
例えば、誰かがこの船を奪おうとしても、この艦橋は、俺達3人しか許可されていないので、ここには入ってこれないと言う訳だ。ここまでで質問はある?」
「じゃ、はい。このカードは、どうやって、人の違いを識別しているの?」
俺は、セキュリティーカードのシステムについて説明する。
まず、人によって魔力の波長が違うので、それを利用して、判別すると言う事を説明すると、二人とも納得したので、早速レベル3のブランクカードに、波長を登録してもらい、二人にカードを手渡した。
客室に向かい、自動ドアが開くと、二人とも驚いている。
「これは、どう言う仕組みで、動いているの?」
そう質問をされたので、アイテムボックスから磁石を取り出し、二人に見せながら説明をする。
「これは、電磁石の原理を利用しているんだ。簡単に言うと電磁石は、電気を流す向きで、N極とS極を、切り換える事が出来るから、この特性を利用している。こうやって、磁石のN極とS極を交互に置いていくんだ。これを、雷の魔石に置き換え、カードを持った人が近づくと開き、離れると閉まるっていう具合だ」
「これ、すごく便利だよ、タクト」
「自動で扉が開くなんて、ボス部屋だけだと思っていました。それに、このカードに登録してある人しか反応しないなんて、いやはや感服いたしました」
『それにしてもボス部屋か。 あれはどう言う仕組みなんだ?まぁいいか、今は考えるのは、よしておこう』
そんな事を頭の中で考えていたら、フィーナ気に入ったのか、近づいたり離れたりしている。
『可愛い……』
「フィーナ、お楽しみのところ申し訳ないけど、これらの扉をテロ対策と安全の為、渡したブランクの魔石の破片にプロテクション・シールドを掛けて、そこの窪みに設置してくれないか?」
「了解だわ!」
次は、トイレに案内し、使用方法を説明した。
二人は使用感を確かめるのに、トイレに入ると、とんでもない勢いで、トイレから出てきた。
「タクト!今すぐ、屋敷のトイレもこれに変えなさい!」
「タクト様。もうこれを知ってしまった以上、元には戻れません」
フィーナは、目の色を変えてなぜか命令しきて、フェルムは、なんだか新しい世界に目覚めそうだ。
「それにしても、どんな原理になってるの?不思議で仕方ないわ」
「ええ。本当ですね」
そう質問をさせたので、注射器を取り出すと、水を詰めシリンジを押しだし、原理を説明をした。
「なるほどね、真空という言葉さえない、この世界では、きっといつまでも気がつかないわね。それにしても清潔になるうえ、冬も冷たさを感じないし、紙がいらないのは革命的よ!だけど、どうして温水がでるの?」
「そう言えば、お湯は無理って言ってたな。原理は簡単だよ。ほら、ここにあるタンクに火の魔石を沈め、マジカルスパイダーの糸を繋げてやれば、このとおり、同時に制御が簡単に出来るよ。まぁ、小さい魔石か、魔法陣書き変えないと、温度が上がりすぎて、火傷するけどね」
「流石ねタクト!もう何も言えないわ」
『いやいや、こんなの気がつかない方がおかしでしょ。この世界の人って何も考えないのか?』
この世界の研究者は、一体何を研究していて、どうなっているのか、疑問に思ったのであったのだが、フィーナに聞いてみると、そもそも魔法陣を解析をして解読をする事が難しいようで、これは、この世界を創作した神様が、敢えてそうしたと聞くと、妙に納得をする。
この後二人は、俺の手を握りながら、是非とも、この世界に温水便座を普及させるように懇願してきたので、苦笑いをしながらそれを了承した。
続いて、今度は客室の説明をする。
まず、セキュリティーの有効性の話をし、カードを差し込む事で、起動するシステム、後はリクライニング二段ベッドの有効性を説明した。
フィーナは頷くと、こちらを尊敬の眼差しで見てくる。そして……
「確かにこのシステムがあれば、トラブルは避けられるし、魔力の少ない人でも負担がないなんて、流石はタクトね!もう神を名乗っていいわよ!私が認めるわ」
「タクト様、知識の神とお名乗り下さい」
『なに言っているんだ、この妖精と魔人は、言っていることが、滅茶苦茶だよ』
「冗談はそこまでにして、じゃ、あ次は食堂と厨房を説明しようか」
「ちぇ、冗談じゃないのにな」
フィーナは、何かぼやいていたが、食堂に着くと、
「ここは、見た目は普通だね!み・た・め・は……」
と、なんだかとんでもなく、期待されているのか、自重がなくて諦められているのか、分からなくなったが、食堂の利用方法を実際にやりながら説明をした。
セルフのシステムは、アノースににはないのか、フェルムは人件費の削減が出来る方法に感動をしていて
「なるほど、そう言う手があったのか……」と、納得をしたように頷いていた。
次に、厨房に入ると、一通り調理器具の説明をして、最後に今回の目玉である、食洗器の説明をした。
「これも、凄くいいわ。お店とかにあれば、人を雇わなくていいわね」
フィーナはそう言っているが、水蒸気は、使い方次第では、巨大なエネルギーとなり、この世界でも蒸気機関の開発が進みさえすれば、産業革命が起こる可能性もあるのだが、まだ、今はその時ではないので何も言わなかった。
こうして、食堂と厨房の説明を終えると、最後はお風呂を説明する事にした。
お風呂の入り口に差し掛かると、早速フィーナからいきなりクレームがついた。
「なんで、お風呂が二つあるのよ!これじゃ一緒に入れないじゃないの!」
「えー!本気で言ってるの?」
「あたりまえじゃない!私とタクトの重要なスキンシップの場よ!これだけは、譲れないわ!」
なんだか激おこだ。
『皆は、羨ましがるだろうけど、俺にとっては、蛇の生殺しなんだよな……』
結局、説得は試みたものの、言い出したら引かないので、最終的に俺が折れ、家族風呂をもうひとつ作る事になると「羨ましい限りです」と、フェルムは、フィーナの事を分かっているのか、そう言いながらも、苦笑いしていた。
お風呂については、それ以外は好評で、フィーナはドライヤーとシャワーに興味を示し、フェルムはやはり芸術に興味があるのであろうか、壁画に興味を示していた。
昨日、内緒で、温泉にトイレとドライヤーを設置した事を告白すると、二人は大変喜んでいた。
「じゃ、これで、説明は終わったんで、テスト飛行するけど、付いてくるかい?」
「もちろん!当然よ」「ですね」
二人も同意したので、早速準備に取り掛かる。
「それじゃ、この島を1周してみようか?」
「いいわね! フェルム!もし落ちたら、タクト飛べないから助けてあげてよ!」
「もちろんです。神の使徒様をこんなところで亡くすわけにはまいりません故、我が主の命、私の命に代えてもお守りします」
「まったく……ひどいな……大袈裟すぎるよ」
「万が一よ」
『二人とも飛べるから、いざと言う時逃げれるが、俺の場合は、無理だから仕方がない……』
少し忘れているが、フィーナは妖精だ。脱出方法だが転移魔法も考えたが、落下している最中に魔法陣の真ん中に入るのは、不可能だからである。
だからと言って、お荷物になる気もさらさら無い。そう考えた上で、パラシュートを作る事を決意する。
「それでは、飛んでみようか? フィーナ、プロテクション・シールドを、この船にかけてくれない?」
「タクト、その前に、所有者登録するから、この飛空挺の名前付けて」
「じゃ、シルバーノアで……」
『銀色と、ノアの方舟を足しただけだけど……そんなに、簡単に思いつかないよな普通……』
「意味は?」「神話で、人間と動物を大洪水から救った、方舟からもらったんだ」
「まさに、神が創りし方舟ね!」
『俺は神じゃないし、もし神様が聞いたら「神を語る不届き者よ」とか言われちゃうよ!』
「じゃあ、フィーナ浮上開始だ」
そう言うと、フィーナは無言で頷きゆっくり魔力を流すと、ゆっくりと浮上し始める。
「出力50パーセント 只今高度7000m」
『こんな所でいいかな』
「微速前進」
俺がそう言うと、シルバーノアは、外の主翼を見ると高速でプロペラが回り始め、ゆっくりと進み始める……
「フィーナ、少しずつ魔力量を多くして、速度上げてみてもらってもいい?」
「了解」
フィーナが返事をすると、次第に速度が上がり、外の風景が高速で流れ始めた。
「出力20パーセント 時速220キロ」
プロテクション・シールドのおかげであろうか、揺れも風の抵抗も感じない。
「フィーナどう?魔力の消費具合は?」
「この魔石凄いわよ。全然、私の魔力を消費しないわ。正確に言うと、魔石が大きいから畜魔量?で十分賄えそうだわ。それを操作するって感じかな」
どうやら、魔石が大きいので、この程度?の魔力消費じゃ余裕のようだ。
ドラゴンは、あの巨体で空を自在に飛び回るので納得だ。流石 古の竜の魔石だ。
「タクトは、魔力調整を完璧に出来るようにしなきゃね」
「前も言われてたよな。がんばるよ」
「それでは、操舵はとりあえず、私とフィーナ様で、やるとしましょう」
「悪いけど、お願いするよ」
そんなこんなで、島を1周すると、フィーナは「すごーく快適じゃない!満足したわ!」と、満面の笑顔で感想を語る。
「本当に凄いです。これなら1日あれば着けそうです」
フェルムは、いまだに感動している様である。
「じゃあ、細かい調整があるから、取り敢えず帰るとするか?」
「そうね。そうしましょう」
そう言うと、シルバーノアは海岸にある、この島で使っていた船着場付近に着水した。
いつもお読み下さって、ありがとうございます。




