第1話 プロローグ1
初めまして来夢と申します。
がんばりますので、宜しくお願いいたします。
―― とある銀河の神界での会議の後 ――
アノースの最高神ゼフトと女神であるアリーシャは、地球の最高神であるアイリーンに呼び止められる。
「ゼフト殿。最近はどうじゃ?アノースの状態は?」
「相変わらず魔法に頼りっきりで、ここ500年間、特に何も変わり栄えはしないよ……地球の方はどうじゃ?以前報告があったとおり、相変わらず人間同士が戦で命を落とすような、野蛮な感じなのか?」
「それが、ここ最近は小さい争小競り合いはあるものの、大きな戦が無くなり、急激に文明が発展しおった……最近では宇宙にまで飛び出したくらい発展をしたよ。まぁ、切っ掛けは作ったがのぅ」
「それは真か?」
「うむ。もし興味があるなら、神が不干渉であるからして、24時間と制約がるが、視察に来て見てはどうじゃ?幸い日本と言う国が、桜という木が花を咲かせ、見頃になっている頃じゃ……綺麗じゃぞ」
「そこまで言うなら、アリーシャとお邪魔させてもらおうか……」
そんなやりとりがあり、現在アノースの最高神であるゼフトと女神のアリーシャは日本に訪れることとなる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
―― そして現在 日本 ――
春一番の吹く突風の中………
「名残惜しですが、もうそろそろ、神界に戻る時間です……」
そんな事から。アノースから地球に視察に来ていた女神アリーシャは、神様に残念な顔をしてそう告げると、神様はスキルボードで時間を確認し首を横に振る。
「もうそんな時間か……もう少し高度な文明を堪能したかったのじゃがのぅ……」
「それは、仕方がないじゃありませんか?制約がありますし、24時間だけでも、視察が出来た事を感謝するべきだと……」
『そうじゃの……もっと堪能したいのはワシだけじゃあるまい……』
「それじゃ、戻ろうとしようか」
アリーシャは頷くと、後ろ髪を引かれるように、もう一度周りを見返して回想をする。
「しかし、驚きましたね。魔法が無くても文明がここまで発展していて、我々の世界よりも優れているとは……もし私達の管理する世界に魔法が無かったら、この星のように文明は発展していたでしょうか?」
「それは、ワシには分からんよ。人間とは、何を思いつくのか想像もつかないからのう。それに見てみろ、流石アイリーン殿が自慢するだけのことはある……」
「それは、自慢もしたくなりますよ。魔法も無く、全くと言っていいほど、神が干渉しないこの地球がここまで発展するんですから……」
「そうじゃのう。我々の世界では考えられない、空を飛ぶ乗り物や、行き届いたインフラ、同じ素材を使っているとは思えない料理の数々、どれをとっても負けじゃよ」
「あいつらが、邪魔をしなければ今頃アノースも……」
「それは、分からんが、アノースに住まう者は、魔法で全てを解決しようとするんじゃ。何も変わらんかもしれんのう」
「そうですね。私が間違っていました。便利な魔法があるから、アノースの人間達は魔法に頼ってばかりで文明が発展しないんでしょう」
アリーシャは、そう結論を出すと、上空を見上げて空を飛ぶ鉄の固まり、飛行機を恨めしそうに見ていた。
「そうじゃの。神界に帰ったら十分と時間はある。この世界を参考にして、今後のアノースのあり方を議論しようではないか」
神様は、恨めしそうに、空を見上げていたアリーシャの肩を「ぽんぽん」と叩いてそう言った。
「そうですね。無い物ねだりをするのは、神として失格ですよね……ではそろそろ帰りますか……」
アリーシャは諦めの表情をして、魔力を手のひらに集中させると、転移魔法の術式を展開させた。
その時である……
「―――――!えっ!」
運命の悪戯か?突風が吹き荒れ、アリーシャの白金の美しく長い髪が勢いよくなびくと、突然、「わ―――!」と言う声と同時に、改装中のビルから、1人の青年が桜の木の枝を「バキバキ」と音を立てて折りながら落ちて来た。
慌ててアリーシャと神様は、時間停止の魔法を展開しようとするが間に合わない。
「バキバキバキ――――ドスン!」
幸いにして、青年は満開の桜の木に落ちたので、目を覆いたくなるような体の損傷は免れたが、青年は高所から落ちた様で、慌てて治癒魔法を掛けたが、ショック死なのか、打ち所が悪かったか分からないが、時すでに遅く、既に亡くなっていた。
神様は、亡くなってしまった青年の亡骸を見て、首を横に振り目を瞑る。
「魔法という概念がない、この世界では、この青年は落下した時点でもう助からなかった……
アリーシャよ、ワシ達はこの世界の神ではないが、これも何かの縁だ、この青年の魂を浄化してやってはどうかな?」
アリーシャはこの時、その青年の亡骸を見て、何故だか分からないが、魂に触れなければ、ならないという衝動に駆られていた。
「そうですね……分かりました」
アリーシャは、魂を浄化するのには、名前が分からないと出来ないので、亡くなった青年の亡骸に触れる…
すると突然、今まで女神が味わったことの無い感覚が、体中に掛け巡り、まるで誰かに魔法を掛けられたような感じが襲う。
「―――――!なっ…何よ!今の感覚は?地球には魔法は無い筈よね」
一瞬、何が起こったのか分からなかったが、アリーシャは、もう一度青年の亡骸に触れ「リンク」と唱えると、今度は正常に青年の記憶が読み取れた。
「神様!このタクトと言う青年の亡骸に触れてみて下さい!この青年なら、今のアノースを変えることが、出来るかも知れません!」
アリーシャが、あまりにも必死に頼むので、神様は亡骸に触れると、青年の今まで過ごした、人生の記憶を読み取った。
「なるほどな……そなたが薦めるだけあって、中々見所のある人物のようじゃな」
そう神様は言うと、目を瞑り、なにやら考え出した。
「神様……私が神様にお願いするのは、どうかと思いますが、何とか神様のお力でこの青年の魂を救い、私達の世界に連れて行く事は出来ないでしょうか?」
『そう言えば、もう何百年も一緒にいるが、アリーシャが我侭を言ったことなど無かったのう……どれ、少し真剣に考えてみるとしようか……』
「そなたに、そこまで言わせるとは。よし!少し考えてみようではないか」
「お願いいたします。このタクトという青年ならきっと、私達の世界を変えてくれるでしょう」
神様はしばらく考えると、名案が浮かんだのか「パン」と、手のひらに拳を当てた。
「よし!良いことを思いついたぞ……アリーシャよ、アイリーン殿と交渉して、この青年タクトの魂を転移させてはどうじゃ。そうすれば、ワシが魂の器である肉体を新たに創作し、魂を移し替えることなら、救うことは可能じゃ」
神様はそう言うと、アリーシャは満面の笑みになり、神様に何度も感謝をした。
『それにしても、こんなに真剣に物を頼むとは。いったい、このタクトとやらに、何を見出したのか気になるわい』
「神様、重大なことを忘れていました。アイリーン様に、何と言って交渉しますか?魂だけとは言え、流石に勝手に連れて行くわけには、参りませんし……」
「それでは、こうするのはどうじゃ?アイリーン殿が欲しておった、ブランクの魔石を交渉材料にすると言うのは」
「なるほどです……確かこちらの世界には、魔法が存在していないので、是非研究してみたいと仰っていました」
「それでは、決まりじゃ。アイリーン殿との交渉は、お主に任せるとしよう」
「勝手言って申し訳ございません。交渉はお任せ下さい。必ず説き伏せてごらんにいれます」
「うむ、頼んだぞ」
そう言うと、神とアリーシャは、タクトと言う青年の魂と共に、転移魔法陣の術式を展開させて、日本から姿を消したのであった……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺の名前は、尾崎 拓人 現在大学院に通う25歳だ。
今思い返せば、その日は満開の桜を全て散らす様な、春一番が吹く、とても風の強い日だった。
俺はまさか……この日、自分が死んでしまうなんて、夢にも思っていなかった。
この日は、大学院の研究がお昼で終わり、趣味と実益を兼ねた、アルバイトをすることになっていて、親友である七五三 博士と後輩の女の子を連れて、花見に行く予定にしていた。
「拓人、今日の花見の予定だが、この風が止んでたら決行するけど、もし、あまりにも酷かったら、残念だけど……まぁ、何だ、せっかく拓人が女の子を誘ってくれたから、居酒屋に変更でいいか?」
今日は、親友の博士が是非と言うことで、飲食系のアルバイトをしていた時の、後輩の女の子を誘っていたので友人は、見るからに張り切っていた。
「ああ、生憎のこの天気だからな。またアルバイトが終わったら連絡するよ」
「拓人!流石親友だよ!感謝するぜ!それじゃな、バイトがんばれよ!楽しみにしてるからな!」
『どんだけ張り切ってるんだよ、まったく……でも喜んで貰えてよかったよ』
こうして、嬉しそうに手を振る博士と別れて、電車に乗りアルバイト先に向かった。
アルバイトに向かう途中、何故だか分からないが、昨日あったことを、電車の中で思い出していた。
昨日は、博士のどうしてもと言う頼みを断りきれず、なんだか久しぶりで照れくさいが、後輩の女の子に、メッセージを送るとチャットごしではあるが快く了承してくれた。
『それにしても、急な誘いだったのに、よく了解してくれたよ……』
そんなことを、思い出していると、瞬く間に、現場がある駅へと辿り着いた。
今日の仕事内容は、日本はオリンピックを控え、建設ラッシュの真っ最中であり、今日も新しいホテルの建設現場に足場作りに来ていてた。
作業服に着替え、屋上付近に足場を組立てていると下の方から先輩が呼ぶ声がした。
「おーい、拓人!もうそろそろ一服の時間だから、下に降りてこいよ!」
「はい、分かりました。直ぐに行きます」
下で作業をしていた、アルバイトの先輩が呼ぶので、安全帯を外して下に降りようと、手摺を持とうとしたその時、突然この日一番の突風が吹き、そして俺は散り行く桜の様に空に舞った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
―― 回想 ――
俺は、地元の高専を卒業後、田舎から上京し、大学へと編入して現在大学院へと進んだ。
大学へ進むと、夢にまで見た、キャンパスライフを満喫することも考えたが、何せ、それよりも、色々な職種につくと、色々な知識や技術スキルを覚えられる。それがたまらなく楽しかった。
物心ついた時から、やっていた剣道は、同じ流派の道場を紹介してもらっていたので、継続してやっていたが、それ以外は決まった職に就くのではなく、ひたすら色々なアルバイトをこなしていた。
ある日……アルバイトが終わったので、親友の博士と居酒屋に行くと、少し酔いの回った博士が女性関係の事で絡んできた。
「なぁ、拓人……なんでお前モテるのに、彼女とか作らないんだ?勿体無いんじゃないの?」
自分では、モテていると言う自覚はないのだが、そう言えば、何度かバイト先の女性に、
「拓人さん。もしよければ今度お食事にでも行きませんか?」
と、誘われて、何度かデートぽいものも経験したこともあった。
博士は羨ましそうな顔で、
「あーあ、羨ましいよ、まったく!俺なんか、そんなの一度も無いんだぜ……この度のきついメガネが悪いのか?」
そう言うと、大きな溜息を吐いてからビールを飲んだ。
「なら、中学時みたいにコンタクトを着ければ?医者なんだから、選り取り見取りだろ?」
「駄目なんだよ!以前にアレルギー性結膜炎になってから、使えなくなっちゃったんだ。それに医者だと言っても研修医だし、忙しいんだよ。俺の事よりも、何でデートを何度もしているのに付き合わないんだ?」
「そうだな……デートと言っても、食事しかした事ないし、誘われるのも社交辞令だと思うよ……だって、それ以上発展したことないし」
「本当かよ!」
「そこを疑うか?まぁ、会話するとしても、テレビの話とかラノベの話が中心だと嫌われそうだから、一方的に素材や技術の話ばかりしちゃって、付き合うとか、そう言う話をする前に女の子の方が、いつも苦笑いをして聞いてるよ」
「お前はおっさんか?そりゃ女の子も気の毒だな。好きなタイプの男が、ちょいオタ入ってる、スキル・マニアなんて、最悪だもんな。まぁ俺もラノベ好きだから、人のこと言えないけどな……」
博士は呆れた様にそう言うと、残っていたビールを飲み干す。
「お姉さん、ビール2杯追加で――!」
「はい!喜んで!」
「まぁ、とにかくだ、俺達もなんて言うんだ、年頃だろ?もうそろそろ、人肌が恋しくなっても、当然じゃないのか?それに周りを見ろよ。カップルばっかりで、楽しいそうじゃないか?」
「だってさー、今は色々な仕事をするのが楽しくて、仕方ないんだよ……」
実際の話、俺はラノベの影響を結構受けていて、ありえない話ではあるが、もし異世界に行ったらどう言う知識やスキルが役に立つのか考えながら、バイトを選びだしたのが事の発端であった。
それ故に、例えば、食べ物屋で働けば、色々な料理の作り方や、レシピを覚え……
色々な工場に行けば、色々な構造や、部品の特性、製造の仕方と考えか方が……
建設現場に行けば、基礎の打ち方や、図面の見方や、壁の作り方が……
電気工事に行けば、家電の設置から、色々な製品の修理や内部の構造が分かり、途中からは、ラノベは関係なく、知識や技術が自分のスキルに変わるのが、楽しくて仕方がなかった。
『こんな事が発端なんて、恥かしくて誰にも言えないけどな……』
「なら、しゃーないか!拓人が一体、何を目標として生きているか知らないが、女はいいぞ!癒しっていうか、生きがいだな」
「いや、万年女欠乏症のお前に言われても、説得力は無いよ!」
「そう言うなよ。お前がその気になれば、いつでも彼女の一人か二人は出来るだろう。頼む!そんときゃ俺にも紹介してもらえる様に、言っておいてくれ!」
「ああ、その時が来て覚えていたらな」
こんな感じで、俺は彼女を作らずにひたすら、色々な知識と技術スキルを身につけ、そして運命の日が訪れる……
その日は、春一番が吹く、とても風の強い日だった……
俺は、落下したと同時に反射的に「わ――――!」と叫んだ。
『そんな!どうしてなんですか神様!こんなことなら、博士の言うとおり、キャンパスライフをもっと楽しんで、恋愛をしておくべきだった』
まさか安全帯を外した瞬間、突風が吹き、落ちるなんて想定なんかしていなかった……
「父さん……母さん。親孝行する前に死んじゃってごめんよ!」
自分の人生は、いったい何の為にあったのか……そう思うと、自分の人生を悔やんだ。
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