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シンバリーの仕事

それから三日。サミュエルは毎日金貨を一枚ずつ持ってきた。その度にアンジェラとお楽しみときたもんだ。いつまで金が持つかねぇ。


そして一週間後。ついに……


「おやおや、たった金貨一枚も持って来れないとはね。じゃあ仕方ない罰を受けてもらおうか。やれ。」


「へい!」


「な、何を!?」


「お前は動くな。」


クックック、動けまい。契約魔法がかかってるからな。


「ぐえぁっ!」


部下が殴るのは鳩尾を一発だけ。今日のところはな。


「さて、ではいつも通りアンジェラと楽しむがいいさ。手当もしてもらいな。」


「くっ……」





さて、今度はアンジェラの出番だな。クックック。





「サミュエル様……ごめんなさい……私なんかに関わったせいで……」


「そんなことはないさ。私はお前と一緒にいるためなら何でもするさ。」


「それなら……でも、サミュエル様が……」


「どうした? 何かあるのか?」


「あの……サミュエル様だったらクタナツ代官府の金庫室にも入れるんだろうなって……」


「もちろん入れるさ。そうか……金庫室か……」


「サミュエル様ってクタナツのために日夜頑張っておられるんですから! 金庫室にあるお金をサミュエル様が使うのも全然おかしくないですよ!」


「う、うむ……しかし、だな……金庫室に入るには色々と手順やら何やらな……」


「じゃあシンバリーさんに相談してみましょうよ! この、あと、で……」


「アンジェラ……」




こんな状況でもサミュエルは二回戦か。タフだねぇ。


そして再び僕の目の前にはサミュエルがいる。


「なるほど。金庫室から金を持ち出すと。しかし一人では難しいので、協力が欲しいと。」


「あ、ああ……アンジェラの考えだ……できなくはないだろうが……」


「金庫番のバンキッシュだろ?」


「そ、そうだ! 知っているのか!?」


「知ってるとも。そこで明日。金庫室から金貨を一枚だけ持ち出してもらおうか。」


「たった一枚でいいのか?」


「ああ。たった一枚だ。簡単だろ?」


「バンキッシュと話はついているんだな?」


「もちろんだ。気軽にやりな。」


「分かった……」


「うまくいったらアンジェラのご褒美が待ってるからな。」


うまくいくに決まってるさ。僕の仕掛けは完璧だからな。




翌日、サミュエルは金貨一枚を持って現れた。

当然アンジェラからの濃厚なご褒美ありだ。次は三日後、今度は金貨五枚だ。そうして三日おきに額を増やし淡々と金貨を持ってこさせる。こいつ完全に感覚が麻痺してやがるな。


そして数週間……

ここまでに引き出した金貨はおよそ二千枚。赤字分は余裕で埋めたが荒稼ぎとはいい辛い。だが、そろそろだな……

いくら財務課長さんが書類を改ざんしていても限界はあるからな。




「現在金庫室にはどのぐらい金貨がある?」


「だいたい八万枚分だ……」


ヒュー、さすが開拓で賑わっているだけある。それだけの金貨を僕が手にすることが出来たら……ボスだってきっと僕のことを……

それにニコニコ商会の王都での存在が抜きん出る。他の闇ギルドが束になっても太刀打ちできないほどに。


ならば狙ってみるか?


ふっ、冗談ではない。そんな金を奪ってしまったら逃げる間も無く捕まってしまう。それに、どの道フランティア領を出るまでの時間稼ぎが必要だ。まあ偽勇者さんに活躍してもらうとするか。




三日後、サミュエルは金貨千枚ほど持ち出してきた。僕の仕事はここまでだ。これ以上欲をかくと破滅しかねんからな。




そして偽勇者も菊花楼蘭にやって来た。今度は紫の鎧かよ……やっぱこいつイカれてるわ。


「やあ、ようこそ。仕事は完了した。この二人は君の言いなりになる。」


「おう。あれこれやらかしてるようだな。試させてもらうぜ?」


『立て』

『座れ』

『回れ右』


偽勇者の声に反応してサミュエルもバンキッシュもその通りに動く。当たり前だ。契約魔法をかけ直したからな。


「いいだろう。ついでだ、この娼館も買い取ってやろうか?」


「それは助かる。相場なら女も含めて金貨三百枚ってとこだが?」


「よし。では約束の報酬だ。」


ほう、白金貨三枚か。金貨にして三千枚分だ。ボスへのいい土産になるな。酒も買い込んだことだし。


「そんで金貨三百枚な。お疲れだったな。いい仕事だったぜ? 王都で会うこともあるかもな。」


「金払いのいい客は大歓迎だ。ではこれで失礼する。」


今からこいつが何をやらかすかなんて知ったことではない。せいぜい僕達が無事に帰れるよう目眩しをしてくれよ?


もうすぐ夏がやって来る。帰りはのんびりとしたいものだ。馬車の強行軍は地獄だったからな。





こうして僕と部下達は一ヶ月かけて王都まで帰り着いた。ボスは大層喜んでくれて約束通り僕を寝所で可愛がってくれた。その上、技、持続力、大きさなどにおいて合格だと言ってくれた。これからたまに可愛がってくれるそうだ。もっと体力をつけろとは言われたが、僕は満足だ。

偽勇者からの報酬もお土産の酒も全てボスに渡した。『四つ斬りラグナ』なんて言われて王都の裏社会で恐れられている女傑だが、僕を見る目はたぶん優しい。




それから数ヶ月後、風の噂で聞いたことだが、あれからのクタナツは大騒動だったらしい。


偽勇者がやらかしたことは、サミュエルに金庫室の中身を全て奪って逃走させたのだ。ちなみに金貨五万枚だとか。当然あっさり御用となり、サミュエルは奴隷落ち。サミュエルの妻まで奴隷落ち。これは共犯だからではなく、僕に渡していた金貨以外にも着服していたらしい。その金で妻に色々と買い与えていたからとか。お貴族様は知らなかったじゃ済まないからねぇ。クックック。


もちろんバンキッシュも奴隷落ち。自制心のない男はダメだねぇ。


さらにクズ楼主のボードセンも奴隷落ち。無理矢理協力させられてたなんて言い訳をクタナツ騎士団が聞き入れるはずもない。どうせ借金で奴隷落ちするのは同じだったんだからな。


そうなると菊花楼蘭の女達はどうなったか?

全員散り散りに売られていったそうだ。普通に代官府主催の奴隷オークションで。ちなみにアンジェラは買われた。連れて帰ろうか少し迷ったが、そこまで価値がある女もでもないので放置しておいたのだ。

買ったのは城塞都市ラフォートを領有するドナハマナ伯爵らしい。アンジェラの奴、ツイているんだかいないんだか。何でそんな大物がクタナツなんかに居たんだ?


クタナツ側は黒幕が僕と偽勇者という所まで突き止めたらしいがもう遅い、遅すぎる。クタナツの騎士が王都まで捜査に来れるか? クックック。例え来たとしても、王都の闇は深い。強さだけの騎士なんか何人いても敵ではない。


偽勇者は逃げ切ったらしい。あんなバカを捕らえることもできないとは……

どうでもいいことだ。



知略!

今回のことで証明された。僕の知略はクタナツ騎士団をも翻弄する。つまり王国一の騎士団ですら僕には勝てない。


魔法!

僕の契約魔法ならあのクタナツで金庫番を任せられるほどの騎士にも通用することが証明された! つまりほぼ、誰にも破ることはできない。


不死身!

ボスに斬られても死なない僕は不死身だ。痛いから嫌だが魔力が続く限り僕が死ぬことはない。


誰も僕を止めることはできない。

僕は無敵だ。


ゆくゆくはセグノさんをも追い越し、ボスと対等の立場までのし上がり、そしてボスと……


ボス……ああ、ラグナ……

これにて完結です。

思ったより長くなってしまいました。


これ以降のシンバリーがどうなるか、サミュエルはいかにして捕まったか。偽勇者は何をやったのか。

気になるようであれば異世界金融本編をお読みいただけると幸いです。


今回はお読みいただきましてありがとうございました。

いつかまた、どこかで。


挿絵(By みてみん)

ラグナ・キャノンボール©︎秋の桜子氏


Picrewの「レトロ風メイドメーカー」にて制作。

https://picrew.me/share?cd=2G85RE0epq #Picrew #レトロ風メイドメーカー

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